料理
「クレシェンタ様、お塩を取って頂けますか?」
「……どの塩ですのよ」
「ああ、申し訳ありません。右側のものを」
訪問者は30名を超え、言うまでもなくクリシュタンドが迎え入れる客としてはボーガン、またその先祖の代から見ても最大だろう。
流石にこれだけの人数となればキッチンはフル稼働。
魔水晶を利用した無数の調理器具――ベリーの作り上げたもはや工房と言うべきクリスタルキッチンはベリーにクリシェ、そして更にクレシェンタを加えながらもいつになく慌ただしい。
クレィシャラナは贅沢を嫌い、普段は田舎の村人か何かのように暮らしているらしい。
煌びやかな王城の広間を使って宴を行なうことを考えたが、それは彼等の好むところにはない。
それに貴族達という問題もあった。
謁見の間での一幕でもあったように、品位と建前を気にする貴族達。
同じ場で食事させることは悪影響しかもたらさないであろうことは想像でき、クレシェンタが個人的に、と彼等を招いたのはそういう事情である。
しかし事情が事情とは言え異例の高待遇であった。
国力では圧倒的。
今となっては蛮族の単なる一部族と言える彼等を女王がこうして歓待し、手間を惜しまぬ理由は多くの者にとって不思議であろう。
当然クレシェンタに、彼らと仲良く手を取り合って歩いて行きたいなどと子供のような考えがあるわけではなく、彼女はどこまでも打算的な生き物。
その目的は彼等の保有する魔水晶であった。
姉から竜についての話を聞いて、まず着目したのは竜の背後に存在していたという魔水晶の岸壁。
濃密な魔力が長い時間を経て結晶化し、魔水晶となるのではないかという説は確からしい説の一つと広く知られているものであるが、クレシェンタもそれについては同意見であった。
他の金属と同じく、魔水晶の鉱山も掘れば枯れる。
結晶化のメカニズムについては知らないまでも、少なくともある日突然何の前触れもなく、ぽん、と生まれるものでないことは確かである。
あれだけの魔力を有する竜。
そしてその竜が長期間居座るアルビャーゲル。
高い可能性でクレィシャラナの土地には多くの魔水晶の鉱脈が手つかずで眠っているだろうことは容易に想像できた。
贅沢を嫌い、現在は姉に服従したクレィシャラナである。
国としても友好を深めれば、ほとんどあってないような取引でその鉱脈の採掘権を得られるに違いない。
魔水晶は他の鉱石と同じく限りある資源。
今後の研究でその利用価値が跳ね上がれば、恐らくあちこちの鉱脈が枯れ供給が追いつかなくなり、将来的には貴重鉱石として宝石のような値がつくようになることは間違いなく――その時勝つものは当然、それを独占するものだ。
経済的な勝利は戦争などと言う下らない作業を不要にする。
金をばらまき服従させて、服従させた国から与えたものより多くを吸い上げ。
抗う力を奪い、あらゆる国をアルベラン無くして存在できないようにする。
戦争などは単なる外交手段の一つでしかない。
棍棒を振り回す蛮族並の知能しか無い国々を滅ぼす際にはいくらか必要だろうが、それらも全て経済力がものを言うもの。
精強な軍を維持するのは、潤沢な資金であるからだ。
彼女が将来的に求めるものは太陽を休ませる間もない広大な領土。
この世の全てを支配する、日の沈まぬ超大国。
それを確たるものとする材料の一つがクレィシャラナであり、彼女がこうまでして彼らを歓待するのはそれが理由であった。
「クレシェンタ、焼き物には粗めの塩なのです。粒子が細かいと水気を吸って、すぐに溶けちゃいますから」
「なるほど。えへへ……」
とはいえそれは、あくまで将来的なもの。
彼女が求めるもの全ては現在この屋敷の一つに収まっており、正直に言ってそれらは『賢い女王』としての建前に近く、どうでも良いとすら思ってもいた。
少女としてのクレシェンタにとって、一番の目的は姉に褒められることである。
