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"狩ル者"  作者: 工藤将太
第一章 入学編
18/26

第十六話 「準備」

地味にサブタイトルどうしようか迷ってます。

(まだ疑問符なら―――確かめてみる?)


保健室から後に出た不知火真夏は先に出てった

沢口香野に言われた一言を思い出す。

それは今現在この世にある奇病の一種、

"急性性転換症候群"を香野が患っていることを

知ってしまいそれを知ったことを打ち明け隠すと

言った私に対しての一言だった。


「……何であんなこと言っちゃったんだろ…はぁ」


香野が患うその病気の治療法は未だない

ということだけを真夏は知っていた。

ここに来るまでの間、

学校というのにそもそも行ったことが無い。

だからこそ保健室というのも知らなかったわけだが

学校に関係すること以外は

知っているつもりだ。

以前に静と私のそれまでの専属教師だった父、

鬼原健一が教えてくれたからこそ

そういったことは分かっているしもし

その人に会った時もどう会話したらいいか

教えてくれたことがあった。

父も一度会い勘違いをして注意をされたことがあり

それで教訓を得たそうなのだが…

これはもしかして私……


「地雷ふんじゃった…?」


まだ入学当日で入学式から時間は経っていない。

保健室に運ばれる原因となった

(原因を作った)階段を上がり

二階の教室へと歩みを進める。

なのにこれから始まる学校生活はどうなってしまうのやら…

香野くんとは同じルームメイトでもあるし

顔も毎日会うことになるし…

……ん?待て。

そういえば今日って入学式……


「――しまったっ?!!!!」


「わわっ?!!」


と声を荒げる自分に前に歩いていた人を驚かせてしまう。

その人はとても大きく背丈は妹の静より

倍あるんじゃないかと思われる。

筋肉もそこそこあってなかなか男というより漢な気が…って。


「広一くん…?」


「なんだしらぬい…いや真夏まかさんだっけか?」


沢口広一、香野の実兄で筋肉がガッチガチという感じの人ではなく

着やせするタイプの好青年というイメージだ。

少し見上げながら私は広一をじーっとそう見つめていく。

良い肉付きだと思いながらじーっと見つめる私に広一は呟く。


「…血が繋がってるからって性格までが

 繋がるわけじゃないんだな、やっぱり。」


「へ?なんて??」


「いいや、何でもない。

姉妹でも兄弟でもそっくりそのまんまになる

訳じゃないんだなって思ってね。

そういや寝てなくても大丈夫なのか?」


「ん―…ああ!!!そうだった…

 さっさと授業に…」


とダッシュしようとするが怪我をした足が未だ痛みが走る。

それでもと足を踏み出そうとして広一に腕を掴まれる。


「足怪我してんだろ?なら無理すんなって。

 それにもう授業は終わったよ。」


「え…どういうこと?」


と足を止め後ろの広一に話をする。

何でもほかの学校とは違い検査、身体測定等は明日から行うのだとか。

今日は入学式と簡単なオリエンテーションだけ。

真夏はそれを聞いて安堵と同時に溜め息が口から零れた。

まぁまぁと宥める広一くんに真夏は疑問を口にする。


「じゃあ広一くんはどうしてここに?」


「ん?ああ、帰ろうとしたんだが

 同じクラスメイトのやつから食事に誘われてな。

 香野も行くし静さんも行くみたいだから、

 じゃあ真夏も誘うかって話になったんだ。」


広一はそう言いながら真夏の足を心配しつつ教室へと向かう。

真夏もそれに相槌を打ちながら一緒に向かう。

戻った教室には静と香野が椅子に座り喋り、

また男子1人が椅子に残り男子の2人が立ちながら会話をしていた。

席は入ってきたすぐ横の後列の2,3列だ。

座っていたその男子は入ってきた真夏と

広一に気付くと立ち上がり真夏の前に出た。


「大丈夫ですか?真夏さん」


「え?まあ一応は…。

 あなたは?」


すると黒色の長髪だが一本に束ねた

髪型に緑の瞳の美青年は笑いながら


「自己紹介はしてたんだけど改めて。

 初めまして。僕の名前は風村椿かざむらつばき

 椿と呼んでくれれば良いよ。

 あと後ろにいるのが…」


と椿の後ろにいる立っていた男子2人がその流れで自己紹介をする。


鍬村良くわむらりょうや、そこの椿の幼馴染や。

 よろしゅうな」


続けて


剛拓也ごうたくやだ。良と…椿…の幼馴染だ。

 よろしく。」


濃褐色の瞳に明るい茶髪が目立つ良に

濃褐色の瞳に黒の刈りあげた頭の拓也…

と真夏は二人の名前と顔を記憶に焼き付けていく。

真夏が自分の自己紹介を簡単に説明しよろしくと言うと椿が話し始めた。

とは言え内容はとても簡単だった。

本来食事は外で摂るはずだったのだが

ファストフードの店というのは今のご時世

その場所が限られているわけで、その予約が取れなかったらしい。

ということを念頭に広一に相談した結果

寮部屋でやるのはどうだろうか、ということになった。

椿は良、拓也と同室らしいのだがまだ荷解きが終わっていないため

広一達の部屋はどうかと提案がなされた。

実際広一らの部屋の荷解きは終わっているため

"じゃあ俺の部屋でやろう"と了承。

提案の件は香野、静が了承。

結果広一らの部屋でやることになったのだった。


「―とまあこんな感じなんだが真夏は良いか?」


「別に構わないけど…食事でしょ?

