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青絹の女  作者: くらげ
ゴロツキとイタチ
6/17

一番好きな人

らぶらぶ(?)

「大いたちを退治したというのはお前か」


 柄の悪い男たちが魚を売っている黒義を取り囲む。

 さっきから医者がイタチから貰った魚をご近所に配っているのが見える。

 まあ、一人暮らしでは、あの量を食べきれないだろう。配るついでに昨夜のことを話しているのだ。


「ああ」

「街道に妖怪が現れたんだ。できる限りの礼はするから妖怪を退治してくれ」

「どんな妖怪だ」


 瑕疵のある魚から、順々に捌きながら黒義は尋ねる。 

 寝ていたいが、さっさと魚を売りさばいて、この街を出ないと青蓮に追いつけなくなってしまう。

 が、いかに大きくおいしそうな魚とはいえ、同じ川魚がタダで配られていたら、さすがに買ってくれる者はいない。


「火球を吐く一つ目の大女だ」


 ぴくり。

 耳が動いた。


 『火を吐く』ことと『一つ目』は青蓮の特徴だが……


(大女?)


 彼らは昨夜、黒義がイタチを追い回している頃、青蓮を攫おうとしていたゴロツキだ。

 火を吐くような妖怪が街道をうろついていたら仕事がやりにくいし、ゴロツキが小娘妖怪にびびって逃げたとなれば矜持きょうじに傷が付く。


 ゴロツキたちのそんな裏事情などまったく知らない黒義は自分を囲んでいる男達に確認を取った。


「その大女は青い服を着ていなかったか?」

「よくわかったな」


(人前で火球なんぞ吐くな。あの馬鹿)


 大女と言う部分だけは一致しないが、青蓮と断定して間違いないだろう。

 人に正体がばれるのを恐れていたわりには、肝心なところがうかつすぎる。


 大道芸と言ってごまかすか?


「場所は?」



 青蓮はよほどゆっくり歩いていたのだろう。二つ先の街の手前で彼女に追いついた。


「旦那。あいつが危険な妖怪です。さっさと倒してくだせい」


 男どもが黒義の後ろに隠れて、びしっと彼女を指差す。


「青蓮。この男どもは、お前に何をした?」

「服を触られたけれど? 挨拶かと思ったけれど違ったみたい」


 青蓮が首を傾げる。


「ほう。どのへんを触られたんだ?」


 青蓮は、「ここらへん」と言って胸の辺りを指差す。


「ほほう。その後は?」


 黒義と青蓮のやり取りの横で男どもの顔がみるみる青ざめる。 


「担がれたわ。一人で行けるから離してって言ったんだけれど、なかなか降ろしてくれないから……。それも方向が逆って言っているのに、まったく聞いてくれなくて」

「あ……あの、お、お知り合いですか?」


 がたがた震えるゴロツキどもに黒義は酷薄な笑みをわざと作って告げる。


「妻だな」

「ひっ、ひぃー!?」


 実際はそんな仲ではないが、宿では別々の部屋を取るよりも、二人で一緒の部屋に泊まる方が安上がりだ。青蓮にも黒義との関係を尋ねられたら夫婦だと答えるよう言い含めている。


 雷で残らず討ち取って、彼らを次の街で警吏に引き渡した。


 男達は牢に入ってからも「俺らを捕まえる前に、あの化け物を始末しろぉ!!」と喚いていた。


 男たちがあまりにしつこく喚くので、彼らを牢に入れた警吏が黒義と青蓮を見るが、

「私どもも道士の端くれですので、少々術を使いますが……化け物と言うのは」

 と受け流したら、警吏はあっさり納得した。


「そうですよね。お前ら、道士様方に失礼だぞ」


 警吏は男の一人にぽこりと軽く拳骨を落とした。


「ご協力ありがとうございあした!」


 黒義と青蓮は警吏の威勢の良い挨拶を受けて、牢をあとにした。



 次の村へ向かう道中。


「あのな。触って良いのは一番好きな人のだけだ。

だから、次にああいう輩が現れたら、消し炭にしてしまえ。俺が許す」


 黒義の突然の言葉に、青蓮は首を傾げたが、得心がいったのか一つ頷いて……


 ぺた


「おい」


 どういう反応をしていいか分からない黒義に、青蓮は飼い主に尻尾を振る犬のようなきらきらした目とはちきれんばかりの笑顔で言った。


「だって黒義様のこと一番好きなんですもの」




 黒義はますますどんな顔をすれば良いのかわからなくなった。

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