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春待ちの雪

凱旋式から会談。

女王の暗殺未遂に貴族の暗殺事件。

更には竜の来訪と、王都では休む間もなく様々な話題に事欠かなかったが、これもまた他の話題に劣らぬものであっただろう。


肩高五尺の体躯は勇壮な獅子。長い尾を揺らしていた。

体毛もまた獅子に似て、その色味は黄褐色を呈するが、しかし頭は猛禽、鷲のよう。

その肩から生えた巨大な翼は藍に近く、何とも言えぬ光沢を放っていた。

それは獅子鷲――グリフィンと呼ばれる獣たち。

そしてそれに跨がるは分厚い毛皮で身を覆い隠す、勇壮なる男達であった。

八尺の槍を肩に担ぎ、グリフィンの腰には無数の投槍が束ねられ。

華美ではなく、無骨ながらもまさに戦士と言うべき堂々たる姿で、三十騎からなる縦列は王城へ向けて歩みを進める。


一人は一騎に。

しかしその先頭のグリフィンにだけは二人が跨がっていた。

目鼻立ち整った体格の良い青年と、それに抱かれるように前へと座るは、短めの黒髪を耳の後ろでお下げにしたどこか愛らしい少女。

少女の方はグリフィンの手綱とは別――随分と大柄な馬の手綱を引きながら、きょろきょろと視線を左右にやる。


「すごいですねぇ……兄さん。ここは岩で出来た家ばかりです」

「クレィシャラナの巫女ともあろうものが子供のようにはしゃぐな、馬鹿者」


言いながらも青年――クレィシャラナ戦士長、ヴィンスリールの顔は優しげで、妹リラはすみません、と微笑みながら兄に答えた。

木造家屋ばかりであったクレィシャラナと比べれば、やはりこの景色は見事なもの。

リラはその大きな眼を輝かせながら周囲に目をやり。


彼等を先導する騎馬が立ち止まったのは王都に入って少し過ぎた、そんな頃であった。

ヴィンスリールは前方からぱたぱたと駆けてくる一人の少女を認めると、左手を挙げ停止を伝え、その場に降りて冷たい石畳の上に片膝をついた。

リラもそれに倣い、後ろにいた戦士達も同じく。

周囲にあった群衆からはざわめきが広がった。


耳まですっぽりと帽子を被り、マフラーを巻き付けたもこもことした少女は彼等の前まで来ると立ち止まり、銀の髪を揺らして首を傾げ。

そんな彼女にヴィンスリールは口を開く。


「あれから二ヶ月近くになりましょうか……お久しぶりです、クリシェ様」

「えーと、はい、お久しぶり……なのですが、その、冷たくないですか?」

「恥じることなく言うならば、多少は。平地は随分と寒いようですね」

「あんまりそういうの気にしなくていいですよ? クリシェ、お出迎えに来ただけですし」

「は。ありがたく」


苦笑しながらヴィンスリールは立ち上がり、後ろへ合図を送る。

彼等は一斉に立ち上がり、クリシェは困ったようにしながら、大柄な馬の首をぽんぽんと叩いた。


「えへへ、ぶるるんもお久しぶりです。リラも」

「はい、お久しぶりです、クリシェ様」


ぶるる、とぶるるんは鼻先をクリシェの頬に寄せ。

元気そうですね、と微笑みながらクリシェはその背に横乗りになる。

そして二人の後ろに続く戦士達を見た。


「それにしても沢山連れてきましたね」

「ええまぁ、平地の見聞を兼ねてというところもありますが……これがどうなるかは女王陛下との謁見後となりましょう」

「……? まぁいいです、寒いですし行きましょうか」

「は」


再びヴィンスリール達はグリフィンに跨がり、クリシェは彼等を先導していた貴族の男に声を掛けた。


「ギーテルンス侯爵もお久しぶりです。アーネに会いに来たんですか?」

「お……お久しぶりですアルベリネア。女王陛下への謁見とのことで、不肖ながら私が案内人を……無論、娘の顔を見に、というところもあるのですが」


アルゴーシュ=ギーテルンスは顔を強ばらせながら答える。


クレィシャラナの人達が馬を連れてくるので、誰かに王都へ運ばせて欲しい――彼女に言いつけられたのはそれだけであったが、蓋を開けてみればびっくり。

これはクレィシャラナから、女王陛下への謁見であると彼等はアルゴーシュに告げた。


