転の2
情けない話だよ本当に、
あんな言葉を吐いたのにさ。
今の俺ときたら、こんな木に
情けなくも磔にされて、
枝に座った大物主の使いの
カラス達の笑い物になっている。
まぁ、立ち上がるのがやっとだったしさ、
相手はあの大物主だったしよ、
勝つとか負けるとか。そんな事
考える事すら間違ってる相手なのは
分かってるはずさ。それでも言わないで
黙って居られなかった、それだけ。
「どうした。」
しかしこいつが俺の監視の一人とはな。
「何もねぇよ、山犬。」
「無いならそんな顔すんな、
情けない顔しやがって。
泣き事でも言うつもりか?」
何時もとは違うしっかりとした口調、
服装も白の神職の正装で、顔は犬だが
人の様に足で歩く姿は、正しく山犬の姿だ。
あの口調も普段通りと言えばそうだが
こいつは元々こういう話し方をする。
「なぁ、そんな事より言いたいのはよぉ、
俺の嫁は一体、どうなったんだ。」
「お前には関係ない、あの娘は大和の管轄から
外れた者だから、、いや、元々入ってすら居ないから
外れるってのは間違ってるな。
なんにせよ、今頃は伊吹の使者に連れられて
北に向かう街道を進んでいるはずだ。」
「そうか、そりゃ御苦労な事だ。」
「山犬!」
「ん?カラス風情が俺を呼び捨てか。」
「いや、、その、、山犬殿!
そのような話はされては困りますと、、
その件に関しては秘密にせよと、
大物主様から言われておられますれば、、
驚きの余りつい、その、、」
「成る程。で、それが俺を呼び捨てにする
理由に成ると、お前は思ったんだな、
たかが使いのカラスの分際で。」
「いっいいえ!そっそんなこと!
全くもって滅相も御座いません!」
「少し、長く呆け過ぎて居たのか、
カラスに軽く見られるほどには」
そう言って山犬は尾を一振り。
「おおおっおゆる!!」
「出来んな。」
「ぎゃぁぁぁぁぁ!!」
磔にされてる者の前で何しやがる血生臭い、
「翼がぁ!俺の翼がっぁぁ!」
腕を千切られたカラスが枝から落ちて
俺の下でのた打ち回る
「鳥はこういう時でも五月蠅いんだな。」
そう言って犬神は静かにカラスの首を刎ねた。
「ひぃぃぃぃぃぃ!!」
「ここっ!殺された!!」
「お前達もこうなりたいか?」
怯えるカラス達に、もいだカラスの羽根を
見せつけるように山犬が投げ捨てる。
それを合図にしたように悲鳴を上げて
一斉に飛び立って行くカラス達。
五月蠅い奴等が居なくなれば、
何ともここは静かなもんだ。
「腕は落ちないねぇ、相変わらずよ。」
「そうか?でもカラスの腕は落ちたぜ。」
「首もな。」
「首もだった。」
「「アハハハハハハハハハ」」
「俺の首もお前が落とすのか?」
「お前の首も俺が落とすんだ。」
「笑えるな、山犬。」
「笑えねぇよ、山猫。」