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星の名前を知らないまま

作者: えいりんご
掲載日:2026/01/28

書いてるうちに、思っていた話と違くなってしまい、少しおかしいところがあるかもしれません。

 昨日、お父さんの帰りがいつもより遅かった。だから、今日は久しぶりに朝ご飯を作ることにした。フライパンを温め、卵を割り入れる。この後どうするのかわからなくて、自分の部屋までスマホを取りに行った。戻ってくると、焦げ臭い匂いがした。まさかと思いフライパンを見ると、白身が少し黒くなっていた。慌てて火を止める。

「失敗しちゃったかな」

焦げ臭い匂いを追い出すために窓を開けると、近くでパトカーのサイレンが鳴っていた。

「最近、物騒な事件多いからな……」

 朝食の時間になってもお父さんは起きてこなかった。

「いってきます」

自分にしか聞こえない声で言い、外へ出た。今日はやけに静かな気がした。だから、スマホの着信音が鳴ったとき、必要以上に驚いてしまった。画面を見ると菊地先生からの電話だった。

「もしもし」

「星宮、学校に変な奴いなかったか」

「学校行ってないです。何かありましたか」

「メール見てないのか。落ち着いて聞けよ。……今朝、学校が燃えた」

 急いで学校に行くと、先生が言った通り、本当に学校が燃えていた。先生に駆け寄って私は言う。

「先生。私のせいですか。だって、学校行かなかったから。私、捕まる……」

 私達は秘密の約束を交わしている。私と先生が知り合ったきっかけは、地学の授業だった。私は先生に、星についてたくさん質問をした。先生は星が好きなようで、嬉しそうに質問に答えてくれた。――ある日、私は先生に言った。

「先生。私、屋上で星が見たいです」

先生は最初は渋っていたものの、私の勢いに負けて、1回だけという約束で協力してくれた。先生が窓と屋上を開けておいてくれる。私は、窓から学校に侵入して屋上に行った。屋上には先生が設置してくれた望遠鏡がある。私は時間を忘れて星を見続けた。アラームの音で現実に引き戻される。もう3時になってしまった。そろそろ戻らないとお父さんが起きてしまう。家への道を急いだ。登校時間になり学校に行く。そして、先生にお礼を言いに行った。

「ありがとうございました。私、もっと星が見たいです」

結局、私はほぼ毎日星を見に行っていた。でも昨日は、星を見に行かなかった。つまり、その間に誰かが侵入して学校に火を……。

「落ち着け。星宮のせいじゃない」

先生の声で我に返る。

「でも、窓が開いてたから侵入できたってことじゃないですか」

「よく考えろ。開けたのは俺だ。罪に問われるとしたら俺のほうだろ」

先生は捕まるのが怖くないのか聞こうと顔を上げると、他の先生に呼ばれて行ってしまった。でも、怖くないなんてことあるのか。そもそも、犯人は窓を割って侵入したかもしれないし、外から火をつけたかもしれない。自然発火かもしれない。そんなことを考えていると、誰かに肩をたたかれた。振り返るとそこには、トモ探偵がいた。トモ探偵はミステリー好きとして、全校生が知っている。

「トモ探偵……」

「トモのこと知ってくれてるの。話したいことあるの」

正直、そんな暇ないと思ったけど、今は先生と話せないから、話を聞いてあげることにした。

「放火犯、誰だと思う」

私はその言葉を言われた瞬間、さっきの会話を聞かれてしまったのかと思った。

「急にどうしたの。放火犯なんてわかるわけないじゃん」

トモ探偵はまっすぐに私の目を見てくる。自白しろって言われてるみたい。

「先輩、1時くらいに学校来てるよね。トモ知ってるよ。菊地先生に手伝ってもらってるんだよね」

どうやらトモ探偵はさっきの会話を聞いていたわけではなく、もっと前から私のことを知っているようだった。

「なんで知ってるの」

私の問いに、トモ探偵はフッと笑うと言った。

「なぜって、それは……。トモ探偵だから」

戦隊ヒーローのようなポーズをとっている。小学生を見ているような気分だ。私はつい笑ってしまった。不服そうな顔をしているトモ探偵が口を開く。

「先輩、警察に言っていいの」

それを言われるまで、自分がどんな状況かを理解できていなかった。私は、今、脅されている。さっきまで、トモ探偵を小学生みたいと笑っていたのに、急に知らない人に見えて恐怖を覚えた。

