はじまり。
車駅出て、西側のロータリーに向かい、喫煙所前の自販機のベンチに俺たちはたむろした。
幸い、吉田は野球部が休みの日は時々三人で帰っていた。
「其れで話の続きなんだけど、」「ぶっちゃけ、興味なくしたんだけど」
「ここは熱く自分語りするところだろ、変身中に攻撃するようなもんだぞ」
「そう私、図書館に本返してくるわ」
御影は俺の渾身のギャグをスルーして、ロータリーをそのまま東口に向い、信号を超えたところにある四民図書館に行ってしまった。
「あいつ、俺に興味なさ杉だろ…」
「興味無いんじゃくて、時計と同じ高校で悔しいんだって、」「あいつ、まさかそれで読書をするようになったのか」
「結構熱心に読むようになったみたいだよ」
吉田は若干口から笑みが零れていた。
「めんどくさすぎだろ」
「まあ、がんばれ、銀時計。」
あいつを怒らした事に心当たりが多すぎて、どれでライバル意識燃やしてるかわかったもんじゃなかった。
「馬鹿呼ばわりしたやつと同じ高校なんだ、ある意味自業自得だろ」
「まあ痴話喧嘩はそのくらいにして、話の続き教えてよ。」
ほんとはお前に気があるんだけどな、とはとても言えずに俺は続きを話した。
春の風が強く吹き、俺は鼻が痒くなりくしゃみをした。
「ん、何の話だっけ…そうだ。三人とも一時期もめた時期が合ったんだ
「へー。時計はともかくとしてあの品のいい二人が揉めるのか」
吉田は初めて受け流して聞いてたベンチに背もたれをしていた姿勢を前かがみに移した。
「それだがな、あの遊びに帰りの後のことなんだけど。
『いやー今日も遊んだな。勝ち組ってああいう風に決まってくんだな、社会の縮図だな』
『銀野はいいな、いつも楽しそうで』
『お菓子も出て、涼しい家で好きなゲームできることは天国だろ』
『俺はずっと地獄だけどな』
『ゲームでずっとお前勝ってんじゃん、なんか気に障るけど』
『時計気づいてないのか、俺ゲームの外で戦ってずっと負けてる』
家院は視線を下げて、少しはき捨てるように言った。バツが悪いようだった。
『ゲームの外っていかさまんことか』
『お前いい加減にしろ』
『俺の気持ちわかってるなら、少し自分のエゴを控えてくれ』
『意味がわからない。俺がいつお前に迷惑かけたのか』
『お前なら気にするなって言うだろうな』
『そうだな、お前らしくいけばいいんじゃない』
『うるさいなぁ。なあ、時計勝負しないか』
こいつが何を言いたいかうすうすわかってたんだ。ただ、3人は友達で俺にとって区別できないものだったんだ。家院も気持ちは正直にわかっていた。ただ、なんでもないように『らしく』あろうと努力していただけなんだ。吉田いわくそれだ御影と戦争する悪癖らしいが、ガキの俺には理解できなかったんだ。
『だカーラー、意味わかねって、でも俺もイラつくから乗るわ』
『俺が勝ったら直から手を引いてくれ』
割と臭い台詞が家院から飛び出して、わかっていたこととはいえやはり驚いた。
『じゃあ、俺は勝ったらお前のそのさもしい台詞を風花に伝えるわ』
『…』
『…』
お互いに簿をとめて、睨み合ったままだった。
家院は握りこぶしを必死に抑えていた。育ちのいい彼が手をあげることはとうとう無かった。
俺は振ってわいた怒りに戸惑いを覚えたが、彼ほどの怒りは無かったのが幸いだった。
『三本勝負』
家院はそう端的に呟いた。
『なにで』
俺はただ押されたくないばかりに冷たく返した。
『学校、週末プール開きがあるだろ』
『ああ』
『自由時間にクロール25mで先に着いたほうの勝ちでどう』
『別に構わないが、お前かなづちだろ。負ける気がしないんだが…』
俺は正直あえて苦手分野で勝負してくるこいつの気持ちがわからなかった。
彼なりの正々堂々の意味合いがつかめなかったんだ。
とにかく、俺は溜飲を下げたかったし、二つ返事で承諾した。
『わかった、お前のそれに乗るわ』
吉田、そんなわけで俺たちは勝負にすることになったんだ。
」
「そんなことがあっただねぇ。で、伝説の告白回に繋がるわけだ」
「思い出したくも無い…」
「良かったよあれ、あれでクラス皆一気に仲良くなったし」
「そうかぁ、俺は散々だったけどな」
吉田は今でも面白いのかくつくつ笑っていた。こいつが人を見て笑うことなんて珍しく心を許されていると俺は思うことにしている。
ブレザーだらしなく着ている俺と違い、吉田は校則をきちんと守る男だ。
そういう奴が悪く笑うことを見るのは正直悪い気分じゃない。
「其れで話の続きは、」
「ん、それがな」
続く。