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"狩ル者"  作者: 工藤将太
序章
8/26

第7話 「それぞれの辿り(Part.6)」

「またやったの?」


僕、香野は兄である広一にそう告げた。

返ってくる返事はいつもの通り。

これは弱いものいじめじゃない。

俺が弱いもの扱いされてるだけのこと。

だから弱いものいじめじゃなくてただ

強者と弱者が誰なのかを分けているだけのこと、だと。

僕は思う。

それが正しいのかと。

そして僕は行動にうつす。

行動と言っても力では兄には勝てない。

言葉なら兄に勝てる。


「もしもそれを正義、悪だと区別するなら

 …広一の行動は正義に値するの?」


そう。

言えばぎくりと肩を震わせて何も

言わずただ立ち去ろうとする。

図星らしい。

広一は自ら正義だと人から言われるようなことはしない。

まぁ自分の、自分達の境遇もあるけれど

それでも自ら率先して悪いことをする。

そうしてあとで僕に言う。


『お前は俺みたいになるな、俺に背いて生きろ』


僕は昔からその言葉を信じて生きてきた。

いつしか


“喧嘩早い不良の兄”



“差別のない人思いの天使のような弟”


として。

区別されるようになった。

まぁ天使とも女神とも言われるのだが本当は男だ。


―――本当はね。


だが僕はその肩書きを嬉しく

思ったことは一度も無い。

周りが言っただけであってそれで兄がどうだとか

弟の自分はどうとか知らないし。

それに自ら率先して僕を守るために悪を演じ

続けている広一は僕にとって、

僕の人生にとって鑑のような存在だ。

対して何もしなくても兄に反しているから

僕の行動はすべて正義へと変わる。

悪の行為をすべて行う広一に反するんだ。

すべて変わってもおかしくはないだろう。

でも、それでも。


「やあ君たちが沢口兄弟ね、いや弟は

 “妹”と言っても良いのかな?」


"あいつ"が現れたときその判断は一度折れ曲がった。

僕は………それで良いのかなって思ったことがある。

けれどそのときの広一は言った。


「別にすべての行為を反しなくても良いんだぞ?」


僕はこのとき言ったことを一生忘れない。







『待ってよ!』


『あんたはいっつも遅いのよ!ほら!

