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××男と異常女共  作者: 双人 シイタ
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ストーカー女のストーカー(2)◯良いこと考えた♪◯

◯良いこと考えた♪◯ Side : 空乃 ひとみ



 あー、おわったおわった。

 やっとおわったー。


 喫茶店のバイトが終わり、私は駅ホームの椅子に座りながら帰りの電車を待っていた。

 

 はやく帰って、キリヤくんのところに行きたいなぁ。


 椅子の背もたれに体重を預け、彼に会えない寂しさからバイト中もずっと同じことを考えている。

 というより、彼に会えない時間はいつも同じことを考えているのだけど。

 そんな寂しさを紛らわせるために、私は鞄の中からスマホを取り出して、保存している写真を映し出す。

 映し出される写真は、当然キリヤくん。

 学校の教室で、友達のお喋りを彼がつまらなそうに聞いている時の写真だ。

 写真に映るキリヤくんを堪能した後、次の写真を映し出す。

 学校がない休日に、彼が私服姿で街中を歩いている時の

写真だ。

 キリヤくんの私服姿かっこいいなぁと思いながら、満足した私は次の写真を映し出す。

 キリヤくんが住むアパートの201号室の部屋で、寝起きの彼がカーテンを開けている時の写真だ。

 寝癖で髪が跳ねているところをかわいいと感じ、いつまでも見ているとニヤけて変な顔になりそうだったので、私は次の写真を映し出す。

 そうやって、キリヤくんの日常の一部を切り取った写真を次々と鑑賞していく。

 ご覧の通りスマホに保存されている写真は、ほとんどがキリヤくんだ。

 しっかりとフォルダ分けをして、その時の気分で見たいものを見れるようちゃんと管理している。

 会いたいと思う時、思い出したいと思う時、心を安らげたい時など、いろいろだ。


 できれば、スマホの壁紙もキリヤくんの写真にして、起動させればいち早くキリヤくんの顔を見ることができ、すぐさま寂しい心を癒すことを可能にしたい。

 けれど、それをすると周りの友達に私がキリヤくんのことを好きなのがバレてしまうため、そこだけは自重している。


 変な噂とか立ったたら、めんどうだしね。

 

 引き続き私がキリヤくんの写真をじっくり眺めながら目の保養をしていると、誰かの視線が私に刺さる。

 見られてる、のはいつものことだ。

 私は自分が可愛くて人の目を引きやすい容姿をしていることを知っている。

 それをちゃんと自覚したのは中学生の時からだけど、その前から周りの人からよく見られていることには気付いていた。

 その目のほとんどが私を好奇の目で見てくる。

 そして、そんな目を向けてくる人を私が見れば、見られた相手は大抵恥ずかしがって目を逸らすか、やましいことがあるかのように慌てて目を逸らすか、逆に目を逸らすことを忘れて惚けるように見続けてくるかだ。

 そんな相手の反応を見るのを、私はいつのまにか楽しんでいた。

 それが普通になり、当たり前になり、嫌いではなかった。


 でも、キリヤくんだけは違ったんだよね。


。。。


 あれは高校に入学して間もない放課後のこと。

 クラスの人達からアンケートのプリントを集めることを先生に頼まれた私はそれを職員室に届けた後、友達が待つ教室に戻るため誰もいない廊下を一人歩いていた。

 プリントを渡した時の先生の反応を思い出しながら。


 ふふっ、プリントを届けるのって面倒だと思ってたけど、あの先生の反応が見れただけで帳消しだなぁ。

 まさか先生が生徒に欲情するなんて、まるで漫画みたい。

 あぁ、おもしろい。


 欲情といっても、先生は私に対して多少の気遣いをしてくれただけ。

 周りの人がその状況を見て聞いても、特におかしいところはないと感じるだろう。

 だけど、私には分かった。

 目の色から滲み出る私に対しての欲という欲の願望が。

 

 ま、顔は悪くないけど私にはどうでもいいかなぁ。

 今のままで十分楽しいし。


 そんなことを考えていると、自分よりも少し身長が高いショートヘアの男子生徒が前方から歩いてきた。

 目付き悪いなぁと思って見ていると、男子生徒が私の視線に気付いたのかこちらに目を合わせてきた。

 

