#58 実りの季節
ヴァルドノルド王国の控え室。
初戦の戦況を見守っていた四人は、言葉なく、ただその経緯を眺めていた。
大輔は正直、モノマヒアはオリンピックのようなものだと思っていた。
本気ではあるが、命を落とすことはない──
そんな場所だと。
しかし、目の前で起きた出来事は、その認識を容赦なく打ち砕いた。
(この世界も、死んだら終わりだ。蘇生魔法は、無い)
その事実に、大輔は身を震わせた。
しかし──
(でも、ジェフは生き返った。いや──
もし、それが“生き返り”じゃないとしたら⋯⋯?)
「ダイスケ、怖いか?」
腕を組みながらその様子を見ていたヴォレセオは瞬時に察知し、声をかける。
「⋯⋯はい。めちゃくちゃ怖いです」
すると、シルヴァが大輔に近寄り、肩を組んだ。「何や勇者、お前なら大丈夫や。普通に戦えば普通に勝てる。お前は強いんや。自信持っとき?」
屈託の無い笑顔を見せるシルヴァに、大輔は少しだけ落ち着きを取り戻した。
「ありがとう、シルヴァ」
「では、モノマヒア第二試合の組み合わせを発表します!超大型ビジョンにご注目ください!」
場内アナウンスのあと、またルーレットが回り出す。
会場の視線がその行方を見守っていた。
矢印が止まった先の名前は──
「ヴァルドノルド王国代表、デウロス・ヴァルドノルド選手!」
「おっ!ボンやないか!相手は誰やろな?」
シルヴァの弾む声にデウロスは一切反応せず、ただ、ルーレット睨むように見つめていた。
「対戦相手はどの選手でしょうか!?」
再び回りだしたルーレットが指した名前は──「⋯⋯ヴァルドノルド王国代表、シルヴァ選手!」
「うわ!俺か!ってことは⋯⋯」
「規定により、同国の選手が当たった場合、二名とも進出となります。よって、準々決勝は、クロス=アージュ代表ラインハルト・フォルクス選手対、ヴァルドノルド王国代表デウロス・ヴァルドノルド選手とシルヴァ選手の二対一の試合となります!!」
(なるほど⋯⋯これがシュルトさんが言ってた二対一ってことか!)
大輔の感嘆とした表情をよそに、シルヴァは声を荒げる。
「何でモノマヒアでもボンと組まなあかんねん!仕組んどるんちゃうんか!」
デウロスは窓の外を見たまま、彼とは対照的に、諭すように言う。
「シルヴァ。相手を見たよな?俺たちふたりだからって、正直勝てる相手じゃない」
「⋯⋯あぁ?何やボン。ずいぶん弱気やないか」
シルヴァの声はそれまでのものとは違い、低く冷めていた。
「当たり前だ。目の前であんなの見せられてるんだからな」
控え室はしん⋯⋯と静まり返る。
するとヴォレセオが、
「準々決勝まではまだ時間がある。やれることをやるしかないな」
と淡々と言った。
ケントロ・トゥ・コズムの来賓席。
セオカトのコスタス、ディミトラ、マルコスは、初戦を見届けたあと、沈黙していた。
コスタスは目を細める。
(やはり、あの亜人を戦わせるのは早計だったか⋯⋯。このモノマヒアが、“戦争”になると容易に想像はついていた。だが、東がこれほどまでに“神域”に踏み込んでいたとは⋯⋯)
そこに、
「いやぁ、初戦から素晴らしい“ドラマ”が拝見できましたね」
張り詰めた空気に、靴音とともに異様な明るさが割り込んできた。
「ジェフ⋯⋯クリオノハートか。貴様は、勇者殿に殺されたのではないのか?」
一切濁す様子のないコスタスの問いに、
「はて⋯⋯?私は生きていましたが?勇者大輔が私の国で暴れていたときも、避難していましたが?」
ジェフはあっけらかんとしながら答えた。
「そんなことより、大神官様方も“戦争”をしに来たのですか?いつも“守る為の戦い”をしていたのに、今回は何やら不穏な空気を感じますが?」
「⋯⋯貴様には関係無いだろう」
「関係無い?この世界に“共存”しているのに?ましてや私は国を治める主ですよ?」
ジェフは続ける。
「あっ、そうだ。話は変わりますが、“イートゥセウ”は変わらずですか?」
「それがどうした」
コスタスは“無表情”の声で返す。
ジェフは四方を囲まれた大神官たちの前をゆっくり歩きながら、作った声で、
「──神から与えられた聖なる大地。年に三度、豊穣をもたらす奇跡の地!⋯⋯でしたか?」
と文章を読み上げるように言うと、
「何が言いたい!」
コスタスは肘置きを叩いて怒鳴ると、ジェフは立ち止まった。
「はぁ。やれやれ」
彼はうんざりしたように呟く。
そして、咳払いをしたあと、
「⋯⋯“私たちの技術”を結集した、“偽りのイートゥセウ”は変わり無いかと聞いているんですが?」
先程とは違う低いトーンに、大神官たちは目を見開いた。
彼の圧にではない。
ジェフがそれを知っている事実に、たじろいだ。
「貴様⋯⋯なぜ、それを⋯⋯」
コスタスは狼狽えたように言葉を溢す。
「私の曾祖父から代々、この件については引き継がれていますからね。もちろん、口頭による厳重な伝承です。国家間の国家機密を、国家元首が知らないでどうするのですか?」
「だとしても⋯⋯だとしてもだ!貴様がそれを知っている必要がない!」
ジェフは笑いだす。
「ハハハハハ!何ですかそれは?⋯⋯やはり、“箱の中”で生活していると、視野が狭くなってしまうんですかねぇ」
「⋯⋯どういうことだ?」
「大神官様方。“戦争”というのは、“戦闘”だけではないのですよ?もう、これだから素人は」
ジェフは呆れ顔で、大神官たちの前にかかる布を見つめた。
「貴様、何を企んでいる!?」
「貴方たちの先代が蒔いた種⋯⋯いやぁ、長く待った甲斐がありました」
「なっ⋯⋯!?イートゥセウに何をした!!」
コスタスの問いに、ジェフは答えない。
「何をしたと聞いている!!」
「フフフ⋯⋯そして、今ついに“実りの季節”を迎えます。どうか、ご一緒に収穫の歓喜を味わいましょう」




