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それぞれの決意のカタチ

 「コレは、どうしたものでしょうねぇ……。」

 

 小泉部長がウデをくみながらそう言うと、このまま許されるとおもっていた辺りの空気が一気に張り詰めていった。

 あゆむやノア、遥、3人の視線が彼女(部長)に集まり、幼女を抱きしめる変質者、もとい、ゆいちゃんの父親である山田の顔はみるみる青ざめ不安にそまった表情へと変わっていった。

 

 そりゃそうだ。 


 無断欠勤をして、その事をまったく謝ろうともせず、小さな娘が大泣きして全てをうやむやに済ませてしまおうなんて虫が良すぎるよ。

 小泉部長が たとえブッタやイエスのような聖人でも一発でブチ切れてしまうだろうし、そもそも、そんな事が許されたら、どんなゆるい組織でもなりたたないだろう。


 そんな訳で、怠惰の罪人(山田)が無断欠勤していた件は無罪放免とはいかないようだ。

 この人を納得させる落としどころを見つけない限り、この変態のクビは風前のともしびなのは間違いない。

 

 「それで、あなたはこれからどうするつもりなのです?」


 まさに法廷のように重苦しい空気の中、沈黙を最初に破ったのは部長だった。

 当然のように、弾劾の主導権は裁判官である彼女に握られている。

 俺の目から見るに、部長は極めて冷静だった。

 無断欠勤した部下に対して怒りの表情もみせていない、ただ冷酷な言葉を出しただけだ。


 「……」


 だが、イモ男にはその言葉が心にぐさりと刺さったようだ。

 小泉部長がウデをくみながらそう言うと、不始末の落とし前の答えを出せなかった変態、いや、山田は死人のように真っ青になり絶望にそまった表情へと変わってゆく。

 そんな情けない変態にむかい、部長はかるく目を閉じて大きく息を吸い込むと、指をつきつけ、さらに冷酷な事実をつきつけていった。


 「山田さん、あなたたちの処遇なのですけど、そもそもあなたにゆいちゃんを育てられるのですか?」

 「そんな……!?」

 「当然です」


 山田の悲痛な叫びをバッサリ切り捨てるように部長は続けた。


「アナタは、自分の責務も果たさず、ゆいちゃんをほったらかしにしてましたよね? それなのに、これからは自分の責務を果たす事が出来るのですか?」

「そ……それは……」


部長の厳しい指摘に山田の声がみるみるしぼんでゆく。


「自分の社会人としての責任もはたそうともしない、そんな無責任な男に子供を育てるとは到底信じられませんね。 

 ――出来るというなら、まずは其れをカタチでしめしてはどうですか?」


 ちゃんと出来るというなら、まずは其れをカタチでしめせ、と、至極まっとうな意見をいう小泉部長。

 でも、形で示せと言っても、こんな場合どうしたら良いんだろ? この厳しそうな人を納得させる材料ってそうは無いだろうしね。


 部長の厳しい言葉に、山田は わが娘(ゆいちゃん)をジッとみながら完全に沈黙してしまった。

 オレが周りを見渡すと、あゆむとノアと遥の3人は、みんな半ばあきれ果てたのか、頭痛がするように頭をおさえながら冷ややかな目で山田をみつめ、誰も助け船をだそうとしない。

 山田の服のポケットをジッとみつめるフェイトさんを除いて。


 誰も口を出さないのは、彼が自分で解決しないといけないことだから当然の事なんだけどね。

 こんな時に助け船をだしても、情けない部下に対する部長の怒りに火に油を注ぐようになるのは明らかだろうし。

 あくまでも、この人が答えをださないと行けない事だしね。


 「パパ」


 四面楚歌、そんな針のムシロのような空気の中、ゆいちゃんは父親の体から泣き顔をあげ、山田の顔をじっと見ながらそう言うと、ちらりと部長をみて、


 「まずは……。 パパはこんな時はマズやることがあるんじゃないの?」

 「?」

 「おしごと休んだこと、小泉部長さんにまだあやまってないよ。 それに休んでフェイトさんや小梨さんや職場のミンナにめいわくかけたんでしょ?