「言わないで、お願い……」

「謝って。さっきの、笑ったの謝って」

「ごめんね。……ごめんなさい」

トモ探偵の顔が敬語でって言ってるみたいで、「ごめんなさい」と言い直した。トモ探偵ってわかりやすいんだよな。全部顔に出てる。

「先輩、名前何ていうの」

「星宮美鈴です」

「星宮。君はこれからトモの助手だ」

助手……。これから、トモ探偵のお遊びに付き合わなきゃいけないってことか。最悪だ。

「絶対、ですか」

言われなくてもわかる。絶対って顔してる。

 それから、私は、トモ探偵のお遊びに毎日付き合っている。今学校は休みだけど、近所の人にいろいろ聞きたいらしく付き合わされている。

「ちょっと聞きたいことあるんだけど」

トモ探偵が声をかけたのは、犬の散歩をしているおばさんだ。

「この前学校が火事になった日の前日と当日、1日何してたか教えて」

急な質問におばさんは戸惑っている。

「急にすみません。私たちはあの高校の生徒なんです。私は星宮って言います。で、この子はトモ君です。トモ探偵って呼んであげてください。トモ探偵は、学校の火事について知りたいみたいで、何をしていたか教えていただけますか」

私は、おばさんに丁寧に説明する。

「そういうことね。28日は、午前中はカフェで友達とお茶してたわ」

「友達の名前は何ていうの。あと、おばさんの名前も」

「私の名前はよしかわふみよ。友達はよしかわなお」

同じ苗字なんだと思いながらぼーっとしていると、トモ探偵に怒られた。

「助手なんだからメモして」

昨日まで全く言われていなかったことを急に言われた。トモ探偵に手渡されたメモに名前を……。

「あの、漢字がわからないので書いてもらってもいいですか」

「いいわよ」

吉川文世・芳川菜央

同じ苗字だと思っていたけど漢字が違ったのか。

「ありがとうございます」

トモ探偵は何かつぶやいている。使えないとかなんだとか聞こえる。ムカつく。

「午後は、この河川敷で犬の散歩をして、そのあとは洗濯とかしてたわ。29日は、午前中は火事があったって聞いたから学校を見に行って、午後は28日と同じね」

「学校を見に行ったのっていつ。あと、変な人見なかった」

「私が学校に行ったのは6時くらいだったわ。変な人はいなかったかな」

1時に火をつけたんだから6時にいるわけなくない。こんなの時間の無駄だよ。帰りたい。

「そうなんだ。ありがとう」

そういうと、トモ探偵はもう次の人のところに行っていた。私は急いでそこに行くと、さっきのように説明をした。

「失礼でなければ、お名前を書いてもらってもよろしいでしょうか」

村瀬実紀・村瀬碧斗

「失礼ですが、これは何と読むのですか」

「みのりだよ。難しいよね」

お礼を言うと、少しの間沈黙が続いた。トモ探偵の顔に、もっとスムーズにってかいてある。面倒くさい人だな。

「28日と29日は何してた」

「28日は仕事で、29日は午前中は仕事で、午後は碧斗とキャッチボールしてたかな」

実紀さんが話終わると、今度は碧斗君が話始めた。

「俺は、28日は学校で、夕方は部活。29日は学校が燃えたから、午前中は陽斗とゲームして、午後はお父さんとキャッチボール」

「碧斗君は何年生なの」

「2年生っす」

2年生にこんな子いたっけ……。

「中学生っすよ、俺は。陽斗は俺の兄で高校2年生です」

陽斗……。

「もしかして、あの陽斗君かな。あの、めっちゃモテてる」

「たぶんそうっす。よく噂で聞くんで」

確かに似てるかも。碧斗君の整っている顔をじっと見つめる。

「そんな見ないでください。恥ずかし…」

陽斗君と顔は似てるけど、性格は全然違うんだ。陽斗君と性格が違うことがわかって、少し碧斗君への好感度が上がった。それと同時に、顔を見つめてしまったことが急に恥ずかしくなる。顔が熱い……。

