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迷い恋



「こうしてつるんで呑むのも久方ぶりだな」


街の居酒屋で待ち合わせをした月人は先に来ていた雅治に挨拶をしてカウンター席にいた彼の隣に座った。


「ああ。京子と三人で来て以来だな…しかし彼女遅いな」


雅治がそう呟きながら腕時計をながめている。


「京子もくるのか?」


月人が少し驚いた表情で雅治に尋ねた。


「以前から二人で呑もうと誘っていたんだがな…月人、お前が来ないと来てくれないんだ」


そういいながらしばらく注文の札を眺める雅治は楽しそうだった…気づけば客が先程より増えていた。


「そか。京子は人混みが嫌いだしな。酒も強くは無いし仕方ないさ」


月人が注文の品書きを見ながらそう呟くと京子らしい人影が見えた。何故か他の客がチラチラと彼女を見ている。

不思議に思った月人が店の入り口付近の彼女を見ると店員に何かを聞いていた。

暫くしてこちらを指差した店員にお辞儀をした彼女が真っ直ぐこちらへ向かってきた。


「今晩は月人くん、雅治くん。遅くなってごめんね」


屈託の無い笑顔、明るい声色…間違いなく京子だ。しかし何時もとフインキが違う…化粧を何時もより明るめに塗り、綺麗に髪を結っており、スタイルが良い彼女の肌が際立つ色彩の服装をした彼女…月人はキョトンとしてしまった。そして京子は雅治の隣に座る。


「京子、今日は一段と綺麗だね。月人の隣じゃなくていいのかい?」


自身の隣に座った彼女に少し戸惑う雅治。


「うん。雅治くんの話二人とも好きだしね。良く考古学の事話してくれるの月人くんから聞いて私も聞きたくなった」


何時もより短めのスカートを履いた京子が甘い残り香を残して通り過ぎ雅治の隣で月人をたまに見ながら話す。


「そうだ!雅治。また考古学の話や珍事件話してくれよ。それから昨日の論文について聞きたい事が……」


月人が何のために、誰のために京子が人混みの中洒落てきたのか知らずにまくし立てる様を雅治が溜息混じりに眺めた後に月人の話しを制止した。


「今日はお前の事聞かせろよ。京子も聞きたいだろうし、俺もお前の話しが聞きたい。いいだろ?」

軽く京子に片目をつぶって見せる雅治。すべておみとおしの様だ。

京子が顔を赤らめて俯いてしまう。


「俺の話しか…そうだな。何時も雅治に色々聞いてばかりだしな…京子にも聞いてほしい事もあるし。きっと疑うだろうけど」


月人は今まで人を愛したことが無い事、夢の彼女が忘れられないこと…そのせいで京子に辛い思いをさせていること全て打ち明けた。

この二人には打ち明けなければいけない気さえした。

…話しを聞き終えた京子と雅治が少し驚いていた。


「…夢の人って…見たことが無い人?」


京子が複雑な表情で月人を見上げる。


「ああ…おかしいだろ?顔も見たことが無いくせに好きなんてさ。」


月人が自虐的な笑みを浮かべていつの間にか届いた酒を飲み干す。

そして俯いたまま呟く。


「京子。雅治と…上手くやってくれ…そしたら俺も嬉し……」


話しを続けようと月人が京子の方を見上げた瞬間、月人の目の前に来ていた京子が月人の頬に平手打ちをする。

驚いて京子を見上げる月人。


「好きってそんなに安い物じゃないよ?月人くんは何時も人の事ばかりじゃない!私は月人君に恋したの。叶わぬ恋だっていいじゃない!…お願い…好きでいさせて」


震える肩で泣きながらうなだれる京子。

一部始終を見ていた雅治が二人に語りかける。


「月人。俺の事は気にするな。俺に意中に無い京子を何時までも構っていられないさ…それにこの店に結構かわいい子、見つけたしさ。それから月人…友人から頼みがあるんだが一ついいかな?」