 こんなときは、なにはともかく あやまるのが最優先じゃないの? そして、具体的なかいけつほうほうを出したら良いんじゃないかな? 

 ――スマホに聞いたらそう書いてあるよ」

 

 ゆいちゃんはそう言うと、手に持っていたスマホの画面をつんつんと指さした。

 オレは、そのネコが描かれた画面を遠目でみてアレは何かすぐ判った。 自分もたまに使ったことがある生成AIのCat GTPとかいうヤツだったからだ。 ネコがモチーフの画面には具体的な謝り方とかの方法がネコの足あし跡のうしろに生成し始めていた。

 そして、彼女(ゆいちゃん)がちらりと視線を送る方をみると、フェイトさんが小さく笑みを浮かべ「それで良いのよ」、と言わんばっかりに小さくクビをタテにふっていた。

 ――ゆいちゃんは、フェイトさんのアイコンタクトに気が付き、パパのポケットにあったスマホを使って 『きっと無断欠勤した時の謝り方』とかを生成AIに入れて、解決方法を探したのだろう。 

 さすがギフテッド、フェイトさんの合図に気が付き、自分が幼稚園児という人生経験が少ない分 ソコを工夫でカバーして、彼女なりに問題の解決ほうほうを出してきたようだ。

 少ない経験を、天性の応用力でくつがえしてきたギフテッド恐るべし。

 

 「部長、本当にすいませんでした!!」


 変態は、スマホの画面をみるなり、ひらめいたような表情になるとベットから飛び降り、体を小さくして土下座、そして、小泉部長とあゆむフェイトさん、ノアの方に向かい交互に米ツキバッタのようにアタマを下げまくってゆく。


 「ふぅ。 これ仕方がありませんね……」


 幼い子供に促され、AI頼みで解決法をだしてもらい、揚げ句、土下座をしながら涙ながらに謝りまくるという恥も外聞もない光景に、部長は声と顔を引きつらせながらそう言うと、ゆいちゃんと変態をジッとみつめた。

 彼女の表情は、自分がのぞむ結果ではないけど、この男に此処までされたら、もうこれは許すしかない、そんな表情だろう。

 そして、深くため息ひとつ吐くと背後のフェイトさんを一瞥し、強い視線で部下の山田を見据え、さらに言葉をつづけた。


 「なるほど。 あなたの場合、本人が無能で答えを出せなくても、周りにフェイトや ゆいちゃんのような優秀なサポートが有れば大丈夫というわけですね」

 「……」 

 「事実、答えを出せたことを認めないわけには行かないでしょうし、アナタ達の生活はこのままでも問題なさそうですね。 なにも問題のない家庭を部外者の私がとやかく言うのはお門違いというものですから」


 閻魔(小泉部長)は土下座する亡者(山田)に判決を言い渡した。

 ――無罪(このままでよい)、と。

 その言葉に、真っ先にゆいちゃんは表情をゆるめ、部長へむかい「ありがとうございます」、と深々と頭をさげた。

 ふとパパの方を見てみれば、かれのうつ向いた顔の下には水の跡が増えてきている。


 「とんでもない。 私の方からもダメなパパを、これからもよろしくおねがいしますね」


 閻魔大王は表情をゆるめ、ゆいちゃんに向かい軽く一礼する。

 その姿に、張り詰めていたあたりの空気がゆるんでいくのがわかった。

 ノアやあゆむ、遥の3人も、半ばあきれ顔をしつつも、安どの表情をみせている。

 

 その土下座する父親の情けない姿とシッカリしたゆいちゃんの姿を見てやっとわかった。 

 きっと、この変態イモ男は何をやってもダメな、昔のアメコミに出ていた所謂ダメ男 ダメ親父とよばれる人種なのだろう。

 彼は、このゆいちゃんのような天才、あゆむやノアのような秀才とよばれた人種に囲まれた環境の中で。

 才もなく、されど父親としての役割を全うせねばならず。

 だが決して腐ることもなく、周囲に助けられながら、これからもパパとして精一杯がんばってゆくのだろう。

 せめて、立派な父親らしくと無理をして、いつも失敗しながら。

 

