第一話 大切な時間。
朝から多い洗濯物を私ー朔弥ーは籠に入れて物干し竿まで抱えていく。大変だと思っていたこの仕事も、今となっては慣れてしまっている。
私は血は繋がっていないけれど、今まで兄として一緒に暮らしてきた耿兄さんが開いている医療院に隣接する家で暮らしている。決して裕福とは言えないけれど、それでも生活が不自由だと感じたことは一度もない。
「朔弥!」
干した洗濯物から顔を覗かせると、兄さんが私を見ている。
「何?」
「朝餉が出来たぞ」
そう言って兄さんは家に引っ込み、私は残っている洗濯物を干し終え、家に入った。
机の上には私との朝餉が置かれていて、兄さんは自分の分を早くも食べていた。
「早く食べろよ」
顔を上げて言った後、兄さんはまた黙々と朝餉を食べる。
「いただきます」
私は自分の朝餉である味噌汁と米に手を伸ばした。兄さんがこうやって朝餉を作る日は週に一度と決まっており、その日は必ず医療院は休診になるのだ。
私が住むこの国は龍帝皇国といい、国の守り神として五神の黄龍と、四神の東を司る青龍、四神の西を司る白虎、四神の南を司る朱雀、最後に四神の北を司る玄武を崇めており、それらの各神を地区ごとに分ける。黄龍は皇城や貴族の家がある皇区、青龍は東区、白虎は西区、朱雀は南区、玄武は北区でよく崇められるが、私や兄さんはどれにも属さない。
「おい、朔弥。狐らに妖力やっとけよ」
「解ってるよ!」
そう。
「目覚めよ、汝ら認めし主の前に現れたり」
私と兄さんは一種の狐を崇める。
呪詩を紡ぐと同時に、机の上に六匹の狐が現れる。右から、白狐、黒狐、銀狐、金狐、天狐、空狐。私は狐達を崇める一族である狐妃族の最後の巫女。六匹の神の狐が認めた正真正銘の巫女なのだ。
「おはよう」
『ああ、おはよう。目覚めは良い』
白狐の真妃が私に声をかけ、
『朔弥、私は早く妖力が欲しいのだが』
黒狐の闇妃が私に妖力を催促し、
『闇妃、催促しては朔弥が可哀想ではないか』
闇妃を銀狐の命妃が諭し、
『放っておけばいいのよ、命妃』
闇妃を諭す命妃に呆れる金狐の生妃、
『そうだよ、命妃』
生妃に同意する天狐の遥妃、
『相変わらずうるさいな』
真妃以外の狐に呆れる空狐の美妃。
これが、この六匹の神の狐の毎朝のやりとり。いい加減にすればと思うものの、これがいいのだと以前言われたのだ。
これが、私達。
みんな、私の大切な家族です。