承の1
集まりは、狐の娘を見つけたら報告しろって事で話がまとまり、集まりはただの宴会に変わった。
俺は、何とも言えないこの思いを酒で飲み込んで、一つ憂さ晴らしだと思い、報告しなかった。
どうせあの狐の娘がその逃げた狐だと確信もないし、報告すればなおさら面倒だ。
それに、狐関係の話なのに一切口も出さず、関わろうともしなかった九尾の様子が気になった。
「山猫よぉ、首大丈夫かぁ?」
「おう、大丈夫だ。」
その後宴会はお開きとなり、俺は山犬と二人屋敷を出て山を下りている。
「しかしよぉ、お前良く大物主に反抗で来たなぁ。」
「ん?いやいや、あんなすぐに首を絞めるなんて思って無かっただけ、
流石に話位は聞いてくれると思ってただけだ。」
「あははっは、聞くわけねぇだろうよぉ。」
「だな、期待したのが馬鹿だったさ。」
「よっと。ふーっ、やっぱこっちの姿の方が楽でいいやぁ。」
山犬は人呼吸で人から山犬の姿に戻る。
「相変わらずお前でけぇな。」
俺もそれにつられて山猫の姿に
「たいして変わらねぇと思うぞぉ。」
「いやいや山犬にしては、って話だよ。」
「それを言うならよぉ、山猫って名乗ってるくせに山犬並みにでかいお前はどうなんだぁ?」
「それもそうか。そうだな、でもまぁ他に山猫を見た事は無いけどな、はははは。」
人の胸ほどまである背の高さの二匹の獣が山の中を歩いてる、確かにお互いでかいのかもしれない。
ヤタの婆様なんて、本来の姿は本物のカラスと同じ大きさだもんな。
「山猫よぉ。」山犬が不意に呟く
「すまねぇなぁ。なんか片棒を担いだ様になっちまったぁ。」
「ん?珍しいじゃないか、お前がそんな事言うなんて、酒の飲み過ぎか?」
「かもしれねぇなぁ、かもしれねぇからついでだがよぉ、もしよぉ、
もし次に大物主に何か言う時は、俺も巻き込んでくれなぁ。」
こいつは、昔からこうだ。
「もうあんな思いはごめんだよ。」
「そっかぁ。なら良かったぁ。」
昔から変な所で律儀な奴なのだ。
初めて出会ったのはもうかなり前だ、偶然出会って大喧嘩。
その後も何度も何度も喧嘩を繰り返して、そのうちに一緒に飯を食うようになった。
今では山犬は主に成ったので、おいそれと山を空けられない、こうして話をするのも久しぶりだ。
「この後どうだぁ、久しぶりに俺の山に来ねぇか?」
「ん、いや今日はやめとくよ。また誘ってくれ、悪いな。」
俺がそう返すと山犬はすっと目を細めて笑う。
「まぁお前も主に成ったんだぁ、俺が山を空ける良い理由が出来たってもんだなぁ。」
「なんだそりゃ、どんな理由だよ。」
「そりゃぁ、主と主の話し合いって理由だぁ。」
「そういうの人の世じゃ職権乱用って言うんだぜ?」
「残念だけどよぉ、ここは人の世じゃねぇんだなぁ。」
「確かにそうだ、違いないな。」
へへへと俺が笑いクククと山犬が笑う。




