残されたもの
朝から王宮はざわついていた。
謁見の間に女王クレシェンタが現れるまで、落ち着かない臣下達は顔を見合わせ、小さな声で昨晩起きた異常事態についてを口にした。
誰々が四肢を裂かれて殺されたらしい、と誰かが口にすれば、それは誤報だろう、私が聞いたのは別の誰かだと声が上がる。
誰一人事件の全貌を掴めていなかった。
誰も一晩の内に十七人の大貴族が殺されたなどとは思っていなかったのだ。
しかし会議の時間が近づくにつれ、欠けた人間が目立つ様になってくる。
彼等が事態を理解したのはそれからであった。
アーカサコス公爵を筆頭に、謁見の間に顔を出す身分を持った名だたる大貴族が十七人。
先ほどまでの会話で名前の挙げられた人間は、誰一人この場に顔を出してはいない。
無論体調不良他、様々な理由で休むことが許されているとはいえ、女王御前の会議を欠席することなどそうあることではない。
いつもより半数近くの顔が消え、誰もがまさか、と背筋を凍らせる。
先ほどまでの話を全てすり合わせ、全てが実際にあったこととしてこの状況を見るならば、一夜の内に惨殺されたのは十七人。
王国の歴史が始まって以来の大事件であった。
彼等の混乱が頂点に達した時、荘厳なラッパの音が響いた。
クレシェンタがいつも通り遅れて入場し、血の様なカーペットをいつも通りに進んで、いつも通りに玉座へ着いた。
その顔にもいつも通り、愛らしく優しげな微笑を浮かべ。
「おはようございます。皆様集まっているようですね」
女王クレシェンタはただ、そう告げた。
貴族達は顔を見合わせ、一人の勇気ある貴族が一歩前に出る。
「じょ、女王陛下。先んじてお耳に入れたいことが……」
「アーカサコス公爵達の件なら既に知っておりますわ。大変なことですわね。殺されたのはアーカサコス公爵を筆頭に十七人。由々しき事態ですわ」
クレシェンタは困り顔を作って告げる。
「恐らくこれは他国の刺客によるもの。先日の会談に乗じた凶行なのでしょう。ただでさえ内戦で乱れた王国中枢を更に乱そうと……恐ろしいことですわ」
両手を頬に当て、わざとらしくクレシェンタは言った。
誰もが背筋を凍らせた。
同時に十七人――単なる刺客程度が行える次元のことではない。
他国の王都に刺客を放ってそれだけのことができる国があるのならば、恐らく既にその国はこの大陸を支配しているだろう。
「ですが、こういう時こそ一致団結せねばなりません。こういう時だからこそ、王国の未来を見据え、進んで行かねばなりませんの。その調査に関しては……そうですわね、ミルキレス侯爵にお任せしますわ」
――これは見せしめの粛正なのであった。
誰もがそう考えた。
殺された貴族の中には、先日の暗殺騒ぎにはまず関わっていないだろう者も存在している。
殺された理由は保守派――王国の改革に乗り出す女王に、敵対する立ち位置の人間であったためだろう。
「しょ……承知致しました。女王陛下……」
ミルキレス侯爵――かつてはアーカサコス子飼いであった若き侯爵は、その紫の瞳に震えながら頭を下げた。
女王の言葉の意味は分かっている。
任せると言うことは、適当な理由を付けて終わらせろということであった。
真面目な犯人探しを求められているわけではない。
これが女王による粛正であることは、この場に居合わせる誰もが承知の上なのだ。
かつての主人、アーカサコスが殺され、自身が生かされている意味を考え、若き侯爵はただ恭順を示す様に腰を折った。
「恐らくこの後は、おじさまの流した流言を元に王家の醜聞として噂が流されるのではないかしら。そうして王宮を乱し、人心を惑わせる……他の皆様も気を付けてくださいまし。噂というのは些細な言葉から広まるものですもの、これへの対処には全員に協力して頂けると嬉しいですわ」
