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#27 大輔、暴走。

窓際には360°、標本のように、いや、標本以上に“愛でられている”かのように。

筋繊維が剥き出しの背面、異常に長い四肢、開いた口の中にもう一つ笑顔が浮かぶ顔。

それは全て、人間とモンスターが融合したような奇形。

その“糧”の数々は、ところ狭しと窓ガラスに埋め込まれている。

そして、奥に広がる夜景だけが、この空間を異様に引き立てていた。


「うぇ⋯⋯相変わらずキモい場所」

クリスタはげんなりとしている。


「勇者大輔、私の“駒”と手合わせ願えますか?」

ジェフのその言葉のあと、出て来たのは中肉中背の男。


「⋯⋯えっ?貴方はギャレットの馬車の御者さん⋯⋯マス、さん?」

「勇者殿、長旅お疲れ様です。貴方とこのような形で再会するとは⋯⋯」


「彼には主に西の国の諜報活動をしていただきましたが、“メガロフォスの青蛇”が色々嗅ぎつけてるようなので⋯⋯それに、彼は変に“青蛇”に情が湧いてしまっていて、これ以上は業務に支障をきたす可能性がありましたので、今回は“駒”として働いてもらいます」

(マスさんが戦うのか?絶対戦闘経験無いだろ⋯⋯)


ジェフは錠剤のようなものと水をマスに渡した。

マスは一度躊躇いながらも、水とともに勢いに任せ飲みこむ。


──その目に、明確な“拒絶”があった。

だが、抗えなかった。


牙が皮膚を突き破り、指先が裂けて骨が伸び、筋肉が肥大する。

悲鳴を上げる代わりに、彼の喉から漏れたのは、獣のような嗚咽だった。

そして、得体の知れない、巨大な深緑色のモンスターへと変貌した。


「な、何だよこれ⋯⋯」

大輔はマスターソードを構えながらも、数歩下がる。

すると、モンスターの腹部からマスの顔が、筋肉を掻き分けるように現れ、涙を流しながら話し出す。


「⋯⋯私を殺してください。そして、もし、ギャレット隊長に会われたときは⋯⋯“お世話になりました”とお伝えください⋯⋯」

「マスさん⋯⋯何でだよ⋯⋯」


「さぁ、勇者大輔よ、どうしますか?貴方の実力なら恐らく倒せるでしょうが⋯⋯それとも、無策で救出を試みますか?」

ジェフは、それまでの微笑みを崩さない。

まるで、“正解などない選択肢”を楽しんでいるように。


モンスターは呻き声をあげながら、大輔に向かって右手を勢いよく振り下ろすが、ひらりと躱す。

「くっ⋯⋯やるしかねぇのか⋯⋯」


大輔は一旦離れ、

「“かんそう”!」と声を上げる。

光に包まれ、現れたのは“完全装備”の勇者大輔。


「おぉ、これが真の勇者の姿⋯⋯素晴らしい!」

ジェフは恍惚にも似た表情を見せる。

クリスタは白けたように、

「⋯⋯動きづらくないのか、これ?」

と腕を組みながら見ている。


(何をしてくるか分からないから⋯⋯ひとまず動きを止める!)


大輔はモンスターの右脚を一閃。

水平に真っ二つに斬れ、バランスを崩し倒れた。

「ぐあああああああ!」

マスの絶叫が響く。


「ハハハハハ、いい声で鳴きますね!」

ジェフはまるでショーを楽しんでいる観客のように、目を輝かせていた。


脚を斬られたモンスターは、立ち上がろうともがいている。

「ゆ、勇者殿⋯⋯一思いに、殺して⋯⋯ください⋯⋯」

「でも⋯⋯」

マスの悲痛な懇願に、大輔はたじろいでいた。


「私が⋯⋯メガロフォスで生まれていたら⋯⋯ギャレット隊長にお使えして、平和な人生を送れたでしょうね⋯⋯」

モンスターの斬られた大腿から触手のようなものが伸び、右脚と結合し、再び立ち上がる。


「おぉ、再生能力もあるとは!技術の進歩をひしひしと感じますね!しかし⋯⋯理性は早く失うようにしないといけませんね。それに、私の大嫌いな“たられば”などという弱者の戯言は聞きたくないです」


「この野郎⋯⋯!」

大輔がジェフを睨みつけると、

「あぁ、忘れてました。“おかわり”もどうぞ」


床が開き、せり上がってきた二体の新たなモンスター。

どちらもマスと似たような図体で、色は黒く、人間の顔が、一体は右胸に、もう一体は左の足首にあった。


「うぅ⋯⋯助けて⋯⋯」

「死にたくない⋯⋯」

「⋯⋯!?これは⋯⋯メガロフォスの官邸の門番さん?」

「さぁ、勇者大輔!貴方の実力を早く見せてください!」

(そういえば、門番さんも関西弁じゃなかった⋯⋯この人たちもスパイ活動を⋯⋯!)


