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日常流転

「おのれ、この恨み決して忘れるものか……!」


ラヌ=カルードは激昂と共に地面を叩く。

ウルフェネイト南、カルビャス山脈の山中に逃げ込んだ彼等の数はもはや千を切っていた。

殺され、あるいは逃亡して捕虜となり、もしくはラヌ=カルードの手によって殺された。


どこか優しげに見える細い目は見開かれ、血走っている。

彼に声を掛けるものはおらず、誰もがその怒りを買わぬよう必死だった。


エルスレンは敗れた。

降伏を求める追っ手の声を無視していたが、平野のあちこちに展開する敵軍の様子を見るにそれは事実であろう。

替え馬も捨て、彼等が目指したのは山中。

これだけ数が減れば山の実りで多少の飢えをしのぐことも不可能ではなく、そしてエルスレンが敗れたのであれば急ぐ必要も存在しない。

それでも不慣れな山は過酷であった。


弓の達者な彼等であれば狩りを行うことは容易であったが、逃げている状況、煙などあげればすぐに見つかる。

かと言って生の肉も食えはしない。

岩の上、日光で作った薄い干し肉を作る程度であった。

当然千人の飢えをしのぐことは不可能で、となれば果実や山菜が主体となる。


彼等がアルベランやエルデラントに住み、山と共に暮らす人間であったならそれも容易なことであっただろう。

カルビャス山脈には多くの実りがあった。

だが、山の実りには毒が紛れる。

彼等には知識がなかったし、となれば試す他ない。


力の弱いものが対象となり、初見の果実や山菜を喰らう。

それで死ぬ者が何人も出たが、ラヌは一切の躊躇もしなかった。

誰もが肉体的にも精神的にも疲弊していた。


降伏を進言したものは舌を切り取られ、猿ぐつわを噛まされて皮を剥がれた。

そうでなくとも、彼の気に障る発言をしたものは殺された。


飢えと疲労は日に日に彼等を蝕む。

せめて千人をいくつかの小集団に分ければもう少しマシであっただろう。

しかし裏切りを警戒するラヌは彼等を一纏めに掌握した。


「そろそろ村に人間が戻っていてもおかしくはない。明日は平地に降りるぞ」


ラヌは言って、木に背中を預けるように目を閉じた。

彼にあるのはこの屈辱を与えたアルベランへの憎悪であった。

この状況に至ってなお、ラヌはその怒りを吐き出そうとしていた。


彼の小さないびきが聞こえだし、その場にいた男達はふと、顔を見合わせた。

誰とも言わず、何も言わず。

皆、どこか緊張した様子で視線を交わす。


内の一人が肩に担いでいた弓を手に持った。

――ここに、食べられる獣はいない。


誰もが体を強ばらせ、けれど声を上げるものも、ラヌを起こそうとするものもいなかった。

弓を手に持った男は僅かに震えながら、一人一人を見た。

懇願するようだった。


言葉のない声に、周囲の男も弓を肩から手に持った。

その男達の手も、唇も震えていた。

――ここにある獣は彼等にとって、どんな獣より恐ろしい獣だった。


矢筒から静かに矢を引き抜き。

それを番えてもなお震えは消えない。

気付けば、数十の男達がそうして矢を構えていた。


そして、ぴゅん、と。


「な、っ!?」


矢を放ったのではない。震えた指先が、押さえていた矢を離しただけ。

それは命中することなく『獣』の真横を。

そして獣は飛び起きた。


声もなく、合図もなかった。

悲鳴のような声と共に、罰を恐れて一斉に、手に持つ矢を放っただけだ。


「ぁが……っ!?」


彼等にとっては八歳の頃から親しんできた弓――誰もが人並み外れた弓達者であったが、数十の矢の内突き刺さったのは数本だけ。

それでもまだ動いているのを見て、狙いも大してつけず、恐怖のまま弓を引いた。

放たれた矢が百を超え、二百を超え、三百に至る前。


