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#47 強くなりたいんや

翌朝。


(⋯⋯ん?懐に何か⋯⋯)


横を向いて寝ていた大輔がぼんやり目を覚ますと、ピンクの艶めいた髪が視界に入った。


「うわっ!? リーリャ!? ちょ、何で俺のベッドに!?」

大輔は思わず飛び起きる。


「⋯⋯ん〜?あっ、ダイスケ。おはよぉ〜♡」

リーリャは目を擦りながら、ゆっくりと起き上がる。


(昨日の背中、すぐにでも泣きそうだったのに。なのに今は、俺の布団で寝顔晒して⋯⋯反則だろ、こんなの)


「お、おはよう。あっ、昨日はごちそうさま⋯⋯っていやいや、何でここにいるの?」


「朝ご飯作りに来たんだけど、張り切り過ぎて早く来ちゃって⋯⋯だからダイスケと添い寝しちゃった♡えへへ♡」


(えへへ♡って⋯⋯服もジェラピケっぽい感じで可愛すぎる⋯⋯いや、そうじゃなくて!)

「リーリャ、家の鍵持ってるの?」


「うん!実はダイスケをお世話する要職を、陛下から賜りましてですねぇ〜」

リーリャは両手を腰にあてて、「えっへん!」といった様子で、ドヤ顔で言った。


「はぁ!?王様から直々に!?」


「ちなみにパパからも公認いただきましたぁ〜!⋯⋯でも、夜は家に帰って来なさいって言われてるの。それがちょっと残念⋯⋯」

──そう言いながら、リーリャの視線はほんの少しだけ伏せられた。


「そ、そっかぁ〜」

(夜も一緒にってなったら、毎日添い寝だろ?それは心が持たないって!)


大輔は悶々としながらも、何とか話題を変えようとする。


「あっ、リーリャ、朝ご飯ってある?」

「うん!もう準備できてるよ。一緒に食べよ?」


ふたりはダイニングに向かった。

リーリャは皿にスープをよそい、大輔の席の前に置いた。


「はい、どうぞ〜。あっ、そうだ。昨日のお皿、全部洗ってくれたんだね。ありがと〜」


「ご馳走になってばっかりも悪いし、それくらいはね。⋯⋯いただきます」

大輔は一口、スープをすする。


「うん、美味い!」


「ダイスケっていつも美味しそうに食べるよね。今日はね、お昼も作ったから持っていってね?」


「マジで?ありがとう!⋯⋯あっ、リーリャ、もうひとり分って、作れたりする?」


「いいけど⋯⋯なんで?」


「ちょっと、仲良くなりたい奴がいてさ」


「もう友達できそうなの?分かったよ、今用意するね」


リーリャはエプロンをしてキッチンに立ち、手際良く準備し始めた。

その間に、大輔は食事を終え、「ごちそうさまでした」と言って、支度を始めた。


そして、準備を終えた彼は、リーリャから昼ご飯を受け取り、玄関の扉を開ける。


「じゃ、行ってきます」


「うん、リーリャの“アトロティミラ”、いってらっしゃい⋯⋯」

リーリャはそう言うと、大輔を背中から軽く抱きしめた。


「⋯⋯リーリャ、本当にありがとう」


「⋯⋯うん」


リーリャの手が、ほんの少しだけ、大輔の身体を離れるのを躊躇った。

それでも、彼女が身体を離すと、大輔は顔だけ振り返り、柔らかい笑顔で手を上げて扉を閉めた。

彼が見えなくなると、リーリャの微笑みはスッと消え、目が伏せられた。


(あと何回、ダイスケに“おかえり”って言えるのかな⋯⋯)


