お掃除
街路のほとんどがバゥムジェ=イラの爆発に巻き込まれ、『挽肉』が散乱していた。
ネイガルは手に持った魔水晶を明滅させ、ジャレィア=ガシェアに指示を出す。
生き残りを殺すためであった。
『――という訳で予定通り。門を開けさせたら中に誘い込んで一網打尽ですね。ぼんじゃらでぼーんとなるべく沢山始末して、その後は間髪入れずじゃらがしゃで轢き殺します。クリシェから見えるところでぺらぺらお喋りしてたので、クリシェを騙す気かともちょっと考えましたが……敵軍の動きを見る限りその様子はないでしょう』
帝国軍は初日の夜は城壁を攻めながら翌日以降の侵攻準備。
敵軍に時間的猶予はそれほどない。
元々、二日目ないし三日目の夜には大きな攻撃があると読んでいたという。
その上で遠目から敵軍団長の唇の動きで話を『聞き』、クリシェは北区画での誘引撃滅決行をこの日に決めた。
『敵を壊乱させた後は適当に任せて門から外に。わんわんが西の方から表の残りを始末しに来ますから、そっちのお手伝いですね。長引いても一刻で切り上げてじゃらがしゃはお休み。あなたたちは戻ってお掃除と修理です。外は一万程度ですし、適当で構いません』
塔の上――高台からネイガルは全てを眺める。
喉は渇ききっていた。
つまめる程度の小さな魔水晶から作られたバゥムジェ=イラですら、ガルシャーンの戦列を崩壊させたのだ。
拳大の魔水晶ではどれほどか――想像を容易く超えている。
家屋数軒を吹き飛ばし、周囲の数十名を跡形もなく消し飛ばし。
もはやそれは、単なる兵器の威力を超えていた。
広場や十字路に設置された大型バゥムジェ=イラは無数の青い閃光を天へと迸らせ、残ったのは血と破片。
声を張り上げ指揮を執っていた大隊長も百人隊長も、今や物言わぬ肉塊であった。
生き残った兵士達も呆然と、周囲を見渡していた。
八尺の鉄巨人――ジャレィア=ガシェアはそんな兵士達に迫ると、無慈悲に刃を振り抜く。
肉が弾けるように生き残りが肉塊に変わる。
悲鳴だけが響いていた。遠慮も躊躇もない。
ジャレィア=ガシェアはそういう存在だった。
視界に映った敵をただ殺す。その戦意を問うことはない。
命じたのは他ならぬネイガルであった。
バゥムジェ=イラを設置しながら、この位置が良い、あの位置が良いと、クリシェから細部を任され自分が細かい指示を出していたことも思い出す。
相手にどれだけの損害を与えるか、それだけを考えていた。
起きた結果は必然だろう。大戦果、良くやったと自分を褒めてもいい。
だが、知らず足も手も震えていた。
腹の内からせり上がってきた吐き気を堪えるように、一瞬俯き口に手を当てる。
「……大丈夫か?」
同行していた選別班長ダズが、右手でネイガルの肩を叩いた。
「ええ。……大丈夫です」
ネイガルは頷く。
ダズは眼下を見下ろしながら言った。
「自分を責めるなネイガル。お前が殺したのは、俺達と俺達の仲間、そして故郷の家族を殺しに来た相手だ。自分が誰かを守ったことをまず誇れ」
「……はい」
「お前は班長――今は一兵士じゃなく、部下を指揮する立場の人間だ。毅然としていろ。お前もお前の部下達も正しいことをやっていると、この場では誰よりお前が態度で示さなければいけない」
ダズは男らしい強面に、笑みを浮かべる。
「終わったら酒に付き合ってやる。言いたいことはそこまで我慢しろ。ぴりりん班長なんかにさせられた俺の方が色々愚痴は多いからな。嫌と言っても付き合わせるぞ」
ネイガルは苦笑して、再び頷く。
「……そうしましょう。戦場で悔いている時間はない」
「その通りだ。ありがたくも俺が今お前の補佐をしてやってるんだ。泣き言をほざくようなら尻を蹴り飛ばすぞ」
「……、はい」
