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執念のカタチ

 オレとあゆむの二人がホテルに入って3時間経過した。


 「それにしても、なかなか出てこないね」

 挿絵(By みてみん)

 オレたちは、窓のすき間からホテルの出口をいまだに見張っていた。

 アイツらは余程おさかんなのか、由紀とヒロユキのふたりが入って3時間以上たったのに2人が未だが出てくる気配すらない。

 いくら何でも遅すぎる。 アイツら一体中で何やってるんだか……。


 「……少し、暑いね」


 一方のコッチはじっと見張っているだけなんだけど、さすがラブホテルというだけあって、部屋はかなりあたたく設定されているらしく 制服すがたのオレはじっとしていても顔や体からうっすらと汗がにじんでくる。

 当然、3時間もたてばブラやショーツも汗でぐしょぐしょになってきているのも自分でもわかる。 当然これだけ汗をかけば、においも出てるはず。

 あゆむは、コノのにおいに気が付いて居ないとよいけど……。


 「……」


 オレは、恥ずかしそうに額の汗をぬぐうと、ハナをクンクンとすこしひくつかせながら、チラリと隣にいるあゆむに目をうつす。

 あゆむは上着を脱ぎ、ズボンに白いシャツ一枚を着くずし、じつに涼しそうなラフな格好で外をのぞき込んでいた。

 もちろん汗ひとつかいていない。

 ――なるほどね、この部屋が暑くなるのを知ってて、あらかじめ上着をぬいだと言う訳か……。

 さすが、あゆむ。 こんなホテル事情にも詳しいとはね。 


 「――きょうこ。 おまえは自分の汗の匂いを気にしてるようだが、私はそんなもの気にしていない」

 「えっ!?」

 「暑ければ汗をかく、汗をかけば匂いもでる。 そんなものは人間なら当然の摂理だ、気にすることは無い。」


 あゆむは、聖人のように平然とそう返事をかえすとオレとは視線をあわさず、真面目な表情をくずさずブラインドからせまいガラス窓をのぞき込んでいる。

 

 「あ……ありがとう……」


 オレは顔を赤らめ、うつむき加減で感謝の言霊をつぶやくように返事を返した。

 あゆむは、汗で匂っているありのままの自分をうけいれ、オレの気持ちに添うように接してくれる。

 そのことがマジで すごくうれしい。 

 ――こんなに匂っていたら、普通のカレから幻滅されても仕方ないのに。


 「……」


 と、思っていたら次の瞬間、コイツはイケメンの真顔のまま窓の外をじっと見つめながら まったく悪びれる事もなくポツリと、スサマジイことをお抜かしになり始めやがった。


 「――真夏、遥とカスミと3人で家出して徹夜で遊んだ後、明け方近くに3人汗だぐでココのホテルに入った時に比べれば、幾分まだマシだ」

 「さ、三人でココに!?」

 「ああ、そうだ。 あの時はあの時はあまりの臭さのあまり部屋にはいるや否や、脱衣場に駆け込み、服や下着をパパッと乱暴に床にぬぎすてると、我先にと3人まとめて浴室に駆け込んだんだ」


 おいおい、オレの想像をはるかに超えた経験をしていらっしゃるよ。このカレは……。 

 あゆむは、遥、カスミの両手に華の状態でここのバスルームに駆け込んだと。 その後、彼女たちと何があったか想像もしたくない……。

 

 「……最悪……」


 自分の知らない あゆむのスゴすぎる過去をカミングアウトされ、オレの真っ赤になった顔は引きつり、ポツリとそう言うと額には冷たい汗がしたたり落ちた。

 さすがイケメンで人生経験も豊富なカレだ……。

 いやはやまったくもって恐れ入るよ。

 

「――最悪か……。 今思えば確かにあの時は、お前がいうようにあの後が最悪だった。

 あまりの臭いにたまりかねて、みんな服どころかショーツにブラまで手洗いしたからな。 おかげで3人まとめてマッパにバスローブ一枚でベットに寝るはめになったんだ」

 「………」

 「そして、次の日起きたら遥が寝ぼけてマッパでゴロゴロと床に転がりながら私のローブを引っぱっていたんだ。  おかげで、気がついたら自分まで素っ裸に剥かれていてな……、そのせいで全裸の二人をみたカスミに言われもなく変態扱い。 アイツの誤解を解くまでタイヘンだったぞ。

 ――今となっては懐かしい青春の一幕だがな……。 」


 あゆむはそう言うと、懐かしそうに遠い目をしつつ、口元に微笑を浮かべた。

 すっぱだかで女性2人とベットを共にしたとお抜かになられるあゆむの過去って、いったいどんなメチャクチャなモノなんだろうか?