もういい、と誰かが言った。

気付けば、針山のような獣の死体が目の前にあった。

あるものは膝をつき、口元を押さえ、吐き出されるのは安堵であった。

騒ぎを聞いて駆け付けたラヌの側近は、その光景を見て目を見開き。


「……大族長、ラヌ=カルードは戦死された。以降、私が後任となり、指揮を執る」


感情のない、極めて合理的な軍人としての言葉を吐き出す。

そして彼はこれ以上の抵抗は状況的に不可能であると告げ、隊の方針を降伏と定めた。

拒否するものはおらず彼等は翌日山を降り、アルベラン軍に青旗を掲げた。


見事な決断。我々の戦はこれで終わり、同じ軍人として君たちの権利を保障する。

そう告げられ、与えられた温かい食事に多くの者は涙した。

少なくともその時の彼等が欲していたのは、殺されないという安心であったから。









――アルベリネアの王都凱旋、その熱狂は凄まじいものがあった。

王都の大道、群衆が作る花道。

そこには四列で隊列を組む兵士達が連なって歩き、その先頭集団には翠虎の上にちょこんと座った銀の髪。

黒い外套とワンピースを着込んだクリシェであった。

歓声に対して迷惑そうに唇を尖らせる少女の周囲を固めるは黒塗り鎧。

黒地に髑髏と月の描かれた隊旗を無数に掲げ、彼等は行進する。


こちらの死者一万に対し、敵軍死者は二十万。

アルベリネアは三大国との決戦、その全てに参戦し圧勝。

手ずから討ち取った将軍首は五つであり――その内二つは大将首。

その他軍団長相当の首級は両手に余るほど。


素人であってもこの功績を理解出来ぬものはいないだろう。

内戦の活躍に関してはそのあまりの成果に疑うものはあったが、これは二度目となる。

その上先日の古竜騒動。


――彼女こそは、天より与えられた王国の剣、アルベリネア。

ここに至ってはもはや、彼女の能力を疑うものなど一人もなかった。

八尺二丈の翠虎の勇壮さ、そして彼女の優美な姿。

雲間から抜ける陽光が彼女を浮かび上がらせるようで、降り注ぐ花弁のシャワーも相まって、見るものからは感嘆の吐息。


周囲にある黒塗り鎧――平民出身者で構成されたという黒旗特務中隊はこの栄光の道に不釣り合いに見えたが、しかしそれがかえって良かった。

アルベリネアは高貴なる貴族だけを重用するのではなく、彼等平民と轡を並べ、共に戦っていたのだ。

民衆保護に尽力した女王クレシェンタの方針といい、二人の姫君のそうした姿は民衆の受けが非常に良かった。


階級ではなく能力を。

民衆の学びの場を作り、保護のため国庫の財を吐き出すクレシェンタ。

そして平民と共に血と汗を流し、国を守ったクリシェ。

彼女らはまさに民衆の求める指導者、高貴なる貴族の姿そのものであり、この熱狂の理由はそこにある。


彼女らの背後に続くのは巨大な翼、肩高五尺のグリフィン。

クレィシャラナの獅子鷲騎兵であった。

毛皮姿の彼等の姿も相変わらず、しかし王国のため長年敵対していた彼等が手を貸し、尽力したことは王都に広まっていた。

彼等にも当然ながら、黒旗特務中隊に対するそれと変わらぬ賛辞が送られる。

美青年というべき戦士長、ヴィンスリールをはじめ、彼等の鍛え上げられた肉体美に目を奪われる女性の声が強く響く。

粗野な蛮族という見方は今日この日に限っては存在せず、誰もがただ勝利に浮かれ酔っていた。


彼等の背後にエルーガ、そしてガーレンが続き、コルキスを初めとした軍団長が。

王国旗と共に、掲げられるは雷と鷹、クリシュタンドの旗である。

内戦で一人の英雄を失った。

しかし迅雷の名は今なお、王国から失われていない。

それを示すには十分だろう。

アルベリネアが彼等を率いて戦ったことを誰もが知っている。

三戦全てに大勝、当然ながらそれはアルベリネアの独力では決してない。

この勝利はやはりクリシュタンドの名と共にあった。


