第二話 『伝説の男』
2198年
~特務機関SNK内
「おう。カル。」
「ああ、爺さんか。」
「どうじゃった?リンダの様子は。」
「いや。よく分からねー。俺には分からねーよ。
とにかく真剣だ。真剣だから、何も言えねー。
リンダちゃんのことだ。考えもあるし、策もあるんだ。
それを実現する能力もある。
俺らは見守るしかないんじゃねーか?」
「そうじゃな。それは分かっとる。
じゃから、心配なんだ。」
「・・・。」
「あの子は恐らく、絶対的な正義を持って、
世界を変えようとしている。
その向こう側に何があったとしても、
今の世界よりはマシな未来が来ると信じている。
自分の身は二の次にしてな。」
「どういうことだ?リンダちゃんは何をしようと・・」
「それはわしにも分からん。」
「あの昔話・・」
「ん?」
「爺さんが昔してくれたおとぎ話しだよ。
リンダちゃんはそれを信じてる。」
「ああ。あの話か。あれは事実じゃ。」
「!?」
「100年前の伝説の男。
1万ものバケモノを斬ったクーデターの首謀者。
1億ドレンの賞金首。そやつは実在の人間じゃ。生身のな。」
「・・まさか・・。」
「リンダはワシには何も言おうとしない。
この老いぼれに心労をかけまいと必死じゃ。」
「爺さん。
その話がリンダちゃんの考えてることと関係があるとしたら・・」
「分からん。分からんよ。
あの子には自由にさせてあげたい。
あの子の力は世界を救うかもしれん。
だが、ワシは、
ゲリアス司令がリンダをどう考えているのかが心配なんじゃ。」
「爺さん!やっぱり指令の噂は本当なのか!?」
「知らん。ワシはリンダを救いたい。それだけじゃ。」
「・・・。」
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SNKチーフ室前
「ふふ・・ふふ・・・。うふふふ・・・。」
リンダのいる部屋の中から不気味な笑い声が聞こえる。
隊員達は部屋の中を覗き込みながら小声で話している。
ヒソヒソ・・・
「おいおい。最近のチーフ、おかしくねーか?」
「ああ。仕事中はブツブツとメカの配線を考えてるし。
急に自分の部屋にこもったと思ったら不気味な笑い声が聞こえてくるし・・。」
「なんか機嫌がすこぶる良いような・・。そうでないような・・」
「おい。お前、声かけろよ。」
「嫌だよ。こえーもん。」
「俺もイヤだ。あんなチーフ、見たことねー・・。」
「なんか裏があるぜ。」
「ああ・・。」
「うぉ!?なんか本にチューしようとしてるぞ!?」
「んー・・。チュ。(はぁと)
うふふふ・・。うへへ・・・。」
ヒソヒソ・・
「(うぉー!?こえー!!気色悪ぃー!!)」
「(なんだ!?あの微笑は!?なんだこの悪寒は!?)」
「(恋か!?恋なのか!?)」
「(そうだ!そうに決まってる!)」
「(しかし、あのカオは正気には思えんぞ!?)」
「(魔物だ。魔物に憑かれてるんだ。)」
「(いや、新たな実験やもしれん)」
「(謎だ。)」
「(しーっ!やばいぞ。このまま放っておいたら
1人でスゴイことをし出すかもしれん。)」
「(1人でって・・・?)」
「・・・・・・・・。」
