#25 ひとりぼっちのファナ
大輔が悲鳴を聞いて駆け出したあと、サイラは再び舞い始める。
太鼓は先程に比べて、ゆったりとしたリズムで奏でられる。
サイラは火柱の間を縫うように、川のように舞った。
燃え尽きた藁の欠片が肩に当たり、髪を焦がしても──
“灼熱の赤”から変化した“冷静の青”の瞳は揺るがず、どこか“祈り”にも似た静けさをたたえていた。
すると、ぽつ、ぽつ、と雨が落ちてきた。
⋯⋯だが、誰一人として、その場を離れなかった。
炎と雨の狭間で舞うサイラに、民衆はただ、祈りを捧げるように、目を奪われていた。
次第に雨が強くなり、藁柱の炎も勢いが弱まる。
ファナはローブのフードを被り、サイラの舞を見入っていたとき、遠くのほうから、
「ファナぁぁぁあああ!!」
と叫び声が微かに聞こえた。
「⋯⋯大輔?」
ファナは急いで山車を降り、声がしたほうへ走り出した。
「フレイヤ様!お待ちください!」
使者たちが追いかけ、民衆がざわつく。
サイラもそれに気づいたが、舞を続けた。
(大輔⋯⋯何があったんですか?)
ファナが石畳の暗い道を走っていると、前からランプの明かりが近づいてきた。
「はぁ、はぁ、大輔は⋯⋯大輔はどこですか?」
やって来たのは警備隊だった。
「あっ、フレイヤ様⋯⋯ダイスケとは、勇者殿のことですか?」
「そうです!大輔はどこですか!」
年長の隊員が目を逸らしながら、
「それが⋯⋯白いフードを被った人物に攫われてしまいました⋯⋯」
ファナの目は見開かれる。
「えっ⋯⋯攫われた?どうしてですか?あなたたちいたんですよね?どうして止められなかったんですか!五人もいて!どうして止められなかったんですか!」
ファナは怒りながら、その隊員の胸ぐらを掴む。
「⋯⋯すみません、フレイヤ様⋯⋯しかし、彼は東の国の代表の証を持っていまして⋯⋯」
「だから何ですか!大輔は大輔です!それを持ってたから何だっていうんですか!」
追いついた使者たちが、ファナを引き剥がす。
「フレイヤ様!落ち着いてください!」
「嫌!離してください!私ひとりでも大輔を助けに行きます!」
「どこにいるかも分からないのに、どこに行こうというんですか!」
「私はかなたさんと約束したんです!大輔と一緒に帰るって!だから!だから⋯⋯ううっ⋯⋯」
ファナは使者の手を振り払って俯き、雨に濡れた石畳に膝をついて泣いた。
「大輔⋯⋯生きてて⋯⋯」
すると、そこに舞を終えたサイラがやって来た。
水着のような防具を着たままで、髪はチリチリになり、身体の所々に火傷の跡がある。
ファナの前で片膝をつき、頭を下げる。
「⋯⋯フレイヤ様。お言葉ですが、ダイスケは簡単に死ぬ男ではありません。アタイはあいつと過ごした少しの時間で、無限の力を感じました。貴女もそう思ってるでしょう?」
少し顔を上げたファナに、サイラは笑顔を見せる。
「⋯⋯そうですね。大輔は勇者ですから。何があっても私を迎えに来てくれると信じてます」
「それなら、まず宿に戻って、今日は休みましょう」
サイラはファナに手を差し伸べ、ファナもその手を取り、立ち上がった。
「じゃあ使者のみんな、フレイヤ様を頼んだぞ」
「はい。それではフレイヤ様、参りましょう」
「⋯⋯はい」
使者たちとファナは、その場を後にした。
警備隊も持ち場へ戻ろうとしたとき、サイラは背を向けてブルブルと震えていた。
「サイラ、どうした?雨で凍えたか?」
年長の隊員が話しかけたが、
「違うよ⋯⋯アタイ、失礼なことしてないよな?」
「ん?フレイヤ様にか?何も無いと思うが⋯⋯」
するとサイラがすぅ⋯⋯と息を吸って、
「あーーー!!緊張したぁーーー!!」
と叫んだ。
隊員たちは目を丸くする。
サイラは振り返り、
「ふぅ。いやぁ、見た目可愛い子なんだけど、威圧感が尋常じゃないんだよなぁ。ちょっと間違ったら首刎ねられそうなくらいヤバいんだぞ?おっちゃん分かんないだろ?」
「まぁ、あの子がフレイヤ様だというのも正直信じ難いからな⋯⋯」
「視える奴には視える奴の苦労ってもんがあんだよ⋯⋯お、その伸びてる奴ら、アタイが持ってってやろうか?」
「いいのか?じゃあ、よろしく頼む、サイラ」
サイラは気絶した男たちをひょいと持ち上げ、警備隊とともにその場を後にした。




