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うまいコメとはなんぞや

作者: 暇庭宅男
掲載日:2025/10/29

先日の「まずいコメに過去最大級のブチキレをかました話」を書いていて、私は思った。


ひどいコメがありました!はすごく刺激的で目を引くのだけれど、なあ暇庭よ、お前、百姓を名乗るならまずコメのいいとこについて語れよ。と。


キレる性分はどうしようもないので、キレた後の身の振り方はちゃんとしろというのは私自身の礼儀だ。そこでコメの永遠の課題、おいしいコメとはなんぞや、を今回語ろうと思う。


まずコメとはなんぞや、というところから。植物としてはもっぱらイネと呼ぶ。アジアの季節風の影響が強い熱帯地域で生まれた植物である。長江下流域で〜とも、インドシナ半島のどこどこが〜とも、原産地については諸説あるが、ここでは主題でないので詳しくは触れない。


田植えが春に行われる関係であまり意識されないが、イネは夏の植物だ。それこそ昭和の農村地域の学校では、夏休みではなく皐月(さつき)休みがある。概ね5月末〜6月20日ころまで。遅くないか?と思う人は多いはずだ。だがこれでいいのだ。イネは遅植えはかなりずれ込んでも大丈夫。

多少詳しい人は、夏の節句、半夏生(はんげしょう)を知っているかもしれない。年にもよるがだいたい7月2日。この日が何かというと「ここまでに田植え終わろうね」という目安である。関西では大変盛んに行事が行われるようで鯖の開き干しを焼いて食べるとか蛸を食べるとか、調べるだけでも興味深い。実際半夏生の行事やったことあるという方は、ぜひ感想などで教えてください。


とまあイネの生態のリズムに完全に合わせた場合、田んぼは夏から本番ということになる。現代日本で、春に田植えを行うのは、草取りが楽なことと、種籾(たねもみ)の品質管理が楽なことが理由だ。草は小さくて刈るにも除草剤を使うにも労力が小さく、また種籾は高温下で芽を出させるため吸水させるとカビや病気が出やすい。だから春にやったほうが総合的には楽になるのだ。


ちょっと脱線してるかも。本筋に戻ろう。


夏に田んぼが始まり、梅雨の後半の大雨は水田を維持するために重要な降水となる。梅雨が終わればその後はカンカン照りになるのでここでイネをある程度大きくしておきたいのだ。イネは水があればあるほど植物体が大きくなる。茎の本数が増え穂の数が増す。穂の数が増えればコメの穫れる量も増えるのだ。



梅雨後半に雨が不足すると田んぼをやっている百姓たちは例外なく神経がとんがってくる。それこそ江戸時代では水をめぐって村同士でほぼ戦レベルの大喧嘩をやって命を落とす人もいたりするほどだ。


そうして梅雨が明けるとカンカン照りを利用して今度は穂そのものを大きく育てる段階に入る。7月後半くらいから穂が出ることを考慮した育て方をする。現在は農業用ダムの整備も進んでいるので一番暑い時期めがけて目いっぱい水を深く張る。イネは供給された水を大きな穂に変えて、照りつける太陽の中、ニュニュッと穂が姿を見せ始める。出穂期(しゅっすいき)という。だいたい7月末から8月はじめだ。そしてイネに花が咲く。検索してみてほしいがじつに地味な目立たない花だ。でもこれが大事。咲く時期はほとんどの品種で1日〜2日しかない。このタイミングで受粉しないと穂の中にコメが出来ていかないからだ。


コメが受粉したかどうかは8月半ばにわかる。受粉していれば徐々に栄養が穂の中に流れ込んで、真っすぐだった穂が少しずつ垂れ下がるのだ。


もうお分かりかと思う。8月のお盆は、やはりイネの育ち具合のひとつの区切りとして行われるのだ。もちろん仏教的にも意味はあるが、このとき親族が集まるのはコメの出来の予測が出始めるので皆の田の状況を報告し合う意味合いもある。