「じゃ、ありがとう」

空気の読めないトモ探偵は、すたすたと歩いて行ってしまった。

「……ありがとうございました」

私もお礼を言うと、トモ探偵のところへ急いだ。トモ探偵にやっとの思いで追いつくと、息を整え文句を言おうと思った。でも、その前にトモ探偵が口を開いた。

「星宮は28日と29日何してたの」

「何、私も疑ってるんですか」

さっき考えていたことはどうでも良くなった。

「違うよ。さっき話聞いた3人だって疑ってない」

トモ探偵は少し怒っていた。笑ってるけど隠せていない。

「ごめんなさい。28日は学校で、夕方は友達……藤城真緒と高橋莉奈とゲーセン行ってました。29日は学校に行って、トモ探偵に会いました……。午後は昨日の2人と真緒の家で遊びました」

トモ探偵は何も言わない。こういう時に限って、何を思っているかがわからなかった。何か話さなきゃと口を開きかけたとき、トモ探偵が言った。

「トモは28日は学校で、夕方はミステリー小説呼んでた。29日は学校を見に行って、そしたら星宮がいた。犯人どうやって見つけるか考えて、ミステリー小説読んだ」

私のためにトモ探偵も話してくれたことが嬉しかった。

「ありがとうございます。私が疑われてるって思ったから、自分も話して疑ってないって伝えたかったんですよね」

「違うし」

そう言うと、トモ探偵は走り出してしまった。

「何照れてるんですか。待ってください。意外と足速い。待って」

急にトモ探偵の足が止まる。私、何か気に障るようなこと言っちゃったかな。

「もしかして、意外と足速いって嫌でしたか。それとも、待ってって敬語じゃなかったからですか」

「……違う。あの日、トモが勝手に助手になれとか言っちゃったけど、嫌だった。トモは人の気持ち考えられてないとかよく言われるから。あの時そうだった。今も嫌って思ってる」

トモ探偵の急な言葉に驚いた。私のことなんて何も考えていないのかと思っていた。

「ずっと、なんだこのガキって正直思ってました。でも、トモ探偵の優しいところを知って、今は、まあ、嫌なんて思ってないです」

「良かった……。もう敬語じゃなくていい」

トモ探偵が少しは私に気を許してくれたのが嬉しかった。

 今日も、トモ探偵と待ち合わせをしている。昨日、トモ探偵が気を許してくれたのが嬉しくて、今日ここに来るのが嫌ではなかった。でも、今までと変わらず、待ち合わせに30分以上遅れてくるのは嫌かも。

「ごめん。遅れちゃった」

昨日まで言ってくれなかったその言葉を聞けただけで、私は許そうと思ってしまった。なんでこんなに単純なんだ。自分を責めていると、トモ探偵はもう話しかけ始めている。私もそこへ急ぐ。

