私、魔法少女はじめました(1日限定)
Twitterでちょっといろいろあって、ハロハロハロウィンをテーマに作品書くってことになりまして、その結果生まれたのがこれです。
勢いだけで書いた、市松さんの再来的なものです。久しぶりの一人称でいろいろ粗い部分もありますが、ご容赦くださいませ。
あと、一応ハロウィンネタという事でジャンルホラーにしてますがどう見てもファンタジーです本当に(ry
まあそういう事なので、ホラー要素ないです。ついでにハロハロハロウィン要素も全然ないです(白目)
そんな作品になってしまいましたが、お読みいただけるのなら幸いでございます。
「んぅー、さすがに何かやらないと……かなぁ」
私、十条舞衣は、学園ライフを満喫する高校二年生。
と言えれば最高なんだけど、実のところ、そういうわけでもない。
勉強にテスト、進級前の進路相談だとかやること多すぎて最近はちょっと辛い。
だから、息抜きに休みのたび遊びに行ってたのはいいけれど、そのせいかここのところちょっぴり財布が軽くなってるのが痛い。
枯渇するのは時間の問題だし、そろそろ補充したいところなのだけれど、日雇いのバイトとかって結構めんどくさそうなのばかりで、結局また次の機会にと先送りにしてきた結果がこれ。
「百五円……ジュースも買えないねこれ。はは」
財布を開いて、中身を確認。
そう、これが十条舞衣の全財産なのだ。
まずい、まずいよ。
野垂れ死ぬ……事は無いだろうけど、まったく遊べなくなるのは困る。それはすっごく困る。
「あぁ……どうしようか。弟からせびるかな? いやいや、何言ってんだ私」
何でもありの思考に落ちかけたが、理性がそれを押しとどめたところで、私は傍にあった求人誌を手に取る。
早めに何か見つけないと本当にとんでもないことやらかしそうだし、多少無茶な仕事でもやってみよう。
集中、集中だよ舞衣。
「あ……んん? ……んんん!?」
珍しく本気を出したせいか、ちょっと気になる記事を発見。
いや、というかこれ、仕事なの?
えーっと、とりあえず、仕事内容が魔物の退治。うん、この時点でもうアレだけどツッコミはなしで今はスルー。
ただ、日雇いで時給が一万五千っていうね。条件は、女子高生以下の女の子なら誰でもオーケーっぽい。
職種に魔法少女って書いてるんだけど、どういうことなのこれ? コスプレとかそういうののイベント……なのかな?
「詳しい説明は面接に受かった人だけが聞けるみたいだね……うぅ、怪しいけど背に腹はかえられないし」
とりあえず、電話だけでもかけてみようかな。
それで本当に怪しそうなら、さすがに諦めよう。うん、そうしよう。
私は求人誌に書いてあった電話番号に、すかさず連絡。
数回呼び出し音が鳴った後、やけにおちゃらけたノリの男の人が電話に出てくれた。
「あの、求人……」
「はいはーい、分かってますよぉ! よかったー、これでやっと三人。じゃあ、明日の十二時に○○駅前に集合ね! 遅刻しちゃいやよ? 待ってるからねー」
「え? ちょ、ま、まって――」
まだまだ聞きたいことはあるのに、一方的にしゃべって一方的に切られた。
どうしようこれ、待ち合わせ場所っぽいところは、そんなに遠くないし明日は土曜で学校も休みだから行けなくはないんだけど。
私はベッドにダイブすると、枕をぎゅっと抱きしめながら顔をうずめる。
頭の中では、行くか行くまいか、そんな事ばかり回ってる状態。
身の安全とお金を天秤にかけるのもどうかとは思うけど、電話の相手もテンションが高いだけでそんなの危険そうな人物には思えなかったし、案外普通の仕事だったりして。
何より魅力的な報酬の額に、私はもう心を決めかけていた。
――よし、決めた。
「とりあえず行ってみよう。それからでも、遅くはない……よね?」