「(ゴホン。それはいかんな。
危険がないようにこのまま見守らねばなるまい。)」
「(その通りだ。ジっと見守ろう。)」
「(うん。人類のためにもそうすべきだ)」
「あら?君たち。そこで何をしてるのかしら?」
リンダは振り返りざまにドアのすき間から覗き込む隊員達に言う。
「うぁ!?」
「いや!!あの!!」
「違うんです!俺達、何も見えません!見られちゃいけないんです!」
「そう!あれです!あの、室内演習!隠れ身の術!」
「そう!のぞk、」
「の、のぞましい戦闘のための自主練です!ジャパニーズニンジャの!」
「それ!常に敵の背後に隠れ、オナ、」
「あいや。お、おなじ、戦士として、アレでして!」
「おい。押すなよ。」
「うぁ!?押すなって!!」
「うぁーーー!!」
ドタドタ
一斉に数十人の隊員達が将棋倒しになる。
「・・・。そう。機械工なのにトレーニングとは関心関心。
キミタチ偉いわね。でも、仕事さぼっちゃイヤよ。うふふ・・。」
ウィーン
ブシュー
リンダは部屋を後にした。
「・・・・・・。」
ザワザワ・・・
「・・・・。なんだ・・・?」
「だ、誰も殺されなかった・・。」
「仕事さぼってたのに・・。」
「あんなとこ見てたのに・・。」
「どうしたんだ・・?チーフ・・」
立ち上がり、ぼう然とする隊員達。
「・・うふふ。もうすぐよ。
もうすぐ会えるわ。・・・勇者さま・・・。」
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2099年
荒れ果てた大地。
建物が陥没してできた渓谷。
見るからに凶暴そうな3人の男が崖の上から谷を見下ろしている。
そのうちの1人が双眼鏡を取りだし仲間に渡す。
「あれだ。あの男だ。」
「あのデカイ奴ですかい?」
「いや。赤髪の小さいほうだ。」
「!?あれが!?」
「そうだ。あれが1億ドレンの男。」
「まさか。あんな小せーのが!?」
「間違いねー。ちゃんと調査済みだ。」
「お、俺にも、み、見せて、く、くでよ!」
「ほらよ。」
「ほっほ。うへー。あ、あでが、う、うわさの、お、おとこ。」
「ああ。あいつをヤる。」
「え!?親分、ああゆうのが趣味なんですかい!?」
「そうなんだよ。俺ってば、小さくて細い子が・・って、お前はバカなんだろ。」
「すいやせん!」
「お、おでも、おと、おと、おとこは、い、」
「でだ。報酬は俺が半分。お前らは残りを山分けしな。」
「ええ!?そんな殺生な!?」
「バカ野郎。
お前らの仕事はサキタさんとこにアレを引っ張ってくだけだ。
アレをやるのは俺様だ。」
「お、親分がやるんですかい!?
あんな小せーの、俺らでも一発ですぜ?」
「まぁな。だが、あんなでも政府のお尋ね者だ。
万が一ってこともあるしな。
それに俺様が倒せば、サキタさんにほめられ、我が山賊ピロピロ部隊も一躍有名になる。」
「さすが親分!ピロピロバンザイ!」
「お、おで、おでも、た、たお、」
「でだ。ヤツはセスナっつー足が無けりゃ、ただの賊だ。
そこで、ヤツの足を抑える必要がある」
「こうですかい?」
「そそ。こうやって、足を腕で掴んで、もう離さないぞコイツめ~!