 オレの知っているあゆむとは違う、ハチャメチャだったカレの過去をいろいろ聞きたくもあったけど、聞いてしまうと今の関係が崩れそうでちょっと怖かった。


 「……いいよ、昔の事は気にしてないから。 あゆむが昔にどんなメチャクチャしていても、いまのあゆむが自分の知ってるあゆむだからね」


 でも、あゆむが昔に何をしていたにしても、どんな時もいつもまじめなあゆむがオレのしってるカレだからね。

 昔の事なんて、自分にはどうでもよい事だしね。

 ほっと胸をなで下ろしたオレはそのままあゆむのとなりのバスのふちにうつると座り込み、再度、窓のすき間からホテルの入り口を注意深く見張り続けた。

 すると、その時だった……。


 「……あの娘は……」


 今までは居なかったけど、いつの間にかホテルの出口に座り込んでいた一人の若い娘の姿が目にとまった。

 その高校生くらいの娘は、白地に黒の襟とリボンが特徴的なオレと同じフェリミスの制服を着ており、黒い厚底のブーツと膝上までの黒いソックスを身に着けている。

 挿絵(By みてみん)

 「…滝川(たきかわ)さん!?」

 

 オレは、不機嫌そうにスッと立ち上がったその茶髪の娘を知っていた。

 彼女の名前は、クラスメイトの『滝川 ゆめの』。

 瞳は薄いブルー、肩までの長さの茶色のストレートヘアをしている位で、それ以外には特に特徴のない、いわゆるモブのような存在の娘という認識しかオレの記憶はない。

 滝川さんは、学校では由紀のグループとタマに一緒にいるから名前程度は知ってるけど、誰もいない所ではムシとかを狙って平然と踏み潰すような、事あるごとにヤミを感じさせる感じの娘だった。

 

 どうして、滝川がこんなところに!?

 と思っていると、次に出てきたのはあゆむと年が近い黒いヨレヨレのパーカーの男、顔はいかついけど額に微かな皺が寄っていていかにも自信はなさそうな表情をした、いわゆるウドの大木のようなガタイだけはのいいやつだった。

 ――あの男、どこかで見たことあるような気がするんだけど……。 ドコで見たんだろう? 昔、自分がやっていた焼き肉屋のバイト仲間? 

 違うか? あんなガタイの良い奴はバイトには居なかったよな。 居たら記憶に残ってるだろうしね。

 あゆむなら、アイツの事を何か知ってるのかな?


 「アイツの事、あゆむは見たことない?」


 オレがあゆむの方を向くと、あゆむは眉をひそめ目を鋭い視線で半分細めながら不機嫌そうに男を一瞥し、

 「……あんな、売女(ゴミ)を買うような買春男(クズ)には興味はない。」、と一刀両断に切り捨てた。

 たしかに、あゆむならそう言うよね。


 なりゆきから、2人の様子をそのまま様子を見ていると、アイツらは何かで揉めているのか、厳しい表情の滝川は逃げようとする男のパーカーのスソを強く引っ張りながら何かわめき始めた。

 よく耳を澄ませば、敏感なオレの耳に、

 「アンタ 残りの金払いなさいよ。 ヤリ逃げはさせないからね」、と言う女の声に、

 「知るかよ。 アレでも高いくらいだ。 うるせーな!  処女(ハツモノ)じゃない、おめーみたいなブスのドドメ色でやり過ぎでくずれた腐れマンコには金払ってもやりたかねーんだよ!」、と言う男の吐き捨てるような声が聞こえてきた。

 つまり、二人の話を聞く限りでは、あの茶髪のギャルっぽい娘が、男にマンコをいくらで貸したから残りの金を払えと詰め寄っている感じだろうか?

 2人の雰囲気から言うと、良くある売春のトラブル……なのかな? 

 オレはこの体にされる前は生活が厳しくて、アイツみたいに女性を買うとかそんな事をする余裕すらなかったから全くわからないけど、二人がもめている事だけは判った。

 

 「まったく、アイツらは理解しきれないな……。」


 あゆむの方は男を見下したようにフンッと鼻息を漏らすと、表情をゆがめ不機嫌丸出しに呟いていた。

 ホテルに来る前はあんなに優しかったあゆむが、二人のやり取りに余程思うことがあったのか 今はまるで別人のように冷たい表情をしている。

 ……なんか怖いな。

 でも、そのほうがいつものカレらしいけど……。


 「……まさか、な……」


 だが、あゆむは二人のなにかに少し興味をそそられたのか分からないけど、窓から身を乗り出して二人の様子をじっと観察し始めた。

 しばらくして、滝川が男のヨレヨレのパーカーをすそを強く引っ張り、肩にハエの刺青が見えた瞬間、あゆむの表情がスッと変わった。

 「――あの外道と此処で合うとはな……」

 あゆむはそう言うと、目を細め目の奥に宿る悲しみをうかべると、冷たい微笑みの中に無言の怒り冷たいを秘め、殺意すら感じる雰囲気を浮かべていた。

 あゆむは端的に言えば、復讐者の貌をしていた。


 「あゆむ、そんな怖い顔してどうしたの? アイツと何かあった?」

 「ああ、やっと見つけた……。アイツがバールだ」


 あゆむはそう言うと、狩人のような視線で男を見つめると、オレの背中に冷たいものがはしり恐怖のあまり動けなくなった。

 ――コレは自分は知ってる。 あゆむが前にも見せたことがある、この人の本気の殺意だ。

 あゆむは一体過去にコイツと何があったんだ?  そう思わずには居られない程の威圧感を漂わせながら、いつの間にか取り出して居た黒い皮製の指貫グローブを荒々しくつけはじめた。

 

 「きょうこ、お前は此処に居ろ。 すぐに戻る」


 あゆむはそう言うと、全力で風のような速さで部屋から走り出せてゆく。

 待って、とオレが止める間もなく、あゆむは男を追いかけて行った。

 いやな予感だけがオレの心を支配する。


 「あゆむ待って、自分もいくよ」


 イヤな予感がしたオレもあゆむの後を駆け足で追いかけてゆく。

長くなりそうなので、此処で投稿。

残りは早めにだします、こうご期待っ!

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