「特に俺達はクリシェ様にこき使われるのが役目……これまでも、これからも。お前が説教されるなら俺も巻き添えを食らうんだぞ? やるべきことを黙ってやれ」
笑いながらダズは左の義手で拳を作り。
ネイガルも同じく左の義手を。
そして拳を合わせると、硬質な音が静かに響いた。
ネイガルは視線を前に。
ジャレィア=ガシェアが敵を轢き殺す中、戦場を翠虎に乗ったアルベリネアが縦横無尽に駆けていた。
ウルフェネイト北区画の大道。
「――将軍! お体は!?」
エルスレン神聖帝国将軍、アーレ=ケインクルスはゆっくりと起き上がる。
耳が痺れるように、呼びかけられる声がどこか遠くで聞こえていた。
「問題ない、何があった……?」
自分の声すら遠い。
全身が痛む。
そのまま意識を失ってしまいたかった。
「わかりません、突如爆発が……」
アーレは周囲を見渡した。
護衛の兵士、そのほとんどが死んでいた。
手足が千切れ飛び――もはやそれが人であったとは思えぬほどの有様であった。
彼が乗っていた馬も頭部がなく、どうにも自分が無事であったのは鎧のおかげだろう。
金属甲冑に鉄片が突き刺さり、優美な彫刻のあちこちが歪んでいる。
「無事なのは、お前だけか?」
「……どうやら。ひとまずここから退避しましょう。味方の所まで」
「っ、わかった」
転がった衝撃か、左腕から肩が痛む。
足首も捻ったか、骨にヒビが入っていた。
ふらつくとすぐさま肩を担がれる。
「……名は?」
「は、バド=キータスです、将軍」
「キータス、後で褒美を期待せよ。私は恩を忘れぬ」
「……ありがたきお言葉。よろしければ背中へ」
バドは前に屈み、悪い、と一言告げるとその背中に身を預けた。
アーレの体を背中に担ぐと、すぐさまバドは走り出す。
街路は死体が散らばっていた。
「……我らをここに誘い入れたのは、アルベリネアの罠、か。谷底に叩き落とされた気分だ。……掌で踊らされていたとは」
「予想出来るものはおりません。このような……」
少なくとも、これまでにない兵器の存在があった。
この様子では二万に近い軍が壊滅状態だろう。
「っ……!?」
悲鳴が後方――東区画の方から響いた。
逃げ惑う負傷兵を切り裂くのは、黒塗り鎧の巨人。
すぐさま路地に入り、別の道へ。
「……なんだ、あれは」
「わかりません、恐らくはアルベランの新兵器か……あるいは、アルベリネアの」
バドは答えた。
これまで、ノーザン=ヴェルライヒとの戦いに異常はなかった。
極めて優秀な将軍ではある。だが、少なくとも戦争をやっていた。
しかしアルベリネア――クリシェ=クリシュタンドが現れてから、この戦いは全てがおかしくなっている。
「……アルベリネア」
「……以前にも、どんな手段を使ったか。奴は小部隊を伴い気配もなく現れ、私のいた山中指揮所を一息に壊滅させました。副将と副将補佐の首を容易く奪って。あの時も命からがら逃げだし……これで、二度目」
クリシュタンドとサルシェンカの戦い。
その勝敗を決定づけたのは、間違いなくあの少女であった。
今回も投槍如きで投石機を呆気なく破壊し、戦略構想そのものを破綻させている。
「あれは、常識を外れています」
アルベリネアがガルシャーンを打ち破った。
伝わる噂を聞けば、さもありなんとも思えた。
クリシェ=クリシュタンドは単なる超人的な戦士ではなく、それ以上の存在に違いない。
――異物なのだった
「……以前はサルシェンカの軍か?」
「ええ。そこで伝令を……」
「そう、か……」
アーレは少し苦しげに笑う。
「才覚に溢れたあの男を、正直妬んでいた。あの敗北も、サルシェンカが間抜けをしでかしたと喜んでいたからな。だが……己も同じ轍を踏むことになるとは」
「…………」