出来が悪そうだということになればそこで追加で豆を植えたりする算段を立てるし、良さそうなら盆踊りに行く。

豊作が期待される年の盆踊りは男女の華やかな出会いの場でもあり、メシがあるのでふたりが結ばれて子供が増えても大丈夫という、直球極まりないハレの日でもあるのだ。


お盆が終わるとぐんぐん穂が充実してきて頭を垂れる。さあここからはもう一つの山場だ。台風シーズンが到来するからだ。ずっしり重い穂は台風の強風に当たればイネの茎が耐えられず物理的に折れる。これを倒伏(とうぶく)という。百姓としてはなるべくなってほしくはないが、台風が来たのにノーダメージの田んぼというのはつまり穂が軽い、凶作確定。なのでそれも怖い。私は物心つく前だったが、夏が寒い冷害の年があったとき、台風のあともイネはピンと立っていたという。きっとそれも物悲しく惨めな光景だったはずだ。


台風を乗り切り、9月の秋雨を越えればいよいよ秋晴れの空のもと、稲刈りとなる。現在は9月末から10月半ばくらいが稲刈り最盛期となるが、これも昔は秋のお彼岸で集まり、去年穫れたコメの最後をおはぎで食べて力をつけてからの長丁場になるわけだ。今は機械力で刈り取るので秋のお彼岸は影が薄い。シルバーウィークの連休のイメージの方が強いかもしれない。


さあ長々語ったがこれがおおよその、イネの生態に沿った百姓の暮らしだ。


やっと本題に入れる。タイトルでも書いた、うまいコメとはなんぞや。ということである。

結論から言うとこれは昔も今も答えが出ていない。人によってもこういうご飯がいいというのは十人十色。だが強いて言うなら、日本人にとって白飯の味は、粘り気×甘み×後味のかけ算の積がデカいほうが美味い。という傾向にある。


空前絶後の良食味米として今後100年は主力品種として残るだろうコシヒカリなどは、このかけ算の積が大変大きい。コメの粒の一番外側はしっかりしているが歯で噛んで内側のでんぷん質が出てくるともっちりした粘り気をもたらす。そして甘みも強く、後味には穀類らしいでんぷんの香ばしさとアミノ酸由来の旨味が残る。塩むすびに熱いお茶のごくシンプルな組み合わせでも美味いと唸るコシヒカリの新米は、日本人の好むコメの味の典型なのだ。


一方これも日本人が好きな寿司などは、粘り気は強すぎないほうがいい。シャリとネタを同時に味わう関係で、シャリがその存在感でぐいぐい前へ出てこようとするコメは向かないのだ。粘り気が少なめのコメと言われれば私は間違いなくササニシキを挙げる。


ササニシキはわりとコシヒカリと対照的な特徴があると思う。粘り気は強くなく炊いてからすし酢を入れて混ぜ込んでもベタベタになってしまわない。甘みや風味もやや軽く、あくまでネタと共にあることを前提とした味という感じである。


ササニシキはカレーに合わせるなら日本米の中で最も優れると言われることもある。私もその意見には賛成だ。粒の立った、少しばかり固めに炊いたササニシキの素直で素朴な味に濃厚なカレーの風味を合わせる。不思議なことにその組み合わせこそが、ササニシキの良さをさらに活かすのだ。ササニシキのほうがよりおかずを受け入れる度量が大きいとも言える。かと思えば納豆と合わせるならやはりコシヒカリの強さとぶつけ合わせたいし……など、個々人によっても言うことはまちまちだ。

暇庭の主張と違う主張がいくらあってもいい。私は私の好みのもとにコメ論をぶつけに行くし、信念のもとに私をブチのめす主張があってもいい。そこは無限に戦っていけるフィールドだ。


話をもどそう。度々出てくるようにコシヒカリはあまりにも日本人の味覚にクリティカルを出しすぎるため、それ以降主力を塗り替える品種は出てきていない。とはいえ新品種開発は日夜行われており、現在は県単位で独自の品種を生み出すことがひとつのトレンドになっている。