 瞬間、むふ、と私の中の悪戯心に火が灯る。

 そのことを相手に悟られないよう表情を取り繕い、そして、相手の反応を楽しみにしつつ、私はニコッと笑顔を見せてあげた。

 今までの経験上、男の子にこのような一対一の状況で目を合わし、そして笑顔まで見せてあげれば、ほとんど決まった反応を示す。

 大抵、恥ずかしげに目を逸らすか、惚けて固まってしまうか。

 そんな反応をする相手を見るのを私は面白がってしまう。

 目の前の男子生徒はどっちの反応を見せてくれるかな。

 楽しみにしながら、相手の反応を待つ。

 そして……、


「……!?」


 私は驚きで立ち止まってしまった。

 普通は、目の前の相手が急に足を止めれば、驚くか不審に思うかで何らかの反応をしてもいいとは思う。

 しかし、男子生徒は立ち止まった私を気にも止めず、まるで地べたの石ころを見た後のように特に意識もしないで、私から目を逸らして通り過ぎて行った。


 予想通り、あの男子生徒は私から目を逸らした。

 予想に反して、あの男子生徒は私に対して無反応だった。

 だけど、そんなことはどうでもよかった。

 そんなことよりも、私は()のその鋭い目付きの奥にある瞳に驚いていた。

 今まで私が見てきた人達の瞳には、感情という色があった。

 赤、青、黄、緑、橙、紫、白、灰、黒、などなど様々だ。

 しかし、彼の瞳は違った。


 私は後ろを振り向くと、先には今しがた自分とすれ違った彼の背中が見える。

 その背中を見ながら、私の頭の中には先ほどすれ違った時に見た彼の瞳が焼きついていた。

 彼の瞳には感情の色が全く映し出されていなかった。

 そんな感情のない瞳に、私はとても惹きつけられていた。


 まさに、一目惚れというやつだ。


 これが、私が八切キリヤくんと初めて出会った出来事だ。


。。。


 それから私の()()()()()()アプローチのおかげで、キリヤくんと今の間柄になれたわけだが、それはまた別の話だ。


 ……それにしても、しつこい視線だな。


 私はいくつかの視線を受けながら、一つだけ異様に執拗な視線を送っている人がいることに気付いていた。

 というか、バイトをしている時からその視線を受けてたから、誰の視線かも分かっている。

 それに今日が初めてってわけでもない。

 私がバイトを始めて少しした時から、この視線を受けていた。

 多分、いや間違いなくこの視線を向けてくる人は私のストーカーだ。

 私はバイト先で見た眼鏡をかけた男を思い出す。

 いつも一人で来店してはコーヒーを頼み、タブレットで何かを見ているその人は、時たま私のことを見てくる。

 初めは気にすることなく、ちょっと面白半分で目を合わせたりしていたけど、面倒になってきて最近は意識して目を合わせないようにしたり、注文を取るときは他のバイトの子に頼んだりしていた。

 だけど、まさかバイト帰りをつけられるようになるとは。

 家の場所はバレないようにいつも撒いてはいるが、そろそろ何とかしなければ後々めんどうなことになりそうだ。

 ストーカーがストーカーに追われるとは、なんとも珍妙な話である。

 漫画みたい。


 どーしよーかなー。

 

 足をぶらぶらさせながら考えていると、自分が乗る電車がやってきた。

 

