琉生
翌日から、琉生は注意深く橋宮の動向を監視──見守っていた。
授業中は至って普通に勉強していた。
和人も、橋宮のことをじっと見ることがなくなり、琉生は安堵した。
それでも、安心しきることはできなかった。
和人がぼんやりとした様子で窓の外に視線を向けている時や、教師に指されて問題を解きに行っている時。
橋宮が和人を気にするような素振りを見せる瞬間があったからだ。
──和人が気付かないうちになんとかしないと。
琉生は和人の横に座っている橋宮を眺めて、目を細めた。
◆◆◆
橋宮は授業が終わると直ぐに教室から居なくなる。
数日間は彼の行動パターンを読むことができず、琉生は後手に回らされていた。
橋宮の後を追い、廊下を移動していた琉生は、無意識に拳を握り締め、口元を小さく歪めていた。
初日のときも橋宮に巻かれ、見つけたときには会長に絡まれていた。
なぜ大人しく教室にいることができないのか。
琉生は橋宮に苛立ちを募らせていた。
「……っ目が覚めたの!? ……うん……分かってる。俺のことは知らせないで……うん」
廊下の曲がり角から、橋宮の驚いたような、掠れ声が響いてきた。
その不意打ちに琉生は立ち止まって、息を殺した。
「撮影? ……やるに決まってる。……分かった。じゃあね」
橋宮は誰かと通話していたようだった。
──撮影……?
ふと、嫌な予感が頭を過ぎる。
数日前の和人との会話を思い出し、バラバラだったパズルが形を成していく。
和人を知っている素振りの橋宮。橋宮と従弟が似ていると言っていた和人。そして、和人の従弟はモデルのみやび。
最後に、今の橋宮の言葉。
──不味い。橋宮は十中八九……和人の従弟だ。
琉生は廊下の壁に背中を預け、唇を噛み締めた。
片腕を組み、橋宮が動き出すのを待つ。
しばらくすると、彼が曲がり角から歩いてきて、琉生の前を素通りして行こうとした。
「橋宮君。会長は君がみやびだから絡んでるのかな?」
「……っ誰! って、副会長様か。だったら何?」
後ろ姿に声をかけると、警戒心を顕にした様子で橋宮──宮之橋が振り返った。
声を掛けたのが琉生だと認識したらしく、途端にふてぶてしい態度になった彼を見て、内心苦虫を噛み潰す。
みやびだと、和人の従弟だと確定してしまった。
「会長が君に絡まないよう生徒会室に縛り付けておくから、和人に意味深な態度を取らないでくれる?」
琉生は壁に寄りかかったまま、両腕を組んで宮之橋を見据えた。
「……あー、はいはい分かりました。俺忙しいから早退する。あの厄介ファンは机に縛り付けといて」
琉生の視線に怯む様子もなく、彼はどうでも良さそうな返答をして、去って行った。
◆◆◆
それから数週間。琉生は文字通り、会長と書記、会計の生徒会役員を生徒会室に縛り付けていた。
もちろん、物理的に縛り付けている訳ではなく、仕事を放り出して橋之宮に絡みに行こうとするのを、阻止して見張っているだけだ。
それでも、授業の合間に会長が橋之宮目当てに、琉生のクラスへ突撃してくるのを阻むことは難しく、彼が会長の親衛隊に暗い眼差しを向けられ始めていることに、琉生は少しの危機感を抱いていた。
──何でこんな心配をしてるのかな。和人と過ごす時間が減って疲れてるのかも……。
窓際に近寄り、外を眺める。
眼下には夕焼けに照らされた講堂の屋根が広がっていた。




