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遠くないかもしれない

作者: 小呂 花茂乃

未来。ここは未来。

ロボットと人間が当たり前のように一緒に暮らしている、そんな未来。


ロボットと人間が共存しているなんて、ただでさえ就職氷河期なんて呼ばれているこのご時世に、と思う人も少なくはないだろう。

大丈夫、ロボットと人間とで仕事がしっかり決まっている。だからそんなに心配は要らない。それでも状況は変わっていないように思われる。


ここ、未来のロボットには電源がある。

その電源を消すと、今まで記録してきたデータ、人間でいう記憶がなくなる。勿論、セーブすることはできるが、容量が何百年と生きているとなくなってしまうから、やはりロボット自ら消してしまうことの方が多い。

そう、ロボットは感情をもっている。


あるところに一人の少女がいた。

彼女は5才の誕生日プレゼントとして最新のロボットを貰った。彼はケンタと名付けられた。

ケンタは彼女の素晴らしい友人となった。彼と彼女は一緒に無邪気に遊んだ。

お互いに強情っ張りでしばしば喧嘩もしたが、すぐにどちらかが謝って、またすぐに一緒に無邪気に遊んだ。


彼女はすぐに大きくなった。

彼女の回りにはたくさんの人がいる。

ケンタの回りにもたくさんのロボットがいる。

それでも二人は仲良しだった。


やがて二人とも就職先が決まった。

二人は働く時間帯が違うため、言葉を交わすことが減ってきてしまった。

その為、たまに言葉を交わすとすぐに口論してしまうことがしばしばあった。大抵、お互い謝らずに、しかし夜が明けるとけろりと都合よくまた元通りに会話をする。


彼女は職場の素敵な男性と結婚することになった。ケンタは多いに喜んだ。人間だったら涙を流すくらいに。結婚披露宴では、祝福の言葉としてケンタがロボット代表として朗々と述べた。流石にロボットなだけあり、豊富な語彙と豊富な知恵などを披露した。


やがて彼女は子供を授かった。

ケンタはこれにも感動して祝福の言葉を彼女に送った。

記念すべき一人目は元気な男の子だった。

ほどなく、二人目の女の子が産まれた。二人ともすくすくと育ち、立派に成長した。


彼女は年を取った。

仕事をやめてからというもの、ケンタと、夫の写真に向かって、穏やかに今日起こったことを話している。


そろそろ彼女も限界のようだ。

体のあちこちが痛いとよくいうようになった。しかしつらそうな顔をしたことはなかった。

彼女はよく、これくらいどうってことないとケンタや子供たちに微笑みかけていた。


彼女はケンタにこそりと言った。

「私はもうすぐここからいなくなってしまうけど、あなたはもうあと何百年といきることになるでしょう。どうか、私がここからいなくなったら、電源を消してね。そしてまた電源をつけ直してもらってね。お願いよ。」

彼女は少女のような、けれど悲しそうな顔をしていたそうだ。


やがて彼女はいなくなってしまった。


さて、これまで一緒にいた彼は、あのとき、この時、いつもどんなことを考えてどんなことを考えていたのだろうか。それは彼に聞かないと分からない。


だから、これを読んだ僕、君の名前はケンタである。

○○会社の△△課の冴えない事務員の僕、どうか、元気で。



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