 ――そうだ良いこと考えた ♪





×××



◯朝寝坊◯ Side : 八切 キリヤ



 窓の外から入る朝の日差しが、六畳一間の部屋の中を照らし明るくする。

 朝の静かな部屋に流れるテレビの音が、まだ寝ぼけている頭を目覚めさせるにはちょうどいい。

 俺はテレビに映るニュースを見ながら、朝食を済ませていた。

 朝食はバナナヨーグルト味の飲料ゼリーだけ。

 朝起きてすぐはそこまで腹が空かないので、いつもこれで朝飯を済ませている。


「朝それだけしか食べないで、元気出るの?」


 折りたたみ式の座卓に肘を付く『幽霊女』ことユウノが、俺の飲む飲料ゼリーを見ながらそう聞いてくる。


「出るよ。十分な」


「ふーん。おにいさんは朝にご飯とかパンとかシリアルとか、他に食べたいと思わないの?」


「別に。お前はどれ食べてたんだ?」


「わたしは全部食べたよ。いつもはご飯だったけど、時間がなかったらパンかシリアルだった。でも、おにいさんみたいな朝ごはんはしたことなかったや」


「そもそも、お前が生きてた時ってこんな飲料ゼリーとかあったのか?」


「うーん、分かんない。私がお母さんと一緒にコンビニとかスーパーに行っても、だいたいお菓子コーナーしか見てなかったから」


「そうか」


 まぁ、コンビニやスーパーで子供が目を引かれる売り物なんてそんなもんだろ。

 

 俺は大して興味もなさげに、ユウノの答えを聞いて朝食を食べ終える。

 すると、ゴソゴソと小さな物音が隣の壁から聞こえてきた。

 そちらに顔を向けると、釣られてユウノも顔を向ける。

 音がした壁の向こうは、202号室の部屋がある。

 つまり『ゴミ拾い女』こと夢島チリノが住む部屋だ。

 このアパートの壁は薄いため、隣の部屋からの物音がよく聞こえてくる。

 先程まで物音がしていなかったことを考えると、今ごろ目が覚めたのだろうか。

 そろそろしたら、一緒に学校へ向かう時間が来てしまうというのに。


「おとなりさん、今日は起きてくるの遅いね。そういえば、昨日の夜中に帰ってきたと思ったら、またすぐ部屋から出て行ってたし。夜ふかしでもしてたのかな?」


「かもな」


 ユウノの問いに適当に答えながら、夜中に部屋を出たと言うことは、バイトでもあったのだろう。

 それは良いのだが、一抹の不安を覚えてしまう。

 いつも余裕を持った時間にチリノと一緒に学校へ向かうため、多少遅れる程度なら距離的に遅刻の心配はない。

 だがいつも時間に余裕を持っているのは、チリノのゴミ拾いの時間を考慮してのことだ。

 

 ……。


 とりあえず、覚えた一抹の不安は置いとくことにした。

 身支度を整えて家を出ようとすると、何かを思い出したように「あっ」とユウノが声を出した。


「今日は燃えないゴミの日だよ、おにいさん。ゴミ持って行かないと」


 燃えないゴミが入った袋を指差す、ユウノ。

 今日が燃えないゴミの日なのは分かっていたが、まだ入るだろうと思って放置していた。

 だが、ユウノが指摘するということは、彼女の基準では持っていくべきだと思うゴミの量なのだろう。

 幽霊の言うことなんて聞かなくてもいいかもしれないが、幽霊だろうと一応の同居人だ。

 俺は考えを改めることにし、燃えないゴミを持って行くことにした。


「いってらしゃーい」


 ユウノの見送りの言葉をいつものように聞き流し、俺は家のドアを閉めて鍵をかける。

 確かめるように隣を見るがそこには誰も立っておらず、アパートの一階付近も一応確認してみるがそこにも目当ての人物はいない。

 いつもなら先にチリノが待っているのだが、珍しく今日は俺が待つことになりそうだ。


 スマホをいじりながらチリノが部屋から出てくるの待ってみるが、10分経っても出てこない。

 このまま時間が過ぎれば、学校まで走っていかなければならなくなる。

 それは御免被りたい。

 ドアノックでもしてみるかと考えていた所で202号室のドアが開き、中からチリノが出てきた。


「……おはよう」


「おそよう」


 少し上擦った声のチリノも珍しいと感じながら、ちょっと非難気味に挨拶を返す。

 そんな俺の挨拶に申し訳なさそうに、「……ごめん」と謝罪をするチリノ。

 別に怒ってはいないので、簡単に「いいよ」と許す。

 いつものように時間に余裕がある訳ではないので、燃えないごみを持って早速出発しようとし、あることに気づく。


「今日は燃えないゴミの日だろ。チリノは持っていくゴミは無いのか?」


「……ない」


「そうなのか。珍しいな」


 チリノは毎日のように所構わず落ちているゴミを拾い続けているため、ゴミが溜まるのが早い。

 そのため、ゴミの収集日には大抵その日に出すゴミ袋を持って部屋から出てくる。

 特に今日の燃えないゴミの日は週に一回しか来ないので、チリノがゴミ集積場に持って行くゴミがないのは、珍しいことだ。

 