翌日、私は待ち合わせ場所の駅前に来ていた。
まだ十一時半だし、さすがに早すぎたかな。
なんて思っていたら、なんだか妙な人が私の視界に入る。
二人の女の子を連れた、おっさん。
うん、それだけ聞くとまだ親子かロリコンさんかのどっちかにしか聞こえないんだけども、なんていうか、あれです。頭の上に、天使の輪っかみたいなのがついてるおっさん。しかもかなり太ってる。
率直に感想を述べさせていただきますと、すごく……キモチワルイデス。
「うわぁ……何あれ」
つい、私は言葉を漏らす。
すると、おっさんが私に気づいたのか、手招きしながらこっちに手を振ってくる。
いや、お願いだからそんな目立つ格好でこっち見ないでください。
ほら、私の隣を歩くサラリーマンの人とかドン引きじゃん。こんなのと知り合いに思われる私がヤバい。
とはいえ、内容が内容だし、電話のノリといい、もしかしてやっぱりあの人があの求人の……。
「ど、どうも……ええと、もしかして――」
「んもー! やっぱりオーラが違うから一発でわかっちゃう! そーよそーなのよ、あなたを呼んだのは、わ・た・し」
私が確認するまでもなく、向こうが話しを進めてくれた。
というか、一応電話したのは私の方だし、呼んだってのはちょっと違うんじゃないかな? まあ、いいか。
「それじゃ、面子も揃った事だし、お仕事の説明しましょうか。そこのお店はいりましょ」
おい、面接どうした。
なんて心の中でツッコミながら、私は腕をおっさんに捕まれてすぐ近くにあったファミレスに半ば強引に連れていかれる。
おっさんは店員さんが案内した席に座ると、私と境遇を同じくしたと思われる中学生くらいの女の子と一緒に、私を対面の席に座らせた。
何故か私が真ん中で両側から女の子に挟まれるという男の子なら美味しいポジションなんだけど残念、私はその気は無いから特に何も感じない。
でも、ちょっとそれっぽくなってきたかな。少しだけ緊張……は、しないね。だって、正面でクリームソーダを掃除機みたいに吸ってるおっさんが変すぎるもん。
「それじゃあ……」
「あのぉ……ちょっといいですかぁ?」
おっさんが口を開きかけたところで、私の右隣に座っていた、ちょっと大人しそうな印象の長い黒髪の女の子が自信なさそうに手を上げた。
おっさんは非常に気持ち悪い、もとい優しそうな笑顔でどうぞと女の子に発言を促す。
「ええと、面接をして受かったらお仕事をさせてもらえると聞いたんですけど……」
「ああ、あれ? 実は、君らが見たお仕事の案内は、どんな形で確認したはともかく、資格のある子にしか見えないし聞こえない魔法がかかってるから、私に電話かけてきた時点で合格なのよ」
出たよ、魔法とか……。ああ、だから、向こうが『呼んだ』ってことになるわけね。
でもこれ、つまり私ら三人しか来なかったから面接無しで即オーケーってだけじゃないの。
ほら、さっき質問した女の子も目が点になってるよ。
「じゃあ、説明に書いてあった魔法少女ってのは?」
今度は私の左から、金髪ツインテールの気の強そうな子がおっさんを睨みながら言った。
「ああん、そこは今から説明するから、そんなに睨まないでぇ〜」
おっさんは身を捩りながらぶりっ子みたいにいやーんとか言ってる。もう帰っていいかなこれ。
「はいそこ、帰っちゃ駄目よ。あと、こんなにぷりてぃーできゅーとな私を何度も気持ち悪いとか言わないの」
「なぁ!?」
ええ? 口に出てた? ううん、そんなわけない。でも、今確かにこのおっさんは、まるで私の心を……。
「そう、人の心くらい読めちゃんだなぁこれが。だって妖精さんだもんね。これでちょっとは、魔法少女の事も本気だって信じてくれた?」
そんな簡単に信じろって言われて信じれないよ。
でも、確かにこのおっさんは今、私の心を読んでみせた。もしかして、本当に?