芳川菜央

どこかで聞いたことがあるような気がして、メモ帳を見返す。この時の人か。

「吉川文世の友達」

私が言う前にトモ探偵が言ってしまった。何も見ていないのに……。もしかして全部記憶してるのかな。

「そうです。なんで知ってるんですか」

「先日、吉川文世さんにお話を伺ったときにお名前を教えてもらったんですよ」

いつの間にか、こういう丁寧な説明は私の役目になっていた。

「そうだったんですね。28日の午前中は文世ちゃんとカフェでお茶しました。午後は家のことをやって、夜は散歩をしましたね」

「散歩。怪しい人いた」

「怪しい人……。怪しいかはわからないけど、1人見かけました。たぶん高校生だったと思います」

高校生が夜に外を歩いてるなんて、いかにも怪しい。

「あの子です」

芳川さんの指さしたほうを見ると、高校生2人組が歩いていた。その2人組もこちらに気づいたようで、小走りで近づいてきた。

「トモ探偵、何してるの」

「28日の夜何してた」

「夜。火事の前日だよな。学校の周りランニングしてた」

「一翔、夜走ってんの。やば」

もう1人の男の子が言った。

「あの、私そろそろ行かなきゃいけないところがあるので」

「ご協力いただき、ありがとうございました」

芳川さんは足早に去って行ってしまった。芳川さんが見えなくなって、トモ探偵達のほうを見ると、2人組が私のほうを見ていた。

「トモ探偵の彼女」

私は、そういう風に見えるのかと驚いた。

「違う。助手。ていうか、星宮は2年生」

「先輩だったんですか。すいません、ため口使っちゃって。俺は大庭一翔です」

「浅田快人です」

2人が自己紹介をしてくれたので、慌てて私も名前を言った。

「みれいって漢字どう書くんですか」

大庭君に急に質問されて、なぜそんなことを聞いたのか頭にはてなが浮かんだ。

「美しいに鈴で美鈴って書きます」

「じゃあ、姉貴と1文字違いなんですね。姉貴は美しいに翔で美翔なんですよ」

美翔という名前をどこかで聞いたことがあるような気がする。大庭美翔……。

「もしかして、3年生の大庭美翔さん」

「そうです。知り合いでしたか」

「知り合いじゃないんだけど、3年生の教室の前通った時、あんなきれいな人いるんだって思って」

大庭君は驚いた顔をしている。

「姉貴がきれい。ありえないです。人違いじゃないですか」

「人違いじゃないと思うけど……」

「もう時間の無駄」

トモ探偵がそう叫んだ。私は慌てて説明をした。

「じゃあ、俺から。俺は28日は――」

 2人に話を聞き終わると、トモ探偵はいつも通りすたすたと歩いて行ってしまう。前からおじさんが歩いてきた。いつもなら声をかけるのに、なぜか声をかけていない。どうしたんだろうと思い顔を覗き込む。別に怒っているわけではなさそうだ。

「さっきの人に話聞かなくていいの」

「うん。ファミレス行こう。お腹すいたし」

今までは一旦家に戻ってそれぞれご飯食べて、また集合だったのに。トモ探偵があの時から、どんどん心を開いてくれていることが嬉しかった。ファミレスに着き、席に案内される。その近くの席に、碧斗君と陽斗君がいることに気づいた。でも、話しかけたら面倒くさいことになりそうだったので、話しかけなかった。

「何食べる。このサラダとかおいしそうじゃない」

「まずそう。トモはハンバーグとポテトにする」

野菜とか好きじゃないのかな。てか、決めるの早すぎ。

「私時間かかりそうだから、先に注文してていいよ」

私がそう言うと、トモ探偵は慣れた様子でタッチパネルを操作していた。何回も来たことあるのかなと考えながら、メニュー表を眺める。寒いし、グラタンにしようかな。そういえば、最近ずっと外出っぱなしで忘れてたけど、今って3月か。

 注文し終わり外を眺めていたら、トモ探偵のハンバーグとポテトが運ばれてきた。トモ探偵は嬉しそうに口にほおばっている。

「トモ探偵、おいしい」

「うん、おいしい。そういえばさ、トモ探偵なの呼び方。違う呼び方がいいかも……」

つい笑ってしまいそうになった。本当に小学生みたいで可愛いな。

「じゃあ、トモ」

私がそう言うと、トモ探偵。トモは嬉しそうに頷いた。そこでちょうど、グラタンが運ばれてきた。トモはそのグラタンをずっと目で追っている。

「食べたいの」

そう聞くと、トモは頷く。そして、口を大きく開けて待っている。食べさせるのは少し恥ずかしいと思った。でも、ずっと口を開けているトモを見ると、食べさせざるを得なかった。