すりすりと姉に身を寄せ幸せそうに微笑む彼女の姿に女王としての知性はない。
謁見からは延々と、偉い偉いと姉に褒められ極みに極まり上機嫌。
忙しない料理の最中でありながら、彼女は非常に満足であった。
政務だなんだといった仕事に対してはクリシェもやって当然のことと褒めたりはしないものだが、他人を喜ばせるための試みに対しては常に強く評価した。
歓待の目的は魔水晶であったが、しかし今の頭は姉からのご褒美でいっぱいである。
その高い能力全てをクリシェを喜ばせるべく使い、彼女はいつになく熱心に料理へと励んでいた。
そんなクレシェンタを見ながら楽しげに、ベリーは鮮やかに串焼きへと塩を振る。
「ふふ、良い感じでしょうか。いかがでしょう?」
クリシェはオーブン料理。
クレシェンタはスープを。
そしてベリーが作るのは焼き物であった。
焼き上がった二本を掴みクリシェに差し出す。
ナイフとフォークには慣れていないであろう彼等のため、スープを除けば手を使って食べられる料理を今日の主軸にしている。
受け取ったクリシェはクレシェンタに一本を手渡し、串焼きを眺めた。
しつこいくらいの脂が乗った、鶏の尾肉である。
しかし金網を用いて焼かれた肉は余分な油が落とされ、黄金のような光沢。
小さな口を開いて導き、先についた一塊に齧り付く。
じゅわ、と滲み出る油は上品。
軽く散らされた香草は油の多い肉の重みを軽減し、肉の旨味だけが抽出されている。
一つ食べれば更に一つ、与えられた一本をすぐに食べ終わり、飲み込み。
頬に手を当て微笑を浮かべ、クリシェはベリーに抱きついた。
「とっても美味しいです。いつも通り味付けも絶妙ですし、えへへ、本当にすごく」
ベリーは微笑み、串の一本を手に取り眺めた。
そしてそれに齧り付く。
「ん、焼き加減は良いですね。でも、油がちょっとしつこいような気もするのですが……」
「……そうでしょうか? クリシェには良い感じだと」
「味がわからないから、油が重たく感じるだけじゃないかしら? こればかり食べていれば確かにしつこく感じるでしょうけれど、一本二本を食べるだけならこれくらいで十分……まぁまぁですわよ」
クレシェンタも同じく、串焼きをすぐに食べ終わるとベリーに告げた。
『まぁまぁ』というベリーが作る料理への評価は、彼女の中では最上級。
非常に美味を意味するものであった。
ベリーは少し考え込んで、なるほど、と頷く。
「わたしの感覚は当てにはならなさそうですね。慣れるまではちょっと難しそうです」
抱きついたクリシェの体がぴくりと跳ね、困ったようにベリーは首を振った。
「大丈夫でございますよ。辛味はどうやら分かるみたいですし、油がしつこいかどうかもなんとなくは。感覚をお二人のものと擦り合わせていけばその内慣れて、多少良くはなるでしょう」
クリシェはしかし、その言葉に対して首を振る。
「クリシェがベリーの舌、ちゃんと元通りにしますから……慣れなくたっていいです」
薬草を試してみたり、魔力で治癒を促進させてみたり。
ひとまず現状考えられる手段は行なってみたが、結果としては芳しくない。
舌を詳しく調べれば何かわかるかとも思ったが、舌自体一人一人に個性があって、クリシェとセレネ、クレシェンタの間でもその構造が異なる。
舌自体が正常か否か――それをどこで見極めれば良いかも分からないし、もしかすると舌自体は正常であっても別な部分が影響してしまっているのかも。
今のところはわからないことだらけであった。
どうして人が死ぬのか、どうして病気に罹ってしまうのか。
それすらもが不確か。今ある医療の全ては曖昧な経験則でしかない。
それを究明しようと思えば膨大な試行回数を必要とするし、それを行なうための人手も時間も足りなかった。
