第2話 「それぞれの辿り(Part.1)」
同時刻、国家公安狩人内機関:ロビーにて。
私の名前は白羅木悠。
姓は白羅木、名は悠だ。
変な名字だなと上司や後輩。
様々な人がそれを言うが私は気に入っている。
あの事件から10年経ったと思えば別に何ともないのだ。
生活も親や友達も。
生まれた時私には帰る家がなかった。
物心ついたときから独りで孤児院に生活していたし。
匿名…そう言われて大まかなことしか知らないが
なんでも私の母は高校生の時に私を妊娠し産んだという。
だがその母の彼氏は未成年、また連絡も途絶えて姿を消した。
その時はまだ私を育ててくれようとしたがその人…父はその後首を吊って死んだ。
また母は…おそらく捨てたんだろう。
でも母のことを詳しく知らない私はそれを言う資格はない。
あったとしても手には入れたくないから。
だって私を産んでくれたそのことだけでも嬉しいのだから。
そうして時間が流れ"あの事件"のあと私は帰る家である孤児院を失った。
あと数年したら出れたあの場所もそこにいた家族も。
その一瞬で失った。
白羅木『―――今でも覚えている、人間が焼かれた脂の臭い…』
失ってからはすごく大変だった。
帰る場所も家族も、お金も衣類も
すべてではないが生活するうえでのものはなくなってしまった。
あるとすれば己の体のみ。
私は女だ。
身を売れさえすればそれに見越したことはない。
当時"あの事件"のときの私は11歳。
私は身を捨てでも生き延びた。
それから6年だ。
あの人と会ったのは。
白羅木「……もしもし。鬼原さん?
……悠です。いきなりで恐縮なんですがそちらに向かってもよろしいですか?
……はい!久々に静ちゃんと真夏ちゃんに会いたいなぁと思いまして。」
電話の相手は私の一人の恩人だった。
どうやら娘を狩人研修学校に入れようか迷い
その判断を娘二人に託してしまったらしい。
話声でかなり迷っているようだった。
白羅木「―――狩研……ですか
……良いんじゃないでしょうか?
お二人とももうすっかり大人ですし?ふふふ。」
気さくに話しかけるがその実表情が固くなっているだろう、と
茶化すとそれが当たったみたいでかなり気まずそうにしているのが
声で把握できた。
しかしもう狩人研修学校に行ける歳になったのか。
白羅木「―――あの時とは立場が逆ですね、ちょっとだけ。
……健一さんもそうでうすが特に結愛さんに見習って
私は二人に助言しますよ……はい。
これから向かいますのでよろしく言ってください♪
―――はい。では」
ツーッツーッツーッ
私が路上で身売りをしたときその人と会った。
死んだ目に、暗い表情。
ー…ちょろい。こいつはだませる。
そう思って近づいた。
だが反応は私の人生の進路を大きく変えた。
健一『哀れだな』
私はカッとなった。
何故なら私は身売りをして生計し戦ってきたからだ。
でもそれしか出来なかった自分やその仲間を
一言で無碍にしたからだ。
そして殴ろうと突っかかったがスっと
相手の体がまるで無いように水のように
消えたかと思うと私は倒れていた。
健一『これは熟練技……なんてものでもない。
軽く実践すれば覚えられる……まぁ身売りしてる
お前らには時間なんていう概念はないか。』
白羅木『てんめぇ……!!』
健一『ほう、殴るか。
……良いパンチだ。名前は?』
白羅木『―――私に名前なんてない。
親からの名字も名前も知らない。』
健一『じゃあ名無しさんよ、狩人に興味はないか?』
白羅木『はぁ?』
健一『ここでくっせぇおっさんの体と身を寄せ合って
一瞬の快楽を苦しんで受けて戦うのと、
自分の力と知識。なければ実践と勇気、そして
何かに熱中する強さで敵と戦うのか。
―――どっちがいい?』
そう白髪の男は言った。