放射P4
「あの、和真? あんた、どこに行くんですか」
「デパートに決まってんでしょ」
振り向きもせず美女は人の波をぬって歩いてゆく。
「は?」
返ってきた答えはどうも元から決定していたようで、京太郎へと鋭い声が飛ぶ。どうしてデパートに行くのか、心当たりもないのに。
「は? って。理解力のないネコね。あんたそれでも男なの?」
京太郎は心の中で呟く、「いや唐突過ぎだって。どうしたってデパートなんかに」と。
「あんたに言われたくねぇよ。長寿ババァ」
「よく言ったわね。この若造ネコには、バツとして荷物持ちだわ。――ま、最初からやらせるつもりだったけど」
あまりにも希薄なテンションで、ドS女の言葉を吐き捨てる和真は京太郎にとって永遠の不思議だ。
「って、やらせるつもりだったって……デパートに行く目的は俺に荷物もちをさせるつもりだったのか! 買い物なんて聞いてねえよ。木戸のとこに行くだけだって――」
「下僕にそんなことはいわなくていいじゃない。それに美女が重い荷物を持っていたら、あんただって手伝うでしょ? それなら最初から下僕を使うべきよ。その前に絵にならないって言う問題の解消のためなんだけど」
京太郎の言葉を遮った和真はつらつらと非常な言葉を並べていく。
「あー。下僕は辛いよ、苦しいよ。なあ、おかっさん、俺は悪魔に囚われてしまったらいいよ。誰もこの俺を助けてくれる仲間なんていないんだよ」
と半泣きで京太郎は嘆く。
「うんうん、あんたの親は世界中のどこを捜したっていやしないわよ。どうせ創られた存在なんだし」
「酷い……」
とうとうネコ男、京太郎は落ち込んでしまう。和真が首を掴んでひっぱると「にゃ!」と顔に似合わない声を出してうなだれてしまった。
「さて、買い物よ」
和真は企みを隠した笑みで、大きなデパートへと入っていった。
「うっわ、俺、どうしたらいいの?」
京太郎は自問した。和真は隣で誇らしげに笑っている。
「あのぅ、お客様、配達なさいますか? 有料ですが」
店員は丁寧に、また戸惑い気遣いながら不思議そうにたずねてくる。
「ああ、心配しないで。コイツ軟だけど、力には自信があるんだそうよ。これくらい軽いわ」
「そうですか。お気をつけてください」
とは言ったものの店員は、「本当にいいのかしら? こんな重いものを持って……つぶれそうよ」と思ってしまう。
「お気遣いありがとね、おねえさん……」
やつれたような今日太郎の苦い微笑みを見て、店員は胸を射られた。
(な、カッコイイ……!)
と思ったときには、京太郎は荷を担いで店の外で苦痛の表情を浮かべていた。
店員は呆けたまま、2人の影が人波に飲まれるのを見つめていた。
「おーい、田中ぁ!」
チーフが店員を呼ぶ。