月鏡
「くそ、あいつら正気か? まさか全軍をここに向けてるんじゃねぇだろうな」
巨剣で敵兵を斬り殺しながらレドは悪態をつく。
苛烈なる敵の攻撃は止むことがなかった。
単なる嫌がらせではなく、敵は本気でこの中央を狙ってきている。
森を抜けて目にしたのは、アルベラン軍の勇壮なる戦列。
夥しい矢雨だった。
あまりに予想だにしない夜襲であったがために対応が遅れ、一気にエルデラント軍は押し込まれていた。
あからさまに包囲を狙うこちらに対し、まともな将なら中央突破など考えない。
少しでも手こずれば包囲されて負けるのはあちら――正気の沙汰ではない。
しかし、そう考えていただけにこちらは虚を突かれた形となり、エルデラント中央軍は窮地にあった。
持ちこたえられたのは両軍の境にあるのが森――エルデラント兵に有利な地形であったことと、レドが率いるヴェーゼの狩猟隊の奮戦によるもの。
押し込まれた戦線を安定させるべく左右に走り回り、軍の崩壊を防ぎ――しかしそれでも焼け石に水と言えるだろう。
このままでは劣勢は変わらない。
レドはそう決断し、反撃を企て前に出た。
だが森の中、敵戦列を突破し森から出てみれば、またしても敵の戦列――少なくともエルデラント中央軍と同数以上、敵戦力は森に踏み込んだものも合わせて間違いなく4万を超えるだろう。
南のミークレアや北のアーカズに備えをほとんど残していないに違いない。
全力の正面攻撃であった。
レドに率いられた精鋭――ヴェーゼの狩猟隊にも動揺が広がっている。
「レド、こりゃ無理だ! アーカズかミークレアが来るまで戦線維持を図るしかねぇ! 俺が殿に――」
「お前が死んじまうだろうが! ここまで斬り込んで易々と撤退させてくれるかよ!」
ベズの言葉を即座に否定する。
強引な突破でここまで来たのだ。単なる反転離脱では追撃され多くが死ぬ。
「指揮官の首を取って離脱するぞ! 旗はすぐそこ――行くぞ!」
敵は両軍の境、森に大軍を送り込んでいる。
この草原にある敵は弓兵主体。歩兵戦列の厚みは薄い。
兵士達に疲労はあった。
だが、彼らはヴェーゼの狩猟隊。
大部族ヴェーゼの最精鋭であり、エルデラント一の戦闘集団であった。
戦場で牙を研がれた彼らの前に、並の敵などは相手にならない。
「どけぇッ!!」
先頭を進むは巨剣のレド。
刀身は五尺、剣というより板というべき厚みの大剣を自由自在に振り回し、その刃を前に鎧の如きは無意味であった。
構えられた槍を叩き折り、盾を砕き、命を奪う。
敵の脆弱部ではなく、あえて精強な真正面を抜いたのは獣の嗅覚というべき直感であった。
相手は古豪フェルワース=キースリトンが従える軍。
脆弱部に見えるのは作られた脆弱部であり、単なる誘いであることを本能的に理解していた。
そこを抜けば左右から矢の嵐に晒されることを知っていたのだ。
戦列を一息で抜ききり、見えた旗――軍団長ではなく将軍旗であった。
馬上から指示を出す女将軍の姿が目に映る。
そしてあちらもこちらを認め、憤怒の顔描かれるバイザーを下げ。
馬上から飛び降り長剣を右手に、従兵から鋼の盾を左に受け取る。
「ベズッ! 一気に食いつく、左右を削れ!!」
「おう――」
直感は正しい。
敵が脆弱部に用意していたのは弓兵だった。
そこを抜いていればその一斉射撃によりレド達は壊滅していただろう。
だがこちらが真正面から敵を抜いたことで彼らも動揺――こちらの突破に対し、一歩出遅れている。
敵弓兵指揮官が立て直す前に敵将に食いつけば、相手は矢雨を降らせることなど出来はしない。