大輔の目の前に小さなウィンドウが現れ、何かの数値を表示していたが、彼は目もくれず、マスターソードを握る手に力が入る。


「勇者殿!早く一撃で終わらせてください!私たちに理性があるうちに!」

マスが叫ぶ。

「⋯⋯マスさん、門番さん、みんなごめん。俺がみんなの(かたき)取ってやるから」


大輔はモンスター三体に向かって行き、

「⋯⋯連続斬り!!」


無数の剣の軌道がモンスターの身体を斬り刻み、静寂が訪れる。

切り裂かれた肉塊の間に──まだ、人の目をした破片が、虚空を見上げていた。

それらがバラバラと落ち、場の凍りついた空気に音を与えていた。


「勇者、殿⋯⋯あ、りがとう⋯⋯ご武⋯⋯運、を⋯⋯」

マスの振り絞った声を聞き、大輔は俯き、歯を食いしばった。  


「勇者大輔!素晴らしい!貴方こそ我が国の代表に相応しい!」

ジェフは派手に拍手をしたあと、手を広げ、子供のようにはしゃぐ。


「⋯⋯あぁ?誰がこんなクソ野郎が仕切ってる国の代表になるって?」

大輔の睨みは先程よりも鋭く、ジェフに向けられる。

すると、突然ジョルジュウィンドウが現れた。


--------


ゆうしゃさま! いかりの ボルテージが きけんな すうちを こえています! おちついて ください!


--------


「うるせぇ!⋯⋯俺は今、人生で一番キレてるぞ⋯⋯」

更に別のウィンドウが「WARNING」と、赤く点滅し始め、警告音が大輔だけに響く。


先程の小さなウィンドウの数値が危険値を越え──


----------


《勇者大輔、バーサーカーモード、発動》


----------


怒りに侵食された大輔の武器や防具は、青から真紅に染まり、湯気のような蒸気が噴き出す。

そして、大輔の目から光が消えた。

息をひとつ吐き出し、


「ジェフ⋯⋯お前を、ぶっ殺す」


「ほぉ⋯⋯!やれるものならやってみなさい!勇者大輔!」

ジェフは両手を翳し、バリアのような魔法を何層にも展開する。

「我が国の叡智の結集!勇者でも壊せまい!」

しかし、大輔のマスターソードの一振りで、その層はガラスが割れるような音を立てながら、一瞬で破壊される。

その波動はジェフの頬をかすめ、血が流れる。  


「⋯⋯おぉ⋯⋯これは⋯⋯」

ジェフは唖然とし、こめかみからの汗が血と混じって流れた。


「⋯⋯舐めるなよ?この程度で守れると思ったか?」


すると、大輔の背後からクリスタが迫る。

「大輔!いい加減にしろ!」

クリスタが大輔の腕を掴もうとした瞬間、大輔は振り返り、クリスタの首根っこを喉輪のように掴む。


「ぐっ!ぐうぅぅぅ⋯⋯」

「クリスタ、お前も殺すか?」

大輔はそのままクリスタを片手で持ち上げ、首を絞める。


「うっ!ぐうぅぅぅ⋯⋯ううっ⋯⋯大輔⋯⋯やめろ⋯⋯」

「⋯⋯お前、見てるだけで何もしなかったな?それでも人間か?これが正しいことだって言えんのか⋯⋯?」


大輔の手に更に力が入り、クリスタは額に血管を走らせ、涙を流し、泡を吹き始める。

彼女の視線の隅にいたジェフは、ただ立ち尽くすだけだった。


「ぶぐぅ⋯⋯がぁぅぅ⋯⋯」

クリスタは全身の力が抜け、白目を剥いてぐたりとなった。

大輔はクリスタを投げ捨て、ジェフに正対する。


「⋯⋯お前、言い残すことは無いか?」

「フフフフフ⋯⋯ハッハッハッハッハ!この世界をひとりの力で覆す程の凶暴性!素晴らしい!」

「⋯⋯もう何も聞きたくない。死ね」


大輔は一瞬でジェフの目の前に移動し、“これで──”と言いかけた彼の首を刎ねた。

転がったジェフの顔は、自分の血を浴びながらも、満面の笑みのままだった。


「⋯⋯死んでもムカつくな、こいつ」

大輔は舌打ちをして、それを思い切り踏み潰した。


「⋯⋯この国を、潰す」


大輔はガラスに埋め込まれた醜悪な塊を全て破壊し、窓から地面へ飛び降りる。

着地した感触は、あのときの土と草とは違い、ただ、人工的な埃と硬さが伝わるだけだった。


大輔は無造作に高層ビル群を斬り刻み、破壊する。

至るところで人々の悲鳴が巻き起こり、街中に警報が鳴り響く。

すると、数百名の警備隊が大輔を取り囲んだ。

「お前は包囲されている!武器を捨てろ!」


「⋯⋯はぁ?邪魔するな。お前らも同罪だ」

大輔は目にも止まらぬ速さで、警備隊を蹂躙していく。

僅か数秒で警備隊は全滅し、一帯は血の海となった。

誰もが命乞いをする暇もなかった。

それが人だったのか、壁だったのか──大輔の目には、もう映っていなかった。


「⋯⋯全然壊し足りねぇ。根こそぎぶっ壊してやる」

大輔は一晩中、街を破壊し尽くした。


そして、ウィンドウが現れる。

「だいすけは エクストラレベルが 3 あがった!」

もちろん、大輔はそれに見向きもしなかった。


クロス=アージュの中枢は、まるで爆撃を受けたかのように、凄惨な姿と化した。



地獄の夜が明け、陽の光が鋭い朝になった。

大輔はふと気がつくと、瓦礫の中を、ただ前を向き、あてもなく歩いていた。

生気を失った表情で、装備は解除され、マスターソードを持ち、ジャージ姿で。


「⋯⋯。俺、何してたっけ⋯⋯」



そして、この事件は瞬く間に世界に広がった──





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