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古い仲間

 「あ、お邪魔だったかなぁ~~」

 挿絵(By みてみん)


 部屋の入り口でバカ笑いする遥。


 オレとあゆむ二人が良い雰囲気になっていた部屋に、こともあろうか空気も読まずに大笑いしながら乱入してきた彼女の悪行で二人のあまい空気が――どっか~ん、ってこっぱみじんに音を立てて爆破され、あとかたもなく壊された気がした。

 せっかくのいい雰囲気だったのにな……。


 「……遥、一体何のつもりだ?」

挿絵(By みてみん)

 あゆむも遥のイキナリの乱入に、機嫌悪そうにマユひそめてぼつりと文句をこぼしていた。

 そりゃそうだ。 知り合いとはいえ、いくら知り合いでも、いきなり押しかけてくるのはさすがにマナー違反だよなぁ……。

 こんなことをされると、どんなおんこうな聖人でもブチきれると思う。

 そもそも、いきなり知り合いの家に押し掛けてくるんなんて、この人の常識はどうなってるのやら?

 

 「さっきも言ったでしょ? アタシは飲みに来たってさ~。」

 

 だが、ぜんっぜん悪びれる様子もなくカラカラと笑っている遥は、まったく気にした様子もない。

 近所迷惑もかえりみない大声で、ぎゃははっと笑いながら、ずかずかとリビングへ自分の家のように入ってくると、まるで自分の部屋みたいに振る舞い、上着をぬいでドカンと山ほどの酒びんをテーブルに下すと、


 「いやさぁ、アタシん家でのんでたら、ノアがいちいち文句言うんだよねぇ。

 ―― “の・み・な・が・ら・ぬ・ぐ・な!”、下ネタ言うな、酒ビンで下品なネタやるな、って、小姑みたいに小うるさくてさぁ~」


 遥はそう言うと、おもむろにテーブルに置いたワインのボトルを1本つかむと――

 なぜかそれを、股間にあてがって、


 「これぞホントの、マグナムボトルッ!!」


 彼女はそう言うと恥ずかしげもなく、股間にあてたボトルを上下に振り始める。

 しかも、残像のでるような高速で。

 良い年した女性がそんなネタやるか、普通??

 さらには、上下にピコピコ動かすって、何時の時代の下ネタギャグだよ……。

 今やったら、絶対セクハラ問題になるよなぁ……。


 「……」

 「……」


 オレはあまりの下品さに声も出せなくて、ただ目ぱちぱちするだけだった。

 となりを見れば、あゆむも「自分までまきこむな、私は関係ない」って感じで、明らかに目そらしてるし。

 挿絵(By みてみん)

 リビングの入り口で固まってる青髪の女性に至っては、恥ずかしさのあまり顔まっかになってるし。かわいそうに……。

 彼女の このノリでついていける人ってまずいないと思う……。


 部屋の空気がビミョウになる間もなく、遥は大笑い気味につづけてゆく。


 「いやー、ノアがこのネタ見てブチギレでさ~。“そんな下品な事はやめてくださいっ!”って怒鳴られたわけよ! この程度で目くじら立てるってノアは頭が固すぎるっていうのぉ~」

 遥は、頬をぽりぽりかきながら、

 「そんでさ、家がうるさいからカスミんとこ行ったんだけど、そっちでも色々やる前に追い出されちゃってさ~。もうひどくない?」

 