先頭はそのまま王領前の城門へ。

凱旋を迎えるのは幼く美しい女王クレシェンタ。

赤に煌めく優美な髪を揺らし、恭しく、両手を揃えて深く頭を下げる。

王族――それも国の頂点にありながら、頭を下げること厭わず。

そんな女王を見ると翠虎を飛び降り、アルベリネアはその小さな頭を撫でた。


少し恥ずかしそうな様子で、困り顔を浮かべた女王の姿に動揺の声。

少しして周囲に安堵するような笑い声が響き、そののどかな光景は人々の心に平和が訪れたことを実感させた。


開戦から僅か二ヶ月。

絶望的に思えた三大国の同時侵攻。

そこからの圧勝劇は誰もが予想していない事態であった。

その喜びは狂気に似て、この日は王都に夜が訪れることはなく。


夜が明けるまで笑い騒ぐ声が王都を満たした。








戦の顛末についての報告は終わり、夜は宴。

バルコニー、少女の前に置かれたのはテーブルを埋め尽くす料理達。


例の如く食事を抜かれて行われたドレス論争によって決定した薄青のドレスは、胸元の上と背中を大きく切り込まれた、大胆ながらも清楚さを保つ優美なドレス。

長い銀の髪を結い上げ、髪飾りとネックレス、腕輪を着けた少女の美しさはまさに天上の姫君と言った様子であったが、その頭にあるのはほとんどが食欲であった。


両手を頬に当てふりふりと、実に上機嫌に赤毛の使用人に身を擦り寄らせ、豪奢な食事に舌鼓を打つ。

立食で座れず、少し冷めているなどいくらか不満であるものの、贅を凝らして作られた食事は実に美味。

肉やスープはいつもに比べれば少量で、ケーキなどのデザートが中心であった。


「えへへ、美味しいですか?」

「はい。クリシェ様、お気になさらず……もう少しスープを持って来ましょうか?」

「クリシェ、ベリーとおんなじの食べて美味しいって言いたいです」


甘さと酸っぱさ――クレシェンタはクリシェのいない間、塩気を解析してくれてはいたが、舌への施術は行っていない。

デザートを中心としたのはその辺りが理由であった。


「……まぁ。ふふ、クリームがついてますよ」

「あ……」


口の側についたクリームを指先で拭って舐めて、その甘味に目を細める。

気にせず食べて欲しい、と思う気持ちがあって、けれどそんな心遣いを喜ぶ気持ちもあって、ベリーも何とも言えない気分であった。


バルコニーはいつもながら人気が少ないが、対面の端にいくらか見知った顔もあった。

エルーガとガーレン、そしてコルキス――そして数人の大隊長が酒を飲み、笑いあっている。

元々はエルーガとガーレンの二人が静かに飲む席であったが、コルキスが来てからそちらは少し騒がしく、こちらを見たエルーガは苦笑しながら軽く頭を下げる。


ベーギル達や他の貴族も挨拶に一度来たが、今となっては元帥に次ぐ武官。

食事をしたいクリシェの露骨な雰囲気を感じ取ると笑いながら去っていった。


夕暮れに小雨が降ったからか、今日の夜は空気が澄んでいる。

夜空の星月は輝きを増したようで、今日という日を祝福するかのようだった。


「……えへへ」

「……?」

「クリシェ、一ヶ月くらいお休みにするので、しばらく一日中一緒です」

「はい。ふふ、三回目ですね」


同じ言葉をこれで三回。

甘いジュースに僅かながら酒が入っていたせいだろう。

腕を取る体は温かく、頬も赤く。

酒に弱いのはクリシェの唯一と言っていい弱点であった。

場の雰囲気に流されて、ちびちびと口にして、次第に同じことばかり繰り返し。

悪い酒ではないのは美点でもあった。

酒精の入ったクリシェは大体上機嫌。


温かい頬に手を添えて、親指で柔らかい唇をなぞり。


「……ちょっと、所構わずいちゃつくのはやめてくださる? 使用人さん」


呆れたような声が掛かる。

凜とした声、クリシェとは対照的な真紅のドレスを身に纏ったセレネであった。