とりあえず、話を聞こう。まずはそこからだね。
みんなが話を聞く準備が整ったのを確認すると、おっさんは一度咳払いをしてから、話し始めた。
「まず、仕事内容にも書いてあったと思うけど、あなたたちにやってほしいのは、魔法少女になって悪い魔物を倒してもらいたいの。日時は明日、十月三十一日の一日だけ。明日だけ頑張ってほしいのよ」
ずいぶん早い、というか急すぎだね。
でも、明日だけってどういうことなんだろ。聞いてみようかな。
「随分と早いんですね。えと、なんで明日だけなんですか?」
「うん、別に心に思うだけで話通じるから口に出さなくてもいいのよ舞衣ちゃん。まあいいや、実はね、明日はハロウィンなのは知ってると思うけど、悪い魔法使いが、明日しか使えないとっても大きな魔法を使ってこの世界を支配するって脅してきたのよ」
さらりと言ってもいないのに私の名前を……。
それはいいとして、魔法使いとかまで出てくるし、ほんともう現実離れし過ぎだよこれ。
「ごめんねー。でも貴重な体験だと思って頑張ってくれると私、嬉しいな〜。資格が無い人は魔物にすぐやられちゃうから、どうしてもあなた達じゃないと駄目なのよ」
もはや心の中でしか会話してない。でもまあこの方が楽だしいいかな。
とりあえず、私達じゃないと駄目ってのは分かった。でも、理解するにはもう少し時間がかかりそう。
「うん、今日一日は考えてくれてかまわないわ。もしかしたら怪我くらいはしちゃうかもしれないし。でも、忘れないで。この世界を救えるのは、あなた達だけだってこと」
そ、そういやこの世界を支配するんって言ったんだっけ。
って、もっと話が急すぎてわけわかんないよ。冗談にしてはやけにおっさん真面目に話すし。
こういうこと普通前日に言うかなぁ?
「みんなそれぞれ思うところはあるでしょうけど、お願いね。じゃあ、もしやってくれるのなら、明日の同じ時間、今日集合した場所で、三人で手を繋いで目を閉じて」
それだけ言って、おっさんはファミレスを出ていく。
って、これだけかい。自己紹介すらまともにしてないんですけど。
「ど、どうしましょうか……私達、世界の命運、託されちゃったんですか?」
不安そうに、黒髪ロングの子が私に話しかけてきた。
たぶん、私が一番年上だから、頼られちゃったのかな。
でも正直、私だってこんなの到底信じられないし、何かの冗談だろうって思ってる。
……それでも、あのおっさんが読心術っぽいのを使ってたのは事実。それに、最後に見せたあの顔、とても嘘を言って私達を誤魔化しているようにも思えなかった。
今のところ私達は何かを取られたわけではないし、たぶんこのまま付き合ってやっても大丈夫ではあるんだろうけど……。
「どうなの……かな。私にも分かんないや」
「頼りにならないわね。無駄に歳くってんじゃないわよ」
鋭く私の胸に突き刺さる言葉を吐いたのは、金髪ツインテールの子だ。
ジト目で私を呆れながら見ているし、こっちの子は黒髪の子よりもあんま可愛くない。
「お、お姉さんにそんな口の利き方は無いんじゃないかなぁ?」
「っふん」
怒りそうになるところを堪えて、私は年上らしく振る舞ったのに、ツインテの子はそっぽを向いてしまう。
そんな私達のやり取りを見て慌てふためく黒髪の子は、両手を思い切り合わせて打ち鳴らす。
「え、えと、じゃあその……もしかしたら明日一緒に魔法少女しちゃうかもしれないんですし、自己紹介でも……」
「は?」
「ひぃぃ、ごめんなさいごめんなさい! でもでも! 名前知らないとどう呼んでいいか分かんないし……その……うぅ」
おいこら黒髪子ちゃん泣かすなツインテ。
もうあと一押しで泣いちゃうぞあの子。
とはいえ、いい提案だね。