レドは突出――姿勢を低く一気に踏み込んだ。
四足で走る獣の如き踏み込みから、敵将の眼前へ。
全身をひねり、そこからはひらりと蝶のようであった。
巨剣を振り回し、その慣性を利用しての踏み込みで幻惑、敵の左手への回り込み――構えられた盾の側面をただの一瞬で迂回する。
そしてその勢いのまま遠心力を利用しての一刀。
受け流しなどはさせはしない。その力の全てで眼前の障壁全てを圧壊させ、両断する。
「――侮るなッ!!」
されど敵も一軍の将たる武人であった。
右斜め上からの薙ぎ払いに対し逃げる選択を取らず、踏み込み。
その身をひねって身をかがめ――対する彼女が巻き起こすのも旋風だった。
レドの巨剣の圧迫に惑わされず、その刃を回避すると全身で螺旋を描くように。
鋼の盾をレドの体に叩きつける。
ロールカ式剣術においてそれは身を守る盾ではなく、立ちはだかる敵を砕き押しつぶすための凶器であった。
「ちっ!」
咄嗟にレドは攻撃を断念、その鋼の鈍器を蹴って宙返り――距離を取って構えた。
「我が名はテックレア=レーミン! アルベランの民を守りし王国貴族であり、その盾である。……女と見て侮るなよ、蛮族の侵略者」
憤怒の描かれるバイザーの内側からは、鋼を反響させるような硬質な声。
「伊達に将軍じゃねぇって訳か。……侮る気はない。強い女は嫌になるほど見てきたからな」
シェルナの顔を思い浮かべ、レドは笑う。
「俺は大部族ヴェーゼが傘下、ラーニのレド! あんたにもアルベランにも恨みはねぇが、ここで死んで――っ!?」
突如後方から響いた爆音に動きを止める。
対する女将軍も一瞬の動揺を見せ、咄嗟にレドの後方へと目を向けた。
森の中からの音ではない。森で生まれ育ったレドは聞き間違えない。
さざ波のように枝葉の揺れる音――間違いなくそれは、森の向こう、本陣からのものだった。
「レド、本陣――」
「――わかってる!!」
レドは叫び、巨剣を手に前へ。
しかし女将軍テックレアは後方へ跳躍、距離を開いて声を上げる。
「アルベリネアのご到着だ。全員、時間を稼げ! 敵は少数、森から出た獣に対し怯える必要などありはしない。我らが時間を稼げばこの戦い、それで終わりだ」
「っ……てめぇ」
「ラーニのレド、戦士としてお前の強さは認めるが……しかし悪いな。私は獣ではなく軍人であり、弱き者が盾。弱者を虐げ蛮勇を振りかざす血に飢えた獣に対し、正々堂々の戦いを挑むつもりはない。――投槍兵!」
合図と共に風切り音を上げ。
向かってくる槍をへし折りながらレドは前へ。
テックレアは更に身を引き、レドは更に一歩――
「レド、無理だ! 深追いするな!! 敵の攻勢といい、この状況は何かがおかしい、自分がどうしてズレンを置いて来たのか思い出せ!」
しかし、ベズの言葉に踏み込みを断念する。
「敵の狙いは本陣――これは単なる夜襲じゃねぇ! どういう魔法かここで勝負を決めに来てるんだ! お前は今すぐ後ろに下がってシェルナ様を守りに行け!!」
「だが、ベズ――」
「決死隊は俺に続け! 将軍首をここで切り落とす!」
「馬鹿野郎、何勝手に――」
「黙ってろ! お前はシェルナ様の所へ行け! すぐ南のミークレアがこっちへ来る、それまで持ちこたえられりゃ俺もなんとか生き残れる!」
ベズは敵兵の胸に剣を突き立て告げる。
「何があってもシェルナ様を失うわけにはいかねぇんだ。お前は先に戻れ!!」
「……くそっ、ベズ、後でぶん殴るぞ」
「返り討ちにしてやるよ坊主!」
ベズは笑い、前へ。