同じ人間を使えばクリシェには容易にそれを解き明かす自信があったが、ベリーがそうすることを望まないことはわかっている。
地道にやるほかなかった。
「……絶対です」
告げるクリシェに微笑んで、体を離し。
少し屈んで、その唇に唇を。
うっすらと纏わり付いた油が滑らかで、唇同士が滑りあう様子に笑う。
「ふふ、はい」
ベリーにとってこれは命の対価として仕方ないことのように思えていたし、これ以上をと望むことは過分に過ぎた。
いつか自然に治るなどと期待はしていない。
そういう期待は辛いものである。
けれど彼女がそういうのなら、信じるのが自分の役目だろう。
十年か二十年か、それともずっと先――老婆になった未来の話かも。
どうであれ、きっと彼女は叶えてくれると信じて過ごす。
それでベリーは十二分に幸せだった。
「でも、思い詰めては駄目ですよ。言ったようにわたしは平気ですし、おかげでクリシェ様が手に入ったと考えると安い買い物。クリシェ様がそうやって気に病んで体調を損ねてしまうことが、わたしにとって大きな損失です」
冗談めかして微笑んで、その華奢な体を抱きしめる。
「お仕事をして、わたしと一緒にお料理をして、お風呂に入って甘えては、一緒に寝る時はわたしの抱き枕です。ふふ、そういう過密なスケジュールが組み込まれているんですから、わたしのクリシェ様にはまず、そちらを優先して頂かないと」
「……えへへ、はい」
「……、おねえさまはアルガン様のじゃないですわ。それに、そんなことをしていて良いのかしら? そっちの肉が焦げてしまいますわよ」
「え? あっ」
慌てたようにベリーは肉を裏返し。
クレシェンタは不満そうに頬を膨らませながら、後ろからクリシェの腰に手を回し、抱きついた。
「今日のおねえさまはわたくしのものだって決まってますの。おねえさまの優しさにつけ込んでよくもまぁ、ろくでもない使用人ですわね」
「クレシェンタ、ベリーにそういうこと言うと怒りますよ? それにクリシェ、クレシェンタにそんな約束してないですし……」
「おねえさま、約束というのは言葉だけで決められるものではありませんの。書面で契約が交わされたりするように、物事の流れや場の雰囲気で決まったりもしますのよ」
クレシェンタは指を立て、平然とそれらしい屁理屈を提示する。
「少なくとも。……謁見の間でおねえさまはわたくしとそう約束したようなものですわ」
クリシェはそうなのか、と素直に妹の言葉に驚き、ベリーは適当に言いくるめられる彼女に苦笑する。
どうあれ、クレシェンタがこうした歓待の姿勢を見せているのはクリシェに褒められるためであることは知っている。
姉に褒めてもらうために努力するクレシェンタの姿はなんとも愛らしいもので、微笑ましい。
はっきりした苛烈な性格で嫉妬深く、少しわがままで。
クリシェとは似ているようで似ていないような、そんな彼女もまた、どこまでも可愛らしい存在だった。
姉がボーガンに助けられ心惹かれるようになって、自分にも同じように嫉妬する時期があったことを思い出して苦笑する。
気を引きたくて、あれやこれやと考えて――けれど実行に移すこともなく諦めて。
自分に比べればずっと、彼女は健全であろう。
くすくすと笑って、そんなクレシェンタに悪びれもなく頭を下げた。
「ふふ、クレシェンタ様を出し抜く形になってしまいましたね。申し訳ありません」
からかうように告げると、クレシェンタはベリーに睨み付ける。
「言っておきますけれど、あなたの舌が治ったらおねえさまを拘束する権利なんてありませんわよ。あなたとおねえさまの約束なんて失効ですわ」
風船のように頬を膨らませ。
気が強く、隠すこともなく。少なくともクレシェンタは陰湿さや鬱々とした考えとは無縁で、だからこそベリーも特に遠慮も無く。
それがどうにも楽しくて、いわゆる物語の恋敵とはこんなものであるのかも。
