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唯一無二




「よお、月人!久しぶり。元気か?」


事件の数日後月人は大学の食堂で親友の雅治と偶然席が一緒になった。

先に昼食を食べていた月人の隣に雅治が座る。


「ああ!お蔭さまでな。雅治も元気そうで何よりだ」


月人は唯一無二の親友と出会い心底嬉しそうにしている。




 ……月人が雅治と親友になったきっかけは二年前、月人が失踪した時があった。

失踪した理由は一人暮らしの月人が住むアパートの道路を挟んだ向かいに月人の母親と同じ歳位の女性が息子と暮らしていた。

月人は自分の母親に面影がある彼女が気になり、良く彼女が息子に物を頼まれ買い物に行くのを手伝ったりしていた。

その女性の息子は見た所働き盛りの歳に見えたがいつも家にいて働いている形跡がなかった。

よくよく聞くと、父親は他界しており母子家庭で息子は働いてないと話してくれた。

月人は環境が自分と酷似している彼女が一層気にかかり始めていた。

そんなある日、女性がいつものように買い物をしに歩いて出掛けて行くのをアパートの窓から見かけた月人は買い物の手伝いをしに外へ出ようとした。

その時、道路を走るチンピラの乗った車の窓から彼女の方へペットボトルを悪戯に投げつけられ、彼女の顔に当たり倒れてしまった。

慌てて彼女へ駆け付けた月人が大丈夫かと声をかけると彼女は、

「いつも有難う。私は平気よ」

と一言いって歩こうとしていた。

白髪の弱々しい彼女の姿に自分の母親を重ね、不憫に思った月人が堪らず彼女の息子がしっかりしない事をなげくと彼女は、

何歳いくつになっても息子は息子、側に居てくれるだけでも嬉しいものよ」

と言い残しトボトボ歩き去って行った。


月人は故郷の母親も自分が居ないと寂しくなると大学の近くのアパートに引越す間際に聞いていた。

……夢を追いかけてがむしゃらに都会へ来た月人は突然不安と哀しみに襲われた。

月人も母子家庭であり決して裕福でない家庭だが、勉学の出来た月人は特待生として大学へ迎えられた。浮かれて都会へ出てきた月人だが、残して来た母親が元気か急に不安になり自分も他人事ではない、支えてあげられていない現状に居てもたってもいられなくなり翌日、故郷へ取るものも取らず帰って行こうとした。


早朝の電車に乗り誰にも何も言わずに出てきた月人の元へ昼過ぎ辺りから不思議に思った大学の知人から携帯に着信がありとにかく戻るように奨められた。

そんな中に高校からの知人だった雅治から着信があった。

雅治とは地元も一緒だったが特に仲がそんなに良い訳では無く不思議に思ったが電話に出てみる事にした。

突然言われた言葉が、

「理由はどうであれアンタが生きていればいいさ。いつかまた会おう」

……何故か心に染みた。他からは戻れの一点張りだったがその一言で肩の荷が降りた気がした。


今すぐ成せ無くてもいい。近い未来親孝行しようと心に決めた月人は実家へは帰らず、その日の内に大学へ戻ったのだった。




「今日はバイト無いんだろ?久しぶりに呑みに行くかい?」


雅治が昼食を食べながら月人に語りかける。


「ああ。お前とは是非久しぶりに呑みたかったしな。だが今日は奢らせてくれ。バイトの給料日後で少しは出せるさ」


月人が親友の誘いを嬉しそうにして答える。


「そか。じゃ、そうさせて頂くかな。ところで、京子とは上手くやってるかい?」


軽く月人の脇を肘でつつきながら話す雅治。しかし月人はバツが悪そうに伏し目がちにしていた。


「京子とは…最近別れた雅治の気も知っていたんだが…すまない」


ボソッと言って元気を無くす月人。

一瞬驚いた雅治だが暫くして月人に尋ねる。


「そか。何故また…京子はなんて?」


明後日の方向を見ながら月人に尋ねる雅治。


「幸せに出来そうにないから、友達で居る事にした。京子も了解してくれた、京子に俺は勿体ないしな。雅治が彼女が好きな事も知っていたしお互い一度距離を置いた方がお互いの為だと思う」


作り笑いと見て取れる程頼りなく笑いそう答える月人。それを見た雅治が

ヤレヤレと言った感じで話す。


「京子を気遣ってか。お前らしいな。確かに京子は美人で性格もいい。……俺も惚れたしな。だが、お前は他人に興味があるが自分に全く興味が無い。俺はお前が羨ましい。見た目も性格も才能も兼ね揃えていると言うのに自分を知らないんだな、お前は」


ため息混じりにそう呟く雅治。


「よせよ、雅治。お前の方が京子を幸せに出来るさ。お前は教養も有って女性を喜ばせる事も上手だ。大学の女はみんなお前を知っていてお前をカッコイイと言う。俺もお前なら京子を幸せに出来ると思っている」


月人が真顔で雅治に言い返す。

雅治は含み笑いをしながら月人を見て話す。


「お前の席の真っ直ぐ向かいの奥の彼女。さっきからお前をチラチラ見ているぞ」


雅治が小声で月人に言う。それを聞いた月人が理由が解らず言われた方角を見ると、確かに女性が自分の方を見ていた。

目が合った彼女は慌てて下を向く。


「今見てた彼女以外にも何時も誰か女性が月人を好意の目で見ている。気付いて無いのは本人だけか…

いいか、月人。京子もお前と一緒の気持ちだとしたら…よく考えてくれな。

じゃ、今晩楽しみにしてるぜ」


いつの間にか食べ終えた雅治はそういい残して席を立つのだった。



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