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クリシェのクリシェ 朝(※大事なお知らせあり)

大変お待たせしました!

2024年11月20日にTOブックス様より本作の書籍の2巻が発売です!


『少女の望まぬ英雄譚2巻 著:賽目和七 イラストレーター:ハナモト 出版社:TOブックス』


という形で、紙書籍、電子書籍での発売となります。


詳細については下部あとがきをご確認頂ければ。






クリシェの朝とはベリーで始まるものであった。


早朝、ベリーの魔力の流れが変化したのを感じ取ると、深い眠りにあったクリシェの意識が浮上。不明瞭な思考でベリーが起きたことを認識する。

朝が来たのだと目を閉じたままぼんやり考えるものの、しばらくはそのまま。

そこで瞼は開かない。


目覚めたベリーの行動は毎日微妙に変化する。

しばらくクリシェの髪をさらさらと梳いたり、頬をさわさわと優しく撫でたり、ふにふにと弄んだり、鼻先をくすぐったり、唇をさすさすしたり――クリシェが観測した限り、そのパターンは細かな変化を含めれば57パターン存在していた。

更にそれらが複数組み合わされることも決して珍しいことではなく、そうしたベリーのスキンシップを味わいながら、その心理を読み解くというのが早朝におけるクリシェの密かな楽しみなのである。