いつまでも黒髪とツインテじゃ呼びにくいし、本人に言ったら確実にツインテはキレるだろうし。
「おお、そうだね。じゃあ私から。私は十条舞衣。よろしくね」
「はい! よろしくお願いします、舞衣さん。あ、私は青樹燐って言います。よろしくお願いします!」
ぱぁーっと太陽が下りてきたみたいに眩しい笑顔を浮かべる燐ちゃんはとってもかわいい。
でも特に興味なさそうにフーンとか言ったツインテは絶対に名前で呼んでやらない。今決めた。
「はぁ……黄乃雅。それじゃ、私行くから」
ツインテ……黄乃は名前だけ名乗るとさっさとファミレスから出ていく。
愛想のないやつだ。やっぱり好きになれない。
「あ、ええと、舞衣さんは……明日、どうします?」
どう、とは、いくかいかないかってことだよね、たぶん。
正直微妙なところだけど、ここまで来ちゃったら最後まで付き合いましょう。そうしましょう。
それに、この子は私や黄乃が来なくても、一人で行っちゃいそうだし。それはそれでなんか後味悪い。
「うん、じゃあがんばっちゃいましょうか。一番年上の私がやらないってのもかっこつかないしね」
「わぁぁ、ありがとうございます!」
私が言ってやると、燐ちゃんはさっき以上に可愛らしい笑顔を返してくれた。ほんと可愛いなぁもう。その気は無いけどぎゅーってしたい。燐ちゃんに会えただけでもラッキーだよこれ。
「それじゃあ、また明日ここで」
「はい! 一緒に魔法少女、頑張りましょうね、舞衣さん!」
そうして、私と燐ちゃんも今日はそこで別れた。
なんていうか、漫画なら三話分くらいは使いそうな内容を一気に端折って進められた感じ。
とりあえず、なんだかよくわからないまま、私、魔法少女始めちゃうらしいです。
翌日、十二時ちょうど。
おっさんの言った通り、私と燐ちゃんは昨日の集合場所に集まっている。
黄乃はというと、まだ姿を見せていない。
「雅さん……来ませんね」
「うー、あいつめ」
人のことを散々言っておきながら自分だけ逃げ出すとはおのれ卑怯な。
なんて私が拳を握りしめながら恨み言を心中で呟いていると、誰かが私達の傍に近づいてくる足音が聞こえた。
そっちに顔を向けると――
「ん、待たせたわね」
「雅さん! 私信じてました!」
「わー、くっ付くなくっ付くな! ……ったく、あんたらだけじゃ不安なのよ」
ツインテールの先っぽを指先に巻きつけながら、なんだか恥ずかしそうにしてる。
ちょっとは可愛いところあるじゃん。うん、これでちゃんと三人揃ったね。
「それじゃあ、手を繋いでっと……二人とも目を閉じてね?」
「はい!」
「ええ」
す、と、私も二人に合わせて目を閉じる。
一瞬、エレベーターに乗ったときみたいな軽い浮遊感を感じた。
すると――
「はぁい、みんなありがとねー。もう目を開けていいわよ」
昨日のおっさんの声。
それに合わせて私が目を開けると……。
「え? ええええええ!?」
さっきまで駅前にいたよね私?
何この魔界!
いや、魔界ってみたことないけどとりあえず表現するならそれだよ。
だって、変な形の木や、見るからに毒ありそうな無駄におっきい草、真っ赤な空に地面は赤黒いし瞬間移動するにしてももっと楽しそうなところにしてよ。
って、今さり気なく瞬間移動とか言っちゃう辺りもう私も魔法をちょっと信じちゃってるのかな。
「はいはい、驚いてる暇はないのよ。ハロウィンの日だけに使える、超高度召喚魔法、ハロハロハロウィンの発動までもう時間は無いの。この異空間で食い止めなきゃ魔物が現実世界に漏れ出しちゃうわ」
「ハロハロ……いや、もうつっこまないよ。で? 私達はどうすればいいの?」
私が聞くと、おっさんは懐から三つのステッキを取り出す。
どう見てもそこら辺のおもちゃ屋で売ってそうな安っぽいのなんですけど大丈夫なのコレ?
