第八章 核心へ(ミオの視点)
生き残るということは、時に残酷だ。
助かった命の重さは、喜びではなく、痛みとなって心にのしかかることがある。
この章では、ミオの視点から、命を繋いだ者が向き合う「核心」に迫ります。
それは、生きてしまったことへの罪悪感。
そして、もう一度、生きる意味を見つけ直す旅のはじまりでもあります。
語り手 ミオ
目を覚ましてから、どれほどの時間が経ったのか、よくわからない。
最初に感じたのは、光。まぶたの裏に差し込むやわらかな朝の光だった。
次に聞こえたのは、水を汲む音と誰かの足音、そして……レイの声。
彼の声は震えていた。かすれた声で私の名前を呼ぶたび、胸の奥が温かくなるのに、同時に胸が痛くなった。
私は、あのとき、死んだと思っていた。
棒の一撃で倒れ、何も見えず、何も聞こえず、あの冷たい地面の上で意識が遠のいていった。
でも――生きていた。
助かったことを、幸運だとは思えなかった。
むしろ、生きているという現実のほうが、私には重すぎた。
私が生き延びたということは、代わりに誰かが死んだかもしれない。
私が目を閉じていた間、誰が泣き、誰が叫び、誰がもう戻らない場所へ行ったのか。
あの村で出会った人々の顔が、頭に浮かぶ。
名前も知らなかったけれど、同じ空の下で笑っていた、ただの人間たちだった。
戦う理由なんて、きっとなかったはずなのに。
何もできなかった。
何も守れなかった。
私は、またただ、生き残ってしまった。
レイがそばにいてくれる。
ユウも、カナも、顔を見に来てくれた。
それは、本当にありがたくて、あたたかいのに、私は笑うことができなかった。
「……ごめんね」
それだけが、声にできたすべてだった。
レイは、何も言わずに手を握ってくれた。
あの日、私が彼の手を握ったように。
あの日、死んではいけない、と彼に伝えたように。
今度は私が、生きなければならない。
なぜなら、私は見た。
戦士が、罪なき人を殺さざるを得なかったその心の苦しみを。
そしてレイが、それを見て、怒りも哀しみもすべて呑み込もうとしていたのを。
この戦争を終わらせたい――。
ただ憎しみを止めたいなんて、もう綺麗事だ。
でも、それでも、私はこの命を使いたい。
私の言葉が、誰かに届くなら。
この命を通して、誰かが変わってくれるなら。
生きて、伝える。
それが、私の戦いだ。
命を奪うことは、ただの暴力ではない。
奪われた側だけでなく、奪った側の心もまた、深く傷ついている。
ミオはその苦しみを、レイはその矛盾を知った。
だからこそ、彼らは憎しみの連鎖を断ち切るために、自分たちの「正義」を問い直しながら進んでいく。
物語は静かに、しかし確実に、真実の中心へと近づいています。