第十三話 『喪失』
~2099年 パブロ新都心 某所
政府本拠地のある政府に守られた都市。
中心部から離れたスラムでは人々が身を寄せ合って生きていた。
「アイリーン!アイリーン!!
ごはんができたよー」
一人の幼女が小走りに近づいてくる
「うーん。アンジー。ちょっと待っててね。もう少しだから。」
緑の髪の少女が機械をいじっている
「アイリーン。
またなにかつくってるの?」
「・・・うん。・・ちょっと回線にね・・・・こうしてっと・・・」
「いつも機械をいじっているね。アイリーンは。」
「・・・・アウトプットで・・・うん・・・
なんだかね・・・こうしていると落ち着くのよ。
・・・すべてをわすれてしまえるの・・・おっと・・・」
「ここに来たときはおなまえも忘れていたのに?」
「・・・そうね。
なまえより、もっと大事な事を
忘れてしまっている気がするのだけどね・・・」
「げんきだして。さぁ、ごはんよ」
「うんそうね。アンジー。行きましょう」
ーーーー
~アンジーの家
「どう?アイリーン。美味しい?」
アンジーの母アリシアはアイリーンのカップにスープを注ぐ。
「ええ。アリシアさん。」
「アイリーン、さっきなにをつくっていたの?」
アンジーがパンをかじりながら尋ねる。
「そうねー。簡単に言うと放送局ね。」
「ほうそう?」
「そう。
電力供給が絶たれていない旧式のサーバが点在しているのが分かったから、
それらを介して音声をストリーミングする・・・」
「むずかしくてよくわかんない・・」
「ふふっ。アイリーンはほうんとうに機械が好きなのね」
アリシアは食器を片付けながら微笑んだ。
「わたしも良くわからないんですけど、
なんだか私は誰かに会わなければいけない気がしていて」
「だれかってコイビト?」
アンジーはいたずら顔で尋ねる。
「こらっ」
「わーい。アイリーンがおこったー。
あっちで遊んでくるー」
「アイリーン。無理してはダメよ。今は休息の時なの。
あなたがここへ来た時のことをよく覚えているわ。
傷だらけで意識が戻ったのは10日後・・・」
「・・・・・」
「あなたに何があったのかは分からないけれど
今はただじっとしていなさい。
いつか時がすべてを癒してくれるわ」
「・・・・わたしは・・・私の名前は・・・」
「アイリーンよ。・・・それでいいの。」
アリシアはアイリーンの手をそっと握った。
「わたしもあの子の父親を亡くしてから、時間が止まってしまった。
でもアンが大きくなるたびに思うわ。
はじめから父親なんていなかった。のだと」
「・・・なぜ?」
「彼はわたしたちを捨てたのよ。そして死んで行った。
そんな人にわたしたちの時間を奪われているなんて嫌気がさすの」
「・・・・・」
「レジスタンス同士の内乱だったわ。
クーデターなんてわたしたち家族に何も関係がないのに。
わたしたちはただ家族3人で過ごせればそれで良かったのに。」
「・・・・アリシアさん。・・・わたしは何も覚えてないけれど、
でも、わたしがここにいるのは家族のおかげだと思います。
それだけは心で感じるの。」
「・・・アイリーン。
いい子ね・・。ずっと・・・・」
「・・・?」
「ずっとここにいてもいいのよ?」
「・・・・ありがとうアリシアさん。
でも、わたしは思い出します。
全てを思い出して、止まった時間を動かします」
「・・・アイリーン・・」
ーーーーー
フォゥーーーーーーン
フォゥーーーーーーン
外から大きなサイレンの音がする
「空襲!?」
アリシアは立ち上がると窓を開けた
大勢の声が聞こえる
「避難だ!!南西門から幻魔襲撃!!」
「女子供は避難所へ!!」
「逃げろ!早く!!」
外では人々が逃げ惑っている
「アイリーン!アンジー!すぐに用意して!」
アリシアは振り返ると叫んだ
「アリシアさん、これはいったい?」
「幻魔よ。この町が政府のお膝元と言ってもここは町のはずれ
警備も手薄でたまにこうして入り込んでくるのよ
・・・そう。あなたは『はじめて』なのね」
「げん・・・・ま・・」
「とにかく早く避難するわよ」
「え・・ええ。」
アリシア達は扉を開け放つと避難所へ走り出した。
「アンジー走れる?」
アイリーンが手を差し出す
「はぁはぁ・・うん!だいじょぶ!」
ドゴォーーーーーンン
近くで爆発が起こっている
「きゃぁ!!」
「アリシアさん、だいじょうぶですか?」
「ええ。だいじょうぶ。ちょっと足をひねっただけよ・・・」
「あそこに緊急避難所が・・・」
「・・・いたた・・・」
アリシアは足をひきずっている
「ママ・・・いたい?」
アンジーは心配そうにアリシアの足を見つめている
「だ、だいじょうぶよ・・・」
「きゃぁーあの子が!!!」
女性の叫び声
「ママァーーー!!」
女の子が幻魔に捕われている!
「あれが幻魔・・・なんだろう・・この感じ・・・」
アイリーンは初めて見る幻魔を見つめている
「アリシアさん、女の子が化け物に捕まっているわ!
わたし助けてくる!」
走り出すアイリーンの手をアリシアは掴んだ
「何を言って・・いるの!?
もうあの子は助からないわ残念だけど・・」
「残念と思う前に・・・」
ダッ
アイリーンは走った
「(幻魔・・・あれは機械式・・・AIで動いているの?
だいぶ旧式ね・・・
P108型に似ているけれど、稼働式のバルブが
何らかの役目を・・・・
って、あれ、なんでそんなこと・・・)」
「キャアーーーー誰か!誰かあの子を!!!」
女性が叫んでいる
「も、もうダメだ。逃げろ!逃げるんだ!」
男が取り乱す女性に声をかける
「嫌ぁーー!誰か助けてぇー!!」
「お、おれぁ、知らねぇー!」
男達は逃げて行った
幻魔は女の子を放り投げた
「うぁっ!」
ドガッ
女の子はぐったりと横たわっている
ドクン
ドクン
ドクン
「やってしまったのね。私の前で・・・」
幻魔が振り返るとそこにはアイリーンの姿が・・・・
ーーー
~第十三話 『喪失』おわり
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<次回予告>
キミが産まれた時にキミは愛をもらっただろう
キミがここにいるのは誰かに愛されていたからなんだ
キミが誰かを愛した時、キミは誰かを生かすことができる
次回『愛の形』
今そこにいる愛。今ここにいない愛。