しかし、今日のベリーは頭へ口付け、すぐさまベッドを抜け出した。

クリシェとしては微妙に物足りないスキンシップである。

微妙に不満を覚えつつ、お子様クリシェも今では淑女。

お子様時代とはひと味違い、何故、どうしてを考える。


何故、ベリーは大切な朝のスキンシップをあっさり切り上げてしまったのか。

クリシェの体内感覚――昨晩の食事を考慮した空腹度合いと照らし合わせ、現在の時刻を優れた頭脳で算出すればすぐにその答えは出る。

現在の時刻、ベリーの起床時間としてはやや遅め。

――つまり、今日のベリーは『お寝坊さんベリー』なのである。


無論お寝坊とはいえ、日の出前。

時間としてはほんの僅か遅い、程度ではあったが、ベリーはクリシェが永遠の目標とする天下無双の淑女であり、己に厳しく、職務に忠実な使用人である。

そのちょっとしたお寝坊分を取り戻すために様々なところで帳尻を合わせ、お屋敷の時計を狂わせないように全ての作業を完遂――お寝坊をなかったことにしてしまうのだ。


失敗は誰しも必ず犯してしまうものであり、大切なのはその後どうするか(ベリー語録より引用)である。

ベリーが少しばかりお寝坊して、寝起きのスキンシップが少し控えめになったとしても、それは仕方のないこと。

このような場合、彼女の片腕たる副使用人長クリシェに求められるのは、使用人長ベリーの小さなお寝坊を帳消しするための完璧な補佐であった。


ベリーがこれからどの作業で、どのようにお寝坊の帳尻を合わせるか――彼女が取るであろう時間短縮ルートを頭の中で網羅しながら、意識を引き上げるように唇をむにむにと。

重たい瞼を持ち上げて、クリシェはゆっくりと身を起こした。

裸体のまま伸びをすると、いつもながらだらしなく眠るクレシェンタの頬をむにー、と引っ張る。


やぁですわ、などと甘えた声の妹に、今日も起きる気はないのだろうと手を離す。

こうして頬を引っ張ると概ね1035分の1の確率でクレシェンタはおっき、クリシェと共にベリーを手伝うのだが、1035分の1034はこの様子。

姉としてはだらしない妹の姿に教育の必要を感じていたが、あまり厳しくするのはベリーの教育方針と反するもの。

少しクレシェンタを甘やかし過ぎなのではないかと時々思わなくもないが、お屋敷の教育係はクリシェではなくベリーである。

その職分を犯すなどあってはならないことだと、なるべく口に出さないようにしていた。


それに物事は考えよう(ベリー語録より引用)である。

クレシェンタがだらしないおかげで、こうして朝、クリシェはベリーと二人きりでべったりとお手伝いさせてもらえるのだ。

もしもクレシェンタが使用人道に目覚めていたならば、強力なライバルとなったことは間違いなく、ベリーの時間という限りあるパイを取り合うことになってしまう。

それを考えれば、妹がだらしないというのも決して悪いことではなかった。

だらしない妹と違ってしっかりものの姉――そのようにベリーから評価してもらえるというのも悪くない。


ベッドから抜け出すと、エプロンドレスに着替え終えたベリーの側に。


「おはようございます、クリシェ様」

「えへへ、おはようございます……」


そのまま少し背伸びをすると、ベリーは軽くおはようのちゅーをクリシェの唇に。

それからクリシェの下着やエプロンドレスを用意する。


このタイミングも重要であった。

ベリーが着替え終える前にベッドから抜け出してしまうと良くはない。

お着替えというのは本来一人でも出来るもの――わざわざ自分のお着替えさせてもらうためにベリーが着替え終えるのを待つというのは、どこからどう見ても甘えん坊。

淑女の取るべき行動ではない上に、少なからずベリーを急かしてしまうことになる。


今のクリシェは使用人、ベリーを補佐する立場。

クリシェとしてはベリーにお着替えさせてもらいたいのはもちろんであったが、甘えるばかりではいけないし、あくまでそれは自然な流れで行なわれなくてはならない。

クリシェが少し遅れておっきし、先に着替えていたベリーにお着替えを手伝ってもらう――そういうストーリーが必要なのであった。


かと言って当然、忙しいベリーを待たせてならない。

早すぎず、遅すぎずの絶妙な時間調整。

今日はクレシェンタの頬を引っ張るという工程を挟むことで、自然すぎる完璧なタイミングでのお着替え要求を成立させていた。


下着を身につけ、エプロンドレスを身につけて。


「ふふ、締め付けは強くないですか?」

「丁度いいですっ」


腰がきゅっとエプロンの帯で締め付けられる瞬間が何よりのお気に入りであった。

その瞬間、自分はベリーと同じ使用人になったのだという実感が湧き、姿見に映る自分の姿に何とも言えない満足感。

ベリーとお揃いのエプロンドレスに、頬を緩めて腕を取る。


「とりあえず、廊下の灯りを点けて行きましょうか」

「はいっ」


それこそがクリシェの一日、その使用人業務の始まりである。









あるべきことをあるべきように整える。

使用人とはどういうものかと問いかければ、様々な言葉でクリシェに教えてくれたものだが、単純に聞こえて奥深かったのはその言葉であった。


例えば誰かが朝に目覚めて廊下に出たとき、廊下は明るい方が当然良い。

ならば廊下の照明は灯ってなければならないし、そうあるべきだと考える。

だからベリーは誰より早く目を覚まし、常魔灯へと魔力を込める。


それだけのことだと彼女は言うが、それだけのことをベリーは全てに適用する。

料理に洗濯、掃除などは当然ながら、例えば今日はクレシェンタが不機嫌だろうと用意するのはラクラのパイ。

お茶をしたいとクリシェが口にする前に、自然とお茶の準備が始まって、クリシェがお昼寝したくなる頃には、手が空き仕事がなくなっている。


クッキーの量も多すぎず、少なすぎず。

不定期にセレネ達が参加しても、足りないなどと言うことはなかったし、かといって大量に余らせてしまうこともない。

まるで未来でも見えているかのように、ベリーは『そうあるべき』を形にする。


クリシェも能力の全てを使い、可能性を網羅すれば推測程度は出来ないでもない。

ただ可能性を網羅出来たところでそれは可能性。

全ての可能性に備えようとすれば、当然多くの無駄が出る。

しかし、ベリーの頭脳はそうした無数の可能性に他人の心理という要素を加味することで、予知というべき精度でお屋敷の未来を弾き出した。

クリシェには真似出来ない高等予測である。


「今日はちょっと多めなんですね」


常魔灯に流し込む彼女の魔力を眺めて告げると、ベリーは微笑んだ。


「多分今夜はお嬢さまが夜更かしされるでしょうから。昨日は随分早くにお休みになられたようですし、壺作りに難航しておられるご様子……今日は一日工房でしょう。お昼も手早く食べられるものを持って行くのが良さそうですね」