何の構えもなく唐突な事態。

しかしクリシェの名が記された通行許可証を見るに彼等の言い分は正しく見えた。

となれば他国からの賓客に対し、ある程度の身分を持つ案内人を付けぬ訳にはいかない。


しかしあの辺りは王国北西でも辺境の地である。

そこにあるのは小役人程度の下級貴族ばかりで、他国の賓客を案内できるような格の貴族など存在しなかった。

本来であれば王都から直接案内役を命じられた者が派遣されるものだが、しかしあまりにも急。

事前の連絡も無く唐突に三十騎の獅子鷲騎兵がピルケ砦にやってきたとあっては、まさかそれを準備が整っていないからと送り返す訳にもいかない。

他国からの賓客に無礼を働いたなど、場合によれば首が飛びかねない大罪。

それも長く断交していたクレィシャラナからの使者である。


必然、案内人を務めるべきは己の他ないと彼は判断する。

武官の貴族爵位の頂点が辺境伯であれば、侯爵は文官が持つ貴族爵位の頂点。

案内人が名家ギーテルンス家の当主となれば、少なくとも彼等への無礼にはなるまい。


しかし本来的には作法に反した行動である。

使者を往復させ、日取りを決めて――普通謁見となれば面倒な手順を踏むもの。

彼等が持っている通行許可証は一見正当に見えたが、書き手はクリシェである。

政治社会、外交などにはあまりに疎そうな少女の様子を思い浮かべ、彼等を本当に王都へ案内しても良いのかと胃痛を覚えながら、王都へ確認の手紙を一通出すと同時、その他計五通の手紙を王都の知人へ送る事となった。

もしもの場合に便宜を図ってもらうためである。


彼等を歓待しつつ、時期的に天候が良くない、道の状態があまりに悪いなどと旅足をわざと遅らせながら、彼がようやく安堵できたのはガーゲインに到着した頃。

王都から手紙の返信が返ってきてからであった。


「えへへ、そうですか。アーネも喜ぶかもですね」


しかしアルゴーシュを恐怖の谷底へと叩き込んだクリシェに浮かぶは、まさに少女の笑みである。


「そ、そうですな……」


アルゴーシュは実に暢気そうな彼女に対し、嫌味の一つを言うこともできなかった。

実質的には王族であり、アルベリネアを冠する雲の上の存在で、その上娘の奉公先――その上竜と友誼を結び、背後に連なるクレィシャラナの男達からは個人的に忠誠を誓われているとなれば、もはやアルゴーシュには笑顔を浮かべるほか選択肢などない。


「ここまでの案内、改めてお礼を。ギーテルンス殿。思ったよりも随分和やかな旅となりました」

「い、いえ、ヴィンスリール殿。こうしたことには慣れぬ身、いくらかお手間を取らせました」

「はは、ご謙遜を。こちらこそ外交儀礼や作法に疎く迷惑を掛けました。あなたがその上で可能な限り危険を払い、私達を少しでも楽しませようとして下さっていたことは分かっています。そのお心遣いには大いに感謝しておりますよ」


幸いなことにそうして努力した甲斐もあってか、随分と彼等には良い印象が与えられたらしいことは救いであった。

ひとまずはそれを納得としようと静かに嘆息する。


アルゴーシュ=ヴィケル=ギーテルンス。

彼は苦労という星の下に生まれた男であった。








王国において赤は最も高貴なる色であった。

謁見の間――その赤で彩られたカーペットに立ち入ることを許されるのは基本的に王家に連なるものだけであり、他国の賓客を迎える際には通常別な色に置き換えられる。

特に謁見の間において、赤いカーペットとは王国のために流された血を示す。

その上に立つことを許されるのは王家のみであり、そして彼等が血の交わりを許した王国の貴族のみ。

他国の人間がそこに踏み入ることなどそうそう許されることはなく、現在その例外は数百年の盟友たるアーナ皇国の使者のみであった。


『……この先はわたくしたちと同じ道の上を歩みたいと言ってるんですもの。彼等はそのつもりで王国に足を運び、そしてわたくしも同じく。数百年前の遺恨を未来永劫のものとする気はありませんわ。これからは過去を忘れ、互いに手と手を取り合い、明るい未来を望むべきだと思いますの』