この状況で隊を分断――仮に敵将の首を討ち取れても生き残れるはずもない。
だというのに、彼の言葉に残ることを選択した兵士は驚くほどに多く、ベズはそれを率いてレドと入れ替わり、敵将へと向かっていく。
彼は生きて帰るまい。
血が滲むほど巨剣を握りしめ、女将軍を睨み付け、レドは反転。
後方の敵兵を切り捨て森の中へ――本陣へとレドは向かった。
「ズレン!」
「……俺は平気です。かすり傷だ」
「っ……」
巨躯の男――ズレンの左腕から血が滴り落ちていた。
青い閃光と爆発。
本陣の被害は大きくない。
本陣ではなく、後方に展開していた戦列に被害が集中したことに救われた。
だがその代償――混乱と被害はシェルナですら動揺するほどに大きい。
吹き飛ばされた戦列、僅かに残した本陣予備がほとんど壊滅と言っていい状況。
残りの予備は前方の森、その戦線維持に使われているのだ。
本陣は丸裸に近い状況だった。
「グリフィンなど……!」
無傷で生き残った司祭長、ジーグレットは杖を掲げ、空へと向ける。
青い光が先端の魔水晶を輝かせ、放たれるのは閃光――司祭杖に刻まれる魔水晶は魔力を変換、攻性粒子として解放する。
放たれた閃光は瞬時に空高きを飛ぶグリフィンの翼を貫き、一頭を撃ち落とした。
二人の男がそこから転落し、
「っ……!?」
しかし周囲にあった獅子鷲騎兵が瞬時に動き、その体を空中で受け止める。
相手は単なる獅子鷲騎兵ではなかった。
その操作練度――熟練の戦士がその手綱を握っているのだ。
恐らくは、その全てが。
一朝一夕の技術で為せる業ではない。
「……クレィシャラナの戦士」
シェルナは目を見開き、呆然と呟く。
古竜の王都訪問と共に伝わった話――アルベランにクレィシャラナの使者が訪れ、両国の関係回復が行われたというものだ。
事実であるのだろう。
こうして戦場に出てきた以上、疑う余地もない。
かつて空を支配したクレィシャラナの獅子鷲騎兵が、アルベラン側についているのだ。
「生き残ったものは今すぐ北の森へ逃げ込みなさい!! キルスの軍団と合流し、改めて本陣を立て直す!! ――ジーグレット様、ズレン!」
「っ、指示の通りだ! 動けぬものは置いていけ!」
獅子鷲騎兵は少数。
しかし未知の兵器を有し、そしてこちらの本陣も多くはない。
続くのは確実に、敵の必殺――この本陣のみで対処できると考えるのはあまりに甘い。
森の中に一度身を隠す必要がある。
この状況から再統制は不可能――彼女の決断はどこまでも早かった。
動けぬものは置いていくしかない。
そしてその選択は、少なくともこの場において最善だった。
ぼんじゃらの爆撃と共に、南側から躍り出るは黒塗り鎧と翠虎弓騎兵。
敵本陣の真後ろ、西側から飛んだ獅子鷲騎兵に意識を向けさせ、右手、南からの本陣強襲――あっさりと敵将の首を取って本陣を壊乱させる予定であったのだが、
「むぅ……逃げ足が速い。ぐるるん、遊んでちゃ駄目ですよ」
クリシェは唇を尖らせ、翠虎の首をぺちぺちと叩く。
翠虎は仕方ない、といった調子で転がしていた敵兵の頭蓋を前脚で叩きつぶした。
残った体がビクビクと痙攣し、しかし誰も気にも留めない。
これは戦闘ではなく後始末。
負傷し残された兵にトドメを刺しながら、黒塗り鎧の兵士達は野営地を進む。
「この判断の早さ……読まれてますね」
クリシェは無機質な紫を篝火に煌めかせ、周囲全てを眺めて捉える。
敵の逃げ足は早い。
普通は本陣を捨てて逃げ出すことなどしないものだが、決断力に優れる将軍なのだろう。