 何を食べようか……うーん…」


場所は決まった。じゃあ次は肝心の食事だ、と

真夏も一緒に悩んでいると静が口を開ける。


「ならたこ焼きとかは?」


「ああ…良いかもな。

 たこ焼きパーティーとか」


広一も乗じて賛成すると次第に

良、拓也、香野、真夏の4人もそうだなと納得する顔になる。

広一はそれを椿に提案すると一瞬考えてから


「そう…だな。ならそうしよう。

 じゃあ時間は夕方5時からで、

 僕たちは先に帰って準備をするよ。

 元々提案したのは僕だし材料も含めてね。」


そうして椿と良、拓也は先に教室から出る。

今は昼の13時といったところだ。

広一はあと4時間あるな、と口から零しつつ


「じゃあ俺らも行くか。

 真夏さん足大丈夫か?なんなら手貸そうか?」


「ん……いや良いよ。大丈夫。

 準備するから待ってね!」


と真夏は机から筆記用具とメモを取り出し鞄に詰める。

香野は広一と話し静もまた椅子から立ち上がった。







「…手貸そうか?」


「あー…うん、ならお願いしようかなっ」


真夏が一生懸命歩いているのだがそれでも

遅いのを見兼ねて香野は手を差し伸べる。

すると真夏は広一に言われたとき以上に嬉しそうな顔で手を受け取った。

その光景を広一と静は2人から距離を少し取った後ろ側で見ていた。

学校から寮までは遠くない距離にあるはずだが、

歩くスピードが遅いのかもしくは前の2人を邪魔したくないためか

…要は時間をかけ歩いている。

そのため短い距離が長い距離へと変わりつつあった。

だが広一はそんなことなどどうでも良かった。

問題はそれじゃない。


「はぁ…フラれたな…」


「?お姉ちゃんのこと好きだったの??」


静が広一が口にした言葉に反応する。

広一は言葉の綾だと笑い話しながら楽しそうにする2人を見つめる。

なんの話をしているかは分からないが保健室に行ったきり

昨日よりも、より仲が深まっているように見える。

香野も薄ら笑いから心から笑っているように見えるし

真夏も緊張した笑みから心を許した表情になっている。


「にしてもやっぱり外ッ面より

 内面が女にはモテるのかねぇ」


「んー?外と内?」


静の答えに広一が香野を見つめながら


「いや、だってあいつ俺より

 "背"が小さ―――ぐはっ?!!」


"背"という単語を口にした広一はその刹那横にいたはずの静が

広一の前に立ち心臓の下目掛けてボディーブローをくらわせた。

広一は一瞬白目になりかけそのまま腹を抱えながら蹲る。

静はさっきまでの"のほほん"とした感じでは

ない異様なオーラを放っている。


「んがぁつ…あっ……はぁはぁ…

 …鳩尾…入っ……たぁっ…」


「ん?どうした広一?」


香野の答えに静は大丈夫、と笑顔で受け応える。

広一も立ち上がりながら


「大丈夫だ…問題ない。」


広一は通算二回目となる静による制裁を受け立ち直ると

さっきの攻撃で吐きかけた唾をのみ込みながら

会話を続ける。


「……それ…で、あいつと俺との"差"が―――待て。

 構えるんじゃないっ!!」


「ちっ…。それで香野くんと広一くん、何が違うの?

 ……殴らないから話して。」


構える静に守りの体勢に入る広一。

そして構えた姿勢を崩したのにも

関わらず守りの体勢を解かない広一。

