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たかが勇者ごときと、同列に扱ってはいけない存在 ~ side シルヴィオ ~

召喚された勇者は、チート並みの高スペックです。

巻き込まれた人も、それなりにスペックが高くなります。

例外はありません。


もしも、異世界人なのに表示されたステータスが低い場合。

それなりの理由があります。


真面目に警備をするふりをしつつ、考えた。


半年は意外と長く、それなりに親しいといえる人もできた。


しかし私にとって、この国の居心地はかなり悪い。

嘘つきで見栄っ張り、傲慢ごうまんで、人を見下すのが好き。

弱いものをしいげるのも好き。


・・・早く目的を達成して帰りたい。


そんなことを考えていると、斎場さいじょうに鮮烈な光が落ちた。

周囲すら一色に染め、目の奥まで焼く強い光だった。

儀式は成功にしたようだ。


程なく、光に焼かれた目の違和感も薄れる頃。

儀式の関係者がぞろぞろと出てきた。

この国の第二王子、神殿派の若い魔術師、王子の側近の護衛兵たちと神官たち。


そして、見たことのない服を着た黒髪の少年と不自然な茶色い髪の少年と女。

あれの誰かが”勇者”・・・か。


儀式も終わった。

”勇者”も王子たちも出てきたのだから、警備も終了。


かと思ったが、違うようだ。

上官が言ったのだ。

『召喚に巻き込まれた奴がもう一人いる、出てきたら伝令をよこせ。ついでに世話をしておけ』と。


声を掛けられたのは、扉の前にいた私。

それと反対側にいた、私が苦手な先輩兵士。


彼は後ろ盾が強いらしく、下位の兵士の中ではとても偉そうにふるまう。

しかし、上官の前ではへりくだりすぎていて、その落差に笑えるほどだ。

感情的で、暴力に訴えることが多く、呆れるほど馬鹿。


だからこそ、思惑通おもわくどおりに動かすのは簡単、なのだが・・・。

感情に任せた行動ゆえに反応が早過ぎて、初めから思惑通りに動いてはくれないのだ。


今回もそうだった。


扉がきしむ音がすると、小柄な黒髪の少年が出てきた。

彼が残されていた一人なのは、見慣れない服装からしても一目瞭然だった。

先輩兵士は、その彼をいきなり蹴りつけ、剣を突き立てた。


・・・あれにはビックリした。


どうにか先輩兵士を遠ざけ、土で汚れてしまった少年に軽く謝った。

何とか友好的に風呂に案内できた。

風呂の使い方は解るようなので、席をはずしておこうと思ったら・・・また先輩兵士が来た。

ステータスを明確に表示できるアイテムを持って。


そのアイテムの表示項目は少ない、そして精度も怪しいものだ。

だが、ステータスが誰にでも目視できるようになるためよく使用されていた。


少年のステータスは不自然だった。

身体的な能力を示す数値が低すぎた。

さらに呪われていると表示された。


俺らの国には”マレビト様”という呼び名がある。

神々の暇つぶし、精霊の悪戯いたずら、呼び方は色々だが、人の意志ではコントロールできないほどの予期しない力。

その予期しない力によって、この世界に落ちた人のことを示している。

召喚によって引き寄せた”勇者”は”マレビト様”とは呼ばれない。


今まで何人かいた”勇者”や”マレビト様”、彼らを研究する研究者。

とってもフレンドリーな神々が明言していることがある。


この世界に落ちると、その人の持っているプラスはさらにプラスに。

マイナスだったものも、最低で打ち消し、むしろプラスに転じるらしい。

無理やり加算し、力を詰め込む”勇者”ほどではないが、”マレビト様”も自然とそれなりの力を得る。

巻き込まれたとしても、それなりの力を得ているはず。


なのに、目の前にいる少年は呪われているという。


世界を超えたのにマイナスがマイナスのままなのは、少なくとも2つ以上の世界を超えた人。

もしくは一度戻り、再度この世界に来た人。

人の都合で呼ばれたこの世界の”勇者”が、元の世界に戻ることなどない。

人の都合でゆがめたモノが、この世界から出て行けるわけがない。


たかが”勇者”ごときではなく、”マレビト様”と呼ぶのが相応ふさわしい人。


それを知らないこの国の人間は、彼を虐げても構わない、弱いものとして認定したようだ。

用意していた服が、案内すべき部屋が変わった。

そして、上官の言葉を聞いた時から感じていたが、彼は”勇者”たちからも切り捨てられているようだ。

不思議で仕方がないのだが・・・。


とりあえず、彼のお世話をしよう。

風呂の次は、部屋に案内をして、これからの予定を話して。

そしたら、いつもの巡回しごとの時間だから、巡回しごとをして。

そして時間を作って、彼をたずねよう。


できるなら彼とは友好的な関係を築きたい。

ほかの”勇者”たちとではなく、彼がいい。


ステータスに表示されていた名前を見れば分かる。

彼のステータスには名前が一部しか表示されていなかった。

彼はこの世界において、名前をすべて明かすことのリスクを知っているのだ。


彼がきっと目的を達成するきっかけなってくれる。

単なる予感ではあるが、私はそう思ったのだ。

シルヴィオさんがノゾム君を部屋に案内する前までのお話です。


この世界では初対面の人に、フルネームを名乗ることはありません。

名前の一部のみを名乗ります。

そして”シルヴィオ”なら”ヴィー”のように、呼び名や愛称などでお互いを呼び合います。


この世界でよく知らない相手にまで、フルネームを名乗るは自殺行為に匹敵します。

名前自体にも力があり、自身が名乗り他者に知られると、他者から自分自身への拘束力が発生し、それを認めたことになります。


簡単に言うなら、フルネームを知っている相手なら思い通りに行動させられるし、思考の操作もできる状態。

つまり、奴隷のように虐げることもできるし、人形のように扱うことも可能。

余程信頼した相手でなければ、フルネームを明かすことはなようです。



そういうことにしておいてください。

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