「あのサルシェンカを破ったクリシュタンドを、どうにか出し抜きたかった。相手はクリシュタンド一の部下、ノーザン=ヴェルライヒとアルベリネア……不足はない。自分の事を家柄だけの無能とよく知っているが、しかし部下には恵まれた。状況は優位であったし、やってやれなくはないと……だがその挙げ句がこれとは」
バドは何も口にできず、アーレは首を振る。
「……私の無能で多くの優秀な兵達を殺した。これ以上は増やしたくない。すまないがしばらく協力してくれ。私ではなく、兵達のために」
「……は。もちろんです将軍」
バドは力強く答えた。
お飾りの将軍――お坊ちゃま。
侮られ馬鹿にされていることは知っていたし、その通りだとも思ってはいた。
とはいえ、彼は確かに貴族であった。
「私は将軍のため、全力を尽くしましょう」
「……ありがとう」
全身甲冑を着込んだ男を一人。
いかに魔力を扱えるとは言っても、バドの足には負担があった。
だがそれに構わず、しっかりとその両足を抱えて走り続ける。
背中にあるのは少なくとも、そうして救うべき価値ある将軍に違いなく。
「っ、レーカリシュ軍団長!」
「ぐ……将軍はご無事か?」
「……、ええ」
少し進めば見えたのは軍団長、オルカナ=レーカリシュ。
左腕を失っていた。
周囲に飛び散った肉塊を見れば、それも奇跡的な生存であったのだろう。
「レーカリシュ、ミルコースはどこに?」
「……多分、この辺りです」
アーレの問いに顔を歪めながら答え、オルカナは周囲の肉塊を手で示した。
周囲の壁も、石畳も、全てが斑に赤く染まっていた。
「折角酒を飲む約束をしてたってのに……馬鹿野郎、くそったれめ!!」
痛みを紛らわすように、怒りを吐き出すようにオルカナは壁を叩いて陥没させる。
アーレはバドの背中に担がれながら冷静に告げる。
「……、悔やむのは後だ。撤退する」
「撤退? 早すぎる! どれだけ死んだかは知らねぇが、2万が全部が死んだ訳でもないでしょう、外の奴らを入れて城壁を完全に確保するべきです!!」
「無理だ。得体の知れない巨人をあちらは使っている。……我々の突破を読み、その上で対策を取ったのだ。十分な構えがあると見なす。これ以上は泥沼の死地でしかない」
「しかし……!」
「命令だレーカリシュ!! 結論は変わらん。この判断が誤りであったならば私はこの首をくれてやる! 後で然るべき場所へ報告するが良い!」
オルカナは面食らったように目を見開き。
それから深いため息をついた。
「……了解。従いましょ――避けろ!!」
オルカナは叫び、バドは咄嗟に跳躍。
民家の屋根に飛び移る。
同じくオルカナも対面の屋根に――通り抜けたのは翠の巨体であった。
「お前は将軍を連れて逃げろ!! 俺が時間を稼ぐ!!」
「っ、は!」
「待て、レーカリシュ!!」
「将軍が情けない声を出すな! 構わず行け!!」
オルカナは腰から剣を引き抜き、構える方向には翠虎と、それに乗った銀の髪。
黒き外套――美貌に浮かぶは凍り付くような紫の瞳。
クリシェ=クリシュタンドであった。
矢筒を背中に短弓を――その紫の瞳は一瞬、バドを見た。
蛇か何かのように、どこか無機質な光。
「っ……」
いつぞやの記憶が思い出され、悲鳴が喉を通りかけ。
バドはすぐさま走り出した。
一拍遅れて、屋根を崩壊させる音が背後から響き、オルカナの苦悶の声――すぐさま翠虎がこちらに方向を変えたのを感じ取る。
翠虎の巨体が通れぬ路地を選び、姿勢を低く。
正真正銘の全力だった。
翠虎の速度――足は速いがあの重量、小回りでは必ず勝てる。
急制動、路地を鋭角に曲がると翠虎が頭上を越えていく。
「っ、……」
「お許しを! 今は余裕がありません!」
