昔の話
一話、二話回想ややこしいか。ちょっと間に一話挟むかもしれない。
旨くまとめられない今度する!
「
まだこの辺りじゃイズミヤっていう地域密着型のスーパーが無敵だった。
老若男女ここに集まって商品を買ったり買わなかったりしたもんなんだ。ほんとだぞ。
その頃俺はまだちんまいガキで、自分は結構器用な方だと思っていた。
正直未だに何か噛み合わせが悪いだけで、ちょっとした拍子にまた勢いを取り戻すんじゃないかってちょっぴり思ってる。冬が過ぎて、ほったらかしエアコンが夏ごろに調子悪いみたいにさ。
そんな生意気ながきだった頃に仲の良かった友達がいたんだ。
一人は肌の白い女の子。とても明るくて、はっきりものを言う子で、とても可憐だった。
もう一人はほっそりとした男の子。とても優しく、穏やかで、そして知的だった。
彼らは何処かほかの子供たちと違っていて、よく意地悪なやつらに目をつけられることが合ったんだ。
ほとんど無いに等しい正義感が俺に火をつけて、二人をかばっていじめっ子を追い払ってやったことがあったんだ。かませ犬ポジョンをわざわざ買って出てくれた勤労のモブ達に敬意を表しつつ…。
そんなこんなで僕ら三人はよく遊ぶことになった。
小学校が終わると、近所にある駄菓子屋さんで待ち合わせをした。
結局、女の子の家で遊ぶのがいつもコースなのだけど、私服を着て外に出る理由が欲しいのだそうだ。
俺はそのとき、ややこしいなとしか思わなかったが今では少しわかる気がする。
とにかく男の子が先に来て、ちょっとしたおしゃべりをしながら僅かに遅れてくる女の子を待つ。
男の子はとても博学で同時に凄く物事に疎かった。
俺の周りで流行っているカードゲームやテレビゲーム、ソーシャルゲームも知らないし、俺たちの秘密基地も街の隅っこにあるエロ本貯蔵庫も知らない。まあ、最後のは情報通しか知らないわけなんだけど。
その代わり、街を囲う山の稜線の向こう側には、同じような街があることを教えてくれたり、電車で一駅でいける栄えた隣町よりずっと向こうにもっと巨大な街(都心という言葉を彼は俺に使わなかった)があることを教えてくれた。
単純な俺としては、彼から聞く地下迷宮があるらしい街に思い馳せていた。
遅れたやってきた女の子は青いシャツに白いセーターで無地で淡い灰色のプリーツスカート履いていていた。
俺はどきどきしたが、そういったことを女の子に伝えるなど、学校で知れたらナンパものとして、いじられ続けてしまう。
だから、「あーきがえたんだねー」みたいな、投げるなら肩からちゃんと投げろみたいな銭湯の帰りで見つけた空き地で落ちてた軟球で一緒にしてたキャッチボールでマジになる親父ぐらいめんどくさい突込みを自身に入れつつ、曖昧に反応した。
「よく似合ってる。とても綺麗だ」
普段は落ち着いて、言葉一つ一つを選んでいくタイプである男の子が、自分の気持ちを単純な言葉で表現したことに俺は驚いた。
等身大の言葉は、こんなにも人の心を打つものなのかと女の子の笑顔を見ながらそう感じた。
女の子はくるりと服を見せるように回り、少しだけスカートが浮いた。
俺はただ見ることしかできなかった。
そして、三人でこの街の中でも、閑静な住宅街が並ぶ北区の方へ並んで歩き出す。
街の風景はどんどんと木々の緑に包まれ、茶色い背の高い塀に囲まれた大きな木造建築や、打放しコンクリートの近代的な3階建ての家が立ち並んでいる。
傾斜が僅かな坂道、穏やかな風が肌に触れて下っていく。
ここだけ時間がゆっくりと流れていて、全てがまどろんでいるのだ。
そして、この界隈でも一際長い、10メートルはあるんじゃないかってくらいの塀に囲まれた三角屋根が女の子の家だ。
最初この家に遊びに来たときには本当に驚いたんだ。
玄関をくぐると、もこもことした生き物が足元にやってくる。毛に覆われたこの小さな生き物の名前を女の子に尋ねると、ポメラニアンという犬種だと言われた。
おかしな名前だと俺は思った。
そして、もっとおかしなのは塀の中に木や池や大きな石があることだった。
玄関に入ると、3階の天井まで吹き抜けになっていて、各階から見下ろすことができた。
俺は漫画の世界だと思って、男の子の反応を見たが特に驚いた様子ではなかった。
「二人で先に部屋に上がっていて欲しい。飲み物を用意してくるから」と言われたので掃除の行き届いた肌色の木製の階段を上がった。今では、指で数える以上にこの家に来ているのでなれたものだ。
そして、彼女が理由を最後に添えるクセがあるのも良く知った。俺との 唯一の 共通点だ。
二人は二階の上がって、二つ並んでいる扉のうち、奥を開けた。
黄色い大きな楕円のテーブルには、いつもよく遊ぶボードゲームがおかれている。
それは、サイコロを使ったゲーム。今でもなんていう名前だったか思い出そうと試みるんだけど、ごめんどうしてもわからないんだ。
・子音が書いたサイコロ
・母音が書いたサイコロ
・文字数が書いたサイコロ
・最後にお題(科学・食べ物・地理歴史・芸能・日常..etc)が書いた盤
基本的に1ゲームの勝者がお題を決め、3つのサイコロを投げる。
子音K+母音A+文字数6+お題「日常」=かかあ天下
みたいにさ。いや、出す例おかしいだろうよ!