空になったグラスにお代わりを呼びながら雅治がにこやかにしている。


「なんだ?頼みって」


月人が泣いている京子をなだめながら雅治に用件を聞こうとしている。


「なに。簡単なことさ、京子を抱きしめてやってくれ。その壊れそうな肩を見てると心残りだ…勿論京子が良いって言うならな」


雅治が京子と月人双方を見ながら言った。


「なっ!京子…いいのか?」


無言でコクりと頷く京子。

それを確認した月人が京子の両肩をそっと抱き寄せ、軽くオデコにキスをして彼女から離れると周りから歓声が上がる。…月人と京子はいつの間にか自分達を見ていた他の客に気づいて無かった。


「目立つんだから少しは自覚しなさい、お二人さん」


雅治が顔色一つ変えずに酒を嗜んでいる。


「雅治?知っててやらしたな?」


血相かいた月人が声を荒げた。


「何、いいじゃない。京子、元気になったみたいだし」


月人が改めて京子を見ると少し頬を赤らめてカクテルを飲んでいた。


「来てよかった、ありがとう。雅治くん」


京子がやけに嬉しそうにしている。


「そか。俺も京子が楽しそうで嬉しい」


月人も胸を撫で下ろしたところで雅治が仕切なおしとばかりに声をあげた。


「よし!今日はトコトン呑もう!金は月人の奢りだしな。…と、俺のハニーちゃんがバイト始まる時間帯だ」


豪快に笑いながら雅治がグラスを空けた後、何やら後ろから黄色い声が響いた。


「あーっ!僕の王子!ここに居たんだ」


店の制服を着た小柄な可愛らしい女性が突然月人に腕を絡ませて来る。


「君は…あの時の…元気そうで何より」


腕に絡まれた手を解き月人が苦笑している。


「元気そうで良かったわね…ね?月人君」


京子の視線が痛い。


「僕は千奈センナって言う名前だよ!でも良かったぁ。王子と会いたかったんだよ!あの事件の後直ぐに居なくなっちゃうんだもん!」


仕事中なのを忘れて千奈と言う女性がはしゃいでいる。


「月人!俺のハニーちゃんと知り合いだったのか?」


雅治が驚きを隠せないでいた。


「この前の事件の被害者さ…雅治…まさかお前の好きな子って…この子」


酒を片手にコクりと頷く雅治。


「でも高校生だし…僕とか言ってるし…平気なのか?」


無言でコクりと頷いて雅治が呟いた。


「月人…お前は俺に怨みがあるのか?ハニーちゃんに腕組まれて、揚句に王子様とは」


異様に酒を煽る雅治に千奈が近寄って来る。


「あ。最近来る色男さんだ。王子の知り合い?」


月人を見上げて尋ねる千奈。


「ああ。親友だ」


月人が雅治を心配げにみながら答える。


「そかぁ…僕、千奈って言います。何時も来てくれてありがとうございます」


雅治の隣で皿をかたずけながら雅治に微笑む千奈。


「あーあ、王子は僕なんか眼中に無いみたいだし…彼女さんが羨ましいなぁー色男に囲まれちゃってるし」


月人の彼女が京子と勘違いした千奈はマジマジと京子を見はじめる。


「なっ、何よ…」


京子が必要以上に接近する千奈に警戒している。


「前よりまた綺麗ですね…僕、負けませんから」


千奈がボソッと京子に呟いた後に厨房に消えて行った。


「月人!俺も負けないからな!」


酒を浴びる程飲んだ雅治が月人に意気込んだ。


「やれやれ…月人君モテること…雅治くんもモテるのに千奈ちゃん好きなばかりに」


やれやれと言った表情でカクテルを飲む京子。


と、その時店の外から血相かいた男性が体中血だらけで店内に入ってきた。


「あ…あ、たっ!大変だ!同僚が殺された!たっ!助けてくれ」


事の異常さに気づいた店員が警察に電話をかけている。


「アダムを渡さなければ……!」


男性がそう叫ぶとフラッシュを炊いたような光りに店内が包まれ、光りの中に男性の断末魔の悲鳴が響き渡った……



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