狭い道――どこかに体をぶつけたのだろう。
くぐもった声が聞こえ、しかし構わず。
家の木窓を蹴破り中へ飛び込み、路地から路地へ。
足の骨が疲労で折れそうになりながらも走り、城壁の側まで。
全力で壁を蹴り、屋根に上がり、城壁を越えて。
困惑する兵士達に構わず、城壁の外へと飛び出した。
高さは二十五尺――衝撃に耐えきれず転倒し、転がり。
「将軍っ! ご無事で――……」
それでもバドはすぐさま立ち上がった。
しかし、アーレに目をやり硬直する。
アーレの兜、その後頭部から伸びていたのは矢羽根。
「ぁ……」
既に彼は息をしておらず。
その開いた口から鏃が覗いていた。
指揮統制の失われた軍はもはや軍ではなく。
街路で区切られ遮蔽物の多い街中では、一度乱れたそれを立て直すことも難しい。
「逃げるな! 指揮官を失ったものはひとまずここに集え!!」
その中でも状況を把握し、冷静さを保つものは確かに存在していた。
運良く爆発から逃れた貴族出身者はその身体能力を用いて屋根の上に。
そこから見渡せる周囲の兵に対して呼びかける。
「私はゴルン=アルマースト、第三軍団第二大隊所属の百人隊長だ! 大隊長、副官戦死による統制崩壊と見なし、状況が落ち着くまでこの場の指揮を代行する!! 班長は挙手し、近くまで来い! ローカン百人隊長、協力を!」
「っ、は!」
呼ばれた百人隊長は思わず敬礼し、混乱から立ち直る。
このような状況こそ、新たな英雄の生まれる瞬間と言えるだろう。
通常百人を指揮する百人隊長――しかし上官の死により、彼は一時的に数百人の兵士をまとめ、掌握する。
この場を上々にしのげば、そのまま大隊長へと繰り上がることも少なくない。
窮地はある意味、彼等にとっては出世のチャンスでもあった。
家柄もなく、金もなく。
才覚を持ちながらも手柄を挙げる機会もなく、そんな者達が台頭する瞬間。
政治と階級社会によって硬直した軍部を一新させるのは彼等のような存在であった。
ボーガンやアレハがそうであったように、青年ゴルン=アルマーストはこの窮地に覚醒する。
いずれ神聖帝国でも名の知れた将になるだろう。
屋根の上から声を張り上げる彼の姿には夜闇にも関わらず光輝が宿る。
兵士達はその姿に極度の混乱から立ち直りはじめ、この場一帯の視線を彼は掌握。
「班が残っているものはそのまま、それ以外のものは兵員を組み込み臨時の班を作れ。責任は全て私が取――げぅ、っ?」
そしてそんな彼の首を無慈悲に、丸太のような腕がへし折った。
輝ける青年は転がるように屋根の下へ。
月明かりに影絵の如く。
代わりに屋根から彼等を見下ろすのは獣の巨体。
八尺二丈の怪物翠虎と、銀の髪の少女であった。
誰もが硬直する中、音楽でも奏でるように弦の音が響き、百人隊長を射抜き、兵長を射抜き、班長達をあっさりと殺し。
小さな壺のようなものを三つ放り投げると去っていく。
それらは一瞬光り輝き、爆発し。
その場にあった兵士達を呆気なく吹き飛ばし、殺傷した。
再び、統制は崩壊する。
次いで翠虎は城壁の上に。
幅一丈の狭い空間は既に帝国兵達で埋まっていた。
混乱する敵兵を数人射殺し槍を奪うと、少女は翠虎から飛び降りて彼等の真横から槍を放つ。
大型投石機すらを一里の先から砕く槍。
その威力――槍の一投はただそれだけで、兵士達を夥しい肉塊へと変える。
「ぐるるん、直進です」
それから間髪入れず翠虎に跳び乗り、首の後ろをぺちぺちと叩き。
応じるように翠虎は城壁の上を『真っ直ぐ』駆けた。
槍で空いた穴に飛び込むように。
それは雑巾で窓枠の埃を拭うようなものだった。
八尺二丈の巨体、馬などとは比べものにならぬ重量と速度。
高々一丈の幅をその巨体が猛進すれば、彼等に抵抗も何もなかった。
