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青絹の女  作者: くらげ
狐の婿入り
14/17

狐の婿入り

 翌日。


 青蓮はじりじりと焦りながら、天を見上げていた。


 本当は昨日には街を出たほうが良かった。

 もう、三泊しているのだ。一昨夜、局地的に雨が降ったとはいえ、早く離れないとならないのに。


「大丈夫だ」


 黒義が、不安そうに空ばかり見上げ青蓮の肩に手を置いて断言する。


「いつも思いますけれど山一つなんてぼったくりもいいところですね」


「別に山一つ丸ごと俺のモンって訳じゃないさ。ちょっと、ぎょくを分けてもらったり、砂金の取れる川を教えてもらったり、銀山の場所を教えてもらったり」


 人から大したものをもらえなければ、妖怪から貰えばいい。

 基本、妖怪の方が金払いが良いことが多いのだ。

 が、相手は狐である。


「それもこの村を出たら、ただの石に変わるんじゃないんですか?」

「いや、この重さは間違いなく金だ。

 それに妖怪と道士は化かし合ってなんぼ。依頼人の命さえ守れれば、多少のことは目を瞑るさ」


 そう言って、黒義は焦げ落ちた旧館に目を向ける。


「ごめんなさい」

「せっかく、宿屋の主人もいろんなことに目を瞑ってくれたんだ。黒焦げの館じゃなくてしっかり花嫁を見てやれ」


 金の龍の刺繍がなされた紅色の花嫁衣裳を着た明鈴が紅色の輿に乗っている。

 

「晴れてよかったわね」「本当にね」


 めったにない慶事に小さな町が沸き立つ。花嫁行列を見物する人々の声が黒義たちの耳にも入ってきた。


「見て花婿様」「きれいね」「見かけたことないけれど、遠い町から来たのかしら」


 先導する花婿は金目銀髪ではなく、今は黒目黒髪にしている。

 一昨夜、夜通しで行われた話し合いで、明鈴と銀狐ぎんこの結婚が決まった。



~~~~~~~~


 火事の翌日に明鈴と狐から聞いた話によると--

 

 銀狐はそもそもこの町の目の前の山に住んでいる妖怪で、妖狐の一族をこの村の人は山神としてほこらまで建てて大事に扱ってきた。

 そこまでは黒義も前調査で聞いていた。祟りのたぐいかと祠の様子を確認したが、特に粗雑に扱われている様子もなかった。

 

 銀狐が明鈴と出会ったのは、彼女の母親が亡くなった直後、銀狐が彼女を慰めると言うお約束な出会いをして、やがて二人は恋仲になった。

 明鈴が年頃になったので、人間の風習に従って、明鈴の父親に許可を貰いに行ったら、「準備があるから次の満月まで待ってくれ」と言われたそうだ。


 次の満月の夜、銀狐が彼女を迎えに行ったら、父親は方士を雇って銀狐を殺そうとした。

 銀狐はその方士の撃退に成功して、「次の満月、また来る」と言い残して森に戻った。

 どうしても妖怪に娘を渡したくなかった父親は満月の直前に町に訪れた黒義に妖怪退治を依頼したというわけだ。


 狐の言を信じれば、乱暴にさらうつもりはなかったらしい。それまでの逢引も三十分程度で黄昏までには帰るという健全なお付き合いをしていたそうだ。


~~~~~~~~


「どこが健全なお付き合いだ」

「なんか言った?」


 黒義の愚痴を青蓮が律儀りちぎに拾うが、黒義は答えない。


 さすがに騒動の翌日ではどんなに簡素にしても結婚式の手配が間に合わない。

 せめてもう一日滞在をという明鈴の願いを聞き入れ黒義と青蓮は留まっていた。

 

 花嫁を見ていたら、ぽつりと何かが頭に当たった。


「晴れているのに」


 青蓮は慌てて、絲巾スカーフで頭を覆う。


 太陽がしっかり見えているのに、雨がぱらぱら降ってきた。


 柔らかくて小さな雨粒が大地に染みを作る。


 黒義は青蓮を外套で庇いながら囁いた。 


「狐の婿入りだ」



 金の粒は、三日後、枯れ葉に変わった。


おもさまで錯覚させるなんて、すごいですね~」


 妻が相変わらずのんびりと言う隣で、黒義が肩をぷるぷる震わせる。


「次会ったら、毛皮にしてやるぅ~!!」

「るぅ~!」

「ぅ~」



 いずれかの山に住んでいる妖怪が、面白がって声を返してくれたようだ。


「山彦さん、張り切ってますね」


 さて、次の目的地は…… 

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