あからさまな口止めであった。
「これだけの大事件。どこに間者がいるとわかるものではありません。……そうでしょう?」
クレシェンタは言った後、彼等の表情を眺めた。
意味が分かっていないものは一人もいなかった。
しかし仕方ないこととは言え、恐れさせるだけではいけない。
「当主が失われ……管理領地に関しては考え直さなければなりませんわね。それに関しては後日、再度の振り分けがあると考えてくださいまし。全て王家の管理とするには数が膨大ですもの。あなたたちに協力してもらうことになると思いますわ」
死んだ貴族から土地を一部取り上げ、ここにある貴族達に振り分ける。
鞭の後には飴であった。
それは半ば口止め料に等しく、しかしそれに異論を発するものはいない。
一晩で十七人。
厳重な警備が敷かれた屋敷の中で、一人残らず四肢を裂いて殺して見せたのだ。
それだけの手駒を持った女王に逆らうことは、もはや単なる自殺であった。
「さて、まずは魔水晶研究に関する話ですわね。現在個人研究が主体となっている魔水晶の研究者達を集めて、魔術研究を専門とした魔導院を将来的に設立したいのですわ。その予算について――」
「全く、セレネ様まで寝込んでしまって。体調管理は軍人の基本ではないのかしら」
「……うるさいわね」
クレシェンタは頬を膨らませて行儀悪く。
椅子にだらしなく座りつつ、足をセレネのベッドに乗せて紅茶を飲んでいた。
ベッドで横になり、額に手の甲を当て。
セレネは、深いため息をつく。
ベリーがあんな状態になっただけではなく、クリシェは十数人もの貴族を殺した後、何も言わずに竜退治に出かけたのだという。
セレネの心労は限界を迎え、体調を崩し――その様子を不安に思ったエルーガから無理矢理に休む様言われてこうしている。
実際、一度ベッドに横になれば動く気力が起きないほどであった。
「……申し訳ありません」
「あなたが謝ることじゃないわエルヴェナ。……ベリーのことだもの、誰が止めてもあの子は聞かなかったでしょう」
エルヴェナは泣きそうな顔で頭を下げた。
一番クリシェを止められる立場にあったのは自分であると感じるエルヴェナは、深い自責の念を感じていた。
あなたが気に病まなくていいわ、と繰り返し、セレネは嘆息。
ベリーが刺された時点で、こうなることは決まっていたのだろう。
貴族殺しも大事件であったが、それすらも今となっては些細な事。
一番の問題は、クリシェの狙いが聖霊――竜にあることだ。
「どう転んだって、どうしようもないわよクレシェンタ」
「……考えても無駄ですわ」
クレシェンタは呆れた様に言った。
クリシェが竜を殺せるかどうか、ではない。
竜に刃を向けるという行為自体がまずいのであった。
竜はアーナ皇国の信仰対象。
仮にクリシェが竜を殺せたとしても、まず間違いなくアーナ皇国を敵に回す。
そしてその行いは周辺諸国に知れ渡るだろう。
攻め込む口実としては何より、そうなれば王国は東西南北全てを敵に回すことになる。
会談を含めたこれまでの遅延工作も無意味になり、山に籠もった蛮族達も怒り狂って攻めてくるに違いない。
王国滅亡はすぐ先であった。
「そうなれば本気でここを捨てて山奥にでも逃げ込むしかないですわね。おねえさまはどうしようもなくなったらそうする気なんじゃないかしら」
「あのね……真面目に考えてるの?」
「考えてますわよ。失礼ですわね」
唇を尖らせてクレシェンタは告げる。
「おねえさまの第一希望はアルガン様ですもの。それが解決するまでどうしようもないですわ。セレネ様が今から追いかけて説得出来るのかしら? ならそんな風に寝てないで、今すぐそうしてくださいまし」
「……うるさいわね」
不機嫌そうにセレネが答えた。
ベリーはクリシェに取って、一番大切な存在なのだ。