 遥は、ため息交じりにそう言うと、チラリとよこの女性に視線をおくった。

 カスミと呼ばれた娘は「えっと……」って、めっちゃ困った顔してうつむいてた。

 追い出されたというか、……いや、ふつうに自業自得だと思うけど。


 「その話は置いておいて、遥……、どうやってここがわかった?」


 あゆむは、オレがずっと気になっていた、遥さんが何故かここを知って居たことを口にした。

 この場所は、遥さんは知らないハズだけどね。

 しかし、遥さんは、指でまどをツンツンと指さし、わかった理由をぬかしはじめた、


 「あれねぇ、アンタたちの居場所なんだけど大体の場所をアタリをつけていたら、窓からアンタ達がいちゃつくのがみえてさ、そこでココが分かったわけよ」

 「……」

 「で、エントランス突破は、さっきネコの宅配便の兄ちゃんが来てたでしょ? あれに便乗して、にもつ運びのフリして後ろからひょっこりきちゃった」


 遥は、コソ泥のような暴挙をまったく悪びれる様子もなく武勇伝のように語り、ピースサインを決めている。

挿絵(By みてみん)

 「……お前、それ……普通に犯罪まがいの行為だぞ」


 あゆむがジト目でつっこんだけど、遥はまるで意に介さず、


 「へーきへーき、アンタとアタシの仲でしょ今更って感じだしねぇ、今でも開いてたからさ~。あれ見てたら、ちょっと懐かしくなっちゃって♪」


 そう言いながらケラケラと笑い、勝手知ったる様子で部屋にずかずかと入ってくる。

 

 「――そういう事か。 お前は、変わらないな……。」

 

 あゆむはそう言うと、表情をゆるめ古いなじみを見るような目で乱入者()をみつめると、遥は、刹那、目を細め寂しそうな表情をうかべた。


挿絵(By みてみん)


 オレには、彼女のその表情の意味は分からなかった。

 けど、あゆむは、


 「そういう事なら仕方がない。――今日は、好きなだけ飲んで行け。 今日だけだぞ……」


 半ばあきれ顔でそう言うと、その表情をすこし緩める。


 「――バレた? 

 じゃ、わかっているようだし、許しも出たし、アタシら飲んで飲んで飲みまくらさせてもらうよ」

 

 遥は、そう言うと、またハイテンションぎみに酒ビンをもってはしゃぎはじめる。


 「……」


 オレには そのやりとりが、少しだけ遠く感じられた。


 あゆむと遥、ふたりだけが分かってる空気。

 言葉に出さなくても通じ合うような、昔からの何かが、ちょっとだけ悔しかった。


 「きょうこ、心配するな」


 あゆむは、オレの表情から何かを感じたのか、あきれ顔になると、


 「私と、コイツの関係は、悪友みたいなモノだ。 

 ――二人の仲は、けっして切ってもきれない、けれど、それ以上も永遠にはすすめない、な」


 とニヤリと言うと、遥をつんつんと指さした。


 「ま~、そんな感じ」

 遥は、すこしさみしそうにそう言うと、またハイテンションぎみな表情でチラッと、うしろのカスミと呼ばれた娘に視線をおくる。

 

 「カスミ、今日は飲みまくるよ~~」

 

 「あ……えっと、はじめまして。(浜風 佳澄 はまかぜ かすみ)といいます」

挿絵(By みてみん)

 カスミはそういうと、優しく笑いながら、あゆむに頭を下げた。


 「……」


 あゆむは、ほんの一瞬だけ、まばたきの間のような沈黙を挟んだあと、

 静かに、そして少しだけ声を低くして応じた。


 「……小梨です。よろしく」


 カスミは“あゆむ”の顔を、ふとじっと見つめていた。

 そして、まるで古い知り合いにであったように、目が合って――少しして、はっとしたように視線をそらしていた。


 「あ……すみません、なんだか……誰かに似てたもので」


 そして、となりにオレにえんりょしたのか、小さく首をかしげて微笑みながら言うが、

 その瞳はまだどこか、なにかを探しているようだった。


 この人のうごき、何か気なるな……。

 まさか、この人もあゆむの昔の恋人なの?