お屋敷の常魔灯には必要最低限の魔力を朝一に送り込む。

そうしておけば夜に灯りを消しに行く手間が省けるためだった。

今日は普段よりも少し多めだと思っていたが、理由はそのようなものであるらしい。


情報を精査し、思考を読み、結果をあっさり弾き出し。

今日のお屋敷の一日は恐らくベリーの頭の中に既にあり、そしてベリーの考える通りのお屋敷が今日も流れていくのだろう。

お屋敷で起きる出来事のほとんどはベリーの掌中なのである。


全員の予定など知っていて当然。

それに加えてその日の気分や心理を読み取り、知らぬ間に快適さを提供し、それが出来て初めて一人前の使用人。

クリシェからすれば超一流、遙か高みのそんなベリーでさえ道半ばと語る使用人職務。

その奥深さに比べれば、かつての戦いなど子供の遊びであった。


無論、結果が誰かの生死に直結する戦場での戦いに比べ、使用人の責任は軽いもの。

戦働きのような仕事が重要視され、お屋敷仕事が軽視される理由はもちろん理解しているが、どちらがより偉大な仕事かと言えば考えるまでもなかった。

その先駆者たるベリーの偉大さたるや、世界一と称して疑問の余地もありはしない。

エプロンドレスに身を包み、それを脱いで眠るまで――そんな彼女と過ごす時間の全てがクリシェにとっての学びであった。


ベリーの腕を取りつつ、かわりばんこで常魔灯に魔力を注ぎ、そうして二人でキッチンへ。


使用人という仕事は実に大変な仕事である。

ただ漫然と仕事をこなすだけならばともかく、高いクオリティを求めていけば青天井。

一早く朝に目覚め、活動を開始し、眠気の残る体と頭を酷使するというのは並大抵のことではなく、体力を大きく消耗した。

体はあっという間に飢餓状態――具体的にはお腹がぺこぺこになり、一人で歩けなくなってしまうほどである。

常魔灯を点灯させていく過程で既に、クリシェの体力は危険域に入っていた。


クリシェが自分の力不足を痛感するのはこのような時である。

これ以上の体力消費を避けるため、爆発的に甘えたい欲求が膨れ上がってしまっていたのだ。


それは、まだまだ半人前のクリシェには抑え込めないほどの強い欲求。

ベリーが少しお寝坊してしまったせいで、クリシェに対する朝のスキンシップが控えめになったことが原因とはいえ、それで文句を言うのは言いがかり。

クリシェの理想たる、淑女にして使用人という姿からはかけ離れた行動である。


だが無意識とは恐ろしいもの。

抱きついた腕にすりすりと、ついつい体重を預けて引っ張ってしまい、振り向いたベリーが苦笑する。


「まぁ。今日は甘えんぼさんですね」

「え、ぇと……ぁ」


そのまま抱き上げられると、ベリーはこちらを見つめて目を細めた。


「ふふ、朝のなでなでが足らなかったでしょうか」

「ぅ……」


ベリーは超一流の使用人。

お馬鹿なクリシェの頭の中など、全てお見通しなのである。




――そうして抱っこされながらキッチンへ。

中に入るとあちこちに、ベリーによって水の猫が生み出された。

猫達は協力しあって昨日の残り物の鍋を温めたり、フライパンでスクランブルエッグを作ったり、腸詰めを焼いたり、パンを焼いたり。


抱っこをしていて手が離せないという時には、こうしてベリーは猫を使う。

魔法を使うなら使うで直接あれこれ操った方が効率的で良いと思うのだが、この方が楽しくて良いらしく、大抵猫を使ってお料理を。

遊び心が大切なのだともいつも口にしており、これも恐らくその一環なのだろう。


椅子――に座るベリーの膝に座って数十匹の猫が前朝食の準備を進めていくのを眺めていると、数匹の猫が紅茶のセットを持ってこちらに。

蜂蜜とミルクをたっぷり注いだ紅茶のティーカップをクリシェに差し出す。


甘くて美味しい、クリシェ好みの紅茶である。

