承の2
山犬と分かれて自分の山の祠に戻ってふと、今日の話を思い出した。
聞くに例の銀狐は、伊吹山の社から逃げたという事、そしてそこの主の白い大猪が
大物主に使いを寄越して探すように頼んで来た事、さらに自身も眷属や氏子を使いこの辺りまで
足を延ばして探している事と、その捜索を許可して欲しいという事。
「たかが狐の娘一匹に大層な事だ。」そう呟いた鯰の爺さんの言葉を思い出す。
確かにそうだなと、思う。いくら狐の娘だ特殊な存在だとしても、伊吹の山からこの大和まで
足を延ばして探すほどかね、猪はどんな存在になっても猪突猛進なのか。
そこでふと思い返す、あの時の狐を。
「まぁ、あの狐の娘ならそれだけの存在かもしれないな。」
あの紅い眼、びっくりしていたし慌てて居たけど、あの眼は 美しい そう、思った。
でもソレももう関係ない、あの後狐はまるで飛ぶように山を下って逃げて行ったし、俺も追いもせず
三輪山に向かう時間も近かったからその場を後にした。
もしあの狐がそうなら、もう今頃は山二つ、いや三つは向こうだろう。
「そんなに、、、逃げたいなら、、、逃げれると、、良いなぁ。」
俺の主としての初めての祈りは、酒の匂いのする欠伸と共に、明ける紫の空に霧散した。
「おい、貴様。」
何だろう、酷く高圧的な物言いをされた気がする。
「お前だお前、起きろ。」
おかしいな、夢にしてはこうも嫌味な夢も無いだろう。
「私の言う事が理解出来ないのか?起きろ。」
よし、こうしよう。
「きゃいん!」
おや、夢なのに手で払えたぞ、しかも手応えも有った。
「きききき貴様!いきなり何をするんだ!もぉぉぉ許さない!」
「いってっぇぇぇぇぇぇえぇぇっぇぇぇ!!!」
何なんだ、この状況は。何故に俺の前に例の銀狐が座って居て、俺の頭には歯型が付いているんだ。
「いきなり叩くお前が悪いんだ!」
しかもこの娘はかなりお冠の様子だ、どうしたもんか。
「そりゃ悪かったけどよ、しかしあんな野蛮な事を、、」
「何か言ったかい?」言わないから、歯を見せるな恐ろしい。
「ところでお前、伊吹山の狐娘か?」直球で聞いてみた。
「あぁそのとおり、私は伊吹山の銀狐、名を、、」
「まてまて!言っちゃうのか!?そこは秘密にする所じゃないのか!?」直球で帰ってきた。
この娘自分の置かれた状況が、、、いや、分かっているはずだ、なのになぜ。
「あぁ。お前の考えている事はおおよそ見当はつく、簡潔に言って。お前があの追手を
一撃で屠ったろ、つまりはだ、お前は私の共犯者って事になると思ってな。」
直球どころかデットボールだ。
「な、、、いやいや、、、俺は俺の許可なく山に入ったからだな、、、」
「しかしあの男は私がこの山の主の許しも無しに追って来ても良いのか?と聞くと
この山には今は主は居ないと言って追って来たぞ?」
やばい、これはやばいぞ、つまり俺は早とちりで主の権限で伊吹の者を手に掛けたのか。
しかもあの戦神のヤマトタケルをも死に追いやった程の、化け物の追ってる娘を助けるために。
「最悪だ。」
「そう言うな、私は助けられて更に協力者も出来て最高だ。」
狐は怯えていた時には垂れていた耳をぴんと立ててにっこり。
「しばらくここで匿ってもらうぞ。」
あぁ、本当に最悪だ。