当然今回もそうした古くからの慣習に従うものと思われたが、しかし女王クレシェンタは赤いカーペットに彼等を迎え入れることを決めていた。

長年いがみ合ってきたクレィシャラナを、アーナと同じく今後は王国の友とする。

それはそういう意思表示で、となればそれに反論できる者などいない。


ラッパの音が鳴らされ、まず入ってきたのはクリシェ。

その背後に二人の男女――ヴィンスリールとリラが続き、数名の男が続いた。


国の状況や先日の一件。

クレシェンタの決定には素直に応じた貴族達であったが、毛皮に身を包み、最低限の布を身につけた野人が如き彼等の姿を見て、露骨に眉を顰めるものがあった。

このような蛮族に歴史ある王の道を穢されるとは。

王国の権威が損なわれると心中で嘆くものもある。


クリシェはとてとてと、そんな空気を全く気にせず前へ行き、クレシェンタの隣に立った。

緊張した様子の少女――リラは一歩前に出ると、赤いカーペットに両膝を突く。


「謁見のお許し、ありがとうございます、アルベラン女王陛下」


そしてそのまま頭を下げ、額を床に。

貴族達は唖然とし、顔を見合わせる。


両膝を突き額を床に押しつけ。

クレィシャラナの作法にしても、あまりに卑屈な姿のように彼等の目には映った。

椅子ではなく床に直接座るアーナの文化も知ってはいるが、彼等も流石に外で座ることなど無い。

背後の男達も彼女と共に両膝をついてカーペットの上に座り込み、その姿はどこか珍妙、滑稽なものにすら映った。

一部の者は見下すように彼等を見る。


片膝をつくことと両膝をつくことでは、少なくとも王国では明確に違う。

片膝をつくことはある種立礼の最上位として扱われるが、両膝をつけばこれは座礼。

少なくとも椅子に座る文化の王国においてはよほどのことがなければされないもので、地面に直接尻をつくことと同義――その上で額を床に押しつけるとなれば、彼等には高貴さも矜持の欠片もないように思えた。

平民ならばまだしも、国の顔たる使者である。

それが靴で歩くような場所に両膝をつくというのは、彼等なりに礼を尽くそうとしてるにしろ、あまりにも無様だと彼等が思うのも無理はない。


他国へ訪問することなどなかったクレィシャラナの人間――当然彼等は外交儀礼や作法を知っているはずもなかった。

本来であれば案内人が賓客に恥を掻かせぬよう、多少の儀礼や作法について軽く触れておくのが普通であったが、今回案内人を務めたアルゴーシュは外交官でなければ、王宮務めの文官でもなく。

彼等がアーナとしか交流しておらず、外交儀礼的には無知であることにまでは気が回らなかった。

これはある種の不運が重なった結果と言えるだろう。

一番悪いのは誰かと言えばアルゴーシュではなく、八割を超えてクリシェである。


しかし誰より早く動いたのはクレシェンタであった。

彼女は玉座から立ち上がると、軽やかに小さな階段を降り、頭を下げる彼女の前にドレスのまま両膝を突いた。

どよめきが広がるも、彼女は気にした風もなく。


「ふふ、両膝を突くのがクレィシャラナの作法なのかしら。お顔をあげてくださいませ、クレィシャラナの巫女さま」

「は、はい……」


リラは驚いたように顔を上げ、膝を突いて座るクレシェンタ――その紫の瞳を見つめた。

赤に煌めく優美な金。

ただ美を極めたような、けれど幼い顔立ちには微笑が浮かび。

身につける白のドレス、装飾はまるで彼女の輪郭を浮かび上がらせるような錯覚すらを覚えさせる。


「お気持ちは嬉しいですけれど、カーペットが敷いてあるとは言え錬成岩の硬い床ですもの。お気になさらずお立ちになって。このままお話というのは巫女さまがよろしくても、慣れていないわたくしの方が先に根を上げてしまいますわ」


