勇者様は大人気です。それに引きかえ・・・
「・・・。」
痛みすら覚えるほど冷たく、焼けるように熱い水。
それは黒く、途切れていた俺の意識を素早く覚醒へといざなった。
トッテモ冷たくって、モノスゴク冷たくって、ほっとけば風邪をひくほど冷たくって。
うん、単純に冷たいだけなんだけど。
そんなのを周囲が水浸しになるほど、一気に、大量に、かけられたようだ。
灯りは必要ないけど周囲は少し暗く、本来ならまだ起こされる時間でない。
眠れたのもほんの少し前だったのに・・・。
「いい加減に起きれば?」
おそらく大量の水が入っていたであろう、重そうな水瓶を軽々と片手に持ち。
ぺらっぺらな布を、あえて水浸しな俺の上に投げつけて。
すぐには手が届かない場所で、ある種の人たちには「ご褒美です!」な視線を投げてくれる、素敵な素敵なメイドさん。
「ちょっと早く起きなさいよ、あんたが起こさないと私の仕事が終わらないじゃない。」
視線はどんどん冷たくなって、俺の体も冷たくなって・・・。
起きないと、この状況をどうにかしないと、マジで風邪ひく。
水浸しになった小さなベットから身を起こし、素敵なメイド様に起きたことをアピールした。
「せっかく早く起こしてあげたんだから、あんた一番最初に食堂にいなさいよ。
むしろ、食堂で手伝いでもして・・・って、邪魔になるだけね。
ともかく、勇者様方より早く行動して、私たちに迷惑をかけないでよね。」
キッツい口調で、見下していることを隠しもしないで、メイド様は退出された。
朝・・・いや、明け方からとても手厚いおもてなしに、感動するね。
あぁ、どうしてこうなった?
初日に俺の世話をしてくれた彼女が、どうやら居なくなったらしいんだよね。
正規で雇われていた訳ではないようで、周囲の人たちは『お情け程度で置いてやっていた』。
って認識らしく、居なくなったことはどうでもいいらしい。
雑用を押し付けられなくてイライラしているようだけど。
一種の八つ当たりらしい。
増えた面倒事・・・俺の世話をしないといけないこととか。
勇者様の親友様のウザったいアタックとか。
勇者様の彼女様の無駄なファッションショーとか、彼女たちの憧れの騎士様へのモーションだとか。
そういうの。
勇者様の評判はあり得ないくらい高い。
程々に格好が良い。
大剣が一番得意のようだが、武器はそれなりに何でも使える。
最近は、疑似戦闘や模擬試合ではほぼ負けなし。
なおかつ真面目で、みんなに優しい。
仕事の邪魔はしないし、むしろ手伝ってくれることもある。
まさしく理想とする勇者様。
川上姉弟は微妙な評価。
勇者様と同じように戦闘面では高評価を得られている。
そして、お荷物な俺は最低評価。
呪われているし、世話してあげるだけ感謝してよ、って感じ。
戦闘はねぇ、俺どっちかっていうとサポート型のステータスだし。
基礎訓練は何とかなったけど、いちゃもんつけられて、ひたすら走らされたり。
っていうか、|ぼっこぼっこにされる要因《やられ役》らしくってさ、大河内やら川上弟やらにひたすら攻撃されたり。
そこに兵士たちまで加わったり。
反撃のチャンスはなく、防御しかできないんだよね。
「へ・・・ックシュ。」
やべ、寒いわ。
早く水浸しなのを何とかして、濡れていない服に着替えよ。
はぁ、疲れ取れてないし、余計な作業あるし。
このままだと、俺自身がやばいかも。