セレネは他の誰より、そのことを知っている。
「おねえさまが竜に殺されても、竜を殺してもおしまい。おねえさまが竜とお友達にでもなって、仲良く一緒に手でも繋いで帰って来てくだされば言うこともないですけれど」
「……あのね」
呆れた様にセレネが睨み、クレシェンタは再び唇を尖らせる。
「わたくしだってどうしようもないんですもの。八つ当たりをしないでくださいまし」
足でベッドをぱたぱたと、横になったセレネの体を揺らす。
揺らされるセレネはうぅ、と唸って目を逸らす。
確かに八つ当たりであった。
セレネがどうにも出来ないように、クレシェンタだってどうにも出来ない。
「皇国が攻めてきた場合のことを考えて、ひとまずセレネ様は色々考えておいてくださいまし。おねえさまがちゃんと帰ってくるなら、おねえさまは史上空前の竜殺し様ですもの。そのご威光で王国中央くらいは頑張って残せるかもしれませんわ。そーやってぐーたら寝てる場合じゃありませんわよ」
「……ぐーたら寝てないわよ」
もはや事の是非はどうでも良かった。
全てが手遅れ――セレネ達には待つ他ない。
そしてクレシェンタの言うとおり、クリシェが帰ってくることを信じて対策を練るしかないだろう。
今は恭順を見せる王国貴族、兵士達の中にも聖霊への信仰を向けるものがいることは間違いなく、信用できそうな相手は誰かと考え、取捨選択をしなければならず――考えることは山のようにあった。
とはいえ、既に赤熱しそうな頭では考えもまとまらず、セレネの頭は自分を休ませるよう訴えていた。
深くセレネがため息をつくと、クレシェンタは小さく欠伸をしてベッドに飛び込む。
そしてセレネの横へとじりじりと潜り込んでいく。
「わたくしもこのところ忙しくてちょっと眠いですわ。エルヴェナ様、夕食が出来たら起こしてくださいまし」
「え、あ……は、はい」
「……あなたね」
「一人だけ寝てるだなんてずるいですわ。わたくしだって疲れてますの」
セレネの腕を引っ張るとそれを枕に。
クレシェンタはすぐに寝息を立て、セレネは再びため息をついてその頭を撫でた。
獅子とも鷲とも言えぬ獣の大きさは、肩高五尺。
グリフィンは巨大な翼をしならせ、魔力と大気を自在に操り空を舞う。
彼等は魔獣に近しく――あるいは魔獣そのものの存在であった。
巨大とは言え、その巨体を浮かべるためには小さな翼。
けれど彼等の翼は魔力によって、風を操り空を舞う。
魔獣と異なる点は人に慣れること、そうして空を飛ぶことにしか魔力を使えぬところであろう。
彼等が空を舞う原理を深く研究していけば、宙空に描かれる魔術式――魔法に通じる発想が得られることは確かであったが、生息地はこのクレィシャラナと人里離れた未開の地。
少なくともこの時代では彼等が空を舞うことを疑問に思う人間はおらず、そういう特異な獣なのだと単純に理解されていた。
当たり前の事実に対して疑問を持つことほど、難しいことはない。
小鳥であっても羽ばたけば飛ぶ。
ならば巨大な翼を持つグリフィンならばその巨体を飛ばすことも不自然なことではなかったし、そして原理を知らずとも飛んでいるのだからそれで良い。
誰もが知り得る事象に対して、その理屈に目を向けるものこそ天才と呼ぶべきものなのだろう。
特に文明的な進歩を拒み、外の世界と隔絶されたクレィシャラナの人間――そのことに対し疑問を覚える者はおらず、彼等にとってグリフィンは空を舞う馬と変わらぬ存在であった。
馬とは違い空を飛び、獅子の如き体躯は人のそれを圧倒し、槍を前にも怯えない。
彼等にとってグリフィンはそれだけで疑問の余地なく友たりえる。
勇壮なる牡のグリフィン。
その腰に跨がる三人の男――クレィシャラナの戦士達は眼下に目をやり、驚きを顔に浮かべる。