幼い女王は冗談交じりに言って優雅に立ち上がり、リラに向かって手を差し出す。

リラは驚き顔のまま嬉しそうに微笑み、その手を取って立ち上がり。

失態に気付きつつ、周囲の視線に不快を覚えていた背後の男達も、そんな女王を驚いた様子で見つめ――いつの間にかその怒りを霧散させていた。


「お連れの方々もどうぞ楽になさって。遠路はるばるようこそアルベランへ。女王としてあなた方を歓迎致しますわ」


彼等は一瞬顔を見合わせ、ヴィンスリールが片膝を突く体勢へと入れ替えたのを見てそれに倣う。

彼等にあった緊張も僅かに和らぎ、クレシェンタは満足げに頷いた。


「悲しい過去によって長く断絶された両国の関係――それを新たな未来のためと、こうしてそちらから歩み寄って頂けたことを、心から嬉しく思います。わたくしも気持ちは同じく、これよりは対等なる友として、手を取り合い進んでいければと心より。……きっとそうした時間が、我らを隔てた長い年月を埋めてくれるものと思っております」


リラを見て、男達を見て。

クレシェンタは甘い声音で語りかけた。


「今日はその記念すべき最初の一歩。これより数日はゆっくりと、心ゆくまで話し合いましょう? きっと話すべき事は山ほどにあるはずですもの」

「……ありがとうございます、女王陛下」


クレシェンタはリラに微笑みを返すと再び玉座へ。

全くもって作法に反した姿であったが、礼儀作法は単なる道具でしかない。

高圧的に、あるいはこうして恩を売ることで、優位な立場に自分を置き、その後の交渉全てを有利に運ぶ。

間抜けを晒した彼等に対する善意や憐れみなどと言うものは彼女に存在していなかったが、少なくともこうすることで場の空気を握ることが出来るのならば無意味ではなく。

結果が伴うのであれば、彼女は自分を善人のように見せかけることを何より好んだ。


ちらりと自信ありげに姉を見て、そんな妹にクリシェは微笑み、頭を撫でようと手を伸ばしかけ――周囲を見て、その手を止める。

クレシェンタにはそれで満足であった。

後でたっぷり褒めてくださいまし、などと囁いて、そのまま玉座へ腰を下ろした。


「事情については姉上より。結果としてこのような素敵な始まりを迎えられたことは喜ばしいこととは思いますけれど、個人とは言え王国貴族にある者が貴国に足を踏み入れた事実に変わりはありません。まずは貴国への非礼について、女王としてお詫びを」

「お気遣いなく、それはここに至って無用な言葉でしょう。人の身でありながら人を超え、聖霊にさえ認められし武勇と意思。聖霊を慕い、武を尊ぶ我らにとって、クリシェ様は聖霊ヤゲルナウス様と並び等しく、尊敬すべき武人であります」


リラは先ほどの一瞬のやりとりに、女王とクリシェの近しさを感じ取って微笑む。

家柄出自に重きを置くという王国――懸念はそこであったが、少なくとも公私において二人は仲睦まじくあるのだろう。

そのことへ小さな安堵を覚え、言葉を紡ぐ。


「飾り無く身一つで聖霊が御前に立ち、心身を晒して恥じること、臆することなく。この眼で見たそのお姿、在りようはまさに我らの目指す理想と言うべきもの。……このような場では大国アルベランの長たる女王陛下に対し無礼と取られるかもしれませんが、我らは聖霊の盟約者たるクリシェ様個人に対し忠誠を。これは国という枠組みに囚われぬ、個々人においてのもの」


国交の回復はクレィシャラナの有力者を集めた会議で決まったこと。

族長アルキーレンスをはじめ、あの場に居合わせた戦士達の言葉は大きく、それに耳を傾けた長老の理解もあってこのような形にはなったものの、それに難色を示したものも当然多い。

聖霊と盟約を交わしたクリシェという個人に敬意と忠誠を向けても、それはクレィシャラナが王国に対してのものではない――今回その一点は決して譲るなという厳命もあった。


「当然、貴国に対し我々がその責を問うことはありません。もちろん今回こうして謁見を願った理由はクリシェ様に……しかし、それは今後のクレィシャラナとアルベランの関係とは無関係です」