闘技場での訓練は、大輔にとって貴重な時間だった。

今までは剣道の経験を生かしたり、覚醒後は身体が自然と動いたりしていたが、改めて一からの基礎を学ぶことによって、新たな戦闘スタイルを身につけることができた。

そして、指南役として若い隊員たちに指導したりと、親衛隊にとっても、大輔の存在は大きなものになりつつあった。


昼休憩の時間になり、大輔は昼ご飯をふたつ持って、ひとりの男に声をかけた。


「おーい、シルヴァ!一緒に昼飯食べないか?」

「ん?何やいきなり。俺は食堂行くんやけど、勇者も行くか?」

「いや、お前の分の昼飯もあるからさ、ちょっとふたりで話さないか?」

「何や気持ち悪いな。⋯⋯まぁ、たまにはええか」


ふたりは闘技場の観客席へ足を運び、席に座る。「ほら、お前の分」


大輔は昼ご飯の包みをシルヴァに手渡した。

「おおきに」


彼は包みを開いて、容器の蓋を開けた。

「⋯⋯ん?何やこれ?」


色とりどりの食べ物が並ぶ中に、何かの食材を使って文字が書かれていた。

大輔がそれに目をやる。


「何だ?何か書いてあるのか?俺は読めないから、教えてくれよ」


シルヴァはぶっ!と吹き出し、肩を揺らして笑いをこらえている。


「おい、何で笑ってんだよ!教えろよ!」


「⋯⋯“ダイスケ、大好き♡”やって!!ハハハハハ!!」

シルヴァは膝を叩いて大笑いする。


(リーリャ⋯⋯ここにも爆弾を!!)

大輔は顔を赤くしたまま、スッとシルヴァの昼ご飯を自分の元に置き、もうひとつの包みを彼に渡した。  


「何や勇者、異世界に嫁探しに来たんか?隅に置けんやっちゃな〜!」

シルヴァは涙を拭きながら、包みを開く。


「ちげーよ!色々あってこうなったんだよ!」

大輔はムスッとしながら、「いただきます」と言って、おかずを食べる。

(うわ、何の料理か分からないけど、冷めても美味いな⋯⋯)