その体に弾き飛ばされ、あるいは当たる前から飛び降り、城壁の上から兵士は消える。
高さ25尺――仮に生き残った所で、もはや戦闘続行は不可能であった。
塔を飛び越えては同じことを繰り返し、城壁の上から千に近い敵兵を一掃するには僅かな時間。
仕事を終えると時計台の上に飛び乗り、周囲の状況を眺めて紫色の瞳を細めた。
「ん……悪くないですね」
入ってきた敵軍はほぼ壊乱。
将軍一人と軍団長二人は仕留めた。
後は他の兵士達に任せれば良い。
胸元の小袋からキャンディを一つ口に入れて転がし、頬を緩める。
ぼんじゃらの在庫を大量消費したものの、これで兵力損失なく2万は殺せるだろう。
じゃらがしゃは敵兵を門に追い詰め――門は渋滞、完全に団子になっていた。
工作班の兵士達はそこに上から手投げぼんじゃらを放り投げ、爆発音。
血肉が弾け飛んで悲鳴が上がる。
敵が密集すればするほどにぼんじゃらの威力は高まった。
じゃらがしゃが両腕、巨剣を振り回しその蠢く固まりを肉に変え、悲鳴ばかりが夜空に響く。
誘い込んで一網打尽。成果は上々。
飴玉を転がしながら足を揺らして、ぐるるんの横腹を叩く。
ぐるるぅ、とどこか楽しげにぐるるんは唸り、クリシェはその頭の後ろを手甲で掻くように撫でた。
憐れみもなければ慈悲もない。
元々クリシェには備わっていないものだった。
小さな欠伸を漏らして、ぐるるんの背中にもたれ掛かるようにして横になる。
少し汚れてしまったのが問題だろう。
ぐるるんの体には至る所に血が付いて、それがクリシェにも付着する。
僅かに唇を尖らせつつ、再び欠伸。
「勝手に飛んで敵を殺してくれるようなぼんじゃらも欲しいですね。後は仕掛けておいたら勝手に爆発してくれるぼんじゃらだとか……」
やはり現状はどうにも効率が悪いと考えて、ぐるるんの毛を指で弄んだ。
クリシェが戦場に考えるのは手柄や栄誉ではなく、効率だけだった。
こちらの損失はゼロ、その上で相手だけを皆殺しに。
求めるのは火力と、相手が戦う気などなくなるほどの圧倒的な勝利。
兵器の量産体制が整えば、いずれそうなってくるだろう。
とはいえ、足りなくなる鉄についても考えなければいけないし、技術者の育成や防諜についても考えなくてはならない。
戦争が終わってもやることは山ほどあって、考えると少しうんざりする。
終わったら一ヶ月くらいはお休みにしようと考えながら、むにむにと唇を動かす。
「クリシェ様」
時計台に登ってきたのはダズであった。
クリシェがそちらに目をやると、ダズは戸惑うように告げる。
「大丈夫ですか? お体の具合が……」
「……眠たいです」
「ああ……」
ぐるるんにもたれ掛かるクリシェの姿。
疲労しているのではないかと感じたのだろう。
その言葉にダズは安堵を見せ、続ける。
「先ほどヴァーカス軍団長が西から出たようです。ジャレ――」
「…………」
「じゃ、じゃらがしゃをそろそろ外に出す準備に入らせようかとネイガルは考えているようですが……」
クリシェはやや不機嫌そうにダズを睨みつつ
言い直したことに満足したのか静かに頷く。
「そうですね。ぱぱっと終わらせてしまいましょう」
言いながら敵の投石機に目をやって、それから眼下の死体を眺め。
「敵の投石機を鹵獲しておきたいです。夜ですしこの状況、中央に張り付いている敵の増援もないでしょう。そのつもりで行動するようにと伝えてください」
「投石機……」
「はい。捕虜も結構出そうですし、それを労働力として使いましょう。投石機はお掃除にも有用です」
疑問を浮かべるダズを見て、クリシェは微笑んだ。
「士気低下を兼ねたゴミ捨てみたいな感じですね。ほら、街の中も随分汚れてしまいましたし」