「しょうがないな」

トモの口にグラタンを運ぶ。

「熱い。火傷しちゃう。やめてよ」

そう叫んだのはトモ。ではなく、陽斗君だった。

「いや、なんで勝手に食べたの。トモに食べさせようとしてたのに」

「まあまあ、怒んなって。俺のパフェやるから」

そんなのにつられるわけって思ってたのに……。いつの間にか、私の目の前にはパフェがあって、陽斗君に食べさせられていた。

「もう、何でこうなるの」

私が言うと、陽斗君はにやっと笑って言った。

「それは、俺が美鈴のこと誰よりも知ってるから。美鈴はイチゴパフェ大好きだもんな」

ムカつく。陽斗君はいつも、私のこと何でも知ってるってふうに言ってくる。何も知らないくせに。

「2人知り合いだったの」

1人状況を呑み込めていない人がいた。碧斗君だ。確かにあの時、知り合いって言わなかったな。

「知り合いって程でもないよ。ただのクラスメイトだよ」

「違うだろ。友達でしょ。だって、好きなもの知ってる。イチゴパフェと星。あとは、2人でカフェ行ったり、ゲーセン行ったりしたじゃん」

陽斗君にしゃべらせるとろくなことがない。

「それ、本当ですか」

「違うよ。陽斗君の言い方は、ちょっと誤解を招く言い方だったね。カフェもゲーセンもたまたま会っただけだよ。一緒に行こうとしてたわけじゃない」

一瞬、碧斗君が安心しているように見えた。でも、それは勘違いだったみたい。

「碧斗、怒ってる。なんでだろう。俺、何かした」

「そこどいて」

碧斗君が低い声で言う。陽斗君は素直に私の隣をどいた。すると、碧斗君が私の隣に座った。

「美鈴先輩、口開けてください」

私はなぜか碧斗君に言われたとおりに口を開けてしまった。碧斗君が私にパフェを食べさせてくれる。それを見る陽斗君。どういう状況。頭が混乱しそう。それは陽斗君も一緒のようで、頭にハテナが浮かんでいた。トモは、ハンバーグを食べている。相変わらず人には興味なしかと思ってしまう。

「そういうことか」

急に陽斗君が叫んだ。私が何がって顔をすると、陽斗君は言った。

「碧斗って、美鈴のこと好きなんだ」

碧斗君が私のことを好き。そんなわけないよ。だって、まだ会ったの2回目だし。碧斗君だってこんなこと言われたら迷惑なんじゃないか。そう思っていたから、碧斗君の答えに驚いてしまった。

「うん。好きだよ」

好き。好きってなんだっけ。一気にいろいろなことが起きすぎて……。

「美鈴、混乱してんの。ウケる。美鈴って付き合ったこととかないもんな」

「そうなんですか。美鈴先輩、可愛いのに」

もう何でそんなに褒めるの。やめてよ。

 そのあとのことはあまり覚えていない。一つだけ覚えていることは、陽斗君がご飯代を払ってくれたことだけ。ありがたいけど……。

「大丈夫。なんか大変そうだったね」

「トモ、なんで助けてくれなかったの」

私がそう言うと、不思議そうに首を傾ける。まあ、助けるも何もなかったか。陽斗君と碧斗君のことを考えていたら、いつの間にかトモの家に着いていた。

「……また明日」

「何言ってるの。さっき言ったじゃん。次は、学校が始まったらって」

私、トモの声全然聞こえてなかった。

「そうだよね。また、学校で」

トモは大きく頷いて、自分の家に入ってしまった。ここ数日、ずっとトモと一緒だったから、これから何をすればいいのかわからなくなった。

「楽しかったな」

私はいつの間にか、そう呟いていた。楽しかったんだ。……私にとって、3月は1年で1番嫌いな月なのに。あー、なんで、思い出しちゃったんだろう。このこと考えないようにしてたのに。私の頬を涙が伝っていた。

「いや、泣かなくてもいいじゃん」

誰に話してるんだろう。そんなことを考えているうちに、家に着いていた。自分の部屋に行って、なぜかアルバムを開いた。今まで見ないようにしていたのに。本当に、なんで……。アルバムの写真を見ると、一気に昔のことを思い出した。涙があふれて止まらない。お母さんは、私が中学1年生だった冬に死んでしまった。だから、このアルバムもそこで止まっている。次のページを開いたら、また時が動き出すような気がした。そっと次のページを開く。そこにはノートが挟んであった。そのノートの表紙には日記と書かれていた。お母さんの字だ。

2月14日

今日から日記を書き始めます。なぜこんな中途半端な日に始めたかというと……。強いて言えば、星がきれいだったからです。あと、今日はバレンタインです。だから、司さんにチョコを買ってきました。結構高かったから、お返しに期待しちゃいます。

2月16日

日記書くの忘れていました。こういうの長続きしないかもしれないです。今日は、美鈴と星を見ました。美鈴はいつまでたっても星に興味を示してくれません。いつか、美鈴に星の良さが伝わりますように。

2月17日

今日はいつも通りでした。いつも通りって、私は好きです。何か特別なことがなくても、当たり前に家族がいて、当たり前に笑っている。そして、星が見れる。ずっと続いてほしいです。

2月20日

また、日記を書くのを忘れていました。いつまで続けられるかな。今日は、司さんがいつもより早く帰ってきたから、3人で星を見ました。美鈴は相変わらずです。でも、幸せだな。

