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大切なもの




深夜月人が帰宅すると玄関に可愛らしい女性の靴があり台所から食べ物の美味しそうな匂いがしていた。何時も帰ると暗い部屋に明かりが灯っている喜びに月人は心なしか顔が綻んでしまう。

ただいまの挨拶と一緒に台所へ向かう月人。

京子が月人が来るのを待ち侘びた様に駆け寄って来る。


「お帰りなさい。月人くん、お夜食作りました。

お口に合うか分からないけどどーぞ」


京子が作った料理の数々が居間のテーブルに並んでいる…肉じゃがに、ほうれん草のお浸し、ポテトサラダにヒジキと煮干しの佃煮と夜食にしては豪勢な品が並んでいた。


「随分と豪勢だね。嬉しいけど食材買ってきたのか?」


「うん。待ってる間退屈だったし。月人くん食いしん坊だから平気かな?って」


少し照れながら京子は急須のお茶を湯呑みに入れ居間に座る。

月人は複雑な気持ちで続いて食卓に着く。

京子の言う通り食いしん坊な月人は黙々と食べはじめる…その様子を心配そうに見つめる京子。


「どう?…美味しい?」


ただ黙々と食べる月人に不安を覚えた京子が心配そうに尋ねる。


「ごめん。美味し過ぎて感想言うの忘れたよ。うん、スッゴく美味しいよ甘さ加減、塩加減に言う事ないし煮込み具合も申し分ない。相変わらず料理が上手なんだね」


頬っぺたにご飯粒を付けて真顔で京子の料理を絶賛する月人。それを見た京子が嬉しいやら可笑しいやらでクスクスと笑い始めた。


「げ、月人くん嬉しいけど頬っぺにお弁当がくっついてるよ。」


口に手を添えて上品に笑う京子。

月人が慌てて米粒を取ろうとするがなかなか何処に付いているか分からず悪戦苦闘している。

そんな月人の側に来て米粒を取ってあげる京子。

ただでさえ綺麗な京子が間近くに来るだけで甘い香りの色香に酔ってしまい月人は少し顔を赤らめてしまう。

追い討ちをかける様に月人から取った米粒を食べる京子。


「京子…なんで俺なんかにこんなに優しくしてくれるんだ?

今日は大学の奴らは花火大会で皆、異性と盛り上がってるんだ…京子は美人で性格も良いんだから他の連中と騒げばもっと楽しいのに…ごめんな。俺、京子と居て楽しいけどそれ以上に京子が楽しいのか心配だ」


