それぞれの行方
オレとあゆむは朝の町を歩いている。
「あゆむ。それにしても、あの二人のバトルは凄かったね」
「そうだな……」
オレの意見に、うんうん、とあいずちを打つあゆむ。
あの街角での仁義なきフェイトさんと遥のバトルの後。
フェイトさんは、負け犬に向かい勝ち誇った表情を浮かべるとおおきくムネを張り、上機嫌で銀髪をゆらしながら朝の町をクールに去っていった。
――「アナタにも、いつか素敵なカレが見つかればよいわね」、と、しかばねを蹴りあげるような無慈悲なトドメの一言を発して。
そうなると、黙って居ないのも遥。
彼女が極悪三姉妹だった頃の血がよみがえったのか、ブチ切れモードになった遥は遠くなるフェイトの背中に向かい、顔を引きつらせながら両手を口にあてメガフォンのようにすると、
「オイ! ソコのパチモノのでかチチで男をたぶらかした やりマンビッチのサセ子! どーせ、オタクのアソコはヤリスギで、どどめ色のがばがばユルユルのくそマン〇なんでしょ!! そんなモノじゃすぐにオトコに飽きられるわよ!
それに、アタシだってお姉さまみたいに手段をえらばず本気を出せば、相手なんてスグにつかまるわよ!」
と、遥は美人の顔も台無しになるような 小学生レベルのひわいな言葉の壮絶な遠ぼえをした所で、「遥さん、さすがに人前でそれ以上はマズいです。 騒ぎになる前にはやく家に帰りましょう」と、あわてるノアに口をふさがれながら、どこか路地裏に引きずらていったのだ。
通りがかる人がざわつきはじめる町の中、「杏子ちゃんは、先に帰っておいて。 私は遥さんと家に行くから」、ノアはそう言い残し、オレとあゆむを置き去りにして逃げるように去って行ったのだ。
そんな訳で、ポツンと町中に取り残されたオレとあゆむ。
騒ぎが起き始めている場所に二人ともそのままでいる訳も行かず、とりあえず遥が起こした騒動の爆心地から逃げるべく、あゆむとオレとどちらともなく適当に歩き始めていた。
「昔からアイツは熱くなると、とたんに周りが見えなくなるのが悪いクセだ」
「そうなの?」
「ああ、野人の乱の時も、野猿に追われ、ほうほうの体で女湯に逃げ込んだ男子が微動だにせず、ビーナス像の様にたたずむ木戸あゆみの神々しいまでの美しさに見とれていると、
バスタオルを一枚体に巻いただけの遥がヅカヅカと男に駆け寄り、「この変態、なに全裸でお姉さまの裸をガン見してるのよ! このヘンタイ! 身ほど知らずの恥知らず! 」、と、露天風呂のゆかに引きずり倒すと、アイツのタオルがはだけるのも関係なく彼の上でマウントを取ってコブシで顔をボコボコにしてたからな……。」
「へぇ……」
「――文字通り、マッパのあられもない姿でな……。
おかげで、ボコボコにされた男は、なかなか かわいい子だったが見る影もなくマッパでボコボコのジャガイモの様にされていたな……」
ため息まじりに、イケメンの表情をくもらせ、語り終えたあゆむ。
「――遥さんって、(あの人並みに)凄い人なんだね……」
オレにはその時の姿がありありと浮かんでしまった。
男子生徒が露天風呂でサルに追われ、パニック状態でたまたま逃げ込んだ場所が女風呂、さらに悪いことにソコには全裸でウデをくみ仁王立ちする女帝。
悪気無く逃げ込んだ男は、彼女の王者の威圧を前に自分の格の違いを感じて、「ヘビに睨まれたカエル」になって金縛りにあったようにうごけなくなり、そこを遥さんに引きずり倒され、馬乗りにされてフルチンのまま文字通りボコボコにされたのだろう。
そのあとの男の運命は言わずとも。 女湯にフルチンのあられもない姿で床に転がったソイツは、そのままの姿でドナドナされていったのだろうしね。
女たちにすっぱだかの姿をさらし物にされるおまけ付きで。
フェリミスの悪夢と出くわしたそいつの不運を思うと、気の毒すぎて同情の念しか浮かばない。
「そうだな。 だから、アイツらとはみょうに馬が合ったのだろうな……。 色々アイツらとやったものだ。
――今思えば、懐かしい話だが、遥といえば良いものを思い出した」
あゆむは遠い視線でポツリそう言うと、自分のスマホを取り出して画面をいじりだした。
ソコには町にあるカメラでの様子がうつっていた。
いわゆる、町中のライブカメラ映像というものだろう。
「あゆむ、なにするの?」
「――ああ、これを使いあのバカたちを探す。 遥が作ったものだが、ひろゆきと北島、二人の画像を画像をこのサイトにUPすれば、町中のライブカメラ映像をリレー方式でAIが二人が写った画像をかってに探してくれる。
前にも使ったことはあるが、それからアイツらの居場所を割り出せばスグだ」
あゆむはそう言うと、画面をいじり画像を切り替えてゆく、
「みつけた。 あのバカ……、こんな所に入ったのか……」
二人の行き先に、画面を見ていたあゆむの顔が険しくなる。
「どこに入ったの?」
オレが画面をのぞき込むと、そこに映っていたのは歓楽街から一本奥に入ったところにある、こっそり立っているホテル。
入口には長めのカーテンがかけらており、いかがわしさを漂わせいる。
――いわゆる、「ラブホテル」、という感じの所だった。
「まさか、由紀たちはココに二人ではいったの?」
オレの問いにあゆむはちいさくうなずいた。
「ああ、 その先の画像は無い。
――つまり、アイツらは今、この中に居るという事だ」
あゆむは忌々しそうに言葉を吐きすてる。
「こんなところだけど、あゆむ、どうするの?」
オレが恐る恐るたずねると、あゆむは即答した。
「勿論、居るなら行くまでだ。 必要なら私たちも中に入るぞ、きょうこ」
ホテルに入る、と、真顔できっぱり言い切るあゆむ。
――でも、このホテルに二人で入るって事は……。 そういう事になるかも という事だよね?
でも、オレには、この期におよんでも、まだ、あの覚悟って出来て無いのに……。
それに、今日はまだお風呂にも入ってないし、下着だって何時もと同じものだよ……。
――そんな時のものじゃないのに……。
「……」
顔を真っ赤にしたオレは、恥ずかしそうにうつ向いて、ただ小さく頷いた。