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山猫と狐の子  作者: 本蟲
1/22

起の1

 吾輩は、山猫である。名前は好きに読んでも呼んでも構わない、一応他の山の者は吾輩を

「山猫」と呼んで居るし、他に「山猫」と呼ばれてる者を、吾輩は知らない。産まれたのは、この山のはずだがそれが本当にそうなのか、確かめる方法を知らないので多分それで良いと思う。

母親も父親も、もちろん兄弟も居るのかも分からない、一番初めの記憶で覚えているのは、この山の

今、吾輩が居る祠の中で目を覚ました事と、その時に酷く寒かった事、後は妙に額が痛かった事

この三つだけを覚えているだけなのである。

 なんて、大仰に大層に偉そうなどこかで見た本の様な話し方で、自分語りに浸るほどに

俺は酷く暇なのだ。思い返せば特に何と言う事もない記憶なんだろうけども、もうどれくらい 

生きただろう、そんな過去が本当に遠い昔に思えてしまう。あの大きな人間の戦争も、俺にとって

つい最近に思える程度には生きているのは確かだ、この山に来る人間もとんと減ってしまった、 

ましてや退治しようと山に来る物騒な人間なんて、本当に本当の本当に来なくなってしまった。

 来ていた頃には邪魔で鬱陶しいだけだったのに、贅沢を言って居たのかと思ってしまう。


そう俺は、俺こと「山猫」は人間風に言うなら、「妖怪」と言われる部類の者になる。


 だけどソレもおかしな話で、自分の生い立ちすらあやふやな俺が、「はいそうです。私が妖怪です」

などと思って生きて居るはずもなく、ただ生きて居るだけである。

まぁ中には、あの狐のバアさんの様に昔都で大暴れした、なんて武勇伝を持っている者も、

居るには居るのだけれども。少なくとも俺は面倒そうな事には関わりたくもないので、残念な事に、何の武勇伝も実績もない、ただの化け猫。ただの山猫である。

 見た目は確かに普通の猫では無いのは、産まれてしばらくして里に下りた時に分かった。

普通の猫はこんなにも大きくないし、人の言葉も話せない、何より彼等は化ける事も出来ないのだ。

まぁ化けれないって事に関しては、更に時間が経って他の山の妖怪と出会った時に知ったのだけど。

 そんな俺が、幾日も幾年も幾百年も。こんな山で生きて来て分かった事がある。

最近になって、やっとと言った感じでも有るのだけど。どうやら俺はこの山の主になって居たらしい。

これまた面倒な話である。たまには彼等の集まりにも、顔を出しておけば良かった。

本当に面倒な話である、そしてその面倒な話を片付ける為に、この寒い時期に彼等の集まりに山を下りて、三輪山の社の向かわねばならない、まったくもって面倒だ。

 つい先日山に来た使者を名乗るカラスが言ってきたのだ、「山主の山猫よ、土地神の責を大物主にしかと報告されよ。」と、正直に思う、食ってしまえば良かった。

 暇のあまり何の話かと聞き入っていたのが運の尽きというやつだ。流石にカラスは俺に言う事だけ言ったらさっと飛び立ち、ニタリと笑い逃げて行ったのだ。こうなっては仕方無い、あの蛇オヤジに目を付けられたのだ、しかもあの使者はもう伝えた事を報告しているだろうし、無視すればあのオヤジは、

何をするか分かったものじゃない。あんな、それこそ化け物と事を構える気なんて、俺には無いし、

命がそれこそ両手の指の数でも足りやしない。

 そんなこんなで、俺は三輪山に向かう日まで、このボロボロの祠で憂鬱に暇を持て余して居るのだ。

集まりは明日の夜、この月が落ちてもう一度太陽が昇って落ちれば、俺の気分も月が昇るにつれて堕ちるだろう、酒の一杯でも有れば少しは憂さも晴れて良いのだけど、残念ながらもう既に飲み干しているし。

本当に何の事もなく、愚痴とため息と自分語りをして、この気持ちを吐きだすだけなのだ。

 


  

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