第1話 「憂鬱な日曜日」
真夏「今日の朝ごはんはフレンチトーストと
カプレーゼ、挽きたてのコーヒーだよ!」
健一「お前はパティシエか何かを目指しているのか?」
円型のテーブルに3人分の皿とフォークが置かれる。
律儀に手拭き用のおしぼり、
更には外側から内側にかけて
ナイフの刃は内側にフォークの先は
奥に向けられていた。
……まるでフルコース料理を食べる際の
テーブルマナーだ。
静「お姉ちゃん…おはよう……ふぁあ……うん……むぅ」
真夏「遅いよ~しずか!出来てるよ♪」
健一に続いて出てきたのは不知火静。
不知火家の次女だ。
まだ寝ぼけているのか目を擦りながら
パジャマ姿のまま席につき半分目が開かないまま
頭が前へ前へとかくかく動いている。
真夏「もうっ!しずかったらお行儀が悪いんだからっ!」
ぺしっと真夏は静の額を軽く叩いた。
静「んん~っ……まだ寝てたい~…ぐぅ……」
それでも静は両肘を立てて両手を合わせ握り
そしてそこから礼をするように頭を下げた。
目は半分死んだ魚のような目をしている。
真夏「うーん……ねぇお父さんどうしたらいい?」
健一「どうしたらいいって言われてもなぁ……」
いつもは起きるはずだが今日は違うみたいだ。
昨日仕事から帰ったときは既に
日付が変わっていた。
真夏は起きていて軽い夜食を出してくれたが
静は自室で勉強もといゲームをやりこんでいたそうで
俺が一度注意してもやめることはなかった。
また寝るときに見た時計の数字は4時を過ぎていたそうで。
大きくだが若干微かに聞こえるゲーム音は確かにそのときでも鳴っていた。
流石に朝起きたときは鳴っていなかったが。
そして今現在8時。
健一「静…昨日は何時までやってたんだ?」
静「今日の……6時!」
真夏「うわぁ……よくそこまでゲームに没頭できるよね……」
あれから10年経ってこの二人はある意味
大きく変わったことだろう。
健一「(―――あれから10年か。)」
静「素材集めに没頭してただけ~
本編のゲームはやってないから
私はゲームをやっていたんじゃないんだよ!!!」
真夏「意味が分からないよっ!もうっ!早く食べて!!!」
静はゲームを、真夏は料理が好きなのか……?
二人のやることについて注意は出来るが
助長するようなことがあの時からできていない。
そろそろこの二人も独立してもらわなきゃいけないが……。
健一「(ははっ、親失格だな俺は。)」
健一「―――ごちそうさま。」
真夏「あれ?お父さんもういいの?」
健一「―――ああ。あ、あと二人とも食ったら支度しろ」
真夏・静「どこ行くの!」
二人の声が揃う。
それに苦笑しながら溜め息混じりに言う。
健一「下見だ。」
・
何の下見だろうかとわくわくする二人に俺は自室に二人を連れさせた。
俺の部屋の棚にはいっぱいに本という本が埋め込まれている。
大きい机に二枚の白紙とペンをそれぞれ
静と真夏に渡し俺は椅子に腰かける。
二人にも椅子を渡し座らせた。
真夏「なに……これ?」
静「何か書くの?」
順番に真夏と静が喋る。
俺はその前に俺の勤務するパンフレットを見せる。
ペンと白紙を置かせ俺は呟いた。
健一「二人には小中学。いわば昔で言う義務教育を受けさせていない。
理由はまぁ俺にあるんだが……二人には高校生活だけはさせたいと思ってな。
別段、この学校でなくてもいい。なんせ常に命の危険が迫るからだ。
まぁ…今の時代、どこでもそうだが。
俺もここの先生になってから沢山の生徒の遺体を見てきている。
……正直俺もこの学校には通わせたくない。でもかといって親戚が俺にはいないんでな。
他のところに通うとしても一人暮らしになるわけだ。
真夏は良いとしても静が心配だ。」
むっという静の声を若干スルーしながら続ける。
健一「そこで、お前ら二人には【狩人研修専門学校】
に通わせたいと思っている。狩人……その職務は分かるな?
俺とお前らの母さんである結愛が働いていた場所だ。」
高く腕を上げた真夏がはいっ!と挙手する。
なんだ?と受け応える。
真夏「なんで藪から棒にそんなこと言ったの?」
健一「お前ら二人には生活が安定するまでの間、
家事や洗濯と言った家のことをやってもらっていた。
勉学に関しては俺が小中学で学ぶ最低限のことを教えた。
でもそろそろお前らが行きたい道に進ませようと思ってな。
別にこの学校に行ったからと言って狩人に進めと言ってるんじゃない。
異議を言う先生もいるがまぁその後、狩人以外になったやつは様々いる。
【狩人研修専門学校】なんて言ってるのにだ。」
また今度は静が高くではなく小さく腕を上げる。
どうした?と受け応えた。
静「この紙は?」
健一「ああ、それはそんな学校でも
行きたいのであればそれに書いて欲しいという紙だ。
行かないなら×印を書いてくれ。
ちなみに入学するならそれ用の試験がある。
そして全寮制だから家に帰るということが少なくなる。
まぁ希望すればの話だ。」
俺はそこで立ち上がり二人に呟く。
二人ともお互い目を合わせながら下を
見やりペンを持つ。
健一「あとでその紙を持ってリビングに来てくれ。
書かないなら白紙でもしくはやりたいと
思っていることを書いてくれ。難しいと思うけどな」
俺は自室を出た。
それと丁度にポケットに入っている折り畳み式
携帯電話に電話が入る。
健一「―――ああ、白羅木か
……ああ。ん?こっちに来るって?……ああ、二人に、ね。
了解だ……そういえばな二人を狩研に入れようと思う。
……まぁ確かにそれは正論だな。
だからよ悪りぃんだけど、相談してやってくれ。
俺じゃもうひと押し出来そうにない。」
鬼原は電話の相手に娘二人のことについて
気さくそうに打ち明けるが表情についてはそれは違った。
だが相手はそれも見通した声で返事をする。
健一「ああ、そうか。それは……ああ。
結愛に引き続いてお世話になるな…。
……おう、じゃあ待ってる。」
カチッと電話を切った。