2月28日

明日は3月1日じゃなくて、2月29日です。うるう年ってやつです。なんか特別な感じがします。ケーキ買っちゃおうかなとか思ったり。明日が楽しみです。

 ここで日記は終わっていた。だって、お母さんは2月29日に死んでしまったから。こんなに楽しみにしていたなんて知らなかった。お母さんに美鈴も買い物行くって聞かれた時、行くって言えばよかった。そしたら、何か変わっていたのかもしれないのに。お母さんがなかなか帰ってこなくて電話した時、ケーキ買ってるよって言われたんだから、ケーキ屋に行ってればよかった。そもそも、何でもない日だったのに。お母さんがケーキを買いに行ってなければ……。お母さんが死んじゃったせいで、数年に1度のうるう年は、私にとって最悪な年だったよ。だから、火事の日、学校に行かなかった。……行けなかった。その日星を見たら、きっとお母さんのことを思い出してしまうって思ったんだと思う。日記に涙が落ちる。過去のことを考えたって何も変わらないってわかってるのに。

「お母さんのバカ……」

 目が覚めると、私は床で寝ていた。そうか、昨日そのまま寝ちゃったんだ。この毛布は、きっとお父さんがかけてくれたんだ。1階に降りるとお父さんがいた。

「仕事まだ行かなくていいの」

「今日は休みをもらったんだ。だから、どこか行かないか」

お父さんと話したのは久しぶりかもしれない。テレビを見ながら、朝ご飯を食べる。すると、驚きのニュースが流れてきた。

『先月29日に発生した○○高校の火災について、警察と消防の調査で、原因は電気系統の不具合だったことが判明しました。事件性はなく、放火の可能性も低いと見られています。学校側は設備点検を強化し、再発防止に努めるとしています。』

トモとの調査は何だったんだと思った。でも、楽しかったから良かった。朝ご飯を食べ終わって、出かける準備をして、お父さんの車に乗る。お父さんの車に乗るのは何年ぶりだろう。そういえば、助手席に座ったのは初めてかもしれない。そっか、いつもお母さんが助手席に座ってたっけ。私は自然に笑顔になっていた。今までは、お母さんのことを思い出すと悲しい気持ちになっていた。でも、昨日しっかり向き合えたかもう大丈夫なのかもしれない。そんなことを考えていたら、もうどこかに着いたようだった。

「ここどこ」

私が聞くと、お父さんは言った。

「ここはプラネタリウムだよ」

プラネタリウム。そういえば、お母さんが誕生日に行きたいって言ってたっけ。もしかしたら、お父さんも昨日、アルバムと日記を見たのかもしれない。室内に入り、天井が見えるようになっている椅子に座る。プラネタリウムが始まるとお父さんが言った。

「きれいだな。昔は、3人で星を見たよな」

「うん、そうだったね」

プラネタリウムが終わって、しばらく天井を見ていた。やっぱりお母さんがなんで星が好きかわからない。確かにきれいだけど、私には一生星の良さはわからないな。毎日学校に星を見に行っていた時も、先生と星について語った時も。ずっと星の良さなんてわからなかった。それでも、今までずっと星を見続けていたのは、少しでもお母さんのこと知りたかったのかも。謎が解けたみたいで、心がすっと軽くなった。

「よし、そろそろ帰るか」

車に乗り、来た道を戻る。でも、家に帰る前にお父さんはケーキ屋さんで止まった。

「ケーキ買うか」

「お父さん。日記見たでしょ」

「日記。何のことかな」

良かった。また、普通にお父さんとお母さんの話ができるようになって。昨日、アルバム見て良かった。そう思いながら、ケーキ屋さんに入った。

 あの日から、少し変わったことがある。私とお父さんがお母さんの話をするようになったこと。毎晩2人で星を見るようになったこと。そして、玄関に3人の写真が置いてあること。私はその写真を手に取り眺めた。

「お母さん、今日から学校始まるんだよ。私ね、友達ができたの。トモは友達って思ってないかもしれないけど……。きっと、これから、もっと楽しくなっていくと思うの。見守っててね」

写真をゆっくり置く。

「いってきます、お母さん」

かぎかっこ使いすぎてるかも…。

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