シルヴァも容器の蓋を開き、一口食べる。

「うわっ、うま!食堂の飯より遥かに美味いでこれ!⋯⋯なぁ、勇者、これ誰が作ったん?」


「ん?リーリャだけど」


その瞬間、シルヴァが食べ物を喉に詰まらせ、むせた。

「ゴホッ、ゴホッ!⋯⋯ホンマか!?隊長のお嬢が?どうやって射止めたん?」

「射止めたっていうか⋯⋯いやいや、今日はその話するのに誘ったんじゃないから」

「そうか?何が聞きたいん?」

「お前、メガロフォス出身なんだろ?どうしてここの親衛隊にいるんだ?」


シルヴァは持っていた容器を席に置き、ため息をつく。

「まぁ、いつか聞かれるやろなって思っとったし、教えたるわ」


----------


俺はな、勇者の言う通り、メガロフォスの出身や。

ウチは貧乏でな、両親とも商才がからっきしやった。

せやから、自分らで食えるだけの野菜を育てたり、山に入って山菜採ったり、川に行って綺麗な石拾って売ったりな、細々暮らしとったんや。


あるとき、山菜を採りに行った両親が帰ってこんかった。

待っても待っても帰ってこうへん。

俺はそのときまだガキやったし、料理なんてできへん。

せやから、畑の野菜齧って、何とか飢えをしのいどった。


それから何日か経ったとき、政府の人間が家に来たんや。横長い箱ふたつ運んでな。


「坊主、お前のおとんとおかん、どっか行ったんやって?」

「せや。山に山菜採りに行って、全然帰ってこうへんのや」

「⋯⋯ほんなら、ちょっとこの箱の中身見てくれへんか?」


そう促されてな、箱の蓋開けたんや。


──おとんとおかんやった。


俺は不思議と、言葉は出んかったし、涙も出んかった。

弱い奴らは、生きて行かれへんのやなって思っただけやった。


それからや。

俺は「強くなりたい」って思ったんは。


それからすぐ、俺を預かりたいっていう変わった兄ちゃんに会ったんや。


それが“ダズ兄”──ダズ・ギャレットやった。


ダズ兄はそのとき、まだ国境警備隊に入隊したばっかのひよっこやった。

それなのに、えらい人のことよう見とるし、軽い言葉でもいちいち優しかったんや。


俺は子供市場で働いとったんやけど、やっぱり商才が無い、親がアレやししゃーないなって思っとった。


でも、それを見たダズ兄が、

「お前、ワイに似とるわ。強くなりたいんやろ?ついてこいや」って。


それから、俺はダズ兄について行って、周りの隊員にアホや言われながらも、国境周辺の警備や、セオカトの行商人の護衛、モンスター討伐とか、色々一緒にやらせてもらったんや。


⋯⋯ダズ兄はかっこよかった。

口だけやない、やることも誰にも文句言わせへんくらい完璧やし、町の人たちもめっちゃ信頼しとる。


でも、俺の思っとる強さとは違ったんや。

そう思ってた頃や。


メガロフォスとヴァルドノルドの国境辺りで警備しとったとき、いきなりブリザードが起こってな。

俺はダズ兄たちとはぐれて、流石に死んだと思ったんや。

でも、そのときたまたまそこを通りかかって助けてくれたんは、ヴォレセオ隊長やった。


⋯⋯めっちゃかっこよかったんや。


薄れた意識の中でもな。

それに、その姿を見ただけで、めっちゃ強いってのが俺でも分かったんや。


そのあと、ヴァルドノルド王立病院に運ばれて、しばらく過ごしたんや。

退院の日、わざわざシュルト政導官が顔出してくれてな。


「メガロフォスへは、我が王国が責任を持って送りますのでご安心を」

って言っとったけど、俺にはヴォレセオ隊長の姿が焼き付いて、メガロフォスには帰りたくなかったんや。

俺はアホやったけど、シュルト政導官にお願いしたんや。


「お願いします!俺、強くなりたいです!せやから、親衛隊に入れてもらえませんか!」

「貴方はメガロフォスの人間。国籍が無い人間は、親衛隊には入隊できません」

「そこを何とか!お願いします!」


そんなら、シュルト政導官はえげつない質問をしてきたんや。

「──もし、ヴァルドノルドとメガロフォスが戦争になった場合、貴方はメガロフォスの人々を殺せますか?」


俺は動揺した。

そんなこと、言われるなんて思わへんしな。


「な、何言っとんねんあんた⋯⋯今世界は、戦争なんてせんことになっとるやろ?」

「私たちはいつそうなっても対応できるように、日々準備をしています。たとえ、今後争いが無かったとしても。そして、戦争というのは結果です。そこに至る段階で、いかにそれを回避するか。それこそが重要なのです」


国が違うだけで、こんなに考え方が違うんやなって思った。

でも、俺の求める強さはこの国にしかないって気持ちは、変わらんかった。

シュルト政導官か色々取り合ってくれた結果、俺は親衛隊に入隊することになった。


だから、ダズ兄を超えたい、強くなりたいってだけで、ここまで来たんや。


俺はな、ダズ兄のこと忘れたつもりでおった。

でも、ドキナミスで勇者にちゃちゃ入れられて、何だかんだ俺の中にダズ兄がおるんやなって思い知らされた。


だからな、これ超えるんは、モノマヒアでダズ兄と戦う以外ないんちゃうかなって思っとるんや。


----------


「まぁ、そんなとこや。ちょっと喋り過ぎたな?」


「いや、そんなこと無い。シルヴァ、ありがとう」


大輔は食事を口に運びながら、

(みんなが背負ってるもの、浅い深いとかじゃない。ひとつ太い信念があれば、それだけで強くなれるんだ)


そう思いながら、彼はおかずと言葉を咀嚼した。



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