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山猫と狐の子  作者: 本蟲
11/22

承の5

 「そうかい?」

「あぁ、すっかりと匂うねぇ」

「勘違いじゃ、、」

「無いなぁ。俺はこれでも山犬だぁ。」

「そうだな。」


ピリリと空気が張りつめる、空気が質量を、その

粘度を増すように重く体にまとわりつく。

すうっと山犬の眼が細くなる。

「山猫よぉ、、、、」

俺は逆にぐっと眼を見開く。

「何だい、山犬の、、、」

茶屋の暖簾が、風も無いのにゆらりゆらりと

揺れている、外の音がシンと消える。

虫の音色がピタリと止まった。

 

「ふぅ。」


一息山犬が息を吐き出す音が

やけに大きく聞こえた。

そうして吐き出した山犬は細い目を完全に閉じると。

「勘違いみたいだぁ、忘れてくれぇ。」

そういってヒラヒラと手を振ると、茶屋の

前に置かれた長椅子にドカッと座る。

「ほれ、勘違いだろうが。まったく頼むぜ」

俺も眼頭を指で押さえながら迎いに座る。

「あぁ、悪ぃなぁ、、、そうだ。

ちょいと茶でも淹れてくるよぉ。」

そう言って頭をポリポリ立ち上がると店の奥に消える。


「ふぅ。」俺のため息。 


 勘違い、そんな訳は無い。絶対に無い。

あの山犬が、鼻の利く山犬が匂いを嗅ぎ間違う?

そんなことは絶対に無い、有るはずが無いし

有りえるはずが無い、あの山犬が非をこうもあっさりと

しかも自分の鼻の力を否定するなんて。

つまり、そうつまり奴にばれた。

俺の話した娘は少なともただの人間で無く、狐

もしくはそれに関わる者であると。


 だがしかし俺が件の狐を見つけてさらに逃走の協力者である、

そこまでは流石に匂いだけでは分からないだろう、それに

可能性としてその娘が狐だと言うならば、

先日の狐とは関係の無い狐の場合もある。

つまり、時期的にどんぴしゃだとは言え、山犬は

俺の体からする狐の匂いで俺を疑問視したり、その

狐の娘の話を俺から聞こうにも、俺がもし

違う、もしくは知らないと言えばそれ以上は

追及も糾弾も尋問も出来はしない。なにより

何も言わず何もせずに下がった事がその証拠だ。

 あの男は黙って終わらせないし、奴の言葉は

裏表がない、言った事は例え何であれ実行する、

間違えたと奴は言ったのだ、ここはもうこれで終わりだ。

この先は無い通行止めの袋小路、これ以上話も膨らませない、

黒でも白でも無い灰色の俺を、俺をあの山犬は

見逃してくれたのだ。何の意図が有るのか分からないが。

 すると店の奥から山犬がいきなり顔をぬっ、と出す

「おいよぉ。」いきなり現れるな、びっくりするだろう。

「!!、、、どうした?」

「誰にも言わねえからよぉ。もし結婚でもするなら

俺も呼んでくれなぁ、祝い持って行くからよぉ。」

「ん?、、誰が結婚するんだ?」

何を言って居るんだろうこの馬鹿犬は。

「秘密の娘なんだろぉ、そりゃ大体嫁って相場が、、」

「冗談言ってるとその口に松脂を塗って塞ぐぞ。」

「照れんなよぉ、しかしお前に嫁がねぇ。

大丈夫だぁ、俺は口は固いからよぉ、

おしゃべりのヤタの婆さんや何かとは違うぞぉ。」

 そうか。 

 よし、殴ろう。




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