「おい、こいつは……」
「藍鹿か?」
「警戒しておけ、食い荒らされた跡がある」
大地を覆い隠す一面の森、しかしそこだけは大きく拓けていた。
そこにあるのはへし折れた木々と、その中央に横たわる巨大な肉塊。
上空から槍を構え、警戒しながら男達は降りていく。
「……間違いなく藍鹿だな」
その隊長らしき長身の男は、その整った顔に険しいものを浮かべた。
鉄の胸甲に手甲と脚甲、下は乗馬ズボンのように腿の膨らんだ、厚手のしっかりとしたものだが、上には服を着ないのが普通なのだろう。
胸甲の下には何も身につけておらず、割れた腹筋が見えていた。
戦士長と呼ばれる存在であっても、他の戦士達とは何も変わらない。
グリフィンの尾に赤布を結びつける他は鎧も服装も同様で、不必要な飾りを嫌う彼等らしい姿であった。
周囲を警戒しながらグリフィンを下降させ、その肉塊へ近づくほどに、ますます彼は眉間に皺は濃く。
顔には険しいものが浮かび始める。
その蝿のたかる腐敗臭に、ではない。
魔獣同士の縄張り争い――そうして出来上がった死体にしてはあまりに様子がおかしいからだ。
小屋ほどの大きさのある藍鹿を相手には、翠虎ですらそうは近づかない。
あるとすれば翠虎がよほど飢えていた場合くらいで、しかし今年は比較的山の実りは多かった。
当然獣は多く、翠虎が食うに困るとは思わない。
そして何よりおかしいのはその死体の様子であった。
首を何かで抉られたような痕跡があった。
明らかにそれは翠虎のものではない。
そして蝿のたかる肉を見れば、そこには誰かがそれを切り分けたような様子が見える。
青と白の体毛が斑に生えた、厚い皮が鋭利な何かで切り裂かれ、引きずり出されたらしい内臓は存在しない。
少し離れた場所に置かれた肉片――それがどうにも内臓の残りらしい。
大きな牙の痕跡、そちらを貪ったのは恐らく翠虎だろう。
「戦士長、これは……」
「……人間の仕業だな」
「翠虎が仕留めた藍鹿を食ったんでしょうか?」
「恐らく逆だ。しかし、おかしい部分が多すぎる。これだけの食い残しを放置している理由がわからん。デージ、少し周りを見てこい」
「はい」
人間が殺したと仮定し、藍鹿の死骸を翠虎が食ったとするなら、恐らくその翠虎はしばらくをここで過ごす。
まだ腐敗しきっていない大量の肉。これを置いて新たな獲物を探しには行かない。
だが、その翠虎はいなかった。
しかしこうして死体が他の獣に貪られず、そのままで放置されているのは間違いなく翠虎がここにいたからだろう。
虎や狼は翠虎の匂いには敏感だ。その匂いのある方へは絶対に近づかない。
あるいは順序が逆――それもまた同じ理由で考えがたい。
翠虎が自分の獲物を人間に横取りされることを許すはずがないだろう。
そして人間と翠虎が争った形跡も、その死体も見当たらなかった。
木々がへし折られているのは間違いなく藍鹿の仕業で、これらはそれと関係がない。
争ったとするなら藍鹿が死んだ後、であれば何かしら戦闘の痕跡があっても良い。
だがここにはそうしたものが何一つ存在せず、状況から何が起こったのかが想像出来なかった。
「……人間の仕業って言っても、こいつは藍鹿ですぜ? 藍鹿が暴れたならこんなもんじゃ済まないでしょう」
「翠虎と争ったにしても、あまりに木々の被害が小さすぎる。……首の傷は恐らく槍だ。そいつは少なくとも、一撃で藍鹿を仕留めたんだろう。信じられないことだがな」
「まさか」
「そのまさかとしか思えない。腹の裂き方や肉の切り取り方――完全に人の手によるものだ。戦闘の痕跡がそこにしかないことを見ればそう考えるしかない」
戦士長――ヴィンスリールは腕を組んでそう告げる。
木々を薙ぎ倒して暴れまわる生きた藍鹿を昔見たことがあった。
それを一撃で。