「はい、まずはこれを受け取って。舞衣ちゃんが赤、燐ちゃんが青、雅ちゃんが黄色ね。そして、持ったらすかさず天にかざしてこう叫ぶの!」
おっさんは高らかに拳を上にあげ――
「みらくるまじかる! えんじぇるふらーっしゅ! さあ、ほら舞衣ちゃんから! さんはい!」
「え? えええ?」
え? 変身の呪文とかいるの? それちょっと恥ずかしいというかこの歳になってそれは――ええいもうどうにでもなれ!
「ミラクルマジカル! エンジェルフラーッシュ!」
やけくそでステッキを振ると、私の身体が真っ赤な光に包まれる。
すごく眩しい……けど、なんだかあったかい光。
でも、それはほんの数秒で消えてしまって、そしたら――
「あ、あれ? これって……うわああああああ!?」
なんていうか、みんながイメージする魔法少女そのままって感じの衣装にいつの間にか着替えてた。
ひらひらのスカートに、やけに派手な装飾の服。これ……この歳になるとさすがに着るの恥ずかしいんですけど……。
「あ……別に言わなくても振れば変身できるわよこれ」
「はぁぁぁぁ!?」
さらっと何も言わずいつの間にか、黄乃が私の色違いの服に着替えてる。
どういうことですかこれ。
「おいこらおっさん……」
「いやいや落ち着いて舞衣ちゃん! 魔法少女に変身シーンはつきものでしょ! あ、まって! お願いだから殴らないで! 今は服のおかげで通常の十倍の力が出てるからやめ――アーッ!」
何はともあれ、全員が服を着終わった。
色が違うだけで、服の形はみんな同じみたいだね。私以外は似合ってる。うん、私以外は。
「ええと、その……はい、説明させていただきます舞衣様。あなた方はこれよりこの異空間に溢れる魔物を討伐してください。しばらく倒し続ければ、魔物の召喚者である魔法使いが姿を現すと思うので、そいつを倒して終わりです。もし取り逃せば、ハロウィンの日だけに使用できる大規模召喚魔法、ハロハロハロィンをまた来年も使われて、世界はまた危機に陥ってしまいます。どうかよろしくお願いします」
土下座したまま、おっさんが説明してくれる。
まあとにかく片っ端から出てくる奴を倒せばいいんだね。分かったよ。
そこで、気になることがあるんだけど。
「はい、何でしょうか舞衣様」
「武器ってないの? さすがに素手で殴るのは……」
いくら強化されてるとはいえ、もしキモいのとかがたくさん出てきたら触れたくないし、何か武器は欲しいところだ。
「ええと……じゃあこれなんてどうでしょう?」
言って、おっさんが差し出してきたのは、黒く輝く鉄製の塊。
いや、というかこれ拳銃だよね。って、けっこう重いし本物?
「これって……」
「SIG P226でございます。ハンドガンですよ」
いや誰も名前聞いてねー。
でも本物っぽい、ちょっとおっさんに撃ってみたらわかるかな?