 

 「あゆむ?」


 オレが呼ぶと、あゆむは一瞬、目をそらし気味で微笑むまで、返事をしなかった。

 ほんの一秒ほどの沈黙――でも、その間に確かに、彼は何かを飲み込んだようだった。


 「……なんでもない」


 小さくそう言ったあゆむは、ふとカスミの方に目をやり、ほんのわずか目じりをゆるめる。

 ――けれど、すぐに視線を外してオレをみつめた。

 この表情、遥さんの時とおんなじだ……。


 「……あの、あゆむさんって、どこかで……」


 カスミは、あゆむに何か気になることがあったのか、こくんと、すこしくびをかしげた。

 

 「……さあ、初めてのハズだが?」


 あゆむは、少し声のトーンをあげて返事を返した。

 ――絶対コレは怪しい、これは絶対何か知ってる感じの表情だよ、マジで……。


 「ごめんなさい、そうですよね。  アナタとは今日が初めてお会いしたはずですよね、勘違いしちゃいました」

 かすみは、そう言うとペコリと頭をさげ、

 「一瞬、もう居ない、あの人がココにいるみたいに思えちゃって……」


 消えそうな、泣きそうな、弱弱しい声で、そうしめくくったカスミ。

 ――なにんだろう、今の声は……。

 カスミの最後のひとことは、まるで…心の奥から、こぼれ落ちたみたいだった。

 その瞬間、彼女の横顔に浮かんだ表情を、オレは忘れられそうになかった。

 ふと一瞬、笑おうとしたのか、それとも涙をこらえたのか――

 そのどちらにも見えるような、やわらかく、けれど痛々しい顔。


 「……」


 その雰囲気に部屋の空気がびみょうになっていく。

 

 「みなさま、はい、注目~~~!!」

挿絵(By みてみん)

 遥は、ビミョウになった空気を壊すように、脈絡もなく、とうとつに叫びだした。

 そして、3人を前にして、恥ずげもなくペロンとシャツをめくると、ズボンのベルトを少し前にひっぱり、出来たカラダとのすき間に手をいれて、奥までツッコむと――


 「じゃあ いいもの出すよ」


 遥は、全員の表情とあたりの空気が凍り付くのもお構いなしに、次の瞬間、笑顔でズボンと体のすき間から、魔法のようにスリムなワインボトルを真っすぐに取り出した。


 ―― 一体にドコに、ナニを、収めてたんだこの人は?

 絶対狙ってやってるでしょ? これは、と、思わず突っ込みそうになるけど、遥さんは空気も関係なしで突き進んでゆく。


「じゃぁ~~ん、 控えおろう。 これが目に入らぬか?貴腐ワインの王様、シャトーティケムにあらされるぞ。頭がたか~い!」


 そう言うと、遥は、出したボトルを、昔の時代劇の印籠のように差し出した。

 

 挿絵(By みてみん)


 あまりの暴挙に、次の言葉がでないオレとあゆむとかすみ。

 だが、遥さんは そんな事もお構いないしに、そのブツの由来を自慢げに語りだした。


 「家から出る時、ママのコレクションから、手じかに有ったモノを一本コッソリお借りしてきたんだよねぇ~。 まさに借り暮らし、って感じ? 

 ――これ、今見たたら結構古いし、たぶん美味しいよ~」

 

 悪びれるふうもなく、笑顔でワインの由来を語る遥。

 あゆむもカスミさんも、すっかり毒気を抜かれたようで、クスクス笑いだしていた。

 さっきまで張りつめていた空気が、まるでワインの栓が抜けたみたいに、ふわっとゆるむのがわかった

 ……なんなんだろう、この人は。


 さっきまで少し寂しそうな顔をしていたくせに、

 今じゃもう、酔っぱらいの道化師そのもの。


 けれど――


 そんな遥さんの、めちゃくちゃで空気の読めない行動が、この場の“重さ”を一気にふき飛ばしてくれたのも、たしかだった。

 きっとこの人は、全部判って、狙ってやってくれているんだ……。


 ソレを見て、きっと あゆむと遥とカスミさんの3人には、きっと深い繋がりがあるんだ。

 オレは、そう思わずにはいられなかった。

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