それを受け取り一口味わうと、ベリーの口へと持っていき、ほんの少し傾ける。


「朝は甘いのが良いですね」

「えへへ……はい。とっても美味しいですっ」

「何よりです。今日の朝食は何にしましょうか?」


――来た、とクリシェは若干緊張する。


○○にしましょうか、ではなく、何にしましょうか。

朝の献立をクリシェに任せる、という宣言であった。


使用人職務の中で最も重要な仕事――お料理。

それぞれに違いはあるが、朝食は特に始まりの食事。

その一日が良いものになるかは朝食の是非で決まる(ベリー語録より引用)とされており、決して失敗は許されない。

ベリーも朝食においては新たな挑戦は控え、常に美食の提供を心がけていた。

ここが良いものでなければ、繋ぎの昼食、そして一日の締め括りとなる夕食がどれほどの出来であろうと取り返しはつかないのだ。


かと言って、無難過ぎるものを選ぶのも誤りである。

そんなものは当然考えた上で、あえてクリシェに尋ねているのだ。

ここで無難に失敗のない答えをする使用人は一流と言えない。

想像しただけで美味しそうな、食欲を掻き立てるお料理――提案するのはそうした、ベリーを心から満足させるようなものでなくては意味がない。


「ひとまずクレシェンタのために、ラクラのパイがメインの一つ、ということで良いと思うのですが……そうである以上、他のメインは塩気のあるものが良いと思うのです」

「そうですね」

「となればお肉……しかし朝からラクラのパイとお肉ではやや重いですし、ここはお魚を――」


――いけません、焼くだけでは無難過ぎます。

言いかけた言葉を詰まらせ、目を泳がせる。


「お魚を?」

「こ……香草焼きにして、貝やトマトと一緒にあっさりスープに……というのはどうでしょう? 以前セレネが沢山釣った魚の在庫もいっぱいありますし、三種類ほど」

「ああ、良いですね。海鮮もあっさりしてますし」

「はいっ」


頭を撫でられ頬を緩ませる。

こんがり表面を焼き、浸る程度に水を加えて、貝にトマト。

海辺の料理で元は海水を使っていたらしく、塩ベースのあっさりスープ。

何の魚を使うか、具材に何を加えるか、そして仕上げで大きく味が変わる。


とはいえ、こうしたシンプルで繊細なスープは誤魔化しが利かず、僅かな失敗も許されない。

ちょっとしたことですぐに駄目になる、スープ界のクレシェンタというべき存在なのである。

自分から言い出した以上、普段以上に気を引き締めて掛からねばならない。

となれば当然、料理中に甘えるのは必要最小限――ここで甘えたい欲求をしっかり満たしておく必要があった。


「ベリー、ちゅー……」

「……もう、今日のクリシェ様は本当に甘えんぼさんですね」

「えへへ……」


頬を撫でられ口付けられ、そのままよじよじと向き直ってぎゅうと抱きつく。

唇に薄く、今飲んだ紅茶の香り。


大体いつも、ベリーは蜂蜜の味がする。











前朝食を済ませて朝食を作り、揃って朝食。

それから本格的に洗濯、掃除をやり始める。


以前は同時並行で色々とやることも多かったものの、使用人四人。

効率よりも楽しくのんびり、というベリーの方針もあり、早さよりも質が求められるようになっていた。

慌てず、急がず、それでいて段取りよく、丁寧に。


今日のアーネはこの仕事、今日のエルヴェナはこの仕事。

リラの様子を見に行くのはどのタイミングか、クレシェンタはいつ目覚めるか。

セレネの作業進捗は果たしてどうか。


そんなことを考えながら、一日を過ごすのが使用人という仕事。

階段を雑巾で綺麗にしながら、ベリーは少しぼんやりと考え込む様子。

彼女の頭の中はいつも誰かのことばかり、上の空な表情が不思議と綺麗に見えた。


何年経っても、未だに彼女の頭の中はよく分からない。

