第8話 「それぞれの辿り(Part.7)」
“ほふくぜんしん”って匍匐前進って書くんですね。
日頃携帯を使っていると漢字を書くということが
出来なくなることって多々あるよなぁと思いながら
書いてました。
不知火姉妹の物語となります。
ではご覧ください!
「お父さん帰り遅いね…」
不知火真夏は窓を見ていた。
話し掛けるのは自分の妹である、静だ。
本を読んで名前通りに静かにしている。
唐突に何を思ったのか狩人機関に行ってくると
言ったきり戻ってきていない。
前に何度かこういうことはあったが
今日はいつしなく遅い。
―――私達姉妹はお母さんがいなくなってから
ずっとお父さんに育てられてきた。
何を思ったか、いや……養育費を考えるとそうか。
学校というものには一度も行ったことがない。
まずお父さんは学校に行かせなかった。
でも代わりに知りたいこと、
知らなければいけないことはお父さんから知り教わった。
狩人研修学校という場所での教師をしている
お父さんの授業はそれは分かりやすかった。
とは言っても…比べるものはないけどね。
そんなお父さんが言ったこと。
“狩人研修学校に来ないか?”
私達姉妹は迷った。
私はすぐに意志は固まったが、
静は悩みながらまた悩み疲れ本を読んでいる。
ゲームなんてもしない。
集中できないのだろう。
セリフの少ない長く綴られた物語を捲っていく。
静の顔は険しくなっている。
物語が後半に迫っているのだろうか。
私は朝と昼に食べた食器を洗う。
ザーッと水をシャワーで流していると
うなり声を上げた静がいきなり本を
畳み机にたたき落とす。
バァンッ!という音と悩むような呻き声が響く。
「はぁ……はぁ……―――分からない」
洗い終わった食器を布巾で拭くがそれを
一旦止め静に踏み寄る。
「どうしたの?」
「お姉ちゃん…私どうしたらいい?」
静の顔は初めて見るようなとても悲しいような
辛そうな……心配そうで泣きそうな顔をしている。
なぜそのような顔なのか静に事情を聞くことにした。
理由はこうだ。
私、真夏には明確な理由があるから狩人研修学校に行く。
でも静はそれがない。
将来何に成りたいのかが分からない。
もやもやした気持ちで将来の設計だとか
職業だとか学科だとか。
就職だとか進学だとか。
もう意味が分からない。
「分からないの…。
どうしたらいいかどう選択したらいいか。
どうしたら困らないか。」
うん……と私は悩みながら静の頭を撫でる。
そして一緒にソファに座りながら
アドバイスをかける。
「いい?静は自分が何者なのか
見てみたほうがいい。
自分は臆病者?そういうことじゃなくて
自分の良いところを見つけるの。
私は人と接するのが好きよ?
人見知りもしないし。」
ふふんっと鼻を鳴らして
でも、と皮切りに真夏は続ける。
「さっさと見つけろってことじゃないの。
時間をかけて見つければ良い。
自分は何ができるのか、
得意なのか、得意になりたいか。
何が好きか、嫌いか。
様々なジャンルから自分に合ったモノを見つける。
それが将来ってやつだよ」
うん……難しい話だねと静は唸る。
そして静は頬をぷくっと膨らませると私を見る。
だが先ほどの機嫌よりは良い方だ。
「お姉ちゃんはどうして狩人になりたいの?」
その質問に対して私はうーんと悩む。
そうして私が決めた理由の二つ目を言う。
「なりたいっていうか……気になるって言うか?
ふふふ……そんな理由でも良いと思うよ。
それにお父さん言ってたでしょ別に狩人にならなくても良いって。
いざとなったらやめればいいのよ!」
ニヒヒと笑う真夏。
それに、静は頑張って考えてみる。
と本を手に持ち直して頭をまた悩ませようとしていた。
・
『おとーさん!』
『奥さんからのお弁当だそうですよ』
紅のフォローを片手に鬼原健一は私を抱き締める。
『真夏…一人じゃないよな?