先に単語や名詞を言った方がその1ゲームの勝者。勝者が新たなお題を盤の上で指差し、サイコロを振る。
あとは繰り返すだけ。
お互いに知っている語彙でないと納得がいかないわけで、上級者といえども特別有利なわけではないと思う。
七回に一度は勝った。恥ずかしいばかりであるが。
そんなこんなで、遊んでいると扉が開く。
女の子と思って扉のほうを見ても、誰もいない。
その代わり、毛で覆われたかわいい生き物が入ってきた。
俺よりも扉の近くに座る男の子が手広げて、ポメラニアンと呼ばれる犬を迎え入れようとする。
が、犬は男の子を素通りし、わざわざ俺のひざに座る。
それを視界の端で確認し、M+O+5字+日常を考えた。
「あっ。もるたぶ!」
どや、と俺は彼のほうを見た。はじめての二連勝じゃね~~みたいな気安い感じで。
彼は顔の表情をなくして、ただじっと犬を眺めていた。
全くいつも男の子とは気配が違った。
こんなに切実な感じは初めてだった。
そういえば、一度もこの犬と男の子が遊んでいるところを見たことが無いと思った。
「どうした…」
男の子が顔上げ、口を開こうとしたそのときに女の子が入ってきた。
お盆に載せた背の高いグラスを、僕らの前においていく。
「…?どうしたの。」
サイコロの目と盤を確認して、再び口を開いた。
「も、で五文字で日常かぁ」
「もるだぶ!だよな~」
「いや、日常系だから!日常ではないよ!」
「えぇ日常にカウントしてもよくない。傷つくのやだしさ」
「なんだろう、もうちょっと日常を踏ん張っていこ?」
「麦ちゃんが好きです!」
「麦ちゃんに会うためにもブラウン菅に埋めてやろうか」
女の子はけたけた笑った。
「どう思う」
微笑む男の子に女の子が伺うように言葉をかけた。
「まずね、五文字なのかなぁ微妙なところだよ」
さっきまでの張り詰めた雰囲気は消え、穏やかな男の子戻っていた。
呆れたように眉を下げ、そう答える。
あー、と女の子は声を上げた。語尾が消え入りそうな感じで。
「あと、僕は未央ちゃんが好きです」
男の子はそう付け足した。
女の子は、男の子だねー王道だねーと呟いて。小さく小さく笑った。
少し安心した様子だった。
なんとなく、俺はサイコロを掴んで、転がした。
T+E+4字、そして少年を指差した。
「なんだと思う」
女の子に問う。
そんなの決まってるという風に、彼女と俺は答える。
「東くんはね――」
「知はな――」
天才。
二人の声が重なる。
そして、知が三つのサイコロを振る。
R+A+4字、そして少女を指増す。
「 風花は――」
「 直ちゃんは__」
爛漫。
弾むように知と俺の声が重なった。
最後に、サイコロを直は握って転がす
M+U+3字、二人して俺を指差す。
最初から決まってたかのように二人は一言も迷わずにこう言った。
「銀野は__」
「時計は__」
――無敵。
まだイズミヤがこの地域で無敵で、俺こと銀野時計が二人の無敵のヒーローだった頃の話だ。
I'm sorry
I never meant to be like this.
って昔の頃を思い出したんだけどさ~」
俺はカーブを勢い良く曲がる電車の中で、隣の少女に話しかけた。
重心がずれて、体が傾く。
「はぁ?全部妄想なんじゃないの?」
冷たくいい放つショートボブの少女の髪は窓から差し込む日の光を浴びて、ごく僅かに紫がかっていた。
「御影さん気にしなくて良いよ。こいつの世迷言はいつものことだよ。」
「待てよ。俺は昔の思い出熱語りしてただけだぞ、吉野」
続いた!続く!