「やめて死んじゃう! 本物ですから取扱注意ですよ!」
どうやら、本物らしい。
てか、変身拘る割に武器が魔法少女からかけ離れてるんですけど。
「ええと、私の武器は……その」
「おお、燐ちゃんはこんなのとかどうです? M134ミニガン! どうです? 快適でしょう? んああ、仰らないで。どうぞ、銃身を回してみてください。いい音でしょう?余裕の音だ、威力が違いますよ」
なんかどれも魔法少女離れした武器。
というか魔法が使えるわけじゃないんだね。あくまで物理で殴れと。
「じゃあ私はこれで行く。んで、時間は?」
黄乃はなんかすっごくでっかい剣を取ってる。一応この中じゃ一番魔法少女らしい武器なのかもしれない。
「もうすぐよん。それじゃあ、レッド、ブルー、イエロー……三人ともがんばって。大丈夫、資格があるあなたたちなら楽勝よ」
あ、自分は何もしないのかい。
言うだけ言っておっさんは瞬きする間にどこかへ消えさった。
説明不足過ぎる。今更だけど、これ報酬ちゃんと出るのかな。
それと、レッドって私のことかい。もう魔法少女じゃなくてそれ戦隊物の何かだよ。
「だってさ、それじゃあ……じゃあいっちょ頑張りますか。ね? レッド」
「ははははい! 頑張りましょうレッドさん!」
「みんなノリいいね……私は憂鬱だよ」
そうこうしているうちに、空の真ん中に、ぽっかりと大きな穴が出来た。
徐々に大きくなっていくそれは、数秒もしない内に空全体を黒く塗り替える。
そして、黒い球体のようなものがぽつぽつと現れはじめ、次々と地面に降り注ぐ。
と、地面に落ちたそれは形を変えて、犬と鳥を合体させたような姿のものや、大きな蛇みたいな化け物に変形していく。
これが、魔物なんだね。
「あ、あそこ見てください!」
燐ちゃん……今はブルーって言った方がいいかな。ブルーが、最初に穴が出来た場所を指さす。
そこを見てみると、一人の男の人が不敵な笑みを浮かべながら宙に浮いていた。
あれ? もしかしてあれが例の魔法使い? もう出てきてんじゃん。
「まさか魔法使い? 余裕ぶっこいて出てきたとか? 馬鹿なの……」
イエローは飽きれてため息をついていた。
でも、そうこうしているうちに魔物の数は尋常じゃないくらい増えてる。
今更だけど、私、格闘技とかやったことないし体育はいっつも成績悪いです!
服の力にかけよう。うん。
「レッド、あんたは魔法使いをやって。雑魚は私とブルーでやる」
「はわわわ!? わ、分かりましたぁ! 頑張ります!」
「ちょ、私任せかい!」
「レッドはリーダーポジでしょ。おいしいところは譲ってあげるって言ってんのよ。ほら、行くわよ」
そう言い残して、イエローはさっさと魔物退治に行っちゃった。
ブルーもその後を追いかけていったので、今は私一人取り残された形になってる。
じゃあ、私も魔法使いさんのところに――って、行く前にあっちの方からこっちに降りてきちゃった。
「ほう? あの天使がまたこんな輩を集めたか。ふん、しかし雑兵をいくら集めたところで私の勝利は揺るがない。残念だったな。そしてあの天使と出会った事を呪え」
あのおっさん天使なんだ。前に妖精って言ってたくせに。まあ天使の輪っかみたいなのあるし天使か。
いやそれよりも、なんかやけに強そうなイケメンメガネ魔法使いさん。これ一人で大丈夫なの?
とりあえず、攻撃してみないことには……。
そっと私がシグなんちゃらとかいう拳銃を構えると、
「なぁっ!? 魔法少女だろお前! なんでそんな物騒なもの持ってるんだ! 撃たれたら死ぬじゃないかいい加減にしろ!」
「あ、はい……ごめんなさい」
って、なんで謝ってるんだ私。
うん、拳銃効くらしいし、いけるんじゃないかなこれ。
だって、後ろの方でブルーとイエローが戦ってるの見えるけど、ワンパンで倒せてるし魔物もあんまり強くないじゃん。
「こら! 魔法少女なら魔法で勝負しろ! そんなものに頼るなんて卑怯だぞ!」
「えぇー……じゃあこっちで」
さっきのステッキでなんか魔法出せないかな。
また呪文がいるんだったらやらないけど……っと、なんかステッキの横にスイッチがある。
これ押したら魔法とか出るんじゃない?
私はそっと、ステッキ側面のボタンを押す。
すると、ヴィィィンと変な音と共にステッキが微振動し始める。
私も魔法使いさんも唖然としたまま数秒間静寂が続き、とうとう私が、
「電マだこれ!」
言いながら、ステッキを思い切り地面に叩きつけた。
あ・い・つー! あとで絶対にもう一発ぶん殴る!
もういいこんな茶番さっさと終わらせるもん!