すごく立派なことを考えているようで、全く無関係なことを考えていたりもして、分かることと言えば、それが誰かのことだというくらい。

主導権を握っているようで、けれどあっさり手放して、流されるまま流れるまま。

適当だとか大体だとか雰囲気だとか、口にするのは曖昧枕に曖昧毛布。

けれど終わってみれば、収まるところに全てが収まり、それが最善であったとふと分かる。

不思議で、時々理解を超えていた。

クリシェの中で、ベリーという人はそんな人。


カルカの村にはよく分からない神様がいた。

例えば鹿や猪の数だとか、果実や山菜、山の実りは神様の領分で、雨が続くも、晴れが続くも、嵐が来るのも神の御業。

よく分からない神様なのではなく、神様とはよく分からないものなのだろう。

神様とはそういうものだと、分からないまま分かったように納得し、色んな人が分からないまま祈りを捧げる。


そういうものだと言われれば、そういうものだと受け入れる他なく、決まり事の一つなのだろう、とクリシェもぼんやり認識した。

信仰という概念がクリシェにはよく分からなかったし、そう認識する限り問題もない。

信じていようといまいと、祈りを捧げる素振りを見せればそれで終わり。

言葉でそれを捉えていたクリシェが、薄らと理解したのはずっと先のこと。


かつてのベリーは、多分クリシェにとっての神様であった。

クリシェの世界とはベリーが作るお屋敷であって、それが全て。

実際ベリーはそんなクリシェの期待にずっと応えたし、その言葉は全てが正しく思え、彼女の意向通りに世界は変わる。

クリシェが抱く未知の全てをベリーだけが知っている気がして、疑う余地なく信じていた。


けれどそんなベリーがいつも口にするのは、どうすべきかではなく、どうありたいか。


思い出せない言葉は無く、思い出せば鮮明に、いつでも瞼の裏に広がった。

ふと何かに迷う度、クリシェに語るベリーの姿が見えてくる。

ベリーの語る様々な言葉をその場で理解出来ることは稀で、大抵のことは何年か先か、あるいは何十年と経ってからようやくほんの少しだけ理解して、頭の中に染み渡る。

多分ベリーは、そうなることが分かった上で、いつもクリシェに語っていたのだ。

それが一番なのだと、不確かに。


クリシェの視野が広がるほどに多くのものが見え、ベリーがいなくなってからはよりずっと。

ベリーが語った言葉は身近になって、彼女の姿は鮮明に見えて、綺麗に見えた。


彼女は最初からずっと変わらない。

クリシェの望むクリシェを探す、そのお手伝いをしてくれただけ。

頭のおかしいクリシェのために、嫌がりもせず、笑いながら付き合ってくれただけ。

一生懸命、クリシェのために考えながら。


「えへへ、置物は拭き終わりました」


ベリーに抱きつくと、優しく頭を撫でられる。


お掃除、洗濯、お片付け。

毎日毎日やることは同じで、全く違う。

ベリーの教えの第一はいつも、考えることであった。


「ここも綺麗になりましたね。……そろそろクレシェンタ様も起きてくる時間でしょうか」


きっと彼女もそうしていて、唇に指を当てては考える。

ベリーはいつか信じていた神様ではなかったし、だからいつも、色んな事を考える。

小さな事から大きな事まで一生懸命誰かのことを考えながら、毎日を過ごす。


ベリーは多分すごく奇特で、頭のおかしな人であった。

世界中を探したって、きっと二人といないような、そんな人。

けれどだからこそ、誰よりも綺麗に見えるのだろうとクリシェは思う。


いつも誰かのことで頭が一杯な、そんな彼女のお手伝い。

世界で唯一、彼女が気遣ったりしない、そんな人のための使用人。


クリシェが望むクリシェは、そういうクリシェ。


「じゃあクリシェ、セレネの様子を見てきますね」