彼女とのこういう下らないやりとりが、ベリーはとても好きだった。
「今回の事が落ち着いたら王国はもっともっと発展しますもの。技術もそう、医学もそう。そうなったらそんなくだらない後遺症なんてすぐですわ、すぐ」
年齢こそ離れていても、同じ相手を好いた人間同士。
性格は真逆のようで、けれどどこか似た部分があって、共有すべき様々なものを互いに大事にしていて――あるいは友情と呼べるものに近いのかも知れない。
そう告げると彼女は烈火の如く怒るだろうが、時折見せるこういう彼女の素直じゃない優しさは、クリシェのそれと同じく綺麗に見えて。
「ありがとうございます。……でも、折角わたしの手に渡ったクリシェ様を失うとなると考えものかも知れませんね」
「弱みを見せておねえさまを我が物にしようだなんて、そもそもからして外道極まりない所業だということを理解するべきですわね。そんな取引は最初から無効ですわ」
こんな人達に囲まれた自分はやはり、誰より幸せ者だろう。
わざとらしく驚いた風を見せて笑いながら、そんなことを考えた。
「まぁ。外道だなんて」
「違うと思ってましたの? これからはよく自分がどういう人間なのか理解なさる事ね」
「なるほど。でも、道に外れる程度の事でクリシェ様が手に入ると考えれば、それはそれで悪いことではないのかも……」
ベリーはクリシェの頬に手を伸ばし、クレシェンタはクリシェの体を抱き寄せてそれを阻止した。
そして姉に後ろから頬摺りをして、挟まれたクリシェは困ったようにクレシェンタを見る。
「クレシェンタは本当、口が悪い子ですね。そういうのを減らず口というのですよ。クリシェはベリーのなんですから、クレシェンタはベリーをもっと敬うべきです」
「目を覚まして下さいませ、おねえさま。それは悪辣な詐欺による結果ですの」
「……?」
頬を擦りつけながらクレシェンタは告げる。
「アルガン様は屁理屈を捏ねるのが上手ですもの。おねえさまは言いくるめられているだけですわ」
「言いくるめられては……クリシェも納得してますし、クリシェも別にそれで問題は――」
「なるほど、では仮にそれが正当な取引として。……舌の代償におねえさまは身売りをしたんですもの。その言い分が通るのなら、わたくしのおかげでアルガン様の舌が治ったら自然とおねえさまはわたくしのもの……そういうことでよろしいのかしら?」
「んん……? あの、その理屈はなんだかおかしいような」
考え込むように首を傾げ、クレシェンタは微笑む。
「おかしくはありませんわ。おねえさまはご自身とアルガン様の舌に等しい価値を見いだしたと言うことですもの。わたくしが舌を治せばその対価におねえさまをもらうというのは筋が通った話でしょう?」
「そう言われてみれば、確かにそんな気も……」
「そして将来的にアルガン様の舌はわたくしのおかげで治るんですもの。既定事項ですわ。つまり既におねえさまはほとんどわたしのもので、その使用人のアルガン様もわたしのものも同然。これは減らず口でもなんでもありませんの」
視線を左右に揺らし、クリシェはその優れた頭脳を目まぐるしく回転させる。
しかし彼女にとって屁理屈は盲点――論点のすり替えに対処する融通性など彼女の頭には存在しなかった。
「なんだか納得がいかないような……でも、んん……一応確かに筋は通っているような気も」
「些細な事を気にしてはいけませんわおねえさま、そういうことを考えるのはわたくしの役目ですの」
その様子をベリーは肩を揺らして笑って見つめた。
「いけませんよ、そうやってご自分に都合が良いようクリシェ様を言いくるめようとしては」
「世界中の誰に言われても、あなたにだけは言われたくありませんわね」
クレシェンタは眉間に皺を寄せてベリーを見返し、クリシェに囁く。
「論理的に考えるべきですわおねえさま。感情などというあやふやなものに惑わされてはいけません。これはわたくしが受け取るべき正当な報酬ですの」