って、お前はバカ1番だろ。」
「すいやせん!」
「セスナを見張っておけってこった。」
「さすが親分!ずる賢い!」
「ずるは余計だ。ずるは。」
「すいやせん!でも、飛行機が見当たりませんぜ?」
「・・・・。俺には見える・・・。」
「お、おでも、ピロ、ピ、ピロ、」
「でだ。・・・・。」
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~空賊第2アジト渓谷 第二発着所
「イーチ!ニー!サーン!」
空賊の子供たちは剣術の稽古に励んでいた。
「なぁ。ロブ。俺たち、いつになったら空賊に入れてもらえるのかな?」
「そうだなー。
タケルは強くなったら飛行機乗りにしてやるって言ってた」
「いいよなー。ロブは。タケルさんと話ができて。
俺なんかまだ1回しか見たときねーもん。」
「うちが近所だったから、昔からの付きあいなんだよ。」
「しょーがねーかー。タケルさん忙しいもんな。
リーダーって大変だよな」
「うん。でも、俺はいつか空賊のリーダーになってみせる!」
「そうだな。その赤髪はリーダーの証だもんな。
俺はその時、お前を支える参謀になってやるぜ。」
「おう!」
ジャリッ
「やぁ。坊や。」
「!?誰!?」
ロブは振り返りざまに言う。
「お前が1億ドレンのお尋ね者か。」
「え!?」
「ちーせーちーせーとは聞いてたが、
こんなに小さいとは・・・ってガキじゃねーか!!!!」
「だから何だ!?やんのか!?ガキをなめんなよ!」
「政府もたいしたことないのぉ~。
こんなガキにやられてるとは。こりゃやるまでもねーな。
サキタさんも、なんでこんなのにこだわるんだか・・」
「!?」
「ほらよっ。」
「おろせ!おろせよ!」
大男はロブを軽々と小脇に抱えた。
「おう。そこのガキ。賞金首はいただいたぜ。じゃぁな。」
「ロブ!?」
男は谷の上に向かって立ち去って行った。
「あ・・・あ・・た、大変だ!
アル!!アル!!!ロブが!!」
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空賊のアジトから少し離れた谷の上。
「うっへっへっへ。チョロいもんだったぜ。
まさかこんなガキとはな。」
「親分。やりましたね!これでピロピロ部隊も・・」
「ピ~ロピ~ロ♪ピ~ロッピ~♪お金持ちだピ~ロッピ~♪」
男達は踊っている。
「お、おでも、な、なか、なかまに、、」
フゥ~~~~~ン
フゥ~~~~~~~~~ン
フゥ~~~~~~~~~~~~~ン
「なな、なん、なんだ、な。あ、あで、あでは。」
「なんか、こっちに近づいてきますぜ?親分。」
「ほっとけ。鳥かなんかだろ。それより、コイツを届けねーと」
「んーんー!!」
男はロブの口に布を噛ませた。
フゥ~~~~~~~~~~~~~ン
フィ~~~~~~~~~~~~~ン
グォ~~~~~~~~~~~~~
「なんか、鳥じゃないみたいですよ。」
「あ?」
「だって、人が乗ってますし。」
「じゃ、飛行機かなんかだろ。」
「まぁ、そうみたいですね。」
男はロブの腕をヒモで結んでいる。
グォ~~~~~~ン ブロロロロロロロン
「なんか、飛行機の上に人が立ってますね。」
「まぁ、人も立つこともあるべーよ。」
「いや、なんか飛び降りましたよ。」
「まぁ、降りることもあるべーよ。」
「凄い早さでこっちに向かって来ますぜ。」
「まぁ、向かってくることもあるべーよ。」
男はロブの足をヒモで結んでいる。
シュバッ
「あ、なんか、ドモリが斬られたっぽいですね。」
「まぁ、斬られることもあるべーよ。」
男は作業を終えようとしている。
シュバッ
「・・・・。」
「ふぅー。やっと終わった。
ん?
どした?」
「・・・・。」
「ん?」
男が振り返ると、
そこには赤髪の男が血まみれの刀を振りかざしていた。
「俺に斬られるか、
それとも俺に殺されるか、
どっちか選ばせてやるよ。」
赤髪の男はほほ笑みながら言い放つ。
「!? き、き、
貴様がタケルかぁぁぁ~~~~!!!!!!!!」
大男は目を見開き、全てを悟る。
シュバッ
「タイムリミット。」
「・・・・・。」
ドサッ
~第二話 『伝説の男』終わり
ーーーーーーー
<次回予告>
人は言う
過去を振り返ってはならないと
人は言う
過去に執着していては明日はやってこないのだと
我は思う
明日を生きるために過去の記憶があるのだと
次回『戻れない世界』
生きる証を少年は叫ぶだろうか・・・