順にその状態になりながら会話は続く。


「さっきのは禁止ワードか…覚えておくよ。

 で、あいつと俺にどんな違いがあるのかって話だけど

 あいつは俺より筋肉がない。背……だって俺の方が上だ。

 だが逆にあいつは中身が良い。

 人と付き合うのが異様にうめぇわ、家事をこなせば一流だしな。」


「―兄貴に皿洗い任せると必ず一枚は割るから任せられないんだろ?

 って母さん曰く、父さん曰くだぞ?」


後ろの声に便乗してか香野が前から告げ口をする。

広一は皿の一枚や二枚と怒るが香野はそれに溜め息混じりの怒号を飛ばす。


「今の時代、料亭なんて珍しいもんだ。

 それなのに大事な皿を割るなんて馬鹿も甚だしい!

 ったく…」


広一は苦虫を潰しながらへぇへぇとやる気ゼロの生返事を出す。

香野もそれを睨みつけていると真夏が口を開ける。


「香野くんの実家は料亭を営んでるの?」


「ん?ああ、そうか。言ってなかったけか。

 そそ。父さんと母さんがな。」


静が継がなくていいの?とその香野の答えに質問すると

広一がばつが悪そうに返事を返す。


「あー…やることがあってな。

 家置いてここに来てるよ。」


「あっ…ごめん、言っちゃいけなかったことかな?」


静の返事に香野がいや、大丈夫だ。と答える。

そして、話は変わるが…と話題を逸らした。


「お2人さんの父親がまさかあの人だとは思わなかったよ。」


話題は静と真夏の父親、鬼原健一の話に移った。

すると広一もああ、と相槌を打って話す。


「この間新聞にも出てたし結構有名な人なんだが

 まさか先生として赴任して来るとはな。

 なんか2人は知らなそうな感じだけど聞いてないのか?本人に」


それに静と真夏は正直に聞いていないと話した。

正直あそこまで人気があって喜ばれるほどの有名人だということに

ポカーンとその人気ぶりに圧倒されていたこと。

静はそう話しながら


「でも正直びっくりしちゃったな…

 狩人はやめてないって聞いてたから

 先生として来たときは本当…」


「ん?狩人はやめてない?

 待ってそれどういうことだ?」


広一の返事に静と真夏はその質問の内容が

分からずに?マークを浮かべた。

広一は続ける。

本来狩人研修学校の教師は教師として狩人機関に在籍していた者か

何かの都合上の理由で現役退職した者たちが基本条件とされている。

どのような理由であれどのような権限であれそれは変えられないという。

たとえ父親だろうがその理由は変えられない。

つまり、鬼原健一が狩人を今も続けることは

結果的に言えば出来ないということになる。

広一は疑問を口にする。


「狩人をやめずに先生として赴任?

 うーん…」


「そ、そんなに気になることかなっ!

 それより寮も近いし…広一くん?」


真夏にも思い当る節がある。

だがそれはお父さんしか知らないことで事実かも分からない。

真夏がそう言うと広一は


「え?ああ、そうだな…まあ事情があっても確かに

 俺らには関係ないかもな。

 じゃあこっちも部屋の準備しないとな」


広一は先に行くと、静もまたついていく。

香野は真夏を支えたままそのまま変わらずの

ゆっくりとしたスピードで歩いていった。

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