南ではなく、北の森へ即座に逃げ込む決断の早さ。
そして敵の戦力配置――明らかに敵はこちらの背面奇襲を警戒していたのだ。
クリシェ達がどこから現れ何を狙っているのか、完全に相手は気付いていた。
『それなりに』賢い相手なのだろう、と目を細める。
ただ、この本陣の様子――気付かれていたとしても精々直前になってのこと。
最初から気付いていたならもう少し本陣に厚みを持たせているだろう。
夜襲から推測を重ね、相手は正答に辿り着いただけ。
混乱している状況には変わりなく、少女はこの状況から一瞬で明確な回答を見いだした。
爆撃で完全に敵の足並みは乱れている。
即座に撤退を決断したのは英断であったが、統制が取れているはずもなく、罠はない。
要するに奇襲が追撃に変わっただけのことだった。
「クリシェ様、本陣旗の処理は終えました」
ダグラの言葉に頷き、手間が一つ増えたと嘆息する。
面倒な相手――さっさと殺すべきだろう。
「ここで首を晒しておきたかったのですが……仕方ないですね」
東の森から出てきた敵兵に手投げのぼんじゃらを投げさせつつ、ひとまず本陣周辺の掃討は完了と言っていい。
ぼんじゃらは特に爆撃用というわけではない。
むしろ用途としては遭遇戦用。
黒旗特務に持たせる遠隔攻撃手段の一つであった。
事故が怖いため、持つのは魔力の扱いに長け、ある程度落ち着きのある班長以上に限られるが、遭遇戦の多いこうした状況下に置いて一発のぼんじゃらが与える心理的打撃は大きい。
ガルシャーン戦では密集していたため、投擲失敗の可能性を考慮し一部を除いて取り上げていたが、手投げぼんじゃらの初陣としては中々の成果だろう。
未知の兵器への恐れから、敵は森から出ることが出来なくなっている。
「残敵処理含め終了、ここでの戦闘は終わりにして逃げた敵将を追います。先行はクリシェ、ハゲワシ、後ろを適当に」
「は!」
「ぐるるん、そっちです」
手間が増える。逃げられたのははなはだ不愉快であった。
とはいえ、多少時間が掛かるという程度のことでしかない。
「ひ――っ!?」
逃げる相手は本陣精鋭――だが黒旗特務のように、全員が魔力保有者という訳ではない。
逃げ出した本陣後列にクリシェが食いつくのは一瞬のことだった。
翠虎の足からは魔力保有者であっても逃げられないのだ。
相手が単なる人間ならば、もはや止まっているのと同じであった。
先行しすぎないように注意しながら森を進み、逃げ惑う兵士の背中を射貫いた。
クリシェにとって、弓での殺人は射的と変わらない。
相手が背を向けるのであれば、もはや的を外すこともなかった。
一つ二つ、十、二十――
「おぉ、三十。えへへ、後ろから射貫くのは簡単ですね」
飛び降りると射殺した弓兵の死体から矢を補充し。
短弓を使うエルデラントはこうした状況では中々都合が良い。
ダグラ達が追いつくのを見て再び前へ。クリシェは射的を繰り返す。
黒旗特務の兵士達は、翠虎を走らせ死体を量産していく指揮官の姿に背筋を強ばらせていた。
取りこぼしすらが存在しない。彼らはただ走るだけだった。
弓を引いて放てば一人が死に、藪も暗がりも無関係に。
息を殺して隠れた者すら死体に変わる。
ダグラを含めて古参のものですら、心中に生じる怯えを完全に殺す事は出来ない。
「正直、恐ろしさすら感じる。呆れるほどの方ですな」
「……クリシェ様とはあのような方だ」
隣を走り、死体を眺めながら告げるワルツァにダグラは答えた。
「これは戦――軍人として戦場で、クリシェ様は当然のことをしているだけに過ぎない。……ただ、クリシェ様はあまりにそれに長けておられる」
敵であるから殺す。単にそれだけのこと。
軍人としては当然のことで、決しておかしな事をしているわけではない。
だがクリシェはあまりに優れた異端であった。
人を人とも思わず無造作に。
戦いは戦いにならず、彼女が行うのは常に、戦闘ではなく殺人だった。
一方的に、無慈悲に、冷酷に。
「あの後ろ姿を見ると、煌びやかな武勲に名誉、戦場の輝かしきものが全て欺瞞でしかなかったのだと、ふと気付く。……クリシェ様は我ら軍人が望んだ理想であり、そしてだからこそ、その願望からはかけ離れているのだと」
暴力によって、何かを奪い合う。
暴力によって、理不尽を押しつける。
戦争という行為の本質は究極、それだけであった。
「命を互いに差し出す戦い――武人としての矜持などは所詮後付けの理由。クリシェ様は正しく、戦の本質のみを見ておられる。そしてその本質を見せつけるのだ。……我らが見ようとせず、覆い隠した本質を」
だからこそ恐ろしく感じるのだろう、とダグラは続ける。
神聖帝国との戦――山中の戦い。
クリシェはまさに狩人であった。
殺す側であり、殺される側ではなく。
今もあの頃も変わらない。
彼女は戦場で起きる理不尽に対し、聞こえの良い言葉に目を逸らすことも逃げることもしない。
誰よりも真摯に、戦場というものを見つめていた。
戦争とはまさに数学の論理が支配する世界であり、情や温かさなどもない、ただ人の悪徳によって生み出される汚泥であると認識し。
長く付き合うほどに彼女のことを知っていく。
彼女はどこまでも純粋であった。
そこに恐ろしさを感じるのはまさに、自分たちが『聞こえの良い言葉』で覆い隠したものを暴かれるような気持ちになるからだ。
「誰より私は、そんなクリシェ様を恐ろしいと感じてしまう自分を呪わしく思う」
ワルツァはそんなダグラを見つめ。
先頭を走り『射的』を続けるクリシェに目を向け、瞼の裏にいつかの光景を映し出す。
『……そうですね。クリシェは早くお屋敷に帰って、ベリーやセレネとお料理やお茶会をしたいですから、なんのためかと言われればそのためになるのでしょうか』
何のために戦うのか。そんな問いの答え。
血まみれになりながら、何人もの人間を殺しその人生を奪いながら、良心の呵責すらなく幸せな未来に微笑む少女。
彼女はどこまでもズレて狂った――血濡れた無垢なる殺戮者。
理解を超えて、いっそ清々しく。
けれどその時ワルツァに浮かんだ感情の全てを、どのように表現すれば良いものかわからなかった。
人前を気にせず使用人に甘える幼き少女――彼女は今、目の前でただ殺戮を繰り返していた。
息を吸って吐くように、当然のことのように無数の人生を終わらせる。
人の親、誰かの夫や恋人、名だたる勇者に臆病者。
一切無関係に、分け隔てなく。
戦場において、唯一の正しさを振りかざし。
――そうして彼女は、死を振りまく。
「……真に恐ろしきは少なくとも、あの幼い少女ではないのでしょう」
優しい世界であったなら、どこまでも優しくなれただろう。
「あなたのように清廉潔白な軍人が、クリシェ様にそれほどの忠誠を誓う理由が私にもようやく分かりました。……あなたは、あの方を軍人として見ているわけではないのですな」
彼女は単なる鏡であった。
そこに映し出されるのは、彼女の本質ではなく。
「私が腕を斬り落とされたあの時感じたものも……きっと、それと近しいものだったのでしょう」
ワルツァは言って、左腕の義手に触れた。