 オレは山田のその姿を見て、昔、おふくろから一度だけ聞いたことがある自分の父親を思い出していた。

 お人好しで何時も人の仕事を押し付けられ、いつもやらかしてしまい、ブラック企業で馬車馬のように働いた揚げ句、オレの顔を見る前に亡くなったというオヤジに。


 ――だからだろう、何となくこの男が気になってしまうのは。


 「新米パパ、がんばれよ」


 そう思うと、オレはいつの間にかポツリと呟いていた。


 「小泉部長……、あの……」


 イモ男が土下座体制から何かを言おうとすると、閻魔大王(部長)の気配が変わった。

 ――お前は、今はしゃべらなくて宜しい! ロクなことを言わないでしょうから。 そんな事をただよわせる怒りを帯びた気配だった。

 そんな威圧に変態の言葉は押さえ込まれる。


 「あなたの方は無罪放免とはできません。 当然でしょう?」


 最後に、地獄の閻魔(小泉部長)は屠殺寸前の家畜を見るような冷徹な目を足元に居るブタ男(山田)に送った。

 自分には関係ないのだけど、背筋が凍るような感覚がした。


 「明日からは、アナタが今まで休んでいた間たまりに溜まっていた仕事をかたずけてもらいますよ。 

 オフィスに泊まり込み、文字通り不眠不休でね。 あなたのお陰でデーターが上がらず みんなが迷惑しているのですよ?」


 「……」


 部長の冷徹な? 温情に変態はアホウのようにアングリ口をあけた。

 いくらなんでもコレは無いだろう、 ひどすぎる、人権無視だ! ゆいちゃんはどうするんだよ? といわんばっかりな表情だった。

 だが、閻魔は畳みかけるように、怠惰の罪人(山田)の逃げ道をきれいにプチプチふさいでゆく。


 「ちなみに、ゆいちゃんの件ですが、アナタが戻れないまでの間はフェイトに面倒を見てもらうので何も心配ありません。 フェイトの方も問題ありませんね?」


 「部長、私の方は大丈夫です。 なにも問題はありませんわ」


 フェイトは小泉部長の提案に、二つ返事でお辞儀をすると こころよく笑顔で返事をかえす。


 「わーい。 フェイトさんといっしょだー」


 その返事にゆいちゃんも、大喜びのように笑顔を浮かべていた。

 

 「山田よかったな、これから不眠不休で働くにしても、クビがつながっただけ儲けものだぞ? 」

 「そうですよ、山田さん。 あれだけ無断欠勤してクビがつながっただけ奇跡ですよ、普通ならとっくにクビですから」

 「――ほんと、甘いわね。 あれだけの事をすればウチなら一発でクビがとぶわね」


 めいめいの意見をいう、あゆむ、ノア、遥の3人。

 その足元で、「そ、そんな無慈悲な事を……」、と、大きな体をふるわせてすすり泣くイモ男。


 コイツはきっと、今度はこれからの奴隷労働のような鬼畜労働にふるえているのだろう。 当然の事ながら、山田のそこ(鬼畜労働)に対して誰も同情する人はいない。

 娘のゆいちゃんさえも、キッチンで保存の効きそうなカップ麺やらフレイバーをゴソゴソ袋につめているもの。 きっとイモ男の帰れない時の職場での食料を準備しているのだろう。

 自分のまいた不始末のタネが育って、災いの大樹になったのを自分が苦労して刈り取るハメことになるのは、当然のことなんだけどね。

 文句があれば、芽が出て育つその前に刈りとればよい訳だしね。


 何にしても、無断欠勤したコイツのクビは、鬼労働をすることで許してもらえ、ゆいちゃんの方もフェイトさんが手伝ってくれるから此処に居れてるようになった。 そんな感じかな?