 広一!香野を見習いなさい!』


広一は沢口和奏(さわぐちわかな)を追いかける。

姉の和奏とは歳が6歳離れており当時14歳、

中学2年に当たり広一と香野はこのとき8才。

小学2年生に当たる。

広一はハァハァと息を漏らしながら走り疲れている。

それを宥める和奏に遠くから香野が呼び

それに和奏は今行くよ!と叫ぶ。

和奏は汗をかきながら持ってきた水筒で水を飲み

ふぅとため息をつきながら香野の行った方向を見る。


『はぁ…お姉ちゃんあそこまでの体力無かったよ…』


『インドア派だったから?』


そう広一が告げ口すると頭を叩かれる。

痛てっ!と声を上げるとへたり込む

広一に和奏は手を伸ばす。


『ほら!行くよ!』


うぅんと声を唸りながら手を掴み

香野の行った方向へ走ると川があった。

川の上には木が植わっておりちょうど

良い日陰となっていた。

真夏日和にはちょうど良い涼み場所だ。


『ねぇ!遅いよ!』


『はぁ……はぁ……香野は早いね……』


和奏は香野を見ながらそう褒めると

ふふーんと鼻を高く鳴らしながら川にダイブする。

バッシャーン!と勢いのある音に

和奏と広一はびっくりする。

広一もこの野郎~と笑顔でまたダイブし

そのまま2人は川遊びを始めた。

それを見て和奏はまぁ、来て良かったか。

とそれを笑顔で宥めた。

のんびりと家で過ごそうとしたとき

母に注意されたのが発端。

その後弟2人が近くにある山に遊びに行きたい、

いや行くと言い出した。

それは良い!と結局私は2人を連れてこうして

山に遊びに来ている。

のんびりと家ではなく暑い日差しの中涼めるとこが

あればそこの方が過ごしやすいと考えが浮かんだためだ。

実家はそんな田舎…とは思わない。

デパートもあるし、まぁ立ち入り禁止区域は

あるけれどそれでも田舎と都会の真ん中ぐらいだろう。

真夏はこんなに暑くないのに今日は意外にも

日照りがさんさんと照らし続けていた。

だからここの日陰は不思議と気持ち良く

眠り込んでしまいそうだった。


―――そんなときだった。


スヤスヤと眠ろうとしたとき、

ある音で目を覚ます。

スッと寝た姿勢から立ち上がるとその音の方向を

見ると遠くから花火の音がする。

いや?花火?

こんな日中に?


『…何かしら…この寒気は…』


寒気?

いや確かに先程まで暑かった大気自体も冷えている。

なんだ?これ…


『和奏姉ちゃん!川が!』


川?

そして川を見るとその川は上流から

下流へと凍り始めていた。

私はすぐ2人を川から連れ戻し日差しの

ある場所まで戻る。


『あーあ!涼しかったのに…』


そう香野と広一が呟く。

私は依然として音が鳴った方向を見ていた。

すると奥から人影が見えた。

私は2人を後ろに隠れさせるとその人影を目で追う。

林の中にいる“ソレ”は2つ目玉がついていた。


『だっ…誰?』


"ソレ"を警戒していると後ろから2人ではない

ザッザッという足音がする。

2人には先程後ろに隠れるのと同時に近くの

茂みに隠れてもらった。

なのでこの場に見えるのは私一人だけだ。


『そんなに殺気を放たなくても

 "アイスマン"は襲わないよ』


その声にハッとするとボディーブローをするように

後ろにいる相手に身体を回しながら殴ろうとする。


『危ない危ない!』


そしてその男はアイスマンの目の前に立つ。

また私に背を向けながら補足する。


『―まぁ背を向けたら襲われるけど。』


そう言うと何かを呟きながら男は本を開く。

するとそのアイスマンとやらは茂みに消えていった。

ふぅとため息をつくと前を向く男。


『良かった良かった。

 茂みに隠れていてもアイスマンにはバレるからね。

 背を向けなくて本当に良かった』


黒いコートを着た汗一つかいていない男は自己紹介をする。

名前を光源闇、狩人機関の四天王という

役職に就いていると言った。

狩人機関のことは以前から知ってはいたが…


『こんな柔らかい物腰だとは』


『?』


ああ、いえ。として礼をすると茂みに

る2人を呼びそそくさとその場を立ち去りその際に

手を振っていたが香野だけが手を振り返すも

和奏はそれを止めさせ家へと帰っていった。







次の日、男はまたしても現れた。

私はまた2人を連れて帰ろうとすると

男はそれを制した。


『何ですか?』


『ああ、いや。

 アイスマンは本来危険を犯してまでも

 一般人の前には姿を見せないからさ。

 それで…気になったんだ。』


としゃがみ込み香野と広一の髪をポンポンと撫でる。

そしてふむ…と立ち上がり

どうやら2人はあのとき川遊びをしていたかな?

と図星をつくことを言った。

私は寒気を感じてその場を立ち去ろうとする、

だがその光源闇という男はその手を掴んだ。


『きゃっ!さっ、叫ぶわよ?!』


『あそこの川を危険区域と分かって2人を遊ばせたの?』


かなり危ないと言わせるような

トーンで話す男に私は引くように怯えた。

危険区域とは魔物がいるようになったこの世界で

多数目撃されているか、もしくは魔物が

拠点として居座っている場所のことを指す。

狩人機関はその危険区域と判断したところ

を潰しに回っているのだがまさかあそこの

川だったとは思わなかった。


『でっ、でも!異変なんてものは…』


『川が凍らなかった?