お母さんと一緒に来たのか?』
『うんっ!下に静もいて先に来ちゃった!』
満面の笑みでニヒヒと笑うとそれに
お父さんは嬉しそうに苦笑していた。
その横で微笑ましそうに紅さんが笑う。
『なんだ?』
お父さんは紅さんに言う。
そう言うと
『いや似た者同士だなぁと』
と笑った。
溜め息混じりで
目をそらしながらお父さんも笑う。
お父さんは真夏を子供好きな紅さんに任せると
お母さんを呼びに下へ行こうとしていた。
『ねぇ、お父さん!これなあに?』
『ああ、それはだな妖刀っていう危ないものなんだ。
触れちゃいけないぞ?』
うん!と言うがイタズラ意識に触ろうとする。
お父さんはお母さんを呼びに
螺旋状の階段を下ろうとしている。
私はそこに目をつけ触ろうとするが
紅さんに止められてしまう。
『だーかーら!真夏ちゃん!
お父さんに触れちゃいけないって
言われなかったかい?』
『うーん……でも触れたい』
『だーめっ!』
そういうやり取りをしながら
私は実験室の中を見やる。
様々なフラスコやカラフルな液体を
見て凄く心を打たれる。
(綺麗だなぁ…。)
そうフラスコを見ていると紅さんが
補足するように説明してくれる。
とても表情が良くもう一人のお父さんのような顔だった。
『それはね―――えっ』
紅さんは何かを呆然として見る。
とても信じられないようなものを見る目だ。
私はその方向を見る。
さっき触ろうとした刀が浮いて…いる?
『これは……一体……』
するとその刀は植物の花が咲くように刀が
ぼろぼろと崩れ中から人のような姿の何かが現れ始めた。
女の体つきのそれは目がついている。
目はまるで私をゴミを見るような冷酷な形をしている。
『ひっ……!』
刀は私を見ながら薄く光る今出来た
ばかりであろう手を延ばした。
そして―――光る。
『危ないっ!!』
紅さんは私を包み込むようにして抱き締める。
そうしてそのまま2人はその光によって
吹っ飛ばされる。
激しい神鳴音と爆風によって紅さんも私も
吹き飛んだ場所に打ち付けられる。
私は紅さんに抱き締められていたのか軽傷で
済んだが紅さんは吐血してしまう。
そしてまたその刀は光をお父さんの出た扉に向ける。
(だめっ……!!)
そしてまたしても爆風が巻き起こり扉と
そこに触れるコンクリートごと吹き飛ばされる。
紅さんは吐血しながらも私を守るように
コンクリートを背に私を守る。
崩れ落ちたコンクリートは紅さんの両足を潰す。
声にならない悲鳴を上げそうになるが紅さんは
依然として私に笑顔を向ける。
(大丈夫、大丈夫だから)
小さい声でそう呟いていた。
だが紅さんは私を守るように抱き締める
ようにして気を失う。
それを見て刀は扉から姿を表し出る。
ロビーへと行く刀に私は必死に手を延ばす。
―――待って!そこにはお父さんと
お母さん…静が…!!!
私の意識も途切れるようにしてそこで
映像が途切れた。
次に目を覚ましたのは神々しい光だった。
紅さんは“何故か”立っていたがその光の
先には刀と思わしき女の姿があった。
匍匐前進をするように
光に手を延ばした。
そして。
『いやっ……いやぁあぁあああ!!!!!』
螺旋状階段の下、血に塗れた瓦礫の下に
お母さんらしき服と身体が。
それを抱え泣き叫ぶお父さんの姿を
私は今でも今でもその姿を覚えている。
狩人にならないか?と言われたとき私は長年の夢が叶うと嬉しかった。
それをしたモノを殺す。
そう決めたからだ。
一生をかけて自分のたとえ我が身が犠牲になろうとも、
私はアレを殺す。
それこそが私が狩人になる理由だ。
「お母さん……もうすぐであなたの誕生日です。
私は来年の誕生日に……プレゼントをするよ?
えへへ……今は準備時期かなぁ……。」
お父さんを待つように自分の部屋の
窓に顔を出して呟く。
敢えてあのとき第一の理由は呟かなかった。
言えばお父さんに狩人研修学校にも狩人機関にも
入れさせてくれないだろうしね。
「お母さん!来年の誕生日は…」
「“お母さんを殺したアイツ”を殺してくるよ」
次回からは遂に狩人研修学校に入学します!
入学テストは本来は勿論のことあるんですが
無しの方向で行きます。そして今後たまにおまけSSをつけます♪
(余力があるときと書きたいときだけ)
おまけSS
紅『だーかーら!真夏ちゃん!お父さんに触れちゃいけないって
言われなかったかい?』
真夏『うーん……でも触れたい』
紅『だーめっ!』
鬼原「紅も俺の娘に触れるなよ……?」ギロッ
紅『っ?!!なんだ今の悪寒は……?』
つづく