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櫻坂学園物語  作者: ヒトミ


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12/13

理想

翌日。琉生は昨日のことがなかったかのように、和人に接してきた。


あまりにも普段通りなものだから、和人自身も戸惑いながら、普段通りに接しようと努力した。


定期考査の時期も近く、昼休みの教室はいつもより静かだ。


いや、琉生とか人気な生徒の周りには人集りができていて、その騒めきが静かな中で浮いていた。


和人の席には、いつものメンバーが集まって問題集片手に頭を抱えていた。


涼太(りょうた)と仲がいい友人たちだ。


和人と涼太の席が近いから、固定メンバーみたいになっている。


「補習だけは勘弁」

「同感。夏休(なつやす)が減る。ひいては、彼女をつくるチャンスが減るということ!」


勉強になっていない彼らを横目に、イヤホンを着けようとして、はたと思い留まる。


──聴くなって言われたんだった。


禁止されると益々聴きたくなる。眉を寄せて、手の中でイヤホンを転がした。


「和人は余裕そうだよね。もしかして、彼女いたり……!?」

「……は?」


唐突な涼太からの疑いと、周りからの視線に疑問の声が出た。


「いや……いないが」

「良かった、仲間だー。じゃあ、理想の彼女は? 俺は優しくて可愛い子!」


理想か。彼女が欲しいと思ったことはないんだが。


「そうだな……好きなことをして輝いている人に、心惹かれる」


例えば、琉生。それから、雅。琉生ならピアノを弾いている姿が(まぶ)しいし、雅はモデルとして既に完成している。何かに一生懸命な人を見ると支えたくなるんだ。


──その中でも、やっぱり一番は琉生なんだよな。俺が見つけた……最初に。


「それ、一人のことじゃないじゃん……軽薄」


授業開始のチャイムが鳴り響く中、いつの間にか隣の席に戻ってきていた雅が、ぼそりと呟いた。


あいにくなことに、みんなが席に戻る雑音に紛れて、よく聞こえなかった。


和人は首を傾げて、問題集を片付けた。


◆◆◆


授業中、和人は板書をしながら眉間に(しわ)を寄せていた。


時おり、横からじっと見られている感覚があったからだ。


何か言いたいことでもあるのかと雅を見ても、その時にはすでに視線を逸らされていて、彼は首を傾げるばかりだった。


そうこうする内に、授業が終わり放課後になった。


鞄を持って琉生の元へ移動しようと席から立ち上がった時。


横下からブレザーの袖を引かれ、体勢を崩しながら犯人の方を見る。


「ねえ、カズって勉強できたよね。その頭脳貸して」


相変わらず前髪で顔の半分以上が隠れているが、隠れた目が和人を捉えているのが何となく分かった。


「あー、すまん。今日は無理だ」


手助けしたいのは山々だったが、今から琉生の演奏を聴くという(のが)したくない約束がある。


和人がさほど悩むこと無く言った途端。


引かれていた袖が、背後からの手で離された。


そして肩に腕が乗ってきて、琉生の冷ややかな声が聞こえてきた。


「橋宮君。和人は俺と用事があるから、他を当たってくれるかな」

「は? 割り込むの辞めてくれる? 不快なんだけど」

「……君は、人の神経を逆撫でしないと生きていけないのかな?」


二人の雰囲気がどんどん険悪になって行く。


何が問題で争っているのか。琉生の機嫌はピアノの音色にも響くだろう。できれば、穏やかな気持ちで演奏してもらいたい。


和人は小さくため息をついた。


「なあ、みや……楓雅。俺、今から琉生のピアノ聴くんだ。勉強見るのはその後でもいいか?」

「ピアノ?」


二人が同時に和人の方へ振り向く。雅が小さく(つぶや)いた。その言葉に軽く頷くと、雅はゆっくりと唇に笑みを浮かべた。


「……面白そうじゃん。俺も聴きたい。いいよね、副会長!」


琉生の方に顔を向けた彼が決定事項のように告げる。


雅の言葉に琉生の横顔が一瞬、険しい表情のまま固まったかのように見えた。


その後、口元を少し引き()らせて。


「……もちろん。好きに聴いて」


そう答えた後、和人の肩から腕を退かしてそっぽを向いた。


乗り気では無さそうな様子に、和人は本当にいいのかと、琉生と雅へ交互に視線を向け、結局なにも言えずに音楽室へと移動することになった。

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