ある貴族の一日
昔々、あるところに貴族の男の子が誕生しました。この世界では魔法使いが存在しており、誕生したその日に預言と言う、赤ん坊が歩むある一つの未来が家族の前で謳われます。
『前世からの縁により、川のほとりにある家に生まれた女の子と結婚するだろう』
朗々と読まれた内容、わが子が生まれたばかりだというのに、預言が気になって仕方がない父親が一人馬に乗って川のほとりまで見に行くと、其処には貧しい家から独りの男が出てきました。その格好は誰が見てもみすぼらしく、布切れ一枚で何日も過ごしたような色をしていました。思わずその貴族の男は顔を顰めます。
「ただでさえ四人の子供を食べさせるのでさえ厳しいのに、娘が産まれてこれからどうしたらいいのだろう!」
父親が聞いていることも知らず、男は天に向かって叫びました。しまいには頭を抱えてしまっています。同じ男として少しばかり同情し、良いことを思いついたとばかりに話しかけました。
「なら私が預かりましょう。心配せずとも腹を空かせることも無く三度の食事を与え、温かいベッドの中で眠り、淑女としての教育もさせてあげます。私の家には息子しかおらず、ちょうど女の子が欲しかったところなのです」
にっこり、と微笑むとまるで天使に出会ったかのように男は何度も頭を下げました。すぐに今にも崩れそうな家に戻っていくと、可愛らしい赤子へ名残惜しそうな眼差しを向けながら父親に差し出します。
柔和な笑みを浮かべて父親は女の子を受け取ると、一目散に馬を走らせました。戦場で何度も駆け抜けたことがあるほどの愛馬は、疲れることを知らずに何時間も走り抜けました。
辿りついた先は、隣国との国境にもなっている大きな川です。
其処へ抱きかかえていた、赤ん坊を布で包んだまま投げ捨てました。