暫くの沈黙のあと、京子が優しい笑みを浮かべて話し出した。


「…始まったら終わっちゃう綺麗事ならいらないよ。前も言ったけど月人くんと一緒にいれるなら私は幸せなの。」


そう言って不意に京子が月人の胸に顔を預けてくる。


「…それに今日は歌を聴きにきたのよ?月人くん、何時聞かせてくれるのかしら?」


…多分他人から見れば恋人同士なのだろう。しかし二人にはこれ以上もこれ以下も無いことを悟っていた。

自身に原因が有ることを申し訳なく思いながらも月人は精魂込めて歌おうと思った。


「遅いからギターは無しでいいか?」


月人に上半身を預けたまま京子はコクりと頷いた。




「穏やかに流れてる日々。きっとそれが幸せなんだと思う。

君が両手で持って大切で必死になって守っていた物、例えば昔大切な人から貰ったプレゼントとか、かがえの無い愛する人が不意に誰かに奪われたとして。

君は奪われたと泣くのか、奪った相手を恨んで生き続けるのか…

どちらも苦しいならいっその事あげたと思おうよ…

悪い事なんか考えないように、何時も人を愛そうよ。

きっと不安は消えるから。寂しくなんか無くなるから…

穏やかな日々。

きっと自身の心が創る物。

恋い焦がれたあの夢も、愛して止まない彼女も結局人が創ったものだから。

明日から嵐が吹き荒れて、どうしようもない位叩きのめされてもきっと幸せはあるさ。

だって始めから幸せな様に心を神様がくれたんだ。

僕らが使い方を間違えているだけなんだから。

これ以上も以下も無い、神様からの素敵なプレゼント。

使い方は自分達に委ねられてるんだから。」



英語で月人が歌い終えると穏やかな目をした京子が月人の頬を軽く指先で伝う。


「月人くんらしい曲ね。私だけ聴くのは勿体ない位上手」


「そんな事無いさ。ただ、心は込めて歌ったよ」


まどろんた目をした京子の指先を掴み澄んだ目で見つめる月人。


「ね。外に行こう?少し暑くなったみたい」

心なしか挙動不審になった京子が立ち上がり月人に外出をねだる。


「そか。夜は大分涼しいからな…少し散歩しよう」



二人仲良くアパートから近い空き地で自販機のジュースをベンチに腰掛け飲んでいる。


「今日はありがとね。突然我が儘言ってごめんね」

空き缶の縁をじっと見詰めながら京子が呟く様に言う。


「いいんだ。それに嬉しかった。何時も暗い部屋に明かりがあって、料理が出来てるって幸せな事なんだなって、改めて実感した。今日はありがとう」


月人が京子の頭に手を載せ撫でている。


「よ、良かった。そ、それから合い鍵、お返ししときます。」


不意に撫でられた頭に照れ隠ししながら京子が

鍵を差し出す。


「京子がまた家に来たかったらおいでよ。何時でも歓迎するから…鍵は持ってていいから」


「ホントに!?ありがとう!それではまたお邪魔します。」


嬉しそうに顔を上気させる京子。


「今日は遅いから送って行くよ。」


月人が立ち上がり京子と共に空き地を去ろうとした時、側の街灯より外れた暗がりからただならぬ殺気を感じ硬直する月人。


「月人くん?どうしたの

?」


歩き始めた京子が立ち止まって有らぬ方向を見つめている月人を不思議がっている。


「なっ、なんでもない…!? 京子!伏せて!」


そう叫んだ月人が睨む闇のかなたから物凄い早さで一メートル程の背丈の角の生えた物体が京子の上を通り過ぎる。とっさに月人が京子を庇いながら地面に伏せさせる。


「なっ、なによ?あれ」


「さあ、俺にも分からない…くるぞ!」


物語に出てくる様な餓鬼の容姿をしたそれは今度こそ月人達に標準を合わせ飛んでくる!


「京子!伏せていろ」


とっさに前へ出た月人が餓鬼目掛けてパンチを繰り出す。しかし虚しく空を切り、物体と思われたそれは代わりに激しい寒気と悪寒を見舞ってくる。


「なんなんだ?こいつ!」

月人が堪らず地面にひざまずくと餓鬼は京子に遅いかかろうとしていた。


「き、京子!」


このままでは京子が襲われてしまう…月人は焦りと悔しさで目の前が真っ暗になる。




アダム



心の中で響く声。




願いは一緒…

想いは一緒…



強く思いなさい。



とっさに流れる意識に月人は翻弄され半ば強制的なメッセージを意のままに京子の無事を願う。



坊主、アマちゃんだな…仕方ない。今行く。



マバユイ光の中月人が

目にしたのは深紅のマントを羽織った背丈ニメートル五十は軽く有るだろう男だった。

深い銀色の髪から垣間見える鋭い目、光が有るにも関わらずウッスラ見える目は彫りの深さ故だろう。

一見すると外国のハードロッカーに見間違える黒いレザーのバンツにベストは彼の肉付きの良い筋肉を強調させていた。

おまけに脚が長く背丈の割に小さな顔は整いすぎて男でも見とれてしまう。


「坊主、ボサッとしてないでお前のレディーと一緒にどいていな」


キザな台詞を残し彼は背中の剣を抜いたのだった。


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