 ほんの少し入るまでは良いけど川の中は

 アイスマンらにとってテリトリーだから…』


そう続ける男に和奏は

肩を震わせた。

彼の話を要約すればこうだ。


“アイスマンのテリトリーを荒らした2人は

今後ここに近付けばアイスマンによって

災いがもたらされる”


と。

そうなってしまった理由はそもそも魔物が

いるからなのだが…でもこの世界でそういう

言い訳は難しいだろう。

だからこそ注意しなければならないのだが。


『…風が厳しいな…―――帰った方が良い。』


そう男は呟く。

その後ろにはまたしてもあのアイスマンと

呼ばれる者が顔を出そうとしていた。

今度こそ身体がしっかりと見え

男は私に背を向けると指示する。

そのとき私は注意深く思っていなかった。

広一と香野の存在をそのときは忘れてしまっていたからだ。


『―――っ?!おい!待て!!』


えっ?と振り返ると香野がそのアイスマンに手を延ばしていた。

また気付けば辺りはいつの間にか寒くなり

夕焼けも暗く月だけが白く輝きを放つ。

香野の身体に吸い取られるようにして身体が浮かぶ。

香野の意識とは別にそれが起こっていたからこそ

和奏は踏み出していた。

広一はその光景を身体をガチガチと

震わせながらただそれを呆然として見ていた。

香野とアイスマンが完全にくっつくと

光源闇は必死にその場に残っていた

広一を空間系のバリアで守る。

光源闇の口からは


“間に合わなかった”


とだけ広一の耳には聞こえた。

香野の身体から凍てつく吹雪が吹き始めると

それを包み込むように和奏は必死に抱き抱えていた。


『やめろ!!!』


『守る……んだからっ……!!

 たった2人しかいない私の弟を……!!』


香野の身体は体格が凹凸を繰り返すと

そのままバサッと吹雪も収まり落ちる。

香野と和奏の髪は少し水色を帯びて

その光景を眼前に光源は

広一を守りながらも狩人機関を呼んだ。







目が覚めると僕、香野は病室にいた。

近くには広一と父さんがいた。

お姉ちゃんは…いなかった。


『誰がこんなことをしたんだ?』


父さんは聞いてきた。

でも答えられなかった。


―――あのときアイスマンと呼ばれるモノは

泣いていたから慰めたかったなんて。


今も昔も到底言える話じゃない。

そしてその場をその場の責任をすべて

何も出来なかった広一が被った。


『僕がやった。』


『なに?広一…お前だとっ?!!』


と父さんは広一の頬を握り拳で殴る。

僕はそれを目の前で起こってしまい止めようとする。

だが異状な痛みで前に起き上がることができない。


『お前のせいでっ!和奏が…っ!!香野がっ!!!』


―――和奏姉ちゃんは目を覚まさなくなってしまったそうだった。


アイスマンによる僕、沢口香野に

施した呪いとによるものか。

髪と目が水色のような色に変わりながら目を覚まさずに。

狩人機関は珍しいサンプルだとして、

病を直し目を覚まさせるために和奏姉ちゃんを隔離したという。

そして僕は…女になっていた。

急性性転換症候群と医者から言われた。

その日父さんだけが帰り

代わりに交代で母さんとあのときの狩人さんが来ていた。

時間差で性が転換する病気。

12時間毎に男と女に逆転してしまうらしい。

僕はアイスマンに取り憑かれながらもそういう

体質になったとあのときの狩人、光源闇さんから聞いた。

広一が悪いとも自分が悪いとも光源さんは言わなかった。

でも自分が悪いと責め立てたのは広一だったがそれに

僕は僕の一存で勘当させないようにした。

そして時は巡る。

16歳になってまたあのときから10年経って

僕は初めて広一に背いた。

俺のようになるなと呟いた広一の言葉を初めて裏切った。


「背いたら……お前を守れなくなるかも

 しれないんだぞ?」


そう広一は言ったが悲しい顔はしないでくれ、と。

広一を宥めた。

そして広一の手を握る。


「和奏姉ちゃんを起こすためにも

 何年かかってもいい。

 狩人になって助けよう」


そう広一に言うと広一は先に言われたとして笑顔で答えた。

和奏姉ちゃんは今も目を覚ましていない。

覚ますまでに…絶対に助けてやる。

その意気で僕は広一とともに

狩人研修学校に入学を決めた。

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