「魔法なら使えるよ! レッドファイヤー! レッドファイヤー!」
もう恥とかそんなのどうでもよくなった。
ただ、今は無性にむしゃくしゃしてたからやっちゃった。
うん、後悔はしてない。
「うわあああ!? 死ぬ! 死ぬ死ぬ死ぬ! やめてくださいやめてください僕が悪かったですから!」
拳銃を何度も連射したけど、一発も当たらなかったみたいで魔法使いさんは土下座しながら許しを乞うてくる。
そんな中、ブルーとイエローは魔物を殲滅したらしく、こちらに戻ってきてくれた。
「あ? 何よこいつが魔法使い? 雑魚そう……」
「はわわ!? どういう状況……」
とりあえず、この魔法使いさんを倒せばいいんだよね。
もう……これで終わらせる。
「ブルー! イエロー! ぶっ飛ばすよこいつ!」
「へぁ!? え、ええ、いいけど」
「あわわわ、舞衣さ……レッドさんが」
なんだかんだでみんなが私に合わせてくれる。
一緒に飛び上ると、空中でポーズをとりながら三人並んで足を前に出し、
「魔法少女……キィィィィック!」
「ぎゃあああああああ!?」
落下しながら三人同時のキック。特に魔法的な物も魔法少女的要素もないが、とにかく相手は死ぬ。
「なぁにこれ、えと、終わりでいいんだよね? その、なに……レッドもブルーもおつかれ」
「はぁ……はぁ……そうよ、魔法使いは倒したわ。これで、あのおっさんのお願いは果たしたわけで」
肩で息をしながら、何とか声を絞り出す。
身体能力は確かに上がってるけど、体力はあんま変わんないんだね。結構疲れた。
「あっりがとー! 世界はこれで救われたよ! でも君たちにこの記憶が残っていると、私困っちゃうんだ。だから、ごめんね。でもみんなは凄く頑張ってくれたから、サービスしちゃう」
いつの間にか背後にいたおっさん……じゃなくて天使は、そのまん丸の身体をくるくると回転させ始める。
最後の最後でキモい。
って、あれ? 視界がぐにゃぐにゃに……。
「昨日からの記憶は消えちゃうけど、あなた達が為した行いは、私がずーっと、ずーっと覚えているからね。それじゃあ、バイバイ」
「う……ん」
つい、うたた寝してしまったらしい。
机に涎がついてるし、こんなところを弟に見られでもしたら大変だ。
ていうか、どれくらい寝てたんだろう?
時計を確認……十月三十日の午後十二時。ふええ、十八時間くらい寝てたみたい。こんな姿勢でよく起きなかったもんだね。
そういや、お金が無いからバイト探してたんだっけ。
あー、時間無駄にしちゃったな。
「っと、あれ? なにこれ」
立ち上がろうと思って手を机に置いたら、指先に何かが触れた。
赤いステッキと……これは封筒? こんなの誰が――って、まさか。
「弟よ……まさか、姉の醜態を見たというのか?」
だって、こんな置き土産を残していくのは弟くらいだろう。
しかし、それにしてもどこぞの魔法少女が持ってそうなこの玩具っぽいステッキはどこで手に入れたのか。
まあそれは置いておいて、封筒の中身はなんだろう。
「って……え? これってどういう……」
中身は、素晴らしい数の諭吉さん。
ざっと数えたけど、十五万くらいはありそう。
なんだろうこれ……でも不思議と嫌な感じはしない。
貰って当然のものっていえばいいか、なんだかそんな感じがする。漠然としてて説明上手くできないけど、これは多分、貰っていいもの……なんだと思う。
「でも、大金にステッキってなんだろうねこれ。……あれ? スイッチがある」
このステッキ、側面にどうやらスイッチがあるようだ。
大方派手な音が鳴ったり先っちょの装飾が光ったりとかそんなギミックなんだろうけど、こういうのってあると押したくなるよね。
ぽちっと。
「ヴィィィィン」
そう、私の部屋に響いたのは、表現するならそんな音。そして、微振動するステッキ。
「電マだこれッ!?」