またも主観で申し訳ないが、県独自の品種を狙って生み出され、成功したと思う2つの例をご紹介しよう。


まずひとつめは、秋田県のあきたこまち。良食味を目指しながら冷害耐性も備えるコメだが、これの特A品は同じ特Aのコシヒカリより美味い気がする。粘り気はコシヒカリに似ているし甘みの強さもそっくりだがなぜか香りがコシヒカリよりもう一段階上の領域にある。※(暇庭宅男個人の感想です。)コシヒカリより少し作りやすく収穫も一足早い。新米を早めに食べられるのが大変嬉しい品種だ。


2つめは山形県のはえぬき。これはコンセプトがガッチリ確立していて独自の立ち位置を獲得している地域ブランドの極致だ。はえぬきに代わるコメは今のところ私は知らない。このコメは炊いたあと、冷めても美味いのだ。この特性はお弁当や、おにぎりなどにもってこいで、現代に最も適応したコメと言える。私は山形ではえぬきのご飯の入ったお弁当を買った事があるが、たしかに冷めても炊きたての粒一つ一つがプッチリとしているあの歯ごたえが全く失われない。そして変にポロポロ硬くなることもない。コシヒカリならこうはなっていないだろうなと思った。コシヒカリの冷やご飯は味が落ちるのが早く、冷たいとポロポロになってしまい粘り気が失われてしまう。


ラストに炊き方も紹介しておこうと思う。まずどんなコメでも炊く前に吸水時間を取ってほしい。約30分程度取ってもらえれば幸いだ。乾いたコメが茹でられながら水を吸うのと、先に水を吸ったコメが加熱され炊き上がるのは、どんなに現代の炊飯器が進化していようとも、やはり差が出る。


そしてこれは裏ワザ的なものだが水は冷たいものを入れたほうがおいしく炊ける。


今の季節だともう気にすることはないが、真夏に水道の水がぬるいと感じるなら、思い切って釜の中に氷を入れてみてほしい。量は1合につき製氷皿一粒ぶん。水加減は氷を一粒入れるごとに大さじ1ずつ調整してほしい。冷たい水は吸水速度が抑えられ、コメにヒビが入ったり割れたりするのを防げる。

例えば古米が炊き上がるとき水加減は普通なのにベタッとした粒立ちの悪いご飯になることがあるが、それはコメが吸水速度に耐えきれず割れるからだ。割れた個所からは加熱ででんぷんが溶け出し、釜の内側に広がってコメの歯触りや本来の甘みを隠してしまい、炊きたての香りを絡め取ってなんだかベタベタなのにモソモソの心躍らない白飯にしてしまう。古米と言えど水を惜しまずかけ流しにしながら40秒、糠を優しく洗い流して、釜の中でゆっくり冷たい水を吸わせ、あとは普通に炊飯スイッチを押せば、ちゃんと主食として役を全うでき、おいしさが心にも幾分かの栄養をもたらしてくれる白飯の炊き上がりだ。


うまいコメとはなんぞや。それは粘り気と甘みと後味の良さのかけ算の積の大きさ、また、それぞれの品種が持つ特性があなたの舌と合うかどうか、そして粒を割らないようゆっくり水を吸わせたコメを炊飯すること。これが暇庭の考えるうまいコメの条件である。なお、異論も大歓迎だ。ぜひ、あなたの思ううまいコメを見つけてほしい。それは食卓から、あなたの心を支えるかけがえのない栄養になるはずだから。

コメについて語るエッセイ第二弾。まあたぶんあんまり読みたい人はいるまい。前に書いたのが悪口ばかりだったのでここで良いことを書いて罪滅ぼし(?)とする。

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― 新着の感想 ―
まずい米で感想書きましたので、うまい米にも書かせてもらおうかと思いお伺いしました。 以前、魚沼の知り合いから『ちょっとだけもち米入れて炊くとうまいんすよ』と教えてもらってから、米のポテンシャルを最大限…
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