今日は不機嫌な振りをして、お子様みたいに甘えるクレシェンタの相手。

壺を作っているセレネの様子を見たくても、ベリーの体は二つもない。


だからクリシェのお仕事は、そんなベリーのお手伝い。


「ふふ、はい。では、お嬢さまの方をお願いしますね」


微笑むベリーに口付けを。


クリシェの昼とは、そうして始まるものであった。






大変お待たせしました!(二回目

情報解禁までは秘密にしないといけないこともあり、2巻を待たれていた読者の皆様には少しやきもきさせる形になったと思いますが、前書きの通り、

『少女の望まぬ英雄譚2巻』はTOブックス様より2024年11月20日、書籍、電子書籍での発売となります。


言いたい……言えない……みたいな感じで作者としても中々もどかしい気分でありました。

水面下ではちゃんと動いていたのですが、感想欄やXの方では「もうちょっとお待ちを」ばかりで、病に伏すベリーに「もうちょっと」を伝えるクリシェのような心地だったでしょうか。

こういうご報告が出来てようやく少し肩の荷が下りました。

応援くださった方々も、本当ありがとうございます。


書籍についてですが、今回の書き下ろし短編も二本。


・初陣後、研ぎに出した剣を受け取りに来た将軍令嬢のセレネ。

一人前であろうとし続ける、そんな彼女の見えない努力を鍛冶屋コーズが剣から読み取り語る『雄弁なる刃』。

・不器用でドジで賢くもなく。そんな母をどうして自分は好きだったのだろうか。

不意に浮かんだクリシェの疑問を、ナッツ入りのクッキーで解消する使用人ベリーの小話『混ぜ物』。


その他、TOブックスオンラインストアでご購入の方は


・幼いクリシェに竜の伝承を語るベリー。しかしその真の狙いは――という『ついでの話』。

電子書籍版では

・帰宅後突如巻き起こったクリシェキス問題。

もはやベリーには任せられないと決意し、立ち上がるセレネを描く『セレネの場合』。


がついてきます。

連載版では飛ばしていたキス騒動初日についても大幅加筆してますので、是非是非書籍本編も含め楽しんでいただければ幸いです!

下部の作者X(旧Twitter)でも随時報告を……!


イラストレーターは前回と同じくハナモト様。

表紙から挿絵まで、本当にすごくかわいい四人の姿を描いてくださってますので、そちらの方も必見の内容となってます!


1巻同様大幅に加筆や修正などを行い、本作をお楽しみの方ならより満足いただけるものになったと確信しています。

よろしければ、そちらも応援いただけると嬉しいですし、皆様にこうしたご報告が出来たこと自体、私としては本当に嬉しく思っています。


改めて、これまで本作を応援してくださり、本当にありがとうございます。

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作者X(旧Twitter)

  2024年11月20日、第二巻発売決定! 
表紙絵
― 新着の感想 ―
クリシェの朝とはベリーで始まるものであった > ラブラブだなあ………。 二人きりでべったりとお手伝い > やはりラブラブ。 頬を撫でられ口付けられ > ラブラブ過ぎる!? 1035分の1の確率 > …
[良い点] 2巻おめでとうございます!絶対に購入しますからね! お屋敷よ必ずアニメ化までいってくれよ! [一言] 裸体で伸びか.....昨夜はお楽しみし過ぎて寝坊ってことですか....変わらず爛れてい…
[良い点] 2巻発売決定おめでとうございます! 早速今から楽しみです。 [一言] 私の心は汚れているようだ…いや、これはベリー=アルガン(邪教徒)のせいだ(断定) それはそうと、神様の使用人であろうと…
感想一覧
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