 まあ、そんな日もあるか。


 俺が持つ燃えないゴミを処理するために、一度ゴミ集積場に寄ってから俺たちは学校へ向けて歩き出した。


「珍しく遅かったけど、やっぱり寝坊か?」


「……うん。……昨日帰ったの……遅かったから」


「バイトの依頼でもあったか?」


「……あった」


 そう言って、ふわぁと眠そうに欠伸をするチリノ。

 眠そうなチリノの姿を見て、不思議に思う。

 俺はチリノと同じバイトをしているから、彼女が昨日どんな仕事をしてきたのかは知っている。

 基本深夜バイト、始業終業時間もスケジュールも決まっておらず、何の前触れもなくスマホに仕事の依頼が飛んでくる。

 非常識、労働基準法も知ったことではないと言ったバイトの仕事内容はさておいて、給料だけは素晴らしいため辞めようとは思えない。

 そんな通常なら寝不足になっても仕方ないバイトだが、チリノは睡眠時間が普通の人より短くても問題ない体質だった筈だ。

 以前、彼女からそう聞いたことがある。

 ちなみに、俺も同体質だ。

 なのに、寝坊するとは。

 よっぽど、今回のバイトは大変だったのだろうか。


「家に帰るのが遅くなるくらい大変だったなら、ヘルプを呼べばよかったろ。連絡くれれば手伝ったぞ」


「……別に……大変じゃなかった」


「そうなのか?」


「……そう、いつも通り」


 なら何故、家に帰るのは遅くなったのだろうか。

 疑問に思いつつ、別にいいかと考えるのを止める。

 歩きながら、今日はいつもより遅めの登校のためか、俺たちと同じように登校中の生徒を見かけることが多いなと感じつつ、学校への道のりは久々に寄り道(ゴミ拾い)なくスムーズに進んでいた。

 これもまた珍しい出来事だ。

 朝からこれだけ珍しいことが続くと、不審に思えてくる。

 しかも、珍しい出来事が全てチリノに関したことばかりだ。


「……」


 俺は少し考えて、一つの簡単な見当をつける。

 たまたま珍しいことが続いただけで、見当違いの可能性もあり得るが、一応確認してみることにする。


「チリノ、今日は珍しくゴミが全然落ちてないよな」


「……当然」


「……」


 一度間を置いてから問い質すつもりだったのだが、今の答えで十分である。

 大体、自分の見当通りのようだ。


「昨日の夜中、バイトが終わった後にゴミ拾いしたから、帰るのが遅くなったのか」


「……そう」


 その後、眠たげなチリノにいくつか質問しながら、今日の珍しい出来事についての確認作業を行う。

 珍しく、道に全くゴミが落ちていないのは、昨日の夜中チリノがすでにゴミ拾いをした後だから。


 だから、学校への道のりから外れたところにも、ゴミが落ちてなかったわけだ。


 そして珍しく、チリノが燃えないゴミ日なのに捨てるゴミを持っていなかったのは、昨日の夜中にゴミ拾いが終わった後、すでに集積場に持って行ったから。 

 

 朝にユウノが言っていたチリノが『昨日の夜中に帰ってきたと思ったら、またすぐ部屋から出て行ってた』っていうのは、バイトに向かうために部屋を出たのではなく、部屋の燃えないゴミをゴミ集積所に持っていくためだったからか。


 これらの理由で帰りの時間が遅くなり、寝る時間がほとんどなくなくなったことで、朝寝坊をすることになったということだ。


「授業中に寝ないよう頑張れよ」


「……うん」


 俺たちは遅刻することなく、学校に辿り着いた。 

誤字・脱字ありましたらご報告いただけると嬉しいです。

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