 これは、大岡裁きのような円満解決、かもしれないな。


 「明日から、アナタの働きに期待していますよ。 

 ――うちの部署は、ネコの手を借りたいくらい忙しい部署なのですからね」


 部長は、そう言うと、体を丸くして震える変態を前にして、くるっと踵をかえして部屋からたちさってゆく。

 そのあとを追うように、フェイトさんも銀髪をゆらしスッ、とさっていった。


””


 「でもさ、あの二人(フェイトと山田)ってさっきのやり取りみてるとデキテルっぽいけど、正に美女と野獣、破れ鍋にティファー〇の蓋という感じの組み合わせよね。

  ――アノ情けない男のいったいドコがそんなに良いのやら……。 アノ男がソコまでよいなんて一種の幻想よねぇ。 」


 先ほどの一件がひと段落し、アパートからの帰り道をあるくオレとあゆむとノアと遥の4人。

 あまりに不釣り合いな。フェイトと山田の二人の姿を思い出いしたのか、頭にウデをまわしながら、イタズラっぽくイモ男を盛大にディスる遥。


 この人が言う事も、まあ、判らないんでもないんだけどね。

 自分にもあゆむ方がうん倍もかっこいいし、何より頼りがいがあるし。

 でも、今はサスガにまずい気がするんだけど、 遥さんは気が付いていなようだけど、後ろに誰か来てるよ……。

 あゆむもノアも焦った表情で、指で「うしろを見ろ」と、ジェスチャーで指さすが、遥は気が付いていないようだった。

 ――噂すれば何とやら、で、フェイトさん本人が来ているのに。


 「あの人のよさは、どうせ未通女の貴女にはきっと理解できないモノなのよ」

 「なっ!!」


 遥の背後から追い抜いたフェイトは、クールな表情ですれ違いざまにそう言うと、ズボシをつかれたように顏を赤らめ表情を固める遥。

 遥の表情を見て、クールな表情のなかにも 小さく勝ち誇ったような表情を浮かべるフェイトは更に無慈悲な一言を放ってゆく。


 「アナタも未通女じゃ無くなったら、あの人の良さをきっと理解できるかもしれないわね。

 ――相手が居れば、の話ですけどね」


 「そういうオタクはどうなのよ? どうせ、永久未通女なんでしょ?」


 「ごあいにく様。 私は違うわよ。 それどころか、ちゃんと娘までいるわ」

 

 フェイトは遥の反論をクールビューティな表情でさらりと切り返した。

 ノアは巻き込まれたくないのか、無関係を貫いている。


 思いもよらぬ強烈なカウンターに、遥は、「おねえさま! 前みたいにすぐ抱いて!」あゆむに救いをもとめるようにネコ(くち)ジト目視線を送るが、とうのあゆむは視線を上にずらし、口笛をふきそうな表情で無関係をきめこみ、

 「遥、今、こんなものを私に話を振るな、今のワタシには関係ない話だ。 そもそも自分は違う」 というような表情をしていた。

 あゆむが女の人に興味無いというのは知ってるけど、万が一と言うことがあるからね。

 そもそも、オレがあゆむを誰かにとられそうになって心穏やかでいられるはずもなく……。


 「――この人は、ボクのだからね。 」


 オレはそう言うと、あゆむのウデをぐっとだきしめる。

 頼りがいのある、うでの感触がオレのムネのあたりにつたわってくる。


 「この甘えん坊め、帰ったらコレはお仕置きだな」

 「――おしおきでも良いよ、だから今はこのままで居させて」

 あゆむはそう言いつつも、表情をゆるめオレのアタマを優しくなでてくれた。その温かさに心が癒されゆくのがわかる。

 遥さんの視線は痛いけど、あゆむの あたたかさ と 優しさが心地よい。

 カレにこんな優しく甘えれるなんて、天使にされた自分には望んではいけない事なんだろうけど、なにが、あってもこの人の場所を護りたい。

 ただ、 純粋にそう思った。

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