はっきりとした色合いのドレスは場合によって着る者が浮くものだが、セレネにはどこまでもそのような色合いのドレスが似合っている。

クリシェと同じく結い上げた髪、その飾りを弄びながら嘆息する。

側にいるのはアーネとアレハであった。


「い、イチャついてる訳では……」

「どこからどう見てもそうよ。クリシェ、アレハが少し話したいそうよ。あなたたちの空気に割って入れなかったそうで」


ベリーはうっすらと頬を染め、アレハは苦笑し首を振る。


「……お話と言うほどでは。少しお礼を」

「お礼?」

「ええ。……私を拾ってくださったことに、改めてお礼を、と」


アレハは敬礼ではなく、深く頭を下げた。

黒い質素な軍服が良く似合っている。

貴族らしい優美な一礼だった。


「ん……アレハはそれなりに頑張ってくれたのでお礼はいいですよ。クリシェの軍団長にするのも予定通り、これからも頑張ってくれればそれで良いです」


アルベリネア直轄軍、その第四軍団長になることが内々で既に決まっていた。

戦場でも戦果を挙げている上、エルスレン戦でも黒旗特務の副官として。

コルキスからも随分と気に入られている。

将軍ではなく軍団長――そして中央軍アルベリネアの指揮下となれば、それほど大きな問題視もされなかった。

禊ぎを果たした、という見方も大きい。


貴族の世界において裏切りは厳しい目で見られるものだが、それは戦場においての裏切り。

破門され国を追い出された経緯、そしてかつての同胞となるエルスレン戦でも最前線で戦い抜いたとなれば、大きな問題もなかった。


「はい。これからは一層、クリシェ様のお力になれるよう努力致し――」

「――アレハ! そちらは姫君達の席だぞ、お前はこっちだ!」


反対側からコルキスがワイン瓶を片手に大きな動作で手招きする。

アレハは苦笑しながら手で応じ、クリシェに敬礼すると失礼しますと去っていく。


「にゃんにゃんはうるさい人ですね、もう」

「まぁいいじゃない、仲が良いのは素敵なことよ」


コルキスのうるさい声に頬を膨らませ、セレネはそんなクリシェの頬をつつく。

ぷひゅー、と間抜けな音が響いて、セレネは楽しげにクリシェの体を背中から抱いた。


「よーやく終わり、わたしも肩の荷が降りた気分だわ。……クリシェ、何か欲しいものある?」

「欲しいもの……」

「そ、ご褒美に何かプレゼントでもしてあげようかと思って」


クリシェはセレネに抱かれつつ、人差し指で唇を押さえて考え込み。

それからベリーの方を見た。


「あ、あの……?」


つま先から頭の上まで、まじまじと見つめ、それから微笑んだ。


「じゃあ、その……ベリーみたいなエプロンドレスが欲しいです」

「……あなたね」


欲のないクリシェを見て呆れたように言いながら。

何を想像したか、顔を赤くしたベリーの額を指でつついた。


「……何想像してるの」

「うぅ……」

「プレゼントにベリーが欲しいなんて言うんじゃないかとか思ったんでしょう。お馬鹿、変態」

「ち、違……」


アーネはそのやりとりをなんとも興味深そうに黙って見守り。

その話を聞いたクリシェは微笑み首を振り。


「えへへ、クリシェがベリーのなの――むぐっ」

「その言葉はもう何十回も聞いた気がするから言わなくていいわ」


セレネは少女の口を手で押さえた。


「……、なんだか楽しそうですわね」


そしてそこに現れたのは、優美な白のドレスを着込んだ姫君。

エルヴェナを伴ったクレシェンタであった。

顔にはあからさまに不機嫌です、と書いてある。

貴族とのお喋りはクレシェンタの仕事とばかりに放置され、僅かにその頬は膨らみ、紫の瞳で三人を睨み付けていた。


「セレネ様、あなたの方が終わったならまずわたくしを連れ出しに来るべきですわ」

「嫌よ、わたしだってうんざりだったんだから……」