果たして自分に同じことが出来るかと考え、すぐに首を振る。
本当にこれをやったのが人であるならば、尋常な腕ではない。
「戦士長、こっちの藪に焚き火の跡です。小さなものですが……」
「小さい?」
「はい、恐らく使っていたとしても精々数人くらいでしょう」
ヴィンスリールはそちらに向かう。
小さな焚き火跡が一つそこにあり、そして足元に目をやり眉を顰める。
「馬の蹄だな」
「……馬。ということは」
「王国の人間だろう。皇国の人間ならばこの辺りは通らない」
クレィシャラナの人間は馬を使わない。
馬がいると言うことは間違いなく平地の人間だった。
周囲に目をやる。
枝葉や草の倒れ方を見れば、そこで寝起きしていた人数もわかる。
その痕跡は一人分であった。
「……リラ様はもしや、そいつに捕まったんじゃ」
「せめて、そうであればと思うよ。それなら少なくとも、命までは奪われてはいまい」
昨日から帰ってきていない妹――リラの捜索に彼は来ていた。
リラはグリフィンを連れている。道に迷っても帰れない理由はない。
であれば翠虎か何かに襲われたとしか考えられず、この捜索は半ば敵討ちと遺品探しのつもりであったが、この状況は彼を混乱させていた。
「どうあれ、ここにある痕跡は一人分だ。少なくともここじゃない。……少し危険だが、この馬の足跡を追いたいと思う。リラのことも心配だが、これを放って置くわけにはいかない」
「わかりました。デージ、一度報告を頼む」
「はい。では――」
「戦士長!!」
空から響いた声。
藍鹿の死体が置かれた場所へ戻ると、一人の男がグリフィンと共に降りてくる。
「……これは」
グリフィンに乗った男は眉を顰めてその死体を眺め、近づいてきたヴィンスリールに目を向ける。
「……人の手で狩られた翠虎が二頭も見つかったので、慌てて報告に来たのですが」
「呆れるな。……どうにも、この藍鹿もそうらしい」
「こっちも混乱してます。翠虎相手に戦った痕跡も何もなくて……一頭は頭が砕けて、側に壊れた槍が落ちていたのですが」
「投槍か?」
「いえ、白兵槍ですね。先端に鉄芯を通した丈夫なもので……後ろの木までがへし折れて、何というか、人間がやったとは思えないような有様です」
信じられない、といった様子で男は語る。
ヴィンスリールは眉間に皺を寄せた。
常軌を逸していることは確かだった。
「観光に来た単なる王国人、というわけじゃなさそうだな」
「はは、仲良く握手でもしに来たって訳じゃないでしょう。今山にいるのはどうにも、翠虎どころじゃない化けもんです」
冗談めかして、けれど男は真剣な顔で言う。
ヴィンスリールもまた、真剣な顔で尋ねた。
「……王国の軍ではないな?」
「ええ、念のため平地を見に行かせてはいますが、少なくとも今のところそんな雰囲気はありません。寝起きした痕跡はありましたが小さなもんで」
ヴィンスリールはほんの少し安堵を浮かべた。
とはいえ、気を抜くことは出来ない。
「俺はこのままこの足跡を追う。すまないがそのまま戻って族長に警戒するよう伝えておいてくれ。女達もどこかに固め、何が起きても対応出来るようにしておいた方がいい」
「わかりました。すぐに」
男はそのまま空へ。
見送ったヴィンスリールに困惑した二人が尋ねる。
目には若干の怯えがあった。
翠虎や藍鹿を軽々と仕留めるような相手、無理もない。
「お前達はグリフィンで上から探ってくれ。俺は下から。……安心しろ、十二分に気を付ける」
「っ……はい」
二人がグリフィンに跨がり低空に。
ヴィンスリールは馬の足跡を見ながら、愛鳥に跨がり手綱を引く。
「何か感じればすぐに飛べ、リットグンド。お前が頼りだ」
ヴィンスリールは木々の中、グリフィンを走らせる。
この先に何があるのかと、愛用の槍を握り締めながら。