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山猫と狐の子  作者: 本蟲
19/22

結の5

 「首一つで許せ、、、か。」

そう呟くと白猪は静かに目を閉じる。

しばらくの沈黙、まるで目の前の男が岩にでも見えそうだ。

そして、答えが出たのだろう。眼を開き立ち上がると、途端

岩の様な印象が一変して、烈火の如く燃え上がる炎の様に

荒れ狂う空気に変わる。

 「何を言うか!!許す!?許すだと!?首一つで。

奴は愛しい愛しいわしの娘をわしから奪ったのだぞ!!

その罪を、、その罪をたかが獣の首一つで許せだと!?

罪人の首は落とされる!それは当然の事であろう!

それをその首で許せだと、、否!断じて否だ!!」

 眼は血走り額には血管を浮き上がらせ、まさに

怒髪天。山犬の体がギシリと座る椅子に押しつけられる。

それは気迫かそれとも殺意か。

なんにせよこの男の逆鱗に山猫は一撃を打ち込んでいたのだ。

 「しかし、、首で許さぬなら。。

まさか!!先日の文に有りましたあの条件を

大和に飲めと言われるのか!!?」

「叱り。」

白猪は椅子に深く座り直し頷く。

「それこそこちらも飲ぬ話ですぞ!!」

「何を言う、わしの宝を貴様ら大和の者が

奪っておったのだぞ、ならば。」

白猪がニタリと笑みを浮かべる。

「貴様たちの持つ 宝 を寄越せ。」

「貴様、、、」

 先日、そうソレは三輪の大物主が狐を見つけたと

言う話を耳に挟み、伊吹にその事を知らせた翌日、

山猫が大物主に戦いを挑んだあの日に、伊吹から届いた一通の文。

そこには驚くべき内容が書かれており、それこそ。

山猫が自分の首を差し出してでも守ろうとした物。

ソレを渡さない為に、友は首を差し出した。

それが今、無駄になろうとしている。

それだけは避けねばならない、それだけは。

 「それは無理だ、伊吹の主よ!

いくら何でもアレは渡せない!」

 声を荒げて山犬は立ち上がる。

それでも白猪は態度を変えずに山犬を見据え。

「ならば話は終わりだ、野良犬が。

わし自ら三輪の地に向かい手に入れるまでよ。

大物主のことだ、言えばわしに差し出すだろうて。」

静かに、しかし眼光は確かに怒りの色に染め。

 「貴様に許しを貰う必要は無いのだ。これは

只の形式的な物で、わしは何時貴様にお願いをした?

言葉を求めておらんのだ。聞けばよいだけだ。

そう、貴様はただ聞くだけ、だ。」

 白猪はそう言ってもう一度深く

息を吐き出すと、懐から煙管を取り出し

火を付けるとプカリと煙を吐く。

「良いか山犬よ。もう事は貴様の様な

ただの妖怪がどうにか出来る話ではないのだ。

ことの今回の件、わしの娘がどのような娘か。

その事を何も知らぬ訳では有るまい?」

 もう話し合いでは無く、結果は出たのだと。


「我が愛娘。天狐の娘。」

そう言わんばかりに白猪は最後の言葉を紡ぐ。


「星の衣を纏い天を駆け、

国の吉兆を見るという大役の娘。」

それはあの娘の運命。


「その身の燃え尽きるまで、天を駆ける狐。」

山猫が回避しようとした未来。


「我の国の繁栄の為に、あの娘には。

次代の『星渡』になってもらうのだからな。」 




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