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山猫と狐の子  作者: 本蟲
6/22

起の6

 ニヤリと笑みを常に浮かべる口元、切れ長で黒目がちな瞳の目玉、肌は陶器の様に白く

それだけでも高貴な産まれを感じさせる。少し銀髪が混じった長い髪を、赤い布で後ろで一つ束に

まとめ、肩から胸の辺りに垂らし神主の礼装を着たすらりと背の高い青年の様な男。

「やぁやぁ、今回こそは来たんだねぇ山猫の。よく来てくれたよ。」

この者この方この男こそ、神代の時代からこの地に君臨する蛇の神、荒神にして、守り神。

三輪山の大物主、その者である。

 「今回は、かくも面倒なお話を頂きましてそれはもう一言お伝えしたく、こうして

慣れぬ人の姿で参ったのでございますですよ。」俺は杯を一気に煽ってスンと鼻を鳴らし、

「それにしても相変わらずの若づくりでございますね。大物主様。」

嫌味を一言放った、それくらい言いたくもなる。

「そうかい?はははは、そりゃ僕は女好きだからね。翁よりは若人の方が人の女からも、

女の神からも遥かに受けが良いからね。」

まったくこの蛇ジジイは相変わらずの好色っぷりだ、若さは年の数の少なさでは無いと思う。

 「さてと、、、そろそろ良い頃合いかな?皆ちゅうもーく。」軽く手を叩き広間の上座に座る

「本日の議題と報告を始めるよーっ。まずは報告だね、ここに座ってる猫君が本日より

正式に主に格上げしました、はい拍手。で、次の、、」

「ちょっと!ちょっと待ってくれ!」いきなりすぎるぞこのジジイ。

「ん?どうしたのかな?」

「今回はその話で一言言いたいとここに来たと言ったはずだ!」

「そうか、そうだったね。では抱負でも一言、、、」

「違う!俺は断りに来たんだ!今さらあんな誰も来ない山の主になって、何をどうしろって言うんだ。

主への感謝も、信仰すらも集めてないあの山で一体何のために。」

「ほぅ。」大物主がすっと目を細めたのが分かった、でも言わねば。

「俺はあんた達とは違う、神でもなければ古くから知られた妖怪でもない、人に関わっても

来なかった。そんな俺が主になって何の意味がある?無いはずだ。」

 そう、主とは信仰の象徴・畏怖の対象でなくてはならない、俺はヤタの婆さんみたいに

信仰を集めている訳でもないし、九尾に狐ほど畏怖も抱かれていない、ただの山猫だ。

人に加護を授ける事も何も出来やしないし、ただの、そう。ただの妖怪だ。

「お飾りでも何でも良いけどよ、飾られるためにそんなモノに成るのはゴメンだ。だからよ、

大物主様には悪いが俺は主になる事を辞退しようと、、、、」次の言葉が出なかった。

 正確に言うと出せなかった。

 「辞退しようと、、なにかな?」細めた眼はそのままに、大物主は手を前に出して空を掴んでいる。

いや、空を掴んでいる様に見えている、掴まれているのは俺の首だ。俺は見えない大物主の手に

首を掴まれている、息も出来ない程に、その指が喉にギリギリと食い込むのが分かる程に。

「僕はね、君に成って下さいとお願いなんてしていないんだよ。成りなさいと命じたの。

分かるかな?命じたのだから君のその後の返答を、僕は聞かずとも分かるものだと思っているよ。

それとも何かい、僕の言葉は君にはお願いに聞こえたのかな?」

すっと俺の足が宙に浮く。

「何故俺が主に、君のその疑問にだけは答えてあげるよ、主の役割の土地を護るって事さ、

君の居る山は主の居ない主無しの山だろ?今までは仕方なく近隣の山に住む主がついでに

君の住むあの山を護って居たけどその主ももう今は居なくなってしまってね。

変わりが必要になったのさ、それだけだよ。おや?どうしたんだい?こうして話してあげたのに

返事や相槌位は返すのが一応の礼儀だろう。」

「大物主や、首を掴んでおいて返事も何も出来るもんかい。」

「おっと!ごめんねーうっかりしていた、大丈夫かい?」

そう言って握っていた手を解くと俺は畳に膝を付いて空気を吸う、ひゅーひゅーと喉が鳴る。

「どうも人の姿だと加減って物が分かり辛くてだめだね、大丈夫かい?」

ヤタの婆様が助け船を出してくれなければ多分首を折られて居た。

「大丈夫、、ですよ、、えぇ、、」忌々しそうに見上げる俺を

「そりゃ良かったよ、危なかったねぇ。」気にもせずにまたニヤリと笑う。

こういう奴だと知っていた、もしかしたらとも思っていただけ。もしかしなかった、それだけ

「じゃぁこの話はこれでお終いだ。さて次の話だけど、、、」

 俺は呼吸を整えながら自分の席に座りなおす、山犬が小声で

「一応言っておくがよぉ、俺もあのやり口でお前を推薦させられたんだぜぇ。」

なるほど納得だ、そういう事かい、山犬に無理やり推薦させてこの話を進めたのか。

本当に、有る意味流石の荒神だ。暴君とでも言い表そう、そう思いながらこの思いを流し込もうと

杯になみなみ酒を注いで一気に煽った。

「今回の議題はねー、伊吹山から逃げ出した銀狐の娘についてなんだよねー。」

 俺は盛大に酒を噴出した。


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