クレシェンタは主に文官、セレネは武官。

流石に国の第一位と二位だけあって、彼女らとの会話を求めるものはすこぶる多い。

挨拶程度で少し話すだけでも、この場には百人を超える人間がいるのだ。

全員と挨拶をするだけでも疲労は溜まる。

セレネは年々異様なまでに長くなっていく挨拶にうんざりであった。

『クリシュタンドご令嬢』の頃でも多かったが、今はそれ以上である。


クレシェンタの方はもうしばらく続きそうだと、セレネは彼女を囮に引き上げてきたのだが、クレシェンタはこちらに三人で固まっているのを見て我慢出来なくなったのだろう。

やや強引にこちらへ抜けてきたらしかった。


「申し訳ありません、女王陛下。わたしがもう少し上手く……」

「気にしなくていいですわ。慣れていないにしては中々ですもの」


エルヴェナが申し訳なさそうに言って、クレシェンタは首を振る。


主人が真っ向から会話を切り上げるというのはやや失礼。

大抵相手は話を長引かせようとするもの、それを切って捨てることは出来ない。

こういう場での使用人の役目は、それとなく主人に声を掛け、会話を切り上げさせること。

主人には他にも用件があり忙しい、そういう空気を作り出すのが使用人の役目であった。

会話の途中で一言呼ぶだけで、主人は会話を切り上げる切っ掛けを手に入れる。


呼ばれた主人は、もう少しお話をしたかったところですけれど、などと理由をそこに向けさせることで会話を切り上げるし、相手も相手でそうした建前を理解している。

申し訳ありません、お時間を取らせてしまいました、などと、そうして定型文のようなやりとりが行える。

向こうにしてみても顔と名前を覚えてもらうだけで十分。

名を名乗り、顔を見せ、ほんの少し印象づければそれで良く、無理を言って引き留めるのは『はしたない』行為。

そうした声かけを無礼と捉えるものはいない。


エルヴェナのそれはクレシェンタの理想から言えば1テンポ遅い声掛けではあったが、平均して7テンポ遅いアーネと比較するに良好、悪くない。

単に三人とものんびりバルコニーで過ごしているのに自分だけ仕事、という状況が気に食わなかっただけである。

事務処理や政務に関しては人の数倍以上早いクレシェンタであるが、こうした挨拶というのは時間が掛かる上実入りもなく、結果も出ないため面白味など欠片もない。

そもそもからして、王宮に出入りする人間全ての経歴を丸暗記しているクレシェンタには不要な作業――無駄であった。


そんな無駄なことをさせられているクレシェンタを放置し、楽しげな三人。

決して許せることではなく、クレシェンタの頬は不機嫌を示すようぷりぷりと膨らみ、


「はい、クレシェンタ」


しかしふと、その口元にケーキを差し出された。

クレシェンタは硬直し、周囲の視線へと気を配り、フォークを咥える。

彼女は女王――王家の一。

逃げることなどは知らぬ、高貴なる存在であり、全てを真っ向から受け止める度量の持ち主であった。


もぐもぐと咀嚼し、飲み込み。

再び姉のフォークから差し出されるケーキ。


「あーん」

「ん……えへへ、美味しいですわ……」


不機嫌極まりないクレシェンタ。

しかしその怒りは僅か二ケーキで鎮圧。


彼女はどこまでも欲望に弱い女であった。

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作者X(旧Twitter)

  2024年11月20日、第二巻発売決定! 
表紙絵
― 新着の感想 ―
へいわだ!!!!
ああ、こういう部隊もいるよなあ………。 そして、殺されてしまうのは、まあ仕方が無い。 食事をしたいクリシェの露骨な雰囲気 > おお、空気の読める男! ………読んでるよね?
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