今にも伝わる根深い因縁がありながらも、こうして彼等と国交を開くことが認められただけでも驚くべき事で、喜ぶべき事だろう。

しかし文字通り無礼とも取られかねないその言葉をどう告げるかが悩みの種で、なんというべきか思いあぐねていたのであるが、しかしこの女王の姿を見ればその不安も和らいだ。

そんな言葉を無礼と取らず、そうした事情は了解してくれるだろうと。


「理解しておりますわ、リラ様。これは単なる一つの切っ掛け、長く断たれたアルベランとクレィシャラナですもの。国と国としてはまさにこれから。……けれどこの切っ掛けが、両国の間に積もった雪を溶かす、春の兆しとなればと思いますわ」


時期としても丁度良いですわね、と、クレシェンタは指先を天に。


「雪解けの春を今か今かと待ち望み――丁度そんな季節ですもの。わたくしは凍えるような冬は少し苦手……リラ様はどうかしら?」

「恥ずかしながら、雪を間近で見るのは今回が初めてです。けれど、最初は物珍しさこそありましたが、雪解けの春が待ち遠しいというそのお言葉が今は、身に染みてよく分かります」


リラは苦笑し、クレシェンタは微笑んだ。


「積もった雪は未だ見上げるほど。けれど先ほど申し上げた通り、すぐにとは行かずともいずれ関係を深めていけば必ず。わたくしはそのように思いますわ」

「はい。同じ気持ちを抱いております、女王陛下」

「ふふ、何よりですわね。こうして、わたくしたちと同じ気持ちを抱く方がこれから先も増えていくことを期待します」


どこか凜としたクレシェンタの微笑はクリシェのそれとは違い、どこまでも力強い。

齢は十二と聞く幼い少女であるが、既に王者の風格が備わっているように感じられた。


アーナとの交流から王国の事情は多少知っている。

敗色濃厚と思われた王女派が王弟派を打ち破り、王位継承権を巡る戦いに勝利したのだと。

クリシェの存在を知った後はさもありなんとも思えたが、しかし、その姉あっての妹と言うべきか。

女王クレシェンタは年齢から考えればあまりにも出来すぎた女王であった。

全ては必然によって導かれたものなのだろうと、不思議と納得もいく。


「まずは交流から。互いに駐在員を派遣し相互理解を深めていく、というのがはじまりに相応しいかと思いますけれど……でも今日は長旅の後。そうした実際的な政治の話は明日以降、今日は顔合わせの挨拶として、また別の場で続きの話としましょうか」


クレシェンタは優美な髪を揺らし、話をあっさり打ち切ると尋ねる。


「信仰上、クレィシャラナの方々はあまり華美で騒がしい宴は好まないと聞きましたけれど……どうかしら? ささやかながら、食事の用意はしておりますの。姉上のお礼もありますし、よろしければ個人的に皆様を招待させて頂きたいと思うのですけれど」

「そういうことでしたら喜んで。お気遣いありがとうございます。しかし随分と大所帯で来てしまいましたので……」

「お気になさらなくて結構ですわ。沢山いらっしゃる方がわたくしも姉上も、腕の振るい甲斐がありますもの」


女王の言葉にその場にあった者はアルベラン、クレィシャラナを問わず驚きを浮かべ。

クリシェとクレシェンタだけが楽しげに笑った。


「こう見えて結構自信がありますの。お口に合えば何よりですけれど」

「女王陛下とクリシェ様直々の手料理を頂けるとあっては、何より喜ばしき栄誉でしょう。皆もそのお計らい、大いに喜びます」

「では、決まりですわね」


ぱん、と手を叩くと、クレシェンタはリラに頷く。


「では、また後ほど迎えを出しますわ。積もる話はそちらで食事をしながら。それまではごゆるりと、旅の疲れを癒やして下さいませ」

「はい、女王陛下。お心遣いに感謝致します」


リラはクレシェンタに対して深く頭を下げ、それからクリシェに目をやる。

視線が交わるとひっそり微笑みを交わし、リラは彼女にもまた頭を下げた。

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  2024年11月20日、第二巻発売決定! 
表紙絵
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アルゴーシュ、娘さんにも色々と苦労を掛けられてるであろう彼に、ぜひ胃薬をお送りしたいものだ。
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