「うーん……正当……」
クリシェを言いくるめようとするクレシェンタがおかしいのか。
なおも口元を隠して肩を揺らし続けるベリーを睨み、クレシェンタは食ってかかるように笑みを作った。
「ふふん、あなたの下らない余裕も今のうちですわよアルガン様。……そうしたらアルガン様は単なる使用人、料理だけ作ってわたくしとおねえさまを指でも咥えて見てるだけ。心がけよくするなら、たまにくらいはおねえさまに触らせてあげようかしら」
ベリーは楽しげに笑い、近づき。
二人まとめて抱きしめると、クレシェンタの頭を撫でた。
「まぁ、ふふ……女王陛下はお優しいですね。臣下として誉れ高いです」
「あなたなんてついで、ですわ。それにそう仰るならこういう子供扱いをやめるべきですわね。わたくしはとっても偉いのですわ、あなたが理解するよりずっと」
クレシェンタは睨みつつも、頬を緩ませるのを堪えて頬をぴくぴくと。
ますますベリーは楽しげに笑い、その額にキスをした。
「申し訳ありません。嬉しくなると手が勝手に動いてしまうようで」
「あなたは色々なところが病気ですわね。舌を治す前にその頭の治療法を見つけた方が良さそうですわ」
「こればかりは生まれついてのものですから、困りましたね。一生治らないのかも」
「努力もしないのは単なる怠惰と言いますの。あなたみたいなのがこれから先、ずっとおねえさまの側に付きまとうかと思えばうんざりですわね」
ベリーはニコニコと、やはり楽しげなまま。
そのやりとりを聞いていたクリシェは肩の後ろに手を伸ばし、その頬をくいくいと引っ張った。
「うーむ、よくわからないですが、ともかくベリーに対する口の悪さはクリシェも思うところがありますし、それについてはやはり治すべきですね。仮にクリシェがクレシェンタのものになっても、クレシェンタを良い子に育てるのは姉であるクリシェの役目ですから、こういうところはけじめとしてきっちり分けておかないと」
「えぇ……?」
「ふふ、流石はクリシェ様、良いことを仰ります。妹を姉が導くというのは社会的に見ても利に適った、実に立派なことであるとわたしも――」
「あ、アルガン様! 卑怯ですわ!」
駄目ですよ、とクレシェンタに振り返ると、クリシェはその唇を指で押さえた。
「前々からクレシェンタには素直さが足りないと思っていたのです。ベリーに撫で撫でされるの大好きなはずなのに、このお口は悪口ばっかり。もうちょっと素直に……あ、そうですね、今後クレシェンタがベリーと過ごす時はずっと犬になるという決まり事を――」
「あ、おねえさまっ、そろそろオーブンが頃合いでは……」
「? ああ、まだ早いですよ。後もう少し焼かないと……えと、クレシェンタ、話を逸らそうとして――」
「じゃ、じゃあその、おねえさまにもう一回スープの味見をして欲しいのですわっ」
「……味見?」
「さっきよりは大分カボチャも溶け出して良い具合になっているはずですもの。こ、このカボチャスープはおねえさまにもきっと喜んで頂けると思ってますの」
被せるように言い切って、クレシェンタはきっとベリーを睨んだ。
ベリーはおかしげに肩を揺らして口元を隠し、必死なクレシェンタに助け船を出す。
「そうですね、ふふ、そろそろ盛りつけも始めていきたいですし、クリシェ様、味見をお願いできますか?」
「ん……はい、ベリーがそう言うなら。クレシェンタはまだまだ心配ですし、クリシェがちゃんと確認しておかないと……」
味見という響きに誤魔化されたクリシェが鍋に近づき。
その背後、クリシェに見えない位置からクレシェンタはベリーを睨む。
敵に塩を送られたと言わんばかり、実に悔しげな表情。
ベリーはそれに微笑みを返し、再びその頭を撫で。
彼女にとって幸せな時間に変わりなく、ここには全てが揃っていた。