勇者召喚の理由 ~ side シルヴィオ ~
説明回、2話目。
次もシルヴィオさんのお話。
これだけは決まってます。
今日、勇者召喚の儀が執り行なわれることになった。
斎場は三方向が深い森に囲われた、王宮から離れた小さな神殿。
王宮の警護班はほとんど集められ、斎場の周辺警備を命じられた。
儀式を取り仕切るのは、第二王子だ。
そして、国王の意思も絡んでいると思われる。
この国の第一王子はすでに亡い。
隣国で、一年前に死亡した。
それは自業自得で、この国以外からの非難は出ていない。
私はその事件のせいで一層この国が嫌いになったのだが・・・。
しかし、今回のことは急すぎる。
その背景に何があるか・・・私には分からない。
いまの私は一般兵にしか過ぎないのだから、当然といえば当然である。
ただ、予測はつく。
その思考回路まで傲慢で笑いそうになるが。
過去この国で、”魔神族”は虐げらていた。
”魔神族”は絶対数が少ない。
世界に数パーセントしかいない。
”魔神族”は種族的に必ず有能でさらに美しい。
しかし、絶対的な強者ではない。
同じ時代に、同じ地域に、同じように存在する可能性は低い。
他の種族より長生きであり、能力も高いため制限で縛られることが多々ある。
自身よりも他者を優先する、博愛主義者が多い。
それゆえ、能力はあっても虐げられてきた。
奴隷のように扱うことも、簡単ではないが決して不可能ではなかった。
あくまでも、過去の話だが。
絶対的な強者でないのは今も変わらない。
でも、”魔神族”に敵対する者、害を及ぼす者は排除されるようになった。
”魔神族”の中でも随一の能力をもち、誰もが認める美貌の我が国の主に。
”魔王”とも呼ばれる主は、”魔神族”を集めた。
友好的な他の種族も取り込み、国も作った。
彼より年若い”魔神族”は全員、年長の者もほぼ我が国にいる。
すべては彼の能力で成されたこと。
|国の主≪まおう≫となった彼が、国民を守るのは当たり前。
そして、敵が報復されるのも当たり前。
正当な流れであり、誰も文句は言えないだろう。
そんな中、この国の第一王子が”魔神族”の一人を攫おうとした。
それを阻止した獣人の青年がけがをした。
未然に防止され、けがもひどくなかったため、伝令が立てられ警告が行われた。
それでも第一王子は”魔神族”の一人を攫おうとした。
そのたびにけが人がでた、警告も行われた。
何度目かの誘拐で人族の青年が死んだ。
誘拐されそうになった”魔神族”の一人も、死んでしまった。
第一王子が殺した。
青年が死んだその後、第一王子は魔獣に殺された。
その場で生きている人間は、全員魔獣に食べられた。
第一王子が使っていた剣と、その剣に切り捨てられた死体だけを残し、魔獣がすべてを食べつくした。
突如、何名も消息不明となったのだ。
事件は調べられた。
どんな経緯で、どんなことが起こり、どうなったのかを詳細に。
傲慢な国の、できの悪い王子が行った悪事の自業自得な結果。
その被害者の痛ましい最後。
残ったのは多くの非難の声。
そして、表に出ない逆恨み。
この国は制裁を受けた。
事件の結末の代償としては、本当に小さいものだった。
”魔神族”を虐げていたのは、この国だけではない。
だから、その程度で済まされた。
そう、その程度で表向き許して貰えた。
それなのに、この国は不服に思ったようだ。
この国は”神の御子”を有している。
もっとも高い地位にいるべき国のはずが、もはや墜落したといってもいい。
これ以上おちぶれることは、許されない。と。
第一王子は隣国に殺された。
さほど有能な王子ではなかったが、隣国の王は対価を差し出すべきだ。
どうにかして隣国のすべてを手に入れたい、この国に隷属させたい。と。
しかし、隣国の王は能力が高すぎる。
彼にかなう者はこの世界にはいない。
ならば、この世界外から”勇者”を召還して、力で隷属させればよい。と。
過去に虐げられていた種族なのだから、今も虐げられるべきである。
絶対的なまでの力をもってねじ伏せれば、思い通りにしてもいいはずだ。と。
私は理解できない論理なのだが、そういうことらしい。
”魔王”さまはレヴィ君です。
国の王様です。
”魔神族”の国の主、王様なので”魔王”です。
世界を破滅させようとか、そういう悪の化身ではありません。
むしろ、虐げる側でなく虐げられていた